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手に余るであろう大それた作戦

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 大変可愛い彼女に教えられた通りに大通りを左折。そして表の通りに比べるとちょっとだけ仄暗い道を普段通りの速度で歩んで行く。


 薄暗い所為か。冬らしい若干の寒さを覚える道だがその分人通りも少なく、田舎者に突き刺さる興味の視線も無いので思いの外快適であった。



 さっきの子、びっくりするくらい可愛かったな……。


 きっとこの大陸でも上から数えた方が早い順位の可愛さに位置付けされる筈。


 もう少し歳を重ねたらどうなるのかしらね??


 放つ雰囲気は人を従え凛とした美しさに人々は息を飲む。誰しもが彼女の姿に魅了され一度視界に捉えたら外せなくなってしまうのだろう。



 絵画の中から出て来たんじゃないの??


 あの可愛さはそうじゃなきゃ説明付かないもん。



「…………。ん?? おぉ!! あそこだ!!」



 家屋の間に設置されている整理された美しい道を進んで行くと、別嬪さんが教えてくれた通りに青色の屋根が見えて来た。


 それを目印に進んで行くとこれまた御教授して頂いた通りのイカツイ門が見えて来る。


 兵士数十人掛かりでもあの門を突破するには大いに時間を費やすであろう。


 重厚な門の左右には二階建て程の高さの鉄柵が整然と肩を並べ、冷酷な瞳で侵入者を警戒して領域内への進入を塞いでいる。



 頑丈な門と鉄柵。流石、軍属の者の屋敷なだけはあるわねぇ。


 腕を組み満足気に外観を見つめていると内側から不意に門が開かれた。



「――――。トア=フリージア様で宜しいでしょうか??」



 一人の若い女性が特に表情を変えずにこちらへと静かな足取りで歩いて来る。


 黒の服に身を包み、明るい茶の髪を後ろに纏めており第一印象としては清楚な印象を受けた。


 丸顔でどちらかと言えば幼い顔立ちなので年齢の詳細は分からないが、凡そ私達と同世代であろう。


 只、幼い顔立ちと背の低さもあってかど――頑張って見ても年下にしか見えない。


 初対面の人且大佐の屋敷から出て来た人に向かい。



『おいくつですか??』



 と、尋ねる事は流石に了承出来ない。



「あ、はい。そうです。ジョン=マルクス=レナード大佐からの召集を受けて参りました」


 無難且端的に用件を伝え。懐から受け取った便箋を取り出して彼女へと渡した。


「確認致します……」


 リスみたいな小さな手で便箋を受け取ると封を開け、指令書と召集書に目を通す。


「――――はい、確かに。申し遅れました。私、レナードの秘書を務めております。ラテュス=レナードと申します。以後お見知りおきを」



「え?? 大佐の娘さんですか??」


「はい、レナードの次女です。では、早速ご案内致しますね」



 そう話すと静かに踵を返して屋敷の扉へと向かって行く。



 はいはい、ついて行きますよ――っと。



 重厚な門を潜り抜けこちらを出迎えたのは中々に立派な庭だ。


 この街の道と同じく美しい白色の石畳が門から屋敷の扉まで続き、敷き詰められた石畳の道脇に咲く花が綺麗な顔で私達を出迎えてくれる。


 左右に続く整えられた芝生に、何かを模った大きな彫刻像。


 この庭の面積だけでも家一軒建つわね。そして高貴な街で中々に広い庭を持っているって事はそれ相応の家柄なのでしょう。


 この景観が物言わずとも私との立場の違いをまざまざと見せつけてくれている様であった。



「遠路遥々お越しいただき、真にありがとうございます」


 花とその他諸々に視線を奪われていると柔和な声色が前方から届く。


「あ、いえ。王都からの出立なのでそれ程までとは」


「そうですか。王都の様子はどうですか??」


「いつも通り、喧噪と人の蠢きが絶え間なく続いていますよ」


「ふふ。変わらないですね……。最近はめっきりと忙しくなってか、中々出掛ける機会が無いので……」



 そりゃ、大佐の秘書ですものね。やる事が山の様にあるのでしょう。


 どんな仕事かは分からないけど。



「さ、到着しました。お入り下さい」


「は、はぁ……」



 表のイカツイ門、だだっ広い庭、そして大きな屋敷。


 ここに来て驚くのは何度目だろうか。


 私達の正面でどっしりと腰を据えて厳かな出で立ちの扉が迎えてくれる。


 左右に伸びる白を基調とした屋敷にはこれまた豪華な窓枠が備えられており、曇り一つ無い輝きが目に痛い。


 一体、幾らかかったんだろうなぁ。


 私の給料じゃ一生掛かっても払えそうにないわね。


 大佐になればそれだけ給料が上がるのかしら??


 物欲、営利、銭勘定。


 頭の中で厭らしい計算を浮かべながら屋敷の扉を潜った。



「…………。広い、ですね」



 見上げれば首が痛くなる高さの天井が高貴な顔を浮かべ私を見下ろす。


 踏み心地の良い赤の絨毯が左右へと続く通路一杯に敷かれ、左右の通路には幾つかの扉が見受けられた。


 正面脇、二階へと続く階段にも絨毯が敷かれ。絨毯だけでも相当な額が掛かったんだろうなぁっと要らぬ心配をしてしまう。


 貧乏気質が抜けないとでもいうのか、さっきから銭勘定ばかりしているわね。



「この街では……。まぁ普通の部類に入りますね。レナードはこちらで待機しております」


 ラテュスさんが馬鹿みたいに口をあんぐりと開けている私を見つめてふっと笑みを零す。


「あ、はい」



 相変わらず静かな足取りで右の通路へ進むので私は彼女に倣いその後に続いた。



 やっぱり年下かなぁ。でも、その割にはしっかりしてるし……。


 年齢を聞きたいけど聞けないこのもどかしさ。


 どうにかならないものか。



「――――。先に謝罪を申しておきます」



 おっと。


 勢いで年齢の事をさり気無く、そして会話の流れで察しようと画策していたら先手を打たれてしまった。



「謝罪ですか」


「こちらに召集された理由。伺っていませんよね??」


 あぁ、その事ね。


「えぇ。正直、大佐に召集を受ける程の階級じゃありませんので……」



 伍長という肩書も大佐から見ればパンの端に付着しているパン屑程度の者であろう。


 末端も末端の私に御声が掛る理由は依然不明ですよっと。



「レナードの口から直接聞かされるかと思いますが、この屋敷並びに召集を受けた事も他言無用でお願いします」


「…………。詮索する訳ではありませんが。それだけ重要な任務、又は目を逸らす事の出来ない事態が起こっていると考えても宜しいですか??」



 まっ、凡そこんな所でしょうね。



「ふふっ。中々に賢しいですね」


 さ、賢しい?? 私、只の体力馬鹿として捉えられていたの!?


「あ、語弊がありましたね。鋭い考察であると言いたかったのですよ」



 目を丸めている私の方へ振り向き、口角を緩めて話してくれる。



「レナードは特殊作戦課の総司令を務めております。作戦内容、並びに課に所属する人物も公表されていません。課は名目上存在しますが、それ以上でもそれ以下でもありません」



 再び静かな足取りで進みながら言う。



「ふ……む。つまり、大佐の下で活動を行う人物は確実に存在して。公表出来ない危険で無謀な作戦に参加している。そして特殊作戦課を公表したくても出来ない理由があるという訳ですか」


「その考察について、肯定も否定も致しません」



 むぅ、ちょっとくらい教えてよ。



「――――致しません、が。無きにしも非ずとだけ申しておきますね」



 って事はそれだけヤバイ事をしているのか。


 その特殊作戦課とやらは。



 あ――……。聞くんじゃなかった。


 万が一、いや。億が一に私が特殊作戦課に召集されちゃったらその公に出来ない作戦に参加しなきゃいけないのよね??


 大佐に会う前から気が重いわ……。



「お待たせ致しました。こちらの部屋にレナードは居ります」


 入り口から何個目か分からない扉の前でラテュスさんが歩みをピタリと止める。


 そして、雀さんの足の様な小さな御手手で扉を三度叩く。


「お連れ致しました」


「――――。分かった」



 うぅっ、緊張して来た。


 美しい木目の扉から微かに漏れた低く、くぐもった声が私の心をギュっと強く鷲掴みにして否応なしに緊張感を生み出してしまう。



「どうぞ、お入り下さい」


 ラテュスさんが扉の脇に逸れて入室を促す。


「すぅ――――……。トア=フリージア伍長であります」


 一度呼吸を整え緊張の欠片を吐き出すと彼女に倣い、強張った顔で扉を叩いた。


「入れ」


 出来るだけ大きく、そして相手に不快な思いをさせない声量を発し扉を開けた。


「失礼します」



 扉を開けて先ず目に飛び込んで来たのは正面の大きな執務机と大佐の姿だ。


 机の上には今にも崩れてしまいそうな傾き加減の書類の山が聳え立ち、レナード大佐は書類から顔を上げずに今も捺印と速読を繰り返している。


 ここは……。執務室であろうか。


 左右の部屋の壁には天井まで届く本棚が立ち並び、その中には一糸乱れぬ本達が整列して今か今かと命令を待ち侘びていた。



「トア=フリージア伍長です。召集を受け賜わり参りました」



 机から一メートル程の間隔を開けて直立不動の姿勢を取り。


 指先をしっかりと地面に伸ばし、背骨一本一本を天へ向けて伸ばした。



「あぁ。良く来てくれたな」


「はっ」



 黒の中に若干白が残るキチンと整えられた髪。想像していたよりもガッシリとした体躯で私達が着用している茶の皮の上着、黒のズボンの軍服とは違い。


 濃い青の上下の制服を着用している。


 上官、それも相当位の高い者しか着用出来ない軍服の色が私の緊張感を更に高めてしまい喉がひり付いてしまった。



「待たせた。何分、仕事が山積していてな」


 そうだろうなぁ。


 所狭しと積み上げられた紙の山を見えば一目瞭然だ。


「では、始めようか」



 書類から顔を上げると、屈強な男も思わずたじろいでしまう厳格な黒の瞳が私を捉えた。



「はいっ」



 さぁ、いよいよか。


 私の体は一本の鉄の棒と化して地面に突き刺さり。鋼の心を持って大佐に返答した。



「先ず、ここへ召集させた理由だが……。それを話す前に幾つか質問に答えて欲しい」


「了解であります」


「先の任務、大蜥蜴を……。仲間と二人で撃退。そして一人の欠員もなく護衛任務を達成させた。この報告に相違は無いな??」



 大佐の手元には私が心血を注いで仕上げた報告書の塊が置かれている。


 それに視線を落としながら仰った。



「はっ。相違はありません」


「ふむ。では、次の質問だ。撃退方法について詳しく教えてくれ」



 撃退方法か。


 一体の大蜥蜴しか倒していないけど。


 それでもいいのなら。



「はっ。私は一体の大蜥蜴と対峙し。日頃の鍛錬の賜物である剣技とパルチザンの兵士の魂を胸に秘めて敵へ立ち向かって行きました。相手の攻撃方法は正直、出鱈目であり。剣筋は未熟、纏う空気は自分を弱者だと決めつけた物でありました。しかし、剣筋は未熟でありながら膂力は自分の数倍、いえ。数十倍程でありました」



「……」


 私が話している間、大佐は一切視線を上げる事なく只々書類へと視線を落としている。


「相手の攻撃を真面に受けては不味い。そう考え、相手の攻撃をいなし、体が流れた所へ雷撃を打ち込みました」


「……報告書に記載されている通りだな」


「はっ」



 あり?? 求めていた答えと違ったのかしらね。



「その後、共に護衛任務に就いていたレイド伍長が敵を撃退したと記載されているが……。トア伍長。貴様は敵の攻撃を受けて負傷、そして意識を失ったんだな??」


「――――はっ。申し訳ありません」



 仕方ないでしょ!!


 あのクソ女。滅茶苦茶強かったんだから!!



「攻撃を受けた箇所はどこだ」


「首、であります」


 くっそぉ……。思い出したらムカついて来たわね。


 あの女、今度会った時は覚えておきなさいよ?? 横っ面張り倒して目に涙浮かべるまでボッコボコのギッタンギッタンにしてやるんだから!!


「首に攻撃を受け、後方へと吹き飛ばされた……。ふむ……」



 申し訳ありません、自分の実力が至らず……。


 慙愧に耐えない思いがちょっとだけチクンと心を鋭く刺す。



「オークの詳しい討伐数は覚えているか??」


「――――。詳しい数までとは言えませんが、恐らく五十は越えているかと」



 多分ね。


 最初の方は倒した数を計上して報告してたけど、乱戦やら後方からの援護射撃やらで有耶無耶な数字もあるし。



「質問は以上だ。では、ここへ召集させた理由を話そう」



 さぁ、本題よ。


 私はより一層気を引き締めて大佐の言葉を待った。



「我々パルチザンは周知のように魔女の討伐を本懐として設立された。今から約二十年も前の話だ。それにあたって先日とある作戦が立案された」



 魔女討伐の作戦かな??


 でもそれだったらもっと大規模な作戦になるから私なんかがここに呼ばれる訳ないし。



「詳しい内容は話せないが、トア伍長。貴様にはその作戦に参加する為、選抜試験に挑んで貰う」


「選抜試験、でありますか」


「そうだ。三日後、レイモンド北に位置する課外演習場にて選抜試験が行われる」



 課外演習場って……。あの森の事よね。


 何度かその演習場を利用した懐かしき訓練生時代の思い出がふと頭の中を過って行った。



「貴様の他にも選抜試験を受ける者がいる。そう気構えなくてもいい」


「はっ」


「三日後の正午。課外演習場へ向かい、試験官から提示された試験を受けろ。それに合格する事が出来たのなら作戦に参加して貰う。…………。作戦の参加の辞退はそこが最終だ。試験を通り、作戦参加の了承を受けた時点で貴様には義務が発生する事を忘れるな」


「了解であります」



 提案されている作戦はそれだけ難しく、そして……。命の危機が伴うって事か。



「詳しい事はラテュスに聞け。私からの説明は以上、下がって良し」


「はっ!! 失礼致します!!」



 鋭く、速く腰を曲げ。脱帽時の敬礼を交わしてから部屋を退出した。


 はぁ――。緊張したぁ。



「――――。お疲れ様でした。緊張されましたか??」



 後ろ手で扉を静かに閉めて通路に出ると柔和な笑みのラテュスさんが私を迎えてくれる。



「あ、はい」


 その笑みを見つけると強張っていた肩の力が解きほぐされて行くのが自分でも容易に窺えた。


「話しながら進みましょうか??」



 彼女が細い腕を出口の方へと差し出す。



「えぇ。――――ところで、選抜試験の事なのですが」



「レナードから伺ったと思いますが、選抜試験は課外演習場で行われます。持ち物は武器一式のみ。試験方法は試験官によって変わります。公平に試験を受けて頂く為、詳しい試験内容は言えません。集合時間は三日後の正午。これだけは確実に守って下さいね」



 ちいちゃな御口で早口に言葉を並べて行く。



「了解しました。しかし、どうして私がそんな大それた作戦に参加する権利を頂けたのでしょうかね。私より幾らでも強い人はいますのに」



 一切の飾りを捨てて心のままの声を口に出す。


 そりゃそうでしょ。


 たかが伍長の私がこの大陸の命運を別つかも知れない作戦に参加するなんて烏滸がましい。


 と、言いますか。本当にその通りなら重責に耐えられそうにないわよ。



「人選は上層部が行っていますのでそれについて私からは何も言えませんね。只、一つ言える事があります」


「何です??」


「トアさんはそれだけ人から一目置かれる存在なのですよ」



 おぉう……。笑うとより一層若く見えるわね。


 燦々と降り注ぐ太陽の下でにこやかに微笑む美少女って感じかしら。彼女に誂えたような幼い笑みに心が温まる。



「全くその自覚はありませんよ。分相応の任務しか与えられていませんので」


「軍人の職務を全うするのは当然の事です。ですが、それでもトアさんの実力を買われたのですよ」


「ま、まぁ。試験を受ける人は他にもいますし。その選抜試験に受かる見込みは限りなく低いでしょう」



 傑物揃いの軍だ。


 私の力なんてたかが知れているしさ。



「……ここだけの話。聞きます??」


 ふっと歩みを止め、蟻も首を傾げる小声で話す。


「お願いします」



「今回の作戦。かなりの報酬が得られるようですよ?? 危険手当、成功報酬……。お金目的で入隊した人には垂涎の額です。それだけではなく、本作戦はこの大陸に住む人々の命運を別つとも聞いております。達成した暁には名誉だけでは無く、勲章も授与されます。軍人の本懐は昇進。と、までは言いませんが。上に立つ事をお考えならば熟考をお薦めします」



 うぅん……。


 昇進も、勲章も、報酬にも特に興味は無いんだけど。


『大陸に住む人々の命運を別つ』


 この言葉が頭の奥にこびり付いた。


 私みたいな一介の、更に末端の兵士がその大それた作戦に参加してもいいのだろうか。


 そりゃあ……。出来れば参加はしたいよ?? 友達や仲間を結果的に救う事が出来るのだから。


 しかし、大きな見返りには当然それ相応の危険が付き纏う。


 ひょっとしたら、ラテュスさんが告げ口したのはそれを認識させない為かもしれない。


 目先の危険を確知させない様に遥か彼方に存在する報酬と昇進を仄めかす。


 そんな感じがしたのよねぇ。



 何でそんな事が分かるのかって??


 女の勘よ!!



「ありがとうございます。その話を参考に熟考させて頂きます」


「えぇ。宜しくお願いしますね??」



 ニコリと口角を上げ、再び大変静かで豪華な廊下を歩み出す。


 幼い顔して結構あくどい事考えているかもねぇ。


 国の命運を別つ事となるかも知れない作戦内容を想像すると言い現わしようが無い目に見えぬ不安が心を侵食する。


 その不安も、試験に合格すればの話だけどさ。


 何はともあれ。先ずはその選抜試験を受けるとしますか。そこで気が乗らなかったら……。いやいや。


 危険の中に身を投じて己の命を捧げても構わない作戦と納得出来たら参加しよう。


 ふかふかで大変高価な絨毯の上でどんよりと重たい足を懸命に動かしながらそう考えていた。




お疲れ様でした。


次の更新は今度の週末あたりになりそうです。


引き続き、素敵な休日を過ごして下さいね。

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