狐のお友達のお家にお邪魔します その二
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
「…………。初耳じゃぞ」
イスハが体の前で腕をむんっと組み、あからさまに苛立ちを覚えた格好で私を見つめる。
「でしょうね。その姿勢を見れば一目瞭然よ」
やはりというか、当然と言うべきか……。
当たっても嬉しくない彼女の行動になんだか怒りを通り越して只々呆れてしまった。
「まぁ、良い。儂も丁度暇を持て余していた所じゃ」
ピコピコと三本の尻尾を揺れ動かしながら母屋の縁側へと移動を開始する。
私はその楽しそうな尻尾の後に続いた。
「ふぅ――。茶が美味い」
縁側に座り湯呑に手を伸ばし美味しそうに茶を啜る。
「お邪魔しま――す。よいしょっと……」
荷物を軒下にそして背負っていたマイちゃんを縁側に下ろすと体が一気に軽く感じた。
最近運動していないし、体が鈍っちゃったかも。
「キャイ!! ウゥ――……。オゥ!!」
拘束を解かれた暴れん坊が縁側の上を跋扈して縦横無尽に暴れ始めてしまう。
覚えたての歩み、見ていて心配になる足取りだけど。
最近は随分と様になって来たのかな??
「ヌゥ!?!?」
ありゃりゃ、残念無念。
イスハの尻尾で躓いちゃったわね。
「お――?? 大丈夫か??」
イスハが二本の腕で娘を抱き上げて己の足の上に置いた。
「ホォ――……。フンフン……」
初めて見る女性に興味津々といった感じで見上げ、彼女の身を包む道着が珍しいのか。
顔を近付け匂いを感じ取ろうとしている。
「何じゃ?? 珍妙な匂いでもするのか??」
「匂いっていうより。その服が珍しいからじゃない??」
「この大陸でも一部の地域でしか見られぬからのぉ。ん?? こ、これ!! どこを触っておる!!」
イスハの足の上に立ち慎ましい膨らみをポンポンっと叩き始めてしまう。
そして、未熟な果実をしっかりと堪能してその標高と質量を確認し終えたのか。
「――――――。ハンッ」
鼻で笑い、年不相応の歪な笑みを浮かべてイスハを見上げた。
あ――あ、し――らないっと。
その御姉さんの外見は美少女だけどね?? 一皮剥くととんでもない化け物が出て来るのよ??
「お、お主。今、儂の胸を鼻で笑いおったな??」
「ダ――?? ウ??」
さぁ??
ちょこんと首を傾げて可愛さを盾にした行動を取る。
「よ、良かろう。儂の本当の姿を……。刮目せぇい!! でぇやっ!!」
猛った狐の女王が魔力を解放。
彼女の体から迸る魔力によって周囲の空気がひりつき、大地の砂が僅かに振動。そして直ぐ後ろの障子が乾いた音を立てて揺れ始めた。
おっ、久々に見るわね。イスハの本来の姿。
「どうじゃ!! 儂もこの姿になれば、人並以上のモノを持っているのじゃぞ!!」
尻尾が八本に増えて胸元が大きく膨れ……。
ちっ!! うざったい事に微妙に成長しているわね。
美少女から妖艶な雰囲気を醸し出す大人の女性へと変貌を遂げた。
「キャ――!! ウイウイッ!!」
「物怖じせぬのか?? 大抵の奴はこの姿を見たら腰を抜かすのじゃがなぁ??」
今も膝元で嬉しそうに跳ねる我が娘を見下ろして呆れにも似た笑みを浮かべる。
「そういう所は私に似たのよ」
「なはは!! 良かったのぉ。夫のヘタレな性格が矢面に出ないで」
「ヘタレねぇ。反論出来ない所が辛いわ」
きっと今頃、釣り竿を片手にクシャミをしているわ。
あの格好に着替えたら絶対釣りに行っちゃうだろうし。大丈夫かなぁ……。今日は大事な龍族の集まりだってのに。
もっと念を押しておいたほうが良かったのかも。口で言っても分からない人だから体に言い聞かせないとねぇ。
頭の中で酷い仕打ちを模索していると、少し離れた大地の上に眩い魔法陣が突如として浮かび上がる。
体の中の五臓六腑を巨大な手で掴まれる様なこの圧迫感……。
随分と遅い到着ね。
魔法陣から放たれる光が爆ぜて大地に出現した小さな太陽に目を細めていると光の中から予想通りの人物が現れた。
「――――。パンパカパ――ン!! 超絶美人の登場で――っす!!!!」
美しい濃い桜色の長髪を靡かせ、世界中の女性に溜息を付かせる体を誇る淫魔の女王が自画自賛の声を放ち私達の前に立つ。
何んと言うか。
もう齢三百を超えているのだから、年相応の態度と言葉使いを覚えて欲しいわね。
「やっほ――!! やっぱりさっきの馬鹿げた魔力はフィロだったのね」
「さっき?? あ――。ここに急降下した時のか」
ここから淫魔の里までどれだけ離れていると思っているのよ。あ、それとも此処の近くに居たから感知出来たのかな??
「元気そうで何より。お――。おちびちゃんも一緒ね!!」
元の体に戻ったイスハの膝元で可愛く座る娘のオデコをちょんっと人差し指で突く。
「ウァイッ!! ヴェイ!!」
『触るな!!』
ちっちゃな御手手を出鱈目に振り、淫魔の攻撃を防ごうと画策するが。
「あはは!!!! なぁに?? それぇ。攻撃しているつもりなの――??」
「グェイ!?」
小さな光の輪が娘の手を拘束してしまい、娘は身動きが取れない事に驚きを隠せないようだ。
目をパチクリさせて光の輪を交互に見つめている。
「さ――。ほらぁ――。ここよぉ?? ちっちゃい御手手で攻撃出来るかなぁ??」
前屈みになり、豊満なお胸……。
ちぃっ!! どいつもこいつも私より成長しちゃった!! 腹立たしい事この上ないわ!!
大変御立派な胸を娘の前にドンっと曝け出してやれるものならやってみろと挑発を始めた。
マイちゃん?? 一発ぶちかましてやりなさい。
この人には説教が必要なのよ??
「ヌゥゥゥ……!!!!」
光の輪を吹き飛ばそうと渾身の力を籠めるが所詮赤子の力だ。
大魔の血を引く者の魔力には敵う事は無く、若干涙目を浮かべて歯軋りをしつつうざったい豊満な胸を睨みつけていた。
「エルザード。そのへんでいいでしょ??」
これ以上は私が我慢出来そうに無い。
そう考えて口を開いた。
「そぉ?? あ、そっれ」
「ファイ……。ンウゥゥゥ……!!」
御手手の拘束を解かれた事により。
『この野郎。どう仕返ししてやろうか??』
赤子が浮かべるとは思えない憤怒の表情で私の隣に座った淫魔の女王を睨みつける。
「急にどうしたのよぉ。何かこっちの大陸に用事でもあったの??」
長年連れ添った所為か、それとも彼女の性格を加味したものなのか。
「「はぁ――――…………」」
イスハと共に多大なる憤りを宙へ放出してしまった。
「ちょっと何よ。二人揃って溜息なんか吐いて」
しっとりと潤う可愛い唇がむっと尖る。
「あのね?? 私が今日、ここに来たのは。あなたが、私を、誘ったからなのよ??」
能天気な頭にでも分かる様に態々区切って話してやった。
「私が誘った??」
「そうよ。ほら、今から一か月前位かな?? 家に来た時にそう話したじゃない」
「ふぅむ……」
両腕を組み、傍から見ればそのうざったい豊満な胸を支えている様にも見える格好で首を傾げる。
「――――。あぁっ!! 思い出した!! そうそう!! 確かに私が誘ったわよね!!」
やっと己の行動を思い出したのか、苦虫を嚙み潰したような顔からぱぁっと明るい声と顔に変貌した。
「全く……。誘っておいて忘れるなんて酷いじゃない」
「あはは、ごめんね?? でもいいじゃない。こうして来たんだし??」
ニコリと笑みを浮かべる姿がまぁ可愛い事で。
私が男だったらこの笑みで堕ちたわね。
「まぁ、うん。結果良ければ全て良し、かな??」
これで許しちゃう私も甘いとは思うんだけどさ。まっ、それは知己の仲って事で。
「あぁ――。エルザード様に、フィロさんじゃないですかぁ」
イスハの母屋の縁側で和気藹々と当たり障りない会話を続けていると表からここの世話焼き狐さんの一人のモアがやって来た。
人懐っこい丸い目に柔和な線を描く顔立ち。綺麗な水色の浴衣を華麗に着こなしパタパタと軽快な足取りでこちらへと向かって来る。
相変わらず抜けた話し方ねぇ、そして彼女が来たということは。
「おぉ!! 御二人共、お久しぶりです!!」
「久々ね。モア、メア」
当然もう一人の世話焼き狐さんも来る訳だ。
モアとは対照的な切れ長の目に、細く流れる顎の輪郭。深い藍色の浴衣を着こみ、ちょっとだけ裾を大胆に開いている所から美しい白い肌が覗いてしまっていた。
「どうしたんですか?? 御二人共」
モアが私の前に立って目をパチクリさせる。
「今日は、さ。この子が私達を誘って久しぶりに会おうかって話になっててね??」
右隣りの淫魔の肩を指で突く。
「そうそう。これからいぃっぱい!! 楽しい会話に華を咲かせようとしているところなのよ」
エルザードが長い足を組み、その上に腕を置いて細い顎を手に置きながら話す。
「儂は貴様と話す舌は持っておらぬがな……」
「ウゥ……。ムゥッ」
娘とイスハがウンウンと頷き、エルザードに要らぬ茶々を入れる。
「あっそ。じゃあ、その辺で虫でも捕まえて遊んでなさいよ」
「なんじゃと!? 大体、ここは儂の家じゃぞ!! 貴様を呼んだ覚えは無いっ!! のう??」
娘へ視線を送ると。
「ウァイッ!! ウゥム……」
『当然だ』
そんな感じでイスハの問い掛けに頷いた。
何かこの二人、妙に息が合っているわね。
「まぁまぁ二人共。久々に三人で集まったんだからさ。楽しく行こうじゃ無いの」
互いにそっぽを向いてしまっている二人を取り繕う様に話してやる。
相変わらず最悪な仲ねぇ、昔っから全然変わっていないじゃない。
「ふんっ。モア、メア。食事と……。フィロ。お主、今日は酒を呑むのか??」
「ん――。どうしよっかな」
お酒、か。育児中は控えているけど偶には羽目を外してもいいわよね??
「じゃあぁ……。頂こうかしら」
「ラァイ!! ムゥン!!」
『要らぬ事を聞くな!!』
娘がイスハの胸をポカンと叩く。
「何じゃ?? 安心せい。こ奴の酒癖の悪さは了承済みじゃて。儂らも何度酷い目に遭った事やら」
「そうねぇ……。酔っ払った勢いで全裸になって海に飛び込み……」
「慌てふためく儂らを引きずり込んで溺れさそうとした時もあったのぉ……」
「ちょっと!! 何もこんな時に言わなくてもいいでしょ!?」
若気の至りというか、酔っ払った時の勢いというか……。
誰にでも一つや二つ、その場の勢いでやってしまった愚行ってのがあるものでしょ!!
「こんな時ねぇ。マイちゃん?? あなたのお母さんはねぇ。今はこうして母親やってるけど。若い時はぁびっくりする程にやんちゃだったのよぉ??」
エルザードが娘のぷにぷにの頬を突く。
「ンゥ!!」
それを邪険に払おうとするが如何せん。
大人の力の前では無力なのか、良い様にエルザードに遊ばれていた。
「では、お酒とお食事をお持ち致しますね――」
おっとりとした笑みを浮かべてモアが話す。
「あぁ、ちょっと待って。これ、お土産として持って来たんだけど。良かったら使ってね」
先程の手助けで頂いた麻袋を彼女に渡す。
「態々どうも。ふぅむ……。小麦に、野菜。どれも新鮮ですねぇ」
モアが麻袋の中身を手に取りふむふむと頷く。
彼女の頭の中では既に料理を開始しているようね。
「これはぁ……。駄目、か。『あの子』 には合いそうにないわ……」
ん?? あの子??
モアがポツリと言葉を漏らすと、にぃっと口元を歪に曲げてしまう。
えぇっと……。どうしたのかしらね??
「ほら、モア。行くぞ――」
「待って!! じゃあ用意して来ますので。少々お待ち下さいね!!」
「あ、うん。ありがとうね」
見間違い……、だったのかしら。
モアがいつもの快活な笑みとおっとりとした雰囲気を残してメアの後に続いて行ってしまった。
まぁ、気の所為でしょう。
それより!!!! ここの食事は格別なのよねぇ!!!!
ワクワクする味を舌がもう想像してしまっているのか、お腹ちゃんも何処か楽しみを抑えられない様だ。
ほら、聞こえたでしょう?? このきゅるるんっと鳴った可愛い音を
この音はきっと私に枷を外せって言っているのよね??
最近、お酒は厳禁だったし。何よりここでなら娘の世話を見てくれる人が居る。
お腹ちゃんの苛立ちを必死に宥めつつ、これから始まるであろう宴に逸る気持ちを彼女達に悟られぬ様。
私は壊れた人形の顔にも劣る愛想笑いを浮かべながら頭の中に全く入って来ない日常会話を受動的に続けていたのだった。
お疲れ様でした。
本編が一段落したので番外編の続きを順次更新して行こうかなと考えております。
本編に付いては、大体の構想は出来ていますので後は細かいプロット作成ですかね。
第一部の最終章となりますので気合を入れて書かないといけないので苦戦を強いられそうですよ……。
それでは皆様、お休みなさいませ。




