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平屋での楽しい食事会

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 平屋の中にふわりと漂う穏やかな伊草の香りが鼻腔にいらっしゃると肩の力が抜けてだらりと弛緩してしまう。


 硬くも無く、柔らかくも無い。


 私の理想に近い座り心地の畳の上にペタンとお尻を乗せて少々行儀が悪いとは思うけどこれでもかと足を伸ばして寛ぐ姿勢を取った。



 ん――っ!! ふぅぅ、良いわねぇ。偶にはこうして息を抜くってのも。


 別に?? 育児が苦痛って訳じゃなくて。



「ねぇ。お酒、まだ??」


「喧しい。飲み食いさせて貰えるだけでありがたいとは思わんのか」


「全然??」


「き、貴様という奴は……!! 礼を重んじる気概を持てと教わったじゃろうが!!」


「そうだっけ。後、五月蠅いからその口閉じてくれない??」


「う、う、虚けものがぁ!! 貴様はちぃとも昔から変わっておらぬではないかぁ!!!!」



 そうそう。こうやって長年見慣れた光景が目の前で流れているから落ち着くのよねぇ。


 あの二人も大昔から全然変わっていないわね。顔を合わせれば喧嘩が始まり、意見交換の際には必ずと言って良い程衝突を繰り返していた。


 それを上手に纏めるのは私とフォレインの役目。


 蜘蛛の女王様は本日も執務と育児に追われているので一触即発の気配が漂い始めたのなら私が鳥……、じゃあなくて鶴の一声で纏めてあげましょう!!


 分隊の隊長は隊員達を一手に纏める役割が与えられているのだから。



「ウ――」


「ん?? どうしたの??」


 私の右隣りでうつ伏せになっている我が娘が二人の乱痴気騒ぎを目を見開いて見つめている。


「ンッ!! ンゥ!!」


「え?? 何?? 遊びたいの??」


 何やら妙なやる気を見せると小さな手足をわちゃわちゃと動かして覚束ない足取りでイスハとエルザードの下へと向かって行く。



 大丈夫かなぁ。


 あの二人の魔力に当てられてお漏らししないかしら??



「うっわ、おっそ。いやねぇ、婆の筋肉って」


「貴様も儂と変わらぬ歳じゃろうがぁ!! ん!? おぉうっ!!」


 イスハがエルザードに向けて放った右正拳の前に踊り出たマイちゃんの姿を捉えると瞬時に豪拳を止めた。


 おっ。流石イスハね。良く回りが見えているわ。



「何じゃ、お主。どうしたのじゃ??」


「アゥッ!! ウゥアイ!!」


 真ん丸で小さい拳を作り何も無い宙へイスハの動きを真似して放つ。


 何んと言うか……。あの動作は遅過ぎて逆に愛らしく見えるわね。


「ふふん。お主、正拳突きを覚えたいのか?? 構えは……。こうじゃ!!!!」


 右拳を脇に置き。


「ウゥ!!」


 娘も彼女の真似をして真ん丸のパンを腰に置き。


「溜めた力を……。一気に解き放つのじゃ!! はぁっ!!!!」


 イスハが拳を穿つと拳圧が部屋を駆け抜けて行き風が舞うが……。


「タァイ!!!!」


「はぁぁぁ。おっそくて可愛いわねぇ……」


 娘が拳を真正面に放つと私の口から大いに気の抜けた風が吹き抜けて行ってしまった。



 大分大きくなって来た所為か、最近は人の真似を良くするようになってきたのよねぇ。


 お父さんの釣り竿を振る真似をしたり、お姉ちゃんの虫取りの格好を真似したり、ベッシムの髭を思いっきり引っ張ったり……。これは違ったか。


 兎に角、順調に大人への階段を昇っている愛くるしい姿が私を喜ばすんだけど。それと同時にもう少し幼いままでもいいかなぁというジレンマも湧いてしまう。


 小さい姿はあっと言う間に過ぎちゃうのが勿体ないわよね。


 朗らかな光景にうっとりと目を細めていると機嫌が悪くなり始めていたお腹ちゃんをぐんっと刺激してしまう馨しい匂いが漂って来た。



「はぁい!! お待たせしましたぁ。お食事の時間ですよ――」


「お酒も用意しましたよ!!」


 玄関の戸を軽快な声と共に潜って来たのは二人の世話焼き狐さん達だ。


 彼女達の両手には食欲を大いに刺激する食材の数々がお盆の上に乗せられており早く私の口へ入ろうと躍起になっていた。



 時間も時間だし。お腹が空くのは当然よね。


 青の空はいつしか茜へと変容して空を飛ぶ鳥達が今日も一日よく頑張ったなと私に労いの声を掛けて巣へと帰って行く。


 この労う声は当然、沢山食べろって意味よね??



 うふふ。鳥さん?? そして、二人の狐さん??


 安心しなさい。用意された御飯は残さず綺麗に食べ、そして呑み干してあげるから。



「ほらぁ。早くぅ」


「はいはい。エルザード様、親しい仲の方々しか居ませんけど。もう少し姿勢を整えたら如何ですか?? 可愛い下着見えていますよ??」


 部屋の中央に食事の配膳しているモアが呆れた声を上げて淫魔の女王に視線を送る。



 その視線を追うと彼女は畳の上にだらしなく座り短いスカートの中からは美しい青が御目見えしてしまっていた。


 お酒を前にしてこれっぽっちも気にしていないのは彼女らしいとは思うけど……。



「別に気にしないわよ。んふっ。良い匂いっ!!」


「エルザード。その下着、可愛いわね??」


 物凄く整った鼻を器用にクンクンと動かして匂いを堪能している正面のお惚け淫魔へと話す。


「あぁ、これ?? 王都の下着屋で買ったのよ。安い割に付け心地も良くて気に入っているんだぁ」


 ふぅん、そうなんだ。


「良かったらそのお店、案内しようか??」


「良いの??」


「構わないわよ。明日も幸い休みだし」


「お主は年がら年中休んでおるでは無いか」


 ここで狐の女王が要らぬ一言を放つから喧嘩が始まるのよね。


「あんたも似たようなもんじゃない。一日中花の世話しちゃってさ、仕事に疲れ果てて草臥れた中年女性の鏡じゃない」


「張り倒すぞ!! 腐れ脂肪がぁぁああああ――――ッ!!」


 ね?? こうなる。


 数百年経っても変わらないんだから。親友達の変わらない姿は嬉しくもあり、同時に呆れてもしまう。


「イスハ様、ほら。お稲荷ですよ――」


 イスハが居た座布団の前に大好物の稲荷が置かれる。


「むぅ……。仕方が無い」


 甘い蜜に誘われるか如く三本の尻尾のフッサフサと揺らして黄金色に輝く稲荷の前にちょこんと座った。



 やるわねぇ、モア。


 一族を率いる大魔を器用に扱うなんて。



「お米の入った御櫃は部屋の中央に置いて置きますね――。それと……。はいっ。マイちゃんには御粥を御用意しました」


 小さい土鍋をマイちゃんの前に置いて被さっていた蓋を取る。


「ワァアァ……」


 ほんわりと漂う湯気が解き放たれ、湯船で逆上せたお米さん達の馨しい香りが娘の鼻腔に侵入すると彼女の表情をいとも容易く砕いてしまった。


「御粥なら大丈夫ですよね??」


 ちょっとだけ心配そうな顔をモアが浮かべる。


「構わないわよ、ありがとうね」


 ちっちゃな歯も生えて来たし。


 この小旅行を良い機会に沢山の食べ物を食べさせてあげたいとも考えていたのだ。


「そうなんですか。マイさん?? おっきくなったら。お腹がはち切れる位に食べさせてあげますからねぇ――」


「ゥアァイ!!!!」

『掛かってこい!!』


 両手をムンっと上げてモアを見上げた。


「ふふっ、その意気ですよ。私の作った料理はぜぇぇったい、残したら駄目ですから……。ネッ??」


 ん?? 何かしら。


 普段のモアの可愛い声がちょっと変わった様な気が……。


 何気なく右隣りへ振り向くと。


「オ……。オォ……」


 娘があたふたと目をパチクリさせていた。


 どうしたのかな??


「さて!! これ以上待つ理由も無い事じゃし。早速頂こうとするかの!!」


「もう呑んでまぁ――す!!」


「喧しい!! では、頂きます!!」


「頂きます!!」


 小さく、しかし確実にはっきりとした口調で食材に感謝を述べて食事を開始した。



 早く食材を口に運びたいけども先ずはマイちゃんからかな。


「はぁい。ちょっと熱いから、火傷しないようにね――」


 木の匙で粥を掬い、口でふぅふぅと冷ましてやる。


「ンン――!! ンゥ――!!」

『それは私の物よ!!』


 私が食べると思ったのか袖をクイクイっと引っ張り粥を催促する。


「取らないわよ。ほら、あ――んっ」


「マ――ムゥッ!! ハフ……。ハゥゥ……」


 口に入れた途端、娘の顔に満開の華が咲いた。



 目尻が滝の如く下方へ垂れ下がり口元は三日月もうっとりしてしまう程に湾曲する。


 アツアツの小粥さんの美味しさを表す様に両手を振り短い足をパタパタと揺れ動かした。



「美味しい??」


「アイッ!!」


「ふふっ。ほら、お代わりですよ――」


「すっかり母親が板についているわね」


 娘の食事の世話を続けているとちょっとだけ呂律が怪しいエルザードの声が届く。


「二人目だしね。最初の子の時はね?? もぅ何もかも手探りでさぁ。大変だったのよ」



 そう、本当に大変だった。


 夜泣きに、授乳に、おしめの取り換え。


 世の中に数多存在する母親はこんな重労働を容易くこなしているのかと、改めて尊敬してしまった。


 だけどその苦労に見合う様にすくすくと順調に育つ娘の姿が私の疲労を拭い去ってくれたのも事実なのよね。


 育児の苦労と成長を見守る高揚感は上手い具合に密接している、実体験を通してそれをまざまざと思い知ったわ。



「ふぅん。大変だったのかぁ――」


「大変なのは大変だけど……。子を持つのは良い事よ?? 愛の結晶が光り輝き、人生をより鮮やかに装飾してくれるの。エルザードもそろそろ良い人見付けたら??」


「ん――……。私は、もう決めているからなぁ――」


 小さな御猪口をくいっと口に運びながら話す。


「あ、そっか。でもさぁ……。随分と長く想っているわよね??」


「んふふ――。積もり募った感情を受け止めて貰って――。彼の初めてを奪うんだぁ――」


 何の初めてを??


 まぁ、皆迄言うまい。


「卑猥な言葉を放つでない。大体、向こうはお主の事をちぃとも想っておらぬわ」


 胸元が大いに開けた姿の淫魔を見つめながらイスハが話す。


「これからそうなるんですぅ――。嫉妬ですかぁ――?? だっさ――」


「こ、この酔っ払いがぁ!!」


「まぁまぁ……。イスハどうなのよ?? あなたもそろそろいい歳でしょ」


 この中で私が一番の年長者である事は周知の事実。


 といっても?? たった数年の違いですけども。


「わ、儂はぁ……。ま、まぁ。うむっ。そうじゃなぁ……」


 煮え切らない気持ちを隠す様に口ごもる。


 相変わらず分かり易い性格ね。


「まっ。あなた達の気持ちは分かったわ。後は向こうがどう出るか。そういう事でしょ。はい、あ――んっ」


「ハムッ!! ハムハムハムッ!!!!」



 もう随分と量が減った粥を娘の口へ運びながら誰とも無しに言う。


 あれ?? これだけ食べてもお腹一杯にならない??


 物凄い勢いで小粥が減っているけども娘の食事の手は一向に止まる気配が無いし。



「向こう次第、か。そうよねぇ……。でも、いきなり押しかけても良いと思うんだけど!?」


 流石、淫魔と呼ばれるだけの事はある。


 文字通り淫らな魔物に相応しい台詞をぽっと赤く染まった頬が目立つ顔で話す。


「いきなりは不味いでしょ。段階を経てから、それが良いんじゃない」


「まどろっこしいじゃない。安心して?? 私の体を見たらきっとむしゃぶりつくように襲い掛かって来るんだからぁ――」


 むにゅりとうざっ……。コホン。


 大きなお胸を両の腕で挟む。


「「「ちっ」」」


 この場に居る全員が彼女の胸元へ向かって多大なる苦言を吐いた。


「あれぇ――?? 皆さん嫉妬ですかぁ――??」



 こいつ……。ううん。悪い私はお下がりなさい?? 二児の母親は悪い言葉を使っちゃいけないのよ??



 この子の悪い所は正にこういう所なのよ。誰だって好きで慎ましい胸に育った訳じゃ無いのだから。


 たわわに実った果実を惜し気もなく晒し出し、越えられるものなら超えてみろとあからさまに私達を挑発してニヤリと笑みを浮かべていた。



「胸、で思い出したけどさ。フェリスの所も子供が生まれたんでしょ??」


 中央に置かれている御櫃から己のお椀にお米さんをたぁくさん盛り。


 周囲に置かれているおかず様の一員である鶏肉と野菜炒めをお皿に盛って誰とも無しに話す。


 敢えて、エルザードの胸を見ないで話したのはきっとこれ以上見ていたら心の中の悪い私を抑えられそうにないからだと解釈したからです。



「あ――。ボーとフェリスの娘か。確か、女の子だったわね」


「そうじゃな。生まれたのが確か……。半年以上前じゃったか」


 旦那の話していたのは間違いじゃなかったか。


 あの人、偶に妄言吐くから今一信用出来ないのよねぇ。


「そっか。明日、買い物終わったらお邪魔しようかしら。こっちに来たついでに挨拶も済ませておきたいし」


 何より、フェリスには料理の指南を受けた礼もある。


 挨拶しないで素通りってのも……ね。


「いいんじゃない?? 私も付き合うわよ」


「ん。ありがとうね」


 元居た席に戻るとエルザードの顔を正面に捉えて話した。


「じゃあ、レイモンドで買い物する途中に色々お土産買って行かなきゃね」


 さてと!! 会話は程々にして私もお腹を満たそうかしらね!!


 箸を手に取り肉汁滴る鶏肉さんを御口に迎える。


「お土産ねぇ。フェリスと馬鹿力のボーでしょ?? 何が要るのかなぁ??」


「赤子用の服とふぁ。無難にたふぇ物じゃないかな」



 んまいっ!!


 舌が喜ぶキリっとした塩味に肉本来の味が楽しめる焼き加減、シャキリとした野菜の食感と深緑の息吹を感じさせる風味。


 全く……。


 炒めるだけの単純明快な料理なのにどうしてこうも複雑で難解な奥深い味を出せるのかしら。


 私が炒めてもここまでの味を出せるかどうか……。素晴らしい味を通して世話焼き狐さんの腕前を思い知らされたわ。



「これ。行儀が悪いぞ」


 仕方が無い奴め。そんな呆れた笑みを浮かべるイスハが声を出す。


「あ、ごめん。んんっ!! 街を散策しながら探しましょう。ここでアレコレと考えていても浮かんで来なくても、向こうで何か良い物を見付けたらピンっと来るかもしれないし」


 口の中の物を喉の奥へと流し込んで話した。


「りょう――かい。あら。お酒切れちゃった。モア――!! お――か――わ――り――!!」


 空になった徳利をフリフリと左右に振ってお代わりを所望する。


 それにつられて私は目の前の徳利を何気なく手に取り。そして小さな御猪口へと魅惑の液体をゆっくりと……。一滴も零さぬ様に大切に注ぐ。


 おぉ――……。


 お酒特有のツンっとした香りが鼻腔を喜ばせ、静まり返った水面に私の鼻息が届くと美しい波紋が広がる。


 ふふ、綺麗……。


 それでは駆け付け一杯。いただきま――すっ。


 大切にそっと静かに……。


 御猪口に唇をくっつけて口の中に残留する塩気をお酒の辛みで一掃してやった。



「んん――!! はぁっ。美味しい……」


 吐く息にはもうお酒の成分が含まれているのか口を開くと息から、そして胃の中から魅惑の液体の香りがほんのりと香り出す。


 ふわりと漂う酒の香り、舌を強張らせる辛み、口腔に留まる液体の残心。


 三者が見事に調和されたお酒の得点は審査員満場一致で満点ね。



「ダァウ……。ウゥッ!!」

『酒臭ぇ!!!!』


 隣に座る娘があからさまに嫌な顔を浮かべて私の顔とお酒を交互に睨みつけていた。


 お家じゃ呑まなかったから。


 きっと、初めて遭遇する匂いに驚いているのね。


「ごめんねぇ――?? お母さんは久々に呑んじゃうからね――」


 娘の憤りを溶かしてやろうと頭を撫でるが。


「ラァイ!!」

『触んな!!』


 ちっちゃな右手で邪険に私の手を払ってしまった。


「まっ。お母さんの手を払うなんてぇ――。随分と大きな態度をとりまちゅね――??」


 首をカクンっと可笑しな角度に曲げて娘の深紅の瞳をじぃっと見つめると。


「ウゥ……。オ、オォウ……」


 すっと顔を逸らしてしまう。


「どこ見ているんでちゅか――?? お母さんの御顔はこっちよ」


 細い顎をきゅっと掴み強制的に私の顔を正面に捉える様に動かしてやると。


「ヒッ!!!!」


 か細い肩がビクっと大きく一つ上下に大きく揺れた。



 んふっ。お父さんも顔が引きつる私の怖い顔だもんね――??


 幼いマイちゃんにはちょぉっと威力があり過ぎたかしらねぇ――。



「これ。頑是ない子供に向ける顔では無いぞ」


「そうそう。心臓が育っていない子には、その顔は御法度よ」


「オゥッ」


 イスハとエルザードの意見に肯定的なのか。マイちゃんが明後日の方向に視線を向けてコクコクと頷く。


「ふぅん。マイちゃんはあっちの味方なんだぁ。へぇ――?? お母さんの味方してくれないんだぁ??」


 人差し指を曲げてコンコンっと頭を叩く。


「ンム――。マァ――。アァウ……」

『えぇっと……。無きにしも非ずかしらね』


 肯定とも、否定とも見える中途半端な頷きで茶を濁してしまった。


 も――、一々所作が可愛いわねぇ。


 そんな怖がる顔を浮かべたら悪いお母さんが顔を覗かせちゃうのよ??


「分かりませんよ――?? マイちゃんはぁ――。どっちの味方なんでちゅか――??」


 御猪口に注いだお酒をくいっと呑み干して話す。


「ムムゥ……」


 あらま、逃げちゃった。


 初めて見せる素早い足取りで脱走を開始。


「なはは!! お主が酒くっさいから、儂の所へ逃げて来たではないか!!」


 金色の尻尾を楽しそうに振る狐の女王の足元に避難を滞りなく終え、横顔でこちらの様子をじぃっと窺っていた。


「逃げちゃう悪い子にはぁ……。お仕置きよぉ――」


 徳利を颯爽と空にするとイスハの前にどんっと座り。


 彼女の胸元に顔を埋めて完全防御態勢に入った娘の脇腹をワキワキとくすぐってやる。


 んふぅ。やわらかぁい。


「ニィ!!!! ヤァァアアアアッ!!」


「その虚しい抵抗はどこまで続くのかなぁ――?? くすぐったくて失神してもしらないぞ――」


 四つの手足が暴れ馬の如く動き回り私の攻撃に耐えようと躍起になる。


 だけど、その姿が嗜虐心をより刺激しちゃうんだなぁ――。


「それそれ――。お母さんの攻撃はしつこいぞぉ――!!」


「ニャアァアア!!!! アァウ…………」


「どわぁ!?!? フィロ!! やり過ぎじゃ!! お漏らししてしまったではないか!!!!」



 擽り攻撃によって御小水が服の合間からチロチロと零れイスハの道着をこれでもかと濡らし、咄嗟に娘の体を退かすが後の祭りの状態となってしまった。


 ありゃ――。やり過ぎたか。



「あはは!! ごめんね??」


「フイッ!!」


 にっこりと笑みを浮かべて謝るけど娘にこの謝意は届かなかった。


 むすっと顔を顰めたまま私の顔を一切見ようとしていない。


「びちょびちょじゃ……」


「着替えついでにさぁ、温泉に入ろうよ。汗も流したいし??」


「そうじゃな。お主も入るか??」


 イスハが愛娘の小さい体を両手で抱えて持ち上げて問う。


「アィッ!!」


「そうかそうか!! 質の悪い母親より、儂と入りたいのか!! お主の母親は昔っから酒が入ると悪い方向に酔うからのぉ」


 そうかなぁ??


 自分としては慎ましく呑んでいるつもりなんだけど。


「ねぇ――。マイちゃん。お母さんと入りたいよね――??」


 横から覗き込もうとするが。


「グヌヌゥ……」


 小さい手で私の顔を押し退けようと無駄な努力を始めてしまった。


 んふっ。無駄ですよ――??


 お母さんはそんな力じゃ負けませんからね。


「は――い、決定!! イスハ、エルザード。御風呂に行くわよ!!」


 娘の服の背中側を掴み、無理矢理と見える格好で娘の体を宙に浮かせて立つ。


「ヤァッ!! ヤッ!!」


「娘が嫌がっておるではないか」


「私、まだ呑んでいるだけど??」


 あらあら、まぁまぁ……。


 この子達ったら、私の『命令に』 反抗する気なのかしら。


「いい?? もう一度言うわよ?? 私達は御風呂に、行くの」


 娘の体をぐぃいっと私の顔の正面へと持ち上げ、敢えてこちらの顔を見えやすい位置に置いて話す。



「ビィッ!!」


「えぇ!? 行きたいの!? も――。可愛いわね――。じゃ、そう言う訳で。あんた達も強制参加よ」


 慌てふためく娘越しに言い放ってやった。


「はぁ……。まぁ久方ぶりに肩を並べて入るのも一考かしらね」


「じゃな……。あの顔になったあ奴は止められぬわ」


「お母さんが体を洗ってあげますからね――?? 逃げたら……。分かっているわよね」


「ウゥ……」


 獰猛な獣も慄く、鋭く冷たい視線をぶつけると娘が氷塊の様にカチコチに固まってしまった。



 これも教育の一環なのよ。


 世の中には越えられない壁が幾つも存在するって小さい頃から教えてあげないと。



「子供に向かって脅すとは……。母親とは思えぬ姿じゃぞ」


「脅しじゃないわよ。指導よ、指導。さ、能書き垂れていないで行くわよ――」


 娘の着替えと自分の着替えを左手に。そして一切動かなくなった娘を手に持ち、私は大変暖かな陽性な気分を心に宿したまま平屋を後にしたのだった。




お疲れ様でした!!


今日もやたらと寒かったですよね……。早く寒さが何処かに去って欲しいと願う一方、冬を越えたら奴等がやって来ると思うと今から辟易してしまいますよ。


花粉さえいなければ春はもっと過ごし易いんですけどね……。


本編のプロットの進捗状況なのですが、大筋は書けましたので次は細かい所の執筆ですかね。それが終わってから本格的なプロットの執筆に取り掛かる予定です。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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