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狐のお友達のお家にお邪魔します その一

お疲れ様です!!


久々の更新となります!!




 実力差はあるとは言えども命のやり取りをする実戦を久し振りに体感した所為か、心の奥にそっと灯る闘志の残火が体をほんの僅かに火照らせ続けている。


 燻ぶり続けている残火が私の翼を一つ大きく上下させ、とても大きな大地の上に漂う清らかな空気を捉えて目的地へと向かって行った。



 本当に久々だったわねぇ、他人から殺意を向けられたのは。心地良いとは言え無いけど刹那に向けられた負の感情が私を高揚させたのは確かだ。


 駄目ねぇ。あんな雑魚相手に高揚していちゃ。


 これじゃあ弱い者虐めしたさに助けに行ったものみたいじゃない。


 あれは、うん!! そう。


『人助け』


 だから、別に良かったのよね?? ギッタギタのボコボコにしても。


「ムゥゥ……」


「ん?? どうしたの?? マイちゃん」


 私の大きな手の平から愛娘の憤りの声が届く。


「アイィ……。ダァムゥ……」


 眉をぎゅぅうっと顰めて二本の腕を掲げると。


「アァッイ!!」


 ポフっと、私の手の平の上に大変柔らかい拳を叩き落とした。


 彼女なりに精一杯の憤りを現したのだろうけど傍から見ればそれは大変可愛気のある行動であり、私の心がきゅんっと刺激されてしまった。



「まぁたそうやって怒って。さっきの剣に驚いたんでしょ??」


「バルムゥ……」

『まぁ、そうだが??』


 むすっとした顔で私の顔を見上げる。


「咄嗟に思いついた技なのよ。本来、自分の得物を手放すのは愚の骨頂よ?? でも、そこで敢えて手放すのは格好良く見えない??」


「ダルダルゥ!!」

『全然見えない!!』


 そう言わんばかりに私の手の平に右の拳を叩き付けてしまう。


「あはは。叩いても痛くないよ――?? 相手の注意をこちらに引きつけ。剣の存在を忘れさせた所に……。ズドォン!!!! って降って来るのよ。そりゃびっくりするわよねぇ」


 もう少し引き寄せた方が良かったかしらね。


 また犯罪に手を染めても困るし、右肩辺りに直撃させればこれに懲りて好き勝手に暴れる事も無くなるかも知れないものね……。


「アバブッ!! アムゥ!!」


「ん――?? あっ、さっきの男の子もびっくりしてたって?? 仕方が無いわよ。あの子は人の子だし。でも、私の動きを目線で追えていたわね。大きくなったら強くなるかもよぉ??」


「ムゥン……」

『それは無い』


 首をフルフルと横に振って私の意見に反対する。


「いやいや。決めつけたら駄目よ?? 人は歩み続ける限り成長を続けるんだから」



 それは私達魔物にも当て嵌まる事ね。


 強さを求め走り続けるとどこかで必ず一度は立ち止まってしまう巨大な壁が現れる。


 呆れる程に長く続く頂への道を見つけて挫けるのか将又、膝から崩れ落ちそうになる負の感情を力に変えて進んで行くのかは己に委ねられるのだ。



 当然、私は後者よ。


 今も隙を見つけては貴女のお父さんをしばき……。基、稽古に付き合って貰っているし。


 通算成績は……。まぁ、沢山しばき倒しているから一々覚えていないけど多分勝ち越しているでしょうね。


 他人から見れば頂点に君臨している様な強さを備えているが、私はまだきっと諦めていないんだと思う。


 そう、諦めきれないんだ。あの人を……、苦痛から救う為にもっと強くならないとってね……。



「ア――イ!!」


 頭の中に過った苦い過去に暗い影を落としていると娘の高揚した声が耳に届く。


「どうした……。あぁ!! 見えて来たわね!!」



 アイリス大陸のほぼ中央よりやや南へ下った位置。周囲を悠然と見下ろす事を可能としている一つの高い山が視界の先に見えて来た。


 人に見つかっては不味いと考えて高く飛んでいるけどあの山も結構高いわよねぇ。


 標高千……。幾つだったけ?? 兎に角。それだけギト山は高いって事だ。



「今日はあそこにお邪魔するのよ」


「アウ??」


 きゅっと首を傾げる仕草がまた愛苦しい。


 思わず口の中に入れてしまいそうな可愛さを醸し出す愛娘の円らな瞳に向かって口を開く。


「私の友達でね?? 狐の女王さんがあそこに居るんだ。すんごぉく強いから、暴れちゃ駄目よ??」


「ンムゥ!! アウッ!!!!」

『私は遊ぶわよ!?』


 己の心に湧く陽性な感情に突き動かされる様に両手両足を嬉しそうに、そして出鱈目に動かす。


「ふふ。沢山遊んでもらいなさい。きっと強くなる稽古も付けて貰えると思うからさ。じゃっ!! 急降下するわよぉ!!」


 翼を大きく広げて空を統べる種族に相応しい姿を取った。


「ア……。アゥゥム……」

『もう少しゆっくりでもいいよ??』


 マイちゃんが左右に大きく広げた私の翼を見つめると円らな瞳が大きく開かれてしまう。


「んふっ。ざぁんねんでしたっ!! お母さんは人に見つかってはいけないので。さっきより速く降りますねぇ!!」


「アララゥ!! ダ……。キャアアァアァァアアア――――ッ!!!!」


 娘の抵抗する声よりも先に翼に風を纏い、眼下に見えた広い着地地点へと頭の先を向けた。


 体全てが重力に引かれ、強風が頬を切り裂き、常軌を逸した速度によって視界が急激に狭まって行く。


「キャイ!! キャァァァイィイ!!」


 地上まで目と鼻の先。


 衝突を懸念した娘の泣き叫ぶ声がイケナイ私を呼び醒ましてしまった。



 まだ……。まだよ……。


 十分に引き付けてから速度を相殺しなくちゃね!!



「アダァ!! ムアァィ!!!!」

『死ぬぅぅうう!!!!』


 舞いちゃんのクリクリのお目目から涙が溢れ出るものの風圧と速度で広大な空へと流れて行ってしまう。


 狐の女王が住み、いつも楽し気に散歩と稽古を繰り広げる訓練場が手の届く位置へ上昇して来た。



 正確にはこっちが降りて来たんだけど、ね。


 さぁぁああ……。格好良く着地を決めますか!!!!



「――――――――。とぉぅっ!!!!」


 地面と衝突する寸前で翼を大きく羽ばたかせて速度を相殺。


 その衝撃によって生まれた竜巻にも似た突風が土埃を巻き上げ、旋風が吹き荒れる地へと両の足を着けた。



「はぁい。到着っと」


 娘を地面へ降ろして人の姿に変わって体を大きく伸ばした。


「ん――っ!! はぁっ。久々ねぇここへ来たのも」


 吹き荒れる旋風が止み、砂塵が晴れて行くと美しい山の緑が目に飛び込んで来た。



 ゆっくりと吹く風が木々を微かに揺らして耳に心地よい音を奏で、山の澄んだ空気を吸い込むと肺がニッコリとした満面の笑みを浮かべてくれる。



 本当に良い所よねぇ。


 育児を終えたら此処で暫くの間、ゆっくりと過ごすのも悪く無い考えだわ。



「ムゥゥゥ……。ググゥ……」


 自然豊かな景色、そして体の芯から癒される空気が満ちる場所には似つかわしくない声が私の足元から鳴る。


「あはは。ごめんねぇ?? 驚いたでしょ」


「アァ!! ウゥ!!」

『死ぬかと思ったわよ!!』


 よちよちと手足を動かして私の足元に近寄り裾の長いスカートの中へ潜ってしまう。


 あ――あ、拗ねちゃった。


「謝ってるでしょ?? ほら、狐さんに挨拶しに行くから出て来なさ――い」


 スカートを捲り上げて中身を確認するが……。


「……ッ」


 愛娘は足にしがみつき、私の顔を一切見ようとしなかった。



 ぷいっとそっぽを向いてしまっている姿が私の心をキュンキュンと温めてしまう。


 可愛いわねぇ……。


 こうやって私の横着で拗ねる所は夫似かしらね。



「不貞腐れていないでほぉらっ。行くわよ」


 赤子の服を摘まみ上げて荷物の中から布を取り出し、颯爽と己の体に巻き付けて背負ってやった。


 我ながら完璧な動作ね。


「あ、そうだ。あの子から頂いたコレ。お土産にしようかしら??」


 荷物の脇。


 作物が押し込まれてこんもりと膨らむ麻袋を見下ろして話す。


「ウ――……」


「え?? 勿体ないって?? いやいや。お邪魔するんだから手ぶらってのも、ね」


 ほんの少し前まで手ぶらでお邪魔しようと考えていたのは内緒にしよう。


 ほら、子供の事で頭の中が手一杯だったしさ。


 己に都合の良い言い訳を説きつつ、両手一杯の荷物を抱えて裏手の母屋へと続く道のりへ向かい始めた。


 なだらかな丘に造られた階段を昇り、平屋の脇を抜けると馨しい花の香りがそっと鼻腔の中を駆け抜けていく。



 わっ、良い匂い。この香り凄く好きかも。


 何の花かしらね??


 美しい花弁、瑞々しい茎を想像して進んで行くと花壇の前で三本の金色の尻尾が楽しそうに揺れ動いていた。



「んふふ――。丈夫に育つのじゃよ――」


 金物製の如雨露じょうろを右手に持ち、正面の綺麗な白、紫、桜色のサクラソウへ水を与えている。


 花の魅惑に参ったのか、目尻はほんのりと下がり。馨しい香りに心を奪われてしまっている御様子だ。


 黄金も大きく頷く金色に光り輝く髪、女性らしい丸みを帯びた小振りな臀部。


 とても齢三百を超えているとは思えない美少女が今もまるで自分の娘に接する様に花の世話と続けていた。


 数年振りに見たけど全然変わっていないわね。


 まっ、本来の姿はもう少し大人びているけどさ。


『この姿が楽なのじゃ!!』


 そう言ってたっけ。



「これ。いつまでだんまりを決めておるつもりじゃ」


 花の世話を続け乍らこちらへと話す。


 そりゃあれだけ派手な登場をしたんだから気付かない方がおかしいわよね。


「久々ね!! イスハ!!!!」


 知己へ投げかける言葉に相応しい台詞を述べて荷物を手に。そして愛娘を背負いながら彼女へと歩み寄った。


「久々じゃ……。おぉ!!!! なんじゃ!! 新しい娘を連れて来よったのか!!」


 三本の尻尾の内、二本の尻尾がピンっとそそり立つ。


 真ん丸い目が更に見開かれて私の背後へと注がれている。


「そうよ。ほら、マイちゃん。挨拶なさい」


 背を一つ揺らして挨拶を催促する。


「アァイ!!」

『おう!! 初めまして!!』


 高揚した声と共に小さな御手手が一つ縦に揺れた。


「ほうほう。お主は父親によう似ておるなぁ」


 私の背後へと回り、娘の頭に手をそっと添えて話す。


「丈夫に出来ているから、そんなに優しく撫でなくても大丈夫よ」


「そうなのか??」


「ムゥアィ!!」

『扱いがぞんざいだ!!』


「いたっ。も――。お母さんの頭を叩いちゃ駄目じゃない」


 私の言葉に憤りを覚えたのか、後頭部をポカンと叩く抗議の御声が届いてしまう。


 ふふっ、も――。可愛い抵抗だなぁ。


「なはは!! 赤子に叱られておるようじゃ、お主もまだまだ精進が足らぬようじゃなぁ!!」


「そんなんじゃないわよ。これは他愛無い親子の絡み、そうよね??」


「ムゥ……」

『まぁ、そういう事にしておきましょうか』


 そんな憤りにも似た言葉が届いた。


「元気良く育っておるのは結構じゃが……。突然どうしたのじゃ??」


 私の真正面に戻ったイスハが話す。


「突然って。エルザードから聞いていないの?? ほら、娘の世話も一段落したし。久々に三人で会うってのも悪く無いって話していたのよ」





 本日から遡る事、一月前。


 家の中庭でマイちゃんとお昼寝に興じていた時、突如として淫魔の女王が虚無の空間から現れた。


『じゃじゃ――んっ!! 私、華麗に登場!!』


 華麗という言葉では物足りないと思わせる端整な顔立ち、世の女性も思わず溜息を漏らしてしまう豊満で張りの良い双丘をぷるんっと揺れ動かして古き良き友が現れた時は本当に驚いたわね。


『エルザード!! どうしたのよ。いきなり現れて』


『いやぁ。二人目の子供が生まれたって、クソ狐から聞いてね。虐め……。コホン。顔を見に来たのよ』


 今、虐めるって言った??


『ありがとうね。でも、今昼寝しちゃってるからなぁ。ほぉら、マイちゃん。エルザードのお姉さんですよ――』


 天使の寝顔を浮かべる娘を揺れ動かすと徐々に瞼が開いて行き深紅の瞳が淫魔の女王を捉えた。


『ばぁっ!! 超絶美麗、最強最高の魔法使いのお姉さんだぞ――』


 長い舌をべろりと覗かせ、前屈みになって娘に可愛い顔を向ける。


『ンブゥ?? ンン……。ンゥ!?!? ラアアァイ!!』


『んぅ?? なぁに??』


 エルザードのこれ見よがしに膨れた胸に視線を送ると、眉をぎゅっと寄せ。


 卑怯だぞ!!


 今にも食って掛かりそうな雰囲気を醸し出した。



『あ――。ごめんねぇ?? お姉さん、すんごい綺麗な御顔でおっきい胸しているからさ。あなたのお母さんとは桁違いで驚いちゃったかな』


『…………。エルザード?? もう一度、言って御覧なさい??』


 彼女が放った一言が私の奥底に潜む悪魔を呼び醒ましてしまう。


『っ!! ほら!! あれよ、アレ!!』


『あれ??』


 憎悪、憤怒。


 負の感情を籠めた瞳で彼女の慌てふためく顔をじぃっと見つめる。


『冗談ってやつ!! いやぁ――。今日は暑いわね――』


 取り繕う様にシャツの胸元を指で摘まみ、うざったい……。基、美しい双丘へ風を送り込む。



 私も人並に成長したんだけどなぁ??


 それでも世の中は上手く出来ているのだよ。そう、上には上が居る様に作られているの。


 世の不条理を納得はしているけどさ。もう少し位大きくなっても良かったのになぁ??



『それより。どうしたのよ、何か用でもあった??』


『久々に、さ。四人で集まって食事でもどうかなぁって考えてね』


 四人、か。


 そこに彼女が含まれていないのが何だか物凄く悲しいわね。


『四人で?? 私は構わないわよ?? でも、フォレインはどうかなぁ。ほら、西から湧いて来たオークの侵攻を食い止め、それと自分の娘の世話でてんやわんやになっているし……』


 確か生まれた娘の名前は……。


『あ――。アオイね』


 そうそう。


 いやねぇ、物忘れしちゃったわ。


『ここに来る前にお邪魔してさ』


『そうなの??』


『それでさぁ。彼女の娘が生意気にも淫魔の女王の私に向かってポスンって拳捻じ込んで来たから、魔力を放出させて脅かしてやったら泣いちゃってね。んで、フォレインにすっごい怒られちゃった』


 あははと屈託の無い笑みを浮かべる。


 エルザードに誂えた様な笑みに何処か朗らかな感情が湧くんだけど。


『あなたねぇ。育児中の母親を怒らせるものじゃないわよ??』


『知らなぁい。で、集まって気晴らしでもしない?? って誘ったら』




『育児、執務、オークの侵攻の阻止。私は貴女と違って暇じゃないの!!!! どうぞお引き取りを!!』




『びっくりするぐらいまた怒られちゃったの。何で誘いに来ただけなのに怒られちゃったんだろう??』


 蜘蛛の女王様に怒られた理由も分からないのか。


 口元に人差し指を当てて首を傾げていた。


『はぁ……。フォレインが元気そうで何よりだわ。私は、うん。別に構わないわよ??』


『本当!? じゃあ、丁度一か月の今日。イスハの所に集合で!!』


 一か月後か。


 予定を開けておきましょうかね。


『了解。ちゃんとイスハに了解を取っておきなさいよ??』


 勝手に押しかけたら怒るだろうし。


 何より、エルザードとイスハは犬猿の仲だ。いざこざを仲裁する立場は御免被りたい。


『はいは――い。とっておきま――す』


 軽い返事で返すのは結構なんだけどもう既に嫌な予感しかしない。


 長年の付き合いから分かるのよねぇ。


『もう一度言うわよ?? ぜぇったい、イスハに確認を取っておくようにね』


『しつこい女は嫌われるゾ??』


 片目をパチンっと瞑り、妙に苛立つ姿勢を取る。



 フォレインの気持ちが今分かったわ。あの子良く我慢したわね、尊敬するわ……。


 それからというものの。


 エルザードがアレコレと溜まった鬱憤を好き放題喚き散らし、聞きたくも無い仕事の愚痴やら、やれどこの下着屋が安いだ――っとか。


 愚痴と世間話の数々を強制的に聞かされ続けて耳が疲れて来た頃にやっと帰って行ったのを今でも覚えている。



お疲れ様でした。


現在、後半部分の編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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