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馬鹿四天王の由来

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 お酒の力に自ら溺れていった正直者達の喧噪が縦横無尽に部屋の中を飛び交う。


 鼻を突く酒特有の香りが頭を蕩けさせ、こんがりと焼き上がったお肉が食欲をググっと引き出し、そして陽気な笑い声が疲れた心を潤す。


 各机の上には食欲と日頃の鬱憤を晴らす為に用意された液体が我が物顔で横たわり、客達の顔をだらしない物へと変えていた。


 それは私達の机の上にも当然当て嵌まる訳。



「んふっ。レイふぉ――。このお肉、おいしいふぉ――!!」



 食欲を大いに刺激する焦げ目が美しい肉を御口一杯に頬張り、適当に咀嚼してワインで流し込むっ!!


 んむぅ!! んまぁ――いっ!!


 これぞ完全完璧な食事の作法よね!!


 我ながら惚れ惚れする所作で料理とお酒を交互に摂取し続けていた。



「そりゃよう御座いましたね」



 花もたじろぐ陽気な笑みを浮かべる私に対し、四角四面のクソ真面目な奴でもドン引きする程の仏頂面でちびちびとお茶を飲む我が同期。



「トアさん。ちょっと飲み過ぎじゃないですか??」


「あ――ん?? こんなの飲んだ内に入らないって!!」



 右隣りの仲の良い友人も私の顔を捉えると呆れ顔を浮かべつつ水を飲んでいた。



「あんたら、何しに此処に来たのよ」



 ここは日常生活の疲れと穢れをお酒の力を以て洗い流す場所なのだっ。


 それなのに酒の味がしない無味乾燥な液体をチビチビと飲んで……。


 私だけが馬鹿みたいに明るいのは了承しかねる。そう考え、お酒の入った木のコップを手に取り同期へ勧めるが。



「いや。酒類は控えているんだ。知ってるだろ??」



 酒は要らぬとコップを押し返されてしまった。


 えぇ。勿論、知っていますよ――??


 何処からともなく湧いて来る陽性な感情が苦手なんですよねぇ――。


 次ぃ。



「お酒はちょっと……。飲むと直ぐ酔っ払っちゃうんですよ」



 おいおい、この二人。私の酒を拒絶しやがりましたよ??



「はぁ――……。いい?? ここは嫌な事を忘れる為に存在するお店なの。周りを見て御覧なさい??」


「「……」」



 顎で周囲を指すとそれにつられ二人は何とも無しに楽しい会話と笑い声が響く店内を見つめた。



「ね?? 楽しそうでしょ?? 大人になるとねぇ。言いたくても、言えない事がたぁくさんあるのっ。分かるでしょ??」


「まぁな」


「つまり、だ。ここに来る大人達は普段から溜めに溜め込んだ鬱憤を晴らしに来てるの。そうでしょ??」


「ま、まぁ。そうですね」



 うんうんっ!! 二人共私の聡明な意見に頷いているわね!!


 良い傾向じゃないかっ。



「だぁかぁらぁ――。あんた達も飲んで、言えない事を言っちゃえばいいのよ!!」


「いや。だからいらないって」



 真正面の真面目野郎に酒を差し出すが、再びふいっと右手で押し返されてしまう。


 はい、酷い体罰決定。



「お、おい!! こっち来るな!!」


「あぁ!? 何よ!? 私がこっち来ちゃいけない理由があるってぇの!?」



 レイドの隣に座ると目ん玉を大きく丸め、椅子から後退してずり落ちそうになる。



「別に無いけど。ってか、目。据わってるけど大丈夫??」


「心配御無用!! ちゃあんと、このムチムチした両足を使ってしゅくしゃに帰りますからねぇ――」


「宿舎、言えてないぞ。因みに宿舎はどこの区画にあるか。覚えている??」



 何を馬鹿な事を聞くのだ。


 こいつは。



「あったりまえよ!! んっとね?? え――っと……」



 北東、だっけ?? う――ん。ここから真北だと思う……??


 私の帰巣本能は犬のそれよりも高い筈だから適当に歩いて帰れば辿り着くわよね。



「ほら、場所が浮かばないじゃないか。大体人の金で飲んでるんだ。もう少し遠慮しろよ」


「うっさい!! あんたが私の事を臭いって言うからいけないのよ!!」



 それに!! 今も微妙に離れて座ってるしっ!!



「酒と肉のお陰でちょっとはマシになったよ」


「マ……シ??」


「…………さて。この肉の味はどうかなぁ?? んぉっ!! 美味しいじゃないか!!」



 こいつ、私が酔っ払っている事いいことに白を切るつもりね。


 そうはさせるもんですか。



「マシってどういう事よ!! あんたねぇ!! 何度も臭いってしつこいのよ!!」


「ぐぅぅええ!! 首が取れちまうって!!」



 両の手で阿保面の下に存在する円筒状のお肉を力の限りに締めてやった。



「ト、トアさん。レイドさんも反省していますし。放してあげてもいいんじゃないですか??」


「ちっ。仕方が無いわね」


「げほっ……。あ、ありがとうね。助かったよ」


「いえ……」



 おやおやぁ?? パン屋の看板娘さんよぉ、どうしちゃったのかなぁ――。


 乙女らしく頬をちょぉっと赤く染めちゃってぇ??



「それで?? トアはどうして帰って来たんだ?? 休暇か??」



 呼吸を整えたレイドがお茶をちびりと飲んで私を見つめる。



「むっ……。まぁ……。そうなるのかな」



 先程の勢いは何処へ。謹慎処分を食らったとは言えず声が徐々に萎んでしまう。



「うん?? 違うのか」


「違う訳じゃないけども、そうじゃない」


「はぁ??」



 何を言っているんだ、コイツは。


 片眉を上げて訝し気に、そんな感じでバツが悪そうな私の横顔を見つめる。



「こっちみんな!!」

「いってぇ!! いきなり横っ面叩くなよ!!」



 私の顔をまじまじと見る方が悪い!! 酒の力と乙女の羞恥で燃え上がる様に体が熱くなっちゃうでしょ!!!!



「ふふ。御二人共、仲が良いんですね」


「あ――。まぁ同期だし。な??」


「な?? じゃない。幾ら同期だからといっても、親しき中にも礼儀ありだろう」



 私の攻撃を受けて赤らむ頬を撫でて言う。



「それで??」



 うん?? 何??


 左頬が若干赤らんだレイドの顔が私を見つめる。



「いや、だから。どうして帰って来たか聞いているんだ」



 うっわ!! しつこ!!



「トアさん?? レイドさんは同期さんであって御友人でしょ?? 正直に色々話せばきっとトアさんの気持ちを汲んでくれますよ」


「だって?? ほら、言ってみろよ。相談なら乗るからさ」



 むぅ――。そんな優しい顔で見られると……。


 まぁ――。コイツになら言ってもいいか。どうせ、直ぐ広まる噂だろうし。



 私はコップに残った僅かなワインをぐぃいっと喉の奥に流し込んでから、事の顛末を話し始めた。



「――――。ってな訳でぇ。私の事をチクチク虐めて来るうざってぇ先輩をぶん投げ、謹慎処分を言い渡されて戻って来たのよ」


「…………ぷっ」


 ぷ??


「アハハ!!!! お、おい本当かよ――!!!!」



 あっれ?? 笑う所じゃないんだけどなぁ??


 ここは労う場面なんだけど??



「しゅ、首席卒業のお前が……。プクク。切れて先輩をぶん投げるって!!」


「おい」



 私が一段低い声を上げると。



「お、オホン。さて、閑話休題。どうして君は先輩を投げようと考えたんだい??」



 腹を抱えて笑っていた姿から、軍人らしくピシっと背筋を伸ばしてこちらを窺う。



「だって、さ。あの忌々しい女が口喧しくてさぁ……」



 むぅっと唇を尖らせて言ってやる。



「だからって先輩を投げたら駄目だろう。まぁ、階級は向こうが下だから。上官に対する失礼な態度を取ったその先輩にも非があるとは思うけどね」


「そうでしょ!?」


「ですから、近いですって」



 暴れる犬を宥める様に両手を前に出してこれ以上侵入するなと警告した。



「それにさぁ――。馬鹿四天王のウェイルズも揶揄って来たのよ?? そりゃあ、腹も立ちますよ」


「ウェイルズ!? 一緒の隊なのか!?」



 おぉっと、今度は向こうが私の領域を侵して来たわね。


 も、勿論私は警告を放ちませんっ。どうせならもっと領域侵犯をして欲しいものさ。



「そ。相変わらず、食ってばっかよ」


「そっかぁ!! あいつ、元気にしてたか!! 嬉しいな……」



 ふふ、良い笑みね。そりゃあ同期の安否が知れたら嬉しいでしょう。



「あ、あのぉ――。ちょっと質問、宜しいですか??」



 客席の酔っ払い共の視線を集めているロティがおずおずと右手を上げる。



「ん?? 何??」


「その、馬鹿四天王って何ですか??」


「「あぁ――……」」



 何だ、そんな事か。


 そんな意味を含めて二人同時に声を合わせてやった。



「聞きたい??」


 にっと口角を上げ、正面に座るかわいこちゃんに尋ねた。


「えぇ、聞きたいですよ??」


「しょうがないなぁ!! じゃあ、優しいトアちゃんが教えてあげようかなぁ――!!」


「恩着せがましいな」


「…………首、折っとく??」


「勘弁して下さい!!」



 手刀を叩き込む仕草を取ると数舜で防御態勢に移る。



 両腕で人体の急所を防ぎ、食らっても数舜で体勢を整えられる様にしっかりと重心を残し、私の一挙手一投足を見逃さぬ様に腕の隙間から伺う。


 ほぅ、良い反応じゃん。及第点をあげよう。



「コホンっ。えっとね、私達同期の間でさ。色々と良く問題を起こす連中がいたのよ」


 普通の体勢へと移行してロティの可愛いお目目を見つめながら説明を開始した。


「俺は関係ないだろ。あくまで俺は巻き込まれていたの」



 恐ろしい捕食動物から身を守ろうとしていた亀の防御態勢を解くと、ふっと肩の力を抜く。



「まだ説明の途中。黙らないと、その口に棘の付いた猿ぐつわ嵌めるわよ??」


「す、すまん」



 そう話すと叱られた子犬の様に静かになる。


 いい子だ。後でご褒美を……。


 いいや!! やっぱり何もあげな――い!!!!



「男連中が集まっては、ぎゃあぎゃあ馬鹿騒ぎをして教官から怒られ。出来もしやしないのに馬鹿な真似をして怒られ。一人の分としては常軌を逸した飯を馬鹿食いして怒られる連中をひっくるめて、馬鹿四天王って私達同期は揶揄していたのよ」



「……あれ?? 一人足りませんよね??」



 ロティが可愛らしく三つの指を折り終えて首を傾げる。



「んふっ。気付いた?? こいつの寮の部屋にいた四人を総称して馬鹿四天王って呼んでたの。ハドソン、タスカー、ウェイルズ、そしてレイド。こいつらが馬鹿四天王の正体よ」



 胸をむんっと張って言ってやった。



「えぇっと。馬鹿騒ぎ、馬鹿な真似、馬鹿食い……。後一つは何ですか?? レイドさん」


「えっ?? 俺に聞くの??」



 ふふ、自分では言いにくいよねぇ――。


 ロティに問われるとキョトンとした顔で彼女の顔を見つめた。



「当ててみせてよ。コイツの性格を良く考えれば分かるわ。残りの一つはこいつの渾名だから」


「いてっ」



 間抜け面の額を指でコンコンっと叩いて話す。



「ん――?? ん――…………」



 ほっそい腕を組み整った眉が徐々に鋭角になっていく。


 ってか、ふくよかに成長した二つの果実がより強調されてしまうから腕を組むのはお止めなさい。



「助言としては……。単語の前に馬鹿が付くわね」



 私がそう言うと、ハッとした表情で顔を上げた。



「分かったわね?? じゃあ、一緒に言ってみましょうか。せ――のっ!!」



「「馬鹿真面目!!」」



 おぉ!! 当てたじゃない!!



「はぁ――。出来れば余り知られたく無いんだけどなぁ。同期以外には」



 レイドがなよなよと萎み、机の上に頬杖を付く。



「ふふふ。レイドさんの渾名、知れて嬉しいですよ??」


「そりゃど――も」


「同室の連中の馬鹿な行為に巻き込まれては、怒られる。んで、いつの間にか一括りにされちゃった訳」



 馬鹿騒ぎのハドソン。馬鹿な真似のタスカー、馬鹿食いのウェイルズ。


 そして、馬鹿真面目のレイド。


 四人揃って良く廊下で正座させられていたなぁ。


 うわぁ、懐かしい。


 ちょっと前の出来事なのにもうこんなにも懐かしく感じるなんて。


 ま、それだけ私も色々経験してきたのよね。



「あいつらが悪いんだよ。俺は止めておけって何百回言っても聞きやしないんだから」


「それを止めなきゃいけないのが、同室の責務って奴でしょ?? レイドも楽しそうだったじゃない。怒られてて」



 あら。


 お酒、無くなっちゃった。


 もっとたのも――っと。



「んな訳あるか!! 始末書やら、反省文の提出で課題の提出が遅れる嵌めになったんだぞ!? いい迷惑だよ、全く」



 ツンケンした台詞だがこいつの顔はどこか嬉し気でもある。


 仕方がねぇなぁ、そんな感じの表情ね。


 ふふ、私は嫌いじゃないよ?? レイドのその顔。



「ハドソンさんとタスカーさんはどれに当て嵌まるのですか??」


「ハドソンは馬鹿騒ぎ、タスカーは馬鹿な真似よ。すいませ――ん!! ワイン、お代わりくださぁ――い!!」



 お店の奥にいる店員さんへと声を掛けておく。


 危ない、危ない。


 お代わりを忘れる所だった。



「おい。まだ飲むのかよ」


「まだ五杯目よ?? 楽しい会話には、お酒がないとね!!」


「持論を得意気に語られてもなぁ……。ハドソンとタスカーは今どこに配属されているんだ??」


 もう大分少なくなったお茶を飲んで話す。


「ん――?? ハドソンは……。確かぁ……。えぇっと――。私より南方の前線で。タスカーは確かハドソンと一緒の前線基地にいた筈」



 うろ覚えだけど、確かそうだった。



「そうなんだ。でも、まぁ……。あいつらが今も活躍しているのなら、うん。それでいいかな」



 嬉しそうな顔ねぇ。


 分かるわよぉ、その気持。



「レイドさんは、どこへ行っていたのですか??」


「うん?? 今回の任務地??」


「えぇ。差支えなければ、教えて頂けます??」


「う――ん……。それは、どうしよう……」



 まぁ、部外者においそれとは教えられないわよねぇ。


 軍規で決められているし。



「教えてくださいよぉ。ほら、美味しいパン。値引きしますから」

「ストースって街にまで行って来たんだ」



 即答かよ!!



「こらっ。勝手に教えちゃ駄目じゃない」


 カチコチの硬い拳骨を作り、阿保の頭の天辺へ打ち降ろしてやった。


「いでっ!! 別にいいだろ?? 信用している二人なんだから」



「へ?? あ――……。そ、そう」

「そ、そうなんですか……」



 痛そうにお目目の端っこに小さな雫を浮かべる野郎の台詞を受け取ると二人同時に口ごもってしまう。


 こいつは偶にこうして、乙女達が恥ずかしくなる一言を言い放つものだから始末が悪い。



「それで?? お土産は??」


 ちょいと湧いた羞恥を誤魔化す為、適当にお道化て見せる。


「ある訳無いだろ。任務で行ったんだぞ」


「でも、ストースって。かなりの遠方ですよね?? 大変でしたか??」




「そりゃあ、もう……。体が引き裂かれる程の痛みに耐えながら帰って来たんだよ」




 口角をニっと上げて冗談を放つ。


 はは、大袈裟な奴め。


 本当に体が切り裂かれたら生きてはおらぬだろう。



「お仕事中に落馬して……。踏んだり蹴ったりって奴ですね」


「それが任務だからね。しょうがないさ」


「あまり無理をしないで下さいね?? 体が大事ですから」


「ありがとう。真摯に受け止めるよ」



 会話が一旦止まると、酷く親密な空気が机の周りを包む。


 おいおいぃ……。何よ、この甘ったるい空気は!! ここは発展場じゃねぇんだぞ!?



「はいっ!! お代わり、御待ち!!」


「ありがとう!!」



 丁度良いわ。


 この粘着質で甘ったるい雰囲気を私の快活な力で吹き飛ばしてくれようぞ!!



「はいっ!! お酒のお代わりも来た事ですしぃ。本日、七回目?? まぁいいや。乾杯をしまぁ――す!!」



 杯を大きく掲げ、二人の前に差し出すが。



「まだ飲むのかよ。分相応にしておけって」



 隣の仏頂面さんは乾杯に否定的な顔を浮かべていた。



「おらっ。早く持てや」


「いでぇっ!! 右腕を怪我しているって言っただろ!!」


「しらなぁい。はい、それじゃあ…………。乾杯っ!!!!」


「「か、かんぱ――い……」」



 イイ感じに傷付き経年劣化した木製の床の上で楽しそうにぴょんっと跳ねた私に対し、二人は若干億劫になりながら杯を重ねた。


 さぁさぁ……。夜はまだまだこれからよ!?


 ぐぐぃっと魅惑の液体を体の中に取り込みと喉がひり付く嬉しい痛みを強烈に感じる。


 お腹ちゃんに素敵な液体が届くと、瞬時に体がカァッ!! と熱を帯びて陽性な感情がとめどなくジャブジャブ湧いてしまう。


 私は同期と友人の警告を無視し続け、体力と精神の限界が訪れるその時まで陽性な感情を放出し続けていたのだった。



お疲れ様でした。


引き続き素敵な日曜日を過ごして下さいね。

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