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二度目の訪問

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 雲一つ見当たらない快晴の空とは打って変わり、地上の私の心にはどんよりと厚い雲が広がっている。


 一般市民は当然の如く門前払い。それ相応の地位にある人でも許可が無ければ立ち入る事を許されない高貴な街、レンクィスト。


 彼方に見える街を守る背の高い城壁の輪郭が刻一刻と明瞭になってくると私の心が更に悪天候へと移り変わってしまう。


 鉛色の厚い空からは雷鳴が轟き、強烈な稲光の閃光が不気味な影を刹那に生み出す。


 よもや殺意を持った醜い豚達と対峙するより只の景色が私の鉄の心を揺るがすとは思いもしなかった……。


 心の悪天候を理由に引き返したいのは山々だが、私も軍属の端くれ。上層部からの命令に歯向かう訳にはいかないのでこうして馬に跨り項垂れながら進んでいるのさ。



「こんにちは――」



 街の面影から敢えて視線を外し、爽やかに揺れ動く愛馬リクのたてがみを見つめていると陽気な声が耳に届く。



「あ、どうも。こんにちは」



 凡そ四十代くらいであろうか。


 少し傷が目立つ荷馬車に大量の木箱を積み、騎手が軽快な笑みを浮かべて私達とすれ違い南へと進んで行く。


 商人さんかな??


 あの笑みからして、よっぽど美味しい儲け話でも受け賜わったのだろう。



「ねぇ――、リクぅ。このままさ――。帰っちゃおうか??」


 今も小気味の良い蹄の足音を立て、私と対照的に凛とした姿で正面をじっと見据えている彼女に問う。


「…………」



 私の声を受け取ると円らな漆黒の瞳を此方に向け、返事代わりに長い瞬きをしてくれた。



「あ――。やっぱり行かなきゃ駄目かぁ。気が重いのよねぇ……」


『ブルル……』



 御主人様の大変重たい溜息を背と鬣に受け、それが気に障ったのか。少々荒い鼻息を漏らす。


 召集を受けたのはいいけど。


 何の目的で私を招集したのか、その理由が依然不明なのが悩みの種なんだよね。


 いつもの私なら。



『よっしゃ!! 面談でも何でも受けてやりますかぁ!!』



 って、なるんだけど。


 謹慎中の身もあってか、気が気じゃないのが本音です。


 せめてさ!! 目的くらい書いてあってもいいんじゃない!?


 正式な指令書だったんだし?? 目的さえ知れば気持ちも固まるってのにぃ!!



「リク――。その辺で私をぱぱっと落馬させてよ。んで、今日一日動けなくなる程の軽傷を負わせて??」


「……」



 今度はこっちに振り返らず代わりに鼻を大袈裟に揺らす嘶きの声が発せられた。


 この声は私の絡みが面倒な時に鳴らす声よねぇ。



「うっわ。そういう態度取る?? あんたねぇ、御主人様がこうしてあれこれと苛まれているんだからさ。少し位労ってくれてもいいんじゃないの?? ほら。ウマ子ちゃんだったら……。あの子は逆にレイドの事を揶揄うか」


「……っ」


 その姿を想像したのか。今度は楽し気に蹄を二度鳴らす。


「今回は厩舎が違うし、最近会ってないもんね。リクも寂しい??」



 ふふ、そっか。寂しいよね?? 友達と会えないと。


 まぁでも……。ここまで来たら腹を括っていつもの私らしく堂々として面談とやらを受けてやりますかね。


 もう目と鼻の先に見えて来てしまった鉄壁を誇る背の高い城壁を一睨みして心を入れ替えた。



「…………。おい、そこの者。止まれ」



 見上げんばかりの高さを誇る城壁の下。


 ぽっかりと口を開けている門の前に立つ門兵が鋭い槍を構えて私に停止を求める。


 はいはい、この前と同じ下りでやればいいのよね??


 相手に警戒心を抱かせない速さで下馬し、懐から便箋を取り出す。



「はいっ。…………えっと。ジョン=マルクス=レナード大佐から召集を受けこちらへと参りました。こちらが街の入場許可証になります」



 手紙と同封されていた許可証、並びに大佐の署名がされている手紙を門兵に渡してやった。


 これで大丈夫、よね??



 前はレイドと一緒だったから心強かったけど今回は一人だし。


 ちょっとだけ不安なのよねぇ。



「…………うむ。確かに入場許可証は本物だな」



 疑うのは仕事上、仕方ないとは思いますけど……。


 大好物が乗っていた空っぽの皿を舐める犬の様に見なくてもいいんじゃない??


 筋骨稜々の彼は今も書類に顔をくっつけて文字の波をマジマジと確認をしていた。



「待たせたな。通って良し」


「ありがとうございます」



 おっきいわんちゃんから書類を受け取りリクの手綱を取って進む。


 薄暗い城壁と城壁の合間。


 屈強な石で積み上げられた街の入り口である通路の中央を堂々と歩み、前方に見える光射す出口へと向かう。



 えぇっと。お次はリクを厩舎に預けて……。んで、ここに記載されている住所に向かえばいいのよね??


 記載されている住所はレンクィストの大通りを南門から北上し、街の中央の十字路を右折。


 そして、三番目の……うんたらかんたら。



 まぁ、迷ったらその辺の人に聞けば大丈夫でしょう。


 ここに入る前に腹を括った所為か、面談が終わったついでに服屋や小物を扱うお店等々。召集ついでに色々と見て回ろうと画策している能天気なもう一人の自分が顔を覗かせて笑えてきてしまう。



 物価は目が飛び出る程に高騰しているけど、それに見合う質はあるのよねぇ。


 前見たワンピース、可愛かったし?? 私のお気に入りも見付かるかもしれないじゃん??


 店主との値切り交渉の受付は不可かしら……。田舎育ちの私としては提示された値段よりも最低でも一割二割割り引いてもらわないと気が済まないのだ。


 壁と壁の合間を乱反射するリクの蹄の軽快な音を聞きながら、私の提示した額を受けて渋った顔を浮かべる店主達との魂が震える熱き仮想交渉を頭の中で浮かべていた。





















 ◇




 高価で上品な服の上に、これまた上品な顔が乗っかった気品溢れる人間達が街を跋扈している。


 そんな中、やっすい軍服に身を包む私は白鳥の群れに紛れる薄汚い鴨の様に酷く浮いた存在であった。


 爪先から頭の天辺まで。彼女達が揃えている品々を買い揃えるのには一体何か月分の給料を支払わなければいけないんだろう??


 いや、数年単位かしらね??


 頭の中に下らない銭勘定が浮かぶのはうだつが上がらない庶民気質といったところか……。



 街に入ると滞りなく厩舎にリクを預けて浮かれ半分、緊張半分の中途半端な歩みで南大通りを北上し続けている。


 浮かれ気分なのは勿論、人間観察の為だ。



「あら、こんにちは。お元気ですか??」


「あ、どうも。先日は主人がお世話になりましたわ」



 美しい翡翠のスカートを翻し、胸元には見事な紅石(ルビ-)が光り輝く銀細工をぶら下げて口角をちょっとだけ上げる。


 私は上品な笑みを零していますよと相手にやんわりと伝えつつ当たり障りの無い会話を始めた奥様方に目が留まる。


 口調も然ることながら、出で立ちもこの街の雰囲気に酷く合っていた。



 う――む。


 私はあんな御上品に笑えるだろうか??



 レイドと相対している時は大抵大口開けて笑っているし。


 友人の時もまた然り、だ。



「まっ。私には私なりの所作があるって事で」



 うわべだけの付き合いより、腹を割った付き合い!!


 そして、そこから出る笑みは当然何の遠慮も要らないのさ。


 これでもかと口を開けて陽性な感情を解き放ち、何のしがらみも感じない気持ちの良い笑いをお互いに浮かべる。


 それが真の友って奴よね。



「あ、そう言えば。御主人、最近お仕事大変そうですわねぇ。法律の草案でしたっけ。議員間で纏まっていないと御伺い致しましたわ」


「そうなのですよ。主人と派閥の方々で毎晩遅くまで会議の繰り返し。家庭を疎かにするなとは言いたいですけど、仕事は仕事ですし……。難しいですわ」



 御二方、大変羨ましいですわぁ。私はぁ、そぉんな可愛い悩みを相手にしていないのでぇ。


 殺意と憎悪の塊を相手に日々頭を悩ませているのですぅ。


 兵士と金持ちの奥様を比較したら駄目よね。


 御主人の愚痴で盛り上がる彼女達を尻目に北上を続けた。



 南大通りに立ち並ぶ美しい木目が目立つ木造建築物、白く磨かれた石畳の歩道、等間隔に連なる路地への入り口。



「はぁ――。相変わらず綺麗な街並みだな」



 見慣れない構造と美しき景観に思わずに吐息を漏らしてしまう。



 この街の美しさには正直目を見張るわね。でも……。情緒溢れる下町風景も捨てがたい。


 頭の中では痛んだ木目と草臥れた店看板、誰かの落とした紙屑、歪に入り乱れる裏路地が浮かんでは消える。



 日々の食費代を計算しなくて良い程の莫大な収入があればこの街に住んでもいいけどさ。


 私には分不相応かしらねぇ。


 それに?? 例え住んだとしてもご近所付き合いで辟易しちゃいそうだし。



『あら、奥様。主人は今日も遠方へ??』


『そうなんですよ――。主人は馬鹿真面目、馬鹿力だけが取り柄なのでぇ』


『それだとぉ。ふふっ、夜の相手は大変じゃない??』


『いえいえ――。こう見えても私、依然は剣を片手に暴れ回っていましたので体力はある方ですわよ??』


『まぁっ。それなら新しい家族も出来る日は近いですわね』



 上流階級との付き合いが無いから分からないが……。こんな会話をするのだろうか??


 少なくとも出来の良い奥様方は流石に夜の相手なんて言わない、か。


 ってか、何でアイツとここに住む事を前提に話しを進めたんだろう。


 共働きでもここに住む事は叶うまい。


 二人の年収を合わせ……。いや、乗算した額が彼等の年収かしらね。


 これまた庶民気質な下らない銭勘定を計算していると最初の目的地である十字路が見えて来た。



 馬車が行き交うのには十分過ぎる程の広さを有した道路が街の中央を起点として東西南北、綺麗に分かれている。


 今も豪華な馬車の車輪が石畳を美味しそうに食み私を追い抜かして北上して行った。



 えぇっとぉ。目的地へはここを右折すればいいのよね??


 分岐点の端っこ。歩行者の邪魔にならない角で手紙に記載されている住所を見下ろしていた。


 …………うん。


 間違っていない。


 地図と住所を再確認して馬に撥ねられぬ様。素早く大通りを横切って東門へと続く歩道を歩み始めた。



 しっかし……。ど――も他人の視線が痛いわねぇ。


 私のこの軍服姿が珍しいのか。


 ある者は特に興味無さげに何とも無しに見つめ、又ある者は鼻で笑った様な笑みを浮かべて見てきた。



 今の男。私の職場だったら横っ面を叩いていたわね。


 何鬱陶しい笑いを向けてんだぁ!! って。



 しませんよ?? ここではね。私は分別が付く賢い大人ですから。



『じゃあ、何で先輩をぶん投げたの??』



 それは滅茶苦茶ムカツイたからです!!!!


 もう一人の私の問い掛けに単純明快な答えを突き付け、体に絡みつくうざったい視線を受け流して進んでいると。



「……」



 正面から御人形さんが歩いて来た。



 これは当然比喩よ?? それだけ可愛いって事。


 背まで伸びた煌びやかな金の長髪、青色の長いスカートに冬らしい濃い茶の上着。


 肌理の細かな肌に誂えたような女性らしい柔らかい体の曲線。弧を描く眉に、滑らかに流れる山の稜線も嫉妬する整った顎の線。



 これだけの可愛い子ってそうそうお目に掛かれないわね。



 年は私よりも五つ程若い美少女だが大人になれば恐らく金持ちから権力者まで、彼女の存在を知る国の男共から結婚を申し込まれるであろう。


 いや、もしかしたら既に引く手数多なのかも。


 紺碧の丸い瞳が私を捉えるとすれ違い様に声を掛けられてしまった。



「あの。ちょっと宜しいですか??」


 鶯もキュンっと心を打たれる透き通った声が耳に嬉しい。


「はい?? どうかなさいましたか??」


 私は歩みを止め、彼女の方に体の正面を向けた。


「その制服……。あなた、パルチザンの兵士さん??」


「えぇ。そうですけど」


「ふぅん……」



 えぇっと……。私、何かしました??


 赤の他人にジロジロとみられる様な悪い事はしていませんけど。



「あ、あのぉ。私の顔に何か付いています??」



 居たたまれなくなり、しどろもどろに声を出す。


 何んと言うか……。私より若いのに纏う空気は既に常人のそれとは違う。


 きっと彼女は我々庶民の上に立つ存在としてこの世に生を受けたのだろう。息を呑む様な体から溢れ出る気品、可愛い形をしていながらも何処か鋭さを感じる瞳、そして人を容易くたじろがせる圧がそれを物語っていた。



「いいえ?? 何も付いていないわよ。只、私の犬……。コホン。物凄く親しい友人があなたと同じ制服を着ているから気になっただけ」



「友人、ですか」


 軍属の者と知り合い?? この街の人が??


 恐らく上層部の者の事を指すのだろう。私の様な末端の兵士ではあるまい。


「この街に何の用かしら??」


「えっと。とある方の屋敷に呼ばれまして参った次第です」


「その方のお名前は??」


「そ、そこまで教える訳には……」



 何で高貴な街に住む立派な肩書を持つ人が下っ端の私にグイグイ迫って来るのかしらね??



「あぁ、軍規だっけ?? 気にしなくていいわよ。私、こう見えても人脈はある方だし。きっとあなたの力になれると思うわ。道に迷ったんでしょ??」



 いや、別に迷っていないんだけど。


 まぁいいや。変に断って角を立てるのも良く無い。


 それに名前くらいならいいだろう。



「実はそうなんです。この街に来るのは二度目なのですが……。生憎、慣れていませんので」


 言い訳はこれくらいでいいでしょ。


「それで?? 誰の屋敷に向かうの??」


「レナードという方の屋敷です」



 私が個人名を出すと彼女の眉が微かにピクリと動く。



「レナード大佐??」


「はい。何かご不都合な事でも??」



 こっわ。


 若い子が浮かべる目じゃないわね。


 それに、ちっちゃい御口からレナード大佐の正確な階級が出て来たって事は……。彼女が話した通りそれなりに顔が広いって事は頷ける。


 もしかして、大佐と知り合い??



「…………いえ、気にしないで。彼の屋敷はそこの通りを左折。暫く進んで、右手に青の屋根が見えて来るわ。重厚な門構えの屋敷だから直ぐ分かる筈よ」


「どうもありがとうございます」



 しっかりと頭を下げ、彼女へ精一杯の礼を現した。



「どういたしまして」



 可愛い御人形さんがクルっと振り返ると金の髪が清らかに流れ、甘くて凄く良い香りが私の鼻腔を包む。



 お、同じ女だってのにどうしてこれだけの差が生まれるのかしらね。


 母さん。恨む訳じゃないけど、もう少し手を加えて欲しかったわ。


 容姿、匂い、立ち振る舞い。


 私は見ず知らずの、しかも私より若い子に全敗を喫し。


 全戦全勝の彼女に教えられた通り東大通りを左折。ガックシと肩を落としながら目的地へと向かって行ったのだった。




お疲れ様でした。


本日は体調を整える為に馬鹿みたいに眠っていました。


気が付けばもう夕方……。多少は回復したものの、一週間を乗り切るのにもまだまだ不安が残る次第ですので夕食は精の付く物を食べに出掛けようかと。


しっかりと栄養を補給してプロットを書いて、温かい御風呂にじっくり浸かって眠る。後少しの時間ですが有意義な休日を過ごそうと考えております。



それでは皆様、引き続き休日を楽しんで下さいね。

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