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~エピローグ~ 男子禁制の女の園

お疲れ様です。


本日の投稿になります。長文となっておりますので予めご了承下さい。




 本日の闇夜は真冬の寒さと言われても何ら不思議では無い肌を刺す冷涼な空気が地上で暮らす者共を苦しめている。


 気温と比例した冷たくて横着で強い風が、まだまだ冷やしてやるぜ!! と。私達三名の合間を縫って通り過ぎて行く。


 もう直ぐ生命の息吹を感じ取れる初春が訪れるってのにこの寒さは少々堪えるわね。



「う――。寒いっ寒いっ!!」


 寒さに顔を顰め俯きがちにして帰路に着く壮年の男性。


「あはっ、ほら吐く息が白いよ!!」


 吐く息に冬の憂いを喜び、男性と腕を組んで何処かへ向かう女。


「は――、寒い。全くこれだから冬は嫌なんだよ」



 寒いと文句を垂れつつ、その体ではどう頑張っても寒さを感じぬのでは?? と問いたくなる体格の中年の女性とすれ違う。


 私達が歩く南大通りは寒さに占領されてしまい人々の顔を複雑に変えてしまっていた。


 当然それは私達にも当て嵌まる。


 むぎゅっと眉を顰め、ポケットに手を突っ込み。傍から見ればどこぞの不良だと思われる姿勢と表情で南大通りを南下していた。



「ルピナスの家はこっち――??」


 東方向を何とも無しに見つめて口を開く。


「違いますよ。南西区画ですから、真逆ですね」


「あ、そうなんだ」



 こりゃ失礼しました。



「でも、良かったんですか?? 私もお邪魔しちゃって」


「いいのいいの!! 女三人集まって話す事なんて貴重だとは思わない?? 特にぃ。こぉんな綺麗な御二人さんが居れば私も気分が高揚するってもんよ」


 困った笑みを浮かべる看板娘の尻を掴もうとするが……。


「ちょっと。駄目ですよ?? 二度も触るのは」


 美味しい丸みを帯びた草食獣のお尻がするりと逃げて行ってしまった。



 むぅ……、残念。ふわふわでもちもちの尻の感触に手が飢えているってのに……。


 だが!! まだまだ襲う機会は残されているのだ!! 猛った獣の様に機を窺いさり気なく襲ってやろう。



 最高な食事を終えるとルピナスが何とも無しにある一つの提案を提示した。



『まだちょっと飲み足りませんよね??』


 この意見に多大な肯定を感じた私はお淑やかな笑みと叮嚀な口調でこう答えた。


『もっと飲みたい!!!!』



 あれ?? 想像の私とちょっと違うけど……。それは酔いの所為にしましょうかね。


 時間も時間な事もあってかルピナスの家で飲もうと話は纏まったのだが……。


 ここで二つの問題が発生した。



 一つ。


 看板娘の御両親の許可を得ていない事。


 大切な娘さんが帰って来ないとなれば一大事になりかねない。


 二つ。


 私の外泊許可だ。


 これは簡単に解決する。


 一度兵舎に帰って門番を務める先輩に深々と頭を垂れ、貸しを一つ作る事によって解決するからだ。



 規則では外泊許可は前日までに提出せねばならない。つまり本日外泊するという事は書面を偽造する事に当たる。


 これが先輩への貸しの正体。


 女の子は急に……ほら。用事が出来る事もあるじゃない??


 軍属って事もあり中々に時間が出来ない事もあって暗黙の了解として仲間内で認められているのよ。


 なんやかんやあり、私のやっすい頭を下げて問題は解決したのだが……。



『ん――。後はこっちでやっておくぞ』


『ありがとうございます!!』


『貸しはそうだなぁ……。美味い肉か、流行りの服で勘弁してあげるよ』



 一泊の為に多大なる痛手を負ってしまった。

 

 まぁ、こうして友人同士で集まる機会は早々無い。お金で解決出来る問題だから目を瞑るとした。


 そして、その返す足でココナッツへと赴き御両親へ外泊の許可を頂いたのだ。


 只、ロティの母親曰く。



『なんだぁ。女の子同士かぁ――。私はてっきり男の子もいると思ったのに。残念だよ』



 女同士のお泊り会にちょっとだけ顔を顰めていた。


 そこは普通安心する場面ではなかろうか?? 愛娘を男の家においそれと泊まらせる訳にはいくまい。



「はいっ。到着しました――」



 つい先程の光景を思い浮かべ、もう大分暗い夜道を女の子同士の明るい会話で照らして進んでいるとルピナスが一軒の小さな家の前で歩みを止めた。


 長い間風と雨に晒されて痛んだ木目がちょっとだけ心配になる外壁。周囲の一階建ての建物と同じく背の低い出で立ち。


 田舎から引っ越して来た者の一人暮らしに誂えた家って感じねぇ。



「中は想像通りに狭いので御心配無く」


 ルピナスが慣れた手つきでポケットから鍵を取り出して鍵穴の差込口に手を掛けながら話す。


「心配なんかしてないわよ。立派な家じゃない」


「そうですよ。女性の一人暮らしかぁ。憧れちゃうなぁ……」


「そんな大したものじゃないですって。はい、では……。狭い家ですがごゆっくり御寛ぎ下さい」



 きぃっと甲高い音を立てて扉が開かれると、私達はルピナスを先頭に彼女の根城へと足を踏み入れた。



「ちょっと待って下さいね。今、蝋燭を灯しますから」



 窓から射し込む月明りを頼りに薄暗い室内を見渡す。


 うぅむ……。正に下町の家って感じね。


 ルピナスが机の上の蝋燭に火を灯すと部屋の全体像が明らかになった。

 

 正面には年季の入った暖炉がドンっと腰を据えて私達を迎え左奥には机と椅子が慎ましく腰を下ろし。壁の脇には箪笥が置かれて右奥にはちょっと大き目のベッドが御主人様の帰りを首を長くして待ち構えていた。



 机の上には未記入の書類とワインの入った瓶が数本。


 椅子に掛けられっぱなしの上着に良い感じに乱れたベッドのシーツと布団。



「ふぅん。生活感溢れるって感じね」


「素直に散らかってると言ってくれた方が嬉しいですよ?? えっと……。どこに座ります??」


「ベッドに三人は……。ちと厳しいわね。ベッドに二人。んで、その椅子をベッド脇に運びましょうか」


「いいですね」



 私が椅子を運び、その間。


 ルピナスはコップへ赤ワインをトクトクと注いでいく。


 ほぅ!! 良い色してるじゃない!!



「ロティ、悪いけどさ。最初の一杯だけ付き合ってくれる??」


 運んだ椅子にちょこんと座り、未だ珍し気に周囲を見渡している彼女へ言った。


「構いませんよ。只、さっきも話した通り物凄く弱いので……。途中で寝ちゃっても許して下さいね」


「いいわよ。ルピナス――。まだ――??」


 くるりと机の方へ振り返って言う。


「せっかちさんには、あげませんよ――??」


「むぅ!! じゃあ、待つ!!」


 お酒を飲めなくなるのは了承し難い。きちんとお座りして待っていましょうかね。


「よいしょっと……。はい、どうぞ」


 ちょっとだけ頼りない手元で木目が美しいコップを三つ運び、私達に渡してくれる。


「ありがとうございます」


「ありがとう!! おぉ!! 美味しそうじゃない」



 深紅の液体がもう私の体の中に入ろうと準備運動を始めている。


 待っててね?? 乾杯の挨拶が済むまで待機してちょうだいっ。



「うん?? 座らないの??」


 ぽんっと弾む様に己がベッドに腰かけたルピナスが未だ己の位置を求めてきょろきょろと視線を動かしている看板娘に問うた。


「いえ。どこに座ろうかなぁって」


「私のお膝にいらっしゃいな」



 ここ、空いてますよ――。


 そんな意味を含ませて膝を軽く叩く。



「身の危険を感じますので、それはちょっと」


 身の危険ですと!? 私、そんな怖い人に見えるの!?


「じゃあ、ここ。座って下さい」



 ルピナスの隣。大幅に空いているベッドの空間を指す。



「それじゃあ、失礼して……」


 ふぅむ。緊張しているのかどうか知らないけども女の子らしく座るわねぇ。


 そんな事より!! 早く乾杯の挨拶を済ませましょう!!



「では、私達の楽しい夜を祝して。…………かんぱぁいっ!!」


「「乾杯っ!!」」


 軽快な掛け声と共に杯を交わし、その勢いに乗じて私は魅惑の液体を喉の奥へと流し込んだ。


「んっ……んっ……。ぷはぁっ!! これ美味しい!!」


 コップから口を外して一切の装飾を加えずに心のままの声を発した。


「あっ、本当だ。これなら私も飲めそうです」


「実家で採れた葡萄のワインですよ。この前、帰省したついでに貰って来ました」


「へぇ!! ワインも造っているんだ」



 果実の豊潤な香りが鼻にふっと抜けて行き癖の無い苦味が舌をピリリと刺激する。


 ワインに溶け込んだ僅かに仄かに感じる木の香り。そして、余り強くない酒の度数が飲み易さに拍車を掛けていた。


 本当に美味しいや……。これならざるに飲んでも酔わなさそうね。



「お代わりぃ!!」


「もう!? トアさ――ん。飲み易いって言っても、一応お酒ですからね?? ザルに飲むのは駄目ですよ」


「自分の許容範囲は弁えてるつもりよ!! ほらほら!! 注いで!!」


 飼い主に餌を強請る犬が如くルピナスの前に空のコップを差し出した。


「も――。…………はい。どうぞ」


「ありがとうっ!!」


 くはぁ。これなら何杯でもお代わりできそうね!!


「チーズもありますけど。要ります??」


「もちっ!!」


「そう言うと思いましたよ。ほら、ど――ぞ」



 小さな木箱から固形のチーズちゃんが現れると酸味の効いた香りが部屋に解き放たれた。



「んぅ――。良い香りぃ!! どれどれぇ??」


 四角形の形に整えられているチーズちゃんとちょこんと摘み御口へと迎えてあげる。


「はむっ……。ふむ…………ほぅ?? ……んまぁっ!!」



 程よく効いた酸味の香り通りの味が舌の上に転がり、癖の少ない円やかでちょっとだけの苦味が嬉しい。



「んっ!! ルピナスさん。これ、美味しいです!!」


 ロティもご満悦の様子で?? ワインの入ったコップを片手にチーズを鼠の様に小さく齧っていた。


 可愛く食べるわね。


「ふふ。ありがとう。その……。ロティさんって今おいくつ??」


 チーズを食みつつルピナスが何とも無しに隣を見ながら話す。


「私ですか?? 二十歳ですよ」


「あらま。じゃあ私の一つ下ですね」


「同年代って気がしましたから嬉しいです」


 いつもの柔和な笑みで看板娘が話す。


「無礼講って事で……。叮嚀語は使わなくてもいいですよ??」


「い、いえ!! 私が一番歳下なんですからそこは礼儀を弁えて、ですね」


「あ、じゃあ私はこれから友達に接する様に話してもいい??」


「勿論ですっ!! そっちの方が嬉しいかな」


「ふふ。じゃあ、これからも一つ宜しく」



 ルピナスが右手をすっと差し出すと。



「はいっ!!」



 彼女は何の気兼ねも無くそれを受け取った。


 ここに今、一つの温かな友情が生まれたわね。うんうん!! 誘って良かったわ。



「私が二十二だから……。一つずつ違う感じね」


 彼女達の会話の区切りを待って口を開いた。邪魔するのも野暮って感じだったし。


「トアさんは、パルチザンにおいくつの時に入隊したんですか??」



 お酒の所為か。ちょっとだけ頬が赤いロティが問う。



「私?? 二十歳の時よ。訓練施設で二年。その間みっちりしごかれ、晴れて今年の四月に卒業したのよ」


「二年間も……。良く体が持ちましたね」


「慣れよ、慣れ。ルピナスはいつからここで働いてるの??」



 そう言えば聞いた事がなかったわね。


 この際に聞いておこう。


 そう考えて美味しそうに喉の奥にワインを流し込んでいる彼女へ何気なく質問してみた。



「私ですか?? 偶々、軍馬の調教師を募集するって伺って。田舎の風景にちょっとだけ飽きちゃった頃だったので。駄目もとで採用試験を受けたら合格しちゃいました」



 ほう。そうだったんだ。



「片田舎から都会のここへ引っ越したのはいいんですけど。最初はもう人の多さに目を丸くしちゃって……。普通に移動するのも億劫になっちゃいました」


「あ――。分かる。私もさぁ訓練が休みの日に街へ繰り出したのはいいんだけど。人の多さに嫌気が差して買い物済ませたら直ぐ帰って来ちゃったもん」


 それは今ではもう慣れてしまい。逆に人が少ないと侘しさを感じてしまうようになってしまっている。


 実家に帰省したら田舎過ぎて直ぐこっちに帰って来ちゃいそうだもの。


「田舎出身の人にしか分からない心境ですよねぇ」


「まぁね。ロティはどこ出身なの??」


 くいっとワインを飲みながら問う。


「私はこの街の生まれですよ」



「「…………」」



 ほぉん……。一人だけ都会生まれの都会育ちです――ってか?? 


 私と同じ気持ちを抱いたのか。


 ルピナスと一瞬だけ視線を交わして徐に行動を開始した。



「ど、どうしたんです?? 御二人共」


 何か不穏な空気を察知したのか、ロティの表情がちょっとだけ曇る。


「コップ。ちょっと貸して」


「あ、はい」



 彼女から受け取ったコップを床に置き。


 私は手首を解し、首を左右に傾け、その時の為に備えた。



「ちょいと後ろ、失礼しますねぇ――」


「え、えぇ」


 ルピナスがロティの背後へと回り準備完了っと。


「いい?? そこのお嬢さん。よぉく聞きなさい」


「聞いていますよ??」


 あらあら、まぁまぁ……。今から楽しくて愉快な拷問が始まるってのに可愛く首を傾げちゃってまぁ。


「私達は田舎出身なの。それは今話した通りで御存知よね??」


「伺いましたね」


 コクリと小さく頷く。


「つまり、だ。この中で唯一、あなただけが都会出身な訳」


「そうみたいですね」



「私達、田舎者を見つめ。『ふふっ。田舎者は大変ねぇ。出歩くのも億劫になっちゃって。プ――ッ、クスス!!』 って、ほくそ笑んでいた訳だ」



「そ、そんな事思っている訳ありませんよ!!!!」


「いいや!! 違うね!! その目は何よりも真実を伝えているのだよ!!」


「きゃあっ!? ちょ、ちょっと!! ルピナスさん!? 何を!?」



 私が声を荒げると同時にルピナスが背後から急襲。


 両腕でロティの体をガッチリと拘束して羽交い絞めの姿勢を取った。


 良くやったわ!!



「直ぐ済むからちょぉとだけ我慢してねぇ??」


「す、済む??」


「私達田舎者の歯痒さ。都会人から受けた憐憫の眼差しの辛さを……。その身に刻み込んであげるわ!!」



 十本の指をがばっと開き、彼女のたわわに実った果実へと突撃させた。



「きゃはは!!!! ちょ、ちょっとぉ!! トアさん!! や、止めてくださぁいっ!!」


「うりうりぃ!! 田舎者の恐ろしさ、その身を以て思い知れぃ!!」


 体にぶら下がっているかなりいい感じに育った二つの双丘を摘み、掴み、揉みしだく。


 くすぐったさに顔をくちゃくちゃにし、大口を開けて笑うロティの笑い声がなんと心地良い事か。


「だ、駄目ですぅ!! 取れちゃいますってぇ!!」


「大丈夫よ。これくらい。おっほぉ!! 育っちゃってまぁ!!」



 と言うか。


 私より確実に大きい事が…………。余計に腹が立つわね!!



「あははは!! も、もぅ許してぇ!!」


 無意味にバタバタと足を上下に振り体を捩るも、体力仕事を生業としている私達にはまるで効果は得られない。


 寧ろその抵抗が更に嗜虐心を高めてしまっていた。


「前ばかり気にしていたら駄目だよ――??」


「きゃあっ!?」


 ルピナスがふっと耳に吐息を吹きかければ。


「んっふっふ――。ここかぁ!?」


 服の上から大雑把に計算した、胸のアレ目掛け指先で突いてやる。


「…………んっ!!!!」



 おう??


 ひょっとして、大正解だった??


 急所を的確に突かれると眉をぴくっと動かして何とも言えないあまぁい声を漏らした。



「も、もぅ!! 怒りますよ!?」


「怒る子はそんな事いいませ――んっ。でも、まぁ。存分に虐めたし、これくらいで許してあげるわ」



 ふっと肩の力を抜いて椅子へと戻る。



「お疲れ様。大変だったね??」


 ルピナスがロティの頭にポンっと手を乗せて元の位置へと戻った。


「本当ですよ……。御嫁にいけなくなったらどうしてくれるんですか」


 乱れた着衣、そして髪を戻すと私に倣って唇を尖らせて可愛く拗ねてしまった。


「ごめんね?? 田舎出身の者から見ると、ど――しても都会出身の子って虐めたくなるのよ」



「「ねぇ――??」」



 ルピナスと同時に笑みを零し、首を傾げながら看板娘を見てやった。



「知りませんっ。…………はぁ――。笑い死んじゃいそうでした」


 疲労を籠めた吐息を零すとベッドの上に溶け落ちてしまった。


「ルピナス――。お代わりぃ――」


「はいはい。あんまり飲み過ぎると明日に響きますよ」



 深紅の液体がコップに満ちて行くと私の心が満たされてしまう。


 はぁ……。綺麗な色。



「大丈夫だって――。明日は非番だしぃ。仲の良い友人と酌み交わすお酒に限界は無いのよ!!」


 ぐぃぃいっとワインを口の中に迎え早くも二杯目を空にしてあげた。


 これよ、これ!!


 後先考えないで飲めるのってさいっっこう!!


「おきゃわりぃっ!!」


 空になっちゃった可哀想なコップさんを前へと差し出す。


「知りませんからね。明日の朝飲み過ぎて頭痛いって言っても」


「それを怖がってちゃあ、お酒は飲めませんっ!! ろ――い。起きていますかぁ??」


 クタクタに崩れ落ちた看板娘のふとももを突いてやる。


「起きてますよ――」


「ほぉん。本当だ。元気な色ね――」



 女性らしい可愛いスカートちゃんをぺろりと捲ると、冬には似合わない元気な青が現れた。


 この色いいわね。私も買おうかしら。



「ちょっとぉ!! 何見てるんですか!!」


 あらら。見えなくなっちゃった……。


「いいじゃない。女の子しかいないんだしぃ??」


「それでも駄目なものは駄目ですっ!!」


「う――ん?? 誰ならいいのよ――??」


 ちらりと覗く太ももちゃんへ攻撃を継続しながら聞いてみた。


「誰なら……」



 私の言葉で特定の人物を想像したのか。お酒の効果で朱に染まっていた頬が更に赤くなってしまう。


 まあっ。うふふ、初心ねぇ……。



「折角さぁ。女の子が集まったんだし。好みの男性像を言い合おうよ――」


「「好みの男性……」」


 私の言葉を受け取ると二人仲良く声を揃え、そして恥ずかしそうに赤くなる。


 この様子から察するに二人共それとなく意中の男性はいるっぽいわね。


「私は……。そうですねぇ。常日頃からこの帽子を被っているんですけど」


 ルピナスがちょんっと鍔を触って話す。


「男性の方から変な女と見られる事が多々あるんです」


「そう言えば……。その帽子、どうしてよく被ってるの??」


 以前から気になった事をそれと無く伺ってみると。




「この帽子は……。亡くなった兄の物なんです」




 一呼吸置いて寂しい感情を含ませて話してくれた。



「――――ごめん。嫌な事、聞いちゃったね」



「気にしないで下さい。もぅ随分と前のお話です。私が幼い頃、兄はパルチザンに入隊しました。家族は大反対したんですけど。『この国を守る為。身を切る覚悟を差し出さなきゃ、いつかはアイツらがここまでやって来るんだ。誰かが、誰かがやらなきゃいけないんだ!!』 そうやって家を出て行っちゃいました。私は……。泣きながら兄に縋ってしがみ付きました。そうしたら困った顔でこう言ってくれました。『ごめんな?? 訓練が終わって、時間が出来たら帰って来るからさ』 頭を優しく撫でてくれたのを未だ覚えているなぁ」



「…………優しいお兄さんだったんですね」



 相手を労わる。


 そんな柔らかい感情を含めた言葉をロティがポツリと漏らす。



「優しい……。うん。本当に優しいお兄ちゃんでしたね。それから数年経って、兄は約束通り帰って来てくれました。いつもの優しい笑みを浮かべて。家族勢揃いで食卓を囲んで、向こうで出来た兄の友人やら配属先を父達は聞いていましたけど。幼い私にはチンプンカンプンで、只々兄の顔をじぃっと見ていました。傷ついた顔が痛々しくて、大丈夫って聞いたら。『これ位、なんともないさ』 私の頭にポンって手を乗せて柔らかい顔で答えてくれました。おっきな手だったなぁ……」



 当時の光景を思い出し、目をきゅっと瞑る。



「私の我儘で兄と同じベッドで眠りそして出発の日を迎えました。兄が馬に跨り、別れの挨拶を済ませると私は……私は…………。私の、目から涙が止め処無く溢れて来ました」



 閉じていたロティの瞳から温かい雫が一滴。静かに零れ落ちた。




「泣きじゃくり、馬にしがみ付く私を困った顔で見下ろし。離れないと悟ったのか、下馬して私の体を腕に抱き抱えてくれました。そして。『ルピナス。これをお前が預かってくれ。お兄ちゃんの大事な帽子だ』 兄がレイモンドで購入して、気に入っていた帽子を私の頭に被せてくれたんです。ぶかぶかでちょっとだけ汗の香りが染みついた帽子を。そのまま兄に抱き着き、大声で礼を述べて彼から離れました。兄はそのまま乗馬し、私達に別れの挨拶を済ませました。元気良く、そしてはっきりした声で去って行ったんです。『行ってきます!!』 と。そして、そして…………。格好良くて、おっきくて、頼り甲斐のある背中を見たのはそれが最後でした」


「「……」」

 


 意図せずとも私達の目には感情の籠った温かな液体が浮かび。小さく瞬きをすると、そっと頬を伝い落ちて行った。



「それ以来、これは私の宝物なんですよ。ウマ子に良く取り上げられちゃうのが偶に瑕なんですけど」



 小さく鼻を啜り、精一杯の笑みを浮かべて話す。



「好みの男性は、そう。兄によく似た人です。頑張り屋さんで、良く無茶をして、傷だらけになっちゃう。そして私と一緒で馬が好き。そんな人と結ばれたらいいなぁって考えているんです」


「うん。そっか。ありがとうね?? 話してくれて」


 浮かぶ涙を指先で拭いながら言った。


「な、なんかしんみりしちゃいましたね!! 気分を替えましょう!! はい!! じゃあ次はぁ、ロティ!!」



 ルピナスがぱっと帽子を外し、隣の看板娘へと豪快に被せた。



「ルピナス」


「ん?? 何です??」


「一つお願いがあるんだけど、いい??」


「えぇ。どうぞ」


「ずっと帽子、被ってていいよ」


「はい??」



 夜空に浮かぶお月様もちょいと嫉妬してしまう丸みを帯びた瞳、整った頬の線に思わず触れてしまいたくなる様な健康的な色の唇。


 普段は隠されている顔の全容が明らになると自分の持っている彼女の印象との差が影響してか、より可愛く見えてしまうのだ。


 いや、この差を考慮しなくても同じ女性でも可愛らしい顔付きだなぁっと思える顔にそう言ってやった。



「わぁ。本当だ。ルピナスさん、すっごく可愛いですね」


 看板娘が帽子の中から目を丸めてルピナスを見つめる。


「よ、良く見られるのは慣れていません!! やっぱ返して!!」



 彼女から帽子を強奪していつもの姿へと戻る。


 兄の形見だけじゃなくて、元々見られるのが恥ずかしいのかもねぇ。


 勿体無い……。



「次は私、ですよね??」


「そうよ――。お店に来る人かなぁ?? 好みの男性は」


「そ、それは知りませんっ。私の好み、か。そうですね……」


 口に人差し指をあてがい、じっと考え込む仕草を取る。


「――――。私は正直、この街以外の事を良く知りません。今年の夏は妹と東の港町まで冒険をしたのですが……」



「そこで運命の出会いをした、と!?」

「違います」



 あらまっ、速攻で否定されてしまった。



「見聞を広める意味で出掛けた事が功を奏したとでもいいましょうか。狭い世界だけを見てるだけじゃ駄目かなぁって思ったんです。実は……。私の気になっている人も良く外の世界を見ている人で。同じ目線、同じ世界を見てみたいと考えていたんです。鼻に感じる塩気を含んだ風、体に纏わり付く海の湿気。あぁ……。あの人もこの景色を見たんだぁって考えるとトクンって一つ心臓が高鳴ったんです」



 大人しいかと思いきや中々行動力に溢れているわね。


 気になっている人と同じ場所に行ってみようなんてそうそう思いつかないし。



「それでぇ?? 気になっている殿方はどんな人なのかなぁ??」


 椅子からベッドへと移動し、ロティの隣へポスンっと座って聞いてやる。


「どんな人……。そうですね……。どんな小さな話でも聞いてくれて、親身に耳を傾けてくれる。私の我儘にも付き合ってくれて、呆れた笑みを浮かべても最後までちゃあんと行動を共にしてくれる人……かな」


 話し終えると、ふっと意味深な笑みを浮かべて宙を眺める。


 きっと彼女の頭の中ではその男性の顔を思い浮かべているのであろう。


「顔はどんな感じ??」


「え――。そこまで言わなきゃ駄目ですか??」


「恥ずかしいのなら別にいいわよ」


「それなら言いませんっ。大切に胸の中にしまっておきたいので」



 そうかいそうかい。皆ちゃんと恋をしているのねぇ。安心したわ。



「それで?? トアさんはどうなんです??」


「そうそう!! 一人だけ話さないのはずるいぞぉ!!」



 ぬぉっ!? 左右から美しい花達が私に襲い掛かる。


 ロティが私の体の上に覆いかぶさりルピナスが体にぎゅっとしがみ付く。


 その勢いでベッドの上に転がってしまった。



「あ、あんた達!! 酔ってるわよ!?」


「えへへ――。久々に飲んだからですねぇ」


「それにトアさん良い匂いするんですよねぇ――」


「あ、それ分かります!! こう……。スンスンッ……。甘くて男の人を駄目にする香りですよね」


「きゃあっ!?」



 ロティは左の首筋。ルピナスは右の首筋に鼻頭を当てて私の香りを胸一杯に閉じ込めていた。



「ほらぁ。早く言わないと――」


「トアさん……。私達に食べられちゃいますよ……」


「いぃっ!?」


 首筋に厭らしい水分を纏わせ潤んだ唇がそっと押し当てられると形容し難い感情が沸く。


「あ、本当に良い匂い……」


「ひぁっ!?」


 くぐもった淫靡な水の音が響くと背筋の肌が一斉に泡立ち。


「ですよねぇ……。ちょっと味見しちゃいましょうか??」


「ふぁっ!?」



 私の体の上に覆い被さるロティが扇情的に体を動かして私の体の中のイケナイ感情を引き出そうとしてしまう。


 お酒の効果、そして二人の女性の甘い香り。幾つもの状況が重なり二つの花に襲われ意識が危険な方向に向かってしまいそうになるが……。



「ぬ……ぬぉぉおおっ!! だりゃぁああ!!!!」


「「きゃああっ!!」」



 全筋力を解放して私の体に甘く絡みつく花を追っ払ってやった。


 あ、危ない。もう少しでアッチの世界へ引き込まれてしまいそうだったわ……。



「いたた……。もう。私は一般人ですよ?? 手加減して下さいよ」


 ベッドの淵へ飛ばされた看板娘が上体を起こし。


「今の声、可愛かったですね――。リクにも聞かせてあげたかったですよ」


 反対の端でころりと転がったままルピナスが話す。


「あんたらねぇ……。まぁいいわ。私の好みの男性は……。何んと言うか……」


 言葉に出した途端。アイツの顔が頭の中に浮かんでしまった。


「周知の通り。私ってさ、良く下らない事するでしょ??」


「「……」」



 コクコクと二つの頭が上下に動く。


 全会一致で結構です。



「そんな悪戯しても。『仕方が無いなぁ』 って、はにかんだ顔で私を見つめるの。馬鹿騒ぎしても一緒に燥いでくれる。私が傷ついたら、一緒になって傷ついてくれる。頼りなく見えてもその実、頼れちゃう。お人好しで頼まれた事は断れない。そして…………。本当の私をちゃんと見てくれてる。そんな人が好みよ」



 はぁ――。好きになった奴の事を話すのってやっぱり恥ずかしいなぁ。


 顔が熱いですよ。



「何か、随分と具体的ですね」


 帽子の奥から意味深な視線が届く。


「そう?? まぁ、良く見てる分。見えて来ちゃうって言えばいいのかしらね」



 ついつい見ちゃうのよねぇ。


 アイツの事。向こうは全く意識していないと思うけどさ。



「「良く見てる……」」



 うん?? 私、何か変な事言った??


 二人が何かを考える様な仕草を取り、何も無い宙をじぃっと眺めていた。



「好みの男性の話はこれでお終い!! 後は……。夜明けが来るまで飲み明かすぞぉ!!」


 床に放置されていた可哀想なコップちゃんを掲げて夜に相応しくない声を上げると強制的に恋の話を終了させてやった。


「あの――。私、明日仕事あるんですけど??」


「気にしないの!! 数時間は寝かせてあげるから!!」


「こうなったトアさんは誰にも止められませんよ。適当に酔わせて、潰してからゆっくり休みましょうか」


「それ、乗った」


 何やら二人が笑みを交わして手を合わせるが今の私には関係の無い事だ。


「それじゃあ、本日三回目?? だっけ??」


「合っていますよ」



 きゅっと可愛い笑みを浮かべてロティが肯定してくれた。


 うむっ!! 良い笑みだ!! それを肴にしてお酒を飲んでくれようぞ!!



「では、三回目の――。かんぱ――――いっ!!」


「「乾杯!!!!」」



『あはは!!!!』



 彼女達の陽気な声は壁を突き抜けて空気の壁を容易に破壊して天へと高く飛翔する。


 夜鷹が眠い目を擦り空を羽ばたいているとその声が彼の翼を大きく揺るがした。



『ルピナス――!! 脱げ!!』


『絶対嫌です!! トアさんこそ脱いで下さいよ。自慢なんでしょう――?? 鍛えているしぃ』


『そうですよ。私達はいっつも悪戯を受ける側ですからね。偶には……。トアさんも悪戯されて下さいっ!!』


『きゃあ!! どこ触ってるのよ!! 止めろ!! 脱がすなぁぁああ――ッ!!』



 こんな夜遅くに人間達の陽性な声がここまで届くなんて……。余程馬鹿騒ぎが好きな個体なのだろう。


 彼は呆れた息を漏らし、彼女達が発する力の上昇気流に身を任せどこまでも空高く昇り。星達が煌めく満点の夜空へと勢い良く羽ばたいて行ったのだった。




お疲れ様でした。


この御話を持ちまして新任伍長の御話はお終いです。早く書き終える事が出来るかなぁっと軽い気持ちでプロットを執筆していたらアレもコレもと継ぎ足してかなりのボリュームになってしまいました。


もうちょっとさらっとした展開で終えられれば良かったのですけどね。


次の番外編掲載開始は本編後書きにてお知らせさせて頂きますね。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


執筆活動の嬉しい励みとなりました!!!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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