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逃さなかった獲物は大きいぞ

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 大変美味しい食事、そして心を潤してくれたお店を出ると綺麗なお月様がちょっと呆れた顔で良い感じに酔った私を見下ろす。


 あぁん?? 私に喧嘩売って只で済むと思ってんの??


 喧嘩腰で綺麗な月を見上げると硬い筈の歩道の石畳がやたら柔らかい物へと変容してしまった。



 っとと……。あっれ??


 何でこんなお饅頭みたいに柔らかい物体の上で歩いているんだろう……。



 でも、このふわふわと宙を浮く感覚が最高に心地良い。


 空を歩くって多分こんな気持ちなんだと思う。


 えぇ?? 空を歩いた事があるのかって??



「えへへ。ありませ――んっ!!」


「うん?? どうしたんです??」



 心の声がそのまま口から飛び出たら、隣のきゃわいい子が首を傾げてしまった。



「いや、ね?? 空を歩いた事、あるのかぁってさ」


「空を歩く?? 不可能ですから……。まぁ、無いですね」



 むっ。馬鹿正直に答えたらつまんない!!



「もうちょっとさぁ。こう、ぷぷって!! 捻った返しも必要じゃないの??」



 唇を尖らせて言ってやる。



「ぷぷって……。面白い捻り、という事で解釈は合っていますか??」


「うむっ!! ほらほらぁ。早く言いなさいよ――」



 ロティと肩を組み、こんもりと美しい盛り上がり方をしたお胸さんを突っつきながら言ってやる。



「ちょっとぉ!! 人前なんですから止めて下さいっ!!」



 瞬時に頬が朱に染まり私の指をぴしゃりと叩き落とす。



「いいじゃない。女同士、他愛の無い絡みなんだからさ――」



 食事を終え、良い感じに酔った私達……基。酔った私と素面の彼女と二人で南大通りを跋扈している。


 日は完全に落ち、南大通りの歩道は道端の松明に灯され。風で揺らぐ橙の明かりが高揚している私の心を更にイケナイ方向へと昇華させてしまっていた。



 可愛い声を受けた通行人達は何事かと訝し気な様子のままで見つめて来るが。



『何だ、酔っ払いか』



 各々がそう勝手に納得して家路へと向かって行った。



 へへ――ん。


 酔っ払いのお通りだぁい。道を開けなさ――いってね!!


 訝し気な彼等とは一線を画した明るさを周囲に振り撒き、二軒目へと移動をしているのだよっとぉ。



「それでも駄目ですっ。酔い潰れたらいけませんよ?? トアさんは宿舎まで自力で帰らなきゃいけないんですからね??」



 むぅ。


 それを怖がってたらぁ、お酒は飲めませんっ!!



「らいじょうぶだってぇ。酔い潰れたらぁ。きゃわいい――このおっらいが運んでくれるもんっ」



 歩調に合わせて縦にぷるんっと揺れ動く胸を突いてやった。



「もぅ!! 怒りますよ!?」


「いたっ。ん――――。怒った姿も可愛いから、許すっ!!」


「はぁ――……。トアさんって酔っ払うと、変な絡みかたしてくるんですね……」


「変な絡みぃ?? こういう事ぉ??」



 小振りで丸みを帯びた耳たぶを唇ではむっと食んでやる。



「きゃあ!! な、何するんですか!!」



 あらまぁ。


 耳まで真っ赤になっちゃってぇ。



「冗談れす、冗――談。んふふ――。楽しいねぇ??」


「私はトアさんを御す事で精一杯ですから、そこまで…………。うん??」



 私の腕からしゅるりと逃げ遂せた彼女が、相も変わらず人通りの多い正面に何かを見つけて歩みを止めた。



「らに?? どうしたの??」


「あれって……。レイドさんじゃないですか??」


「んぅ!?!? どこじゃ!?」



 彼女の視線を追うと……。


 いたぁぁああああ――――っ!!!!


 正面、約二十メートル前方に地味な黒い上着と何度も見た後頭部が何の警戒心も抱かず呑気に歩いていた。



「居たわね!! んふふ――。驚かしてやろうか??」


「え――……。悪いですよ……」


「いいのいいのっ!! アイツは、きっと私達を探して街中を歩いているのよ!!」


「それ、都合の良い解釈じゃないですか??」



 無きにしも非ず、って感じね。


 でも、まぁ。久方ぶりに色々と話をしたいし?? それに……顔も見たい。


 可愛いトア様達が今から参りますよ――。


 逸る心を抑えて、気配を殺しつつ移動を開始した。



『そっちは左腕をぎゅっと掴んでやって』


『本当にやるんですか!?』


『もちもち!! 私は右腕に襲い掛かるわ』



 ボンクラと徐々に距離を縮めながら小声で話す。



『私が目線で合図するから、見逃さない様にね??』


『何か……。気が乗らないなぁ』



 そう言ってる割には嬉しそうな顔してるじゃん。



 さぁ……。後十メートル。


 抜き足差し足、忍び足っ!!



 気配を殺して接近しているのだが。



「う――ん……。夜御飯は何にしよう。余り匂いのキツイ物を食べると察知されちまうからな」



 あの野郎が全くの無警戒ってのが、情けなくもあり、嬉しくもある。


 気を抜き過ぎじゃない??


 まぁ……。平和な街の中で気を張る必要は無いけども。あんたは一応軍人なんだから、常在戦場を心掛けなさい。



 よぉっし!! ここから飛び掛かるわよ!!


 私は左方向で人混みに紛れておっかなびっくり歩みを進めている彼女へと目線で合図を送った。



『行くわよ?? 良い??』

『は、はいっ!!』



 互いに嗜虐心を含めた笑みを浮かべ、鷹の一撃にも似た素早い突撃を開始した。



「し、失礼しますっ!!」

「とおおおぅっ!!!! 何してんのよっ!! レイドっ!!!!」



 どうよ?? 可愛い二人の奇襲は??


 両手に花とはお主も贅沢よのぉ。


 満面の笑みを浮かべ、斜め下からレイドの反応を窺う。


 嬉しい悲鳴、上げるのかな??



「いっでぇええぇええ――――――ッ!!!!!!」



 あっれ?? 予想の斜め上。


 ううん、それを越える反応が頭上から降り注いだ。



「どうしたのよ、レイド」



 きょとんと首を傾げたまま歪む彼の顔を見上げる。



「ト、トア!? そ、それに……。と、兎に角!!!! 右腕から離れてくれ!!!!」


「右腕ぇ?? あ――?? そっちだっけ?? 離れてあげたらぁ??」


「違いますよ!! トアさんの方が右腕です!!」



 …………あぁ。


 そうだったっけ。



「んしょっ。ほれ、離れてやったぞ」



 何よ。そんなに私とくっつきたく無かったの??


 ちょっとだけ腹が立つわね。



「はぁ――…………。あのな?? いきなり襲い掛かって来るのは一体全体どういう了見なので??」



 両目の端っこに小さな水滴を浮かべつつレイドが口を開く。



「襲い掛かるって。私達は寂しそうにあんたが歩いていたから、花を添えてやろうと思ったのよ。ね――――??」


「え?? ま、まぁ。そうですね……」



 いつの間にか左腕から離れているロティを見つめて言ってやった。



「寂しそうに見えたのか?? まぁいい。二人共、久々だね」



 いつも頭の中で浮かぶ、あの柔和な笑みが目の前にはいた。


 うぅむ。中々に心地良い雰囲気を醸し出すじゃないか、えぇ??



「お久しぶりです。お元気でしたか??」


 ロティがぴょこんっと頭を下げてレイドに挨拶を交わす。


「元気……って言いたいけどさ。実は……」



「「あらぁ……」」



 レイドが上着を脱ぎ、包帯でぐるぐる巻きになった右腕が現れると二人仲良く声を合わせた。



「だから痛がったのかぁ。へへ――。ごめんねぇ??」


「絶対そんな事思っていないだろ」


「うんっ。分かった??」


「顔にそう書いてあんだよ」



 そんな分かり易いかな?? 私。



「その御怪我……。お仕事中に負ったんですか??」


 まるで己の怪我の様に、痛々しい顔を浮かべてレイドに問う。


「そうそう。任務先から帰って来る途中にね?? 落馬しちゃって……。運悪く、近くにあった岩でぶつけちゃったんだよ」


「あんたが落馬??」



 珍しいわね。


 乗馬の技術はまぁまぁだし。それに、あの賢いウマ子ちゃんが横着をする様子も浮かばない。



「猿も木から落ちるって奴さ。それより、二人は何してんの??」


「見て分からないの!?」



 どうだ!?


 と言わんばかりに両腕を広げてやった。



「…………あぁ。成程」



 ふっ、私の所作一つで全てを察する事が出来るようになったのね。


 褒めてつかわすわ。



「前線から帰還し、浴びる様に酒を飲み。常日頃の蟠りや不平不満を吹き飛ばしていた訳だ。ごめんね?? こいつの愚痴を聞いて、大変だったでしょ??」



 は?? どういう事??



「い、いえ。そんな事はありませんよ??」



 しかも!!


 私じゃ無くて向こうに向いちゃってるし!!



「駄目だよ?? 甘やかしたら。こいつはね?? 首席卒業の肩書を持ってるけど、それは表面上だけ。中身は暴れん坊で、食いしん坊の荒唐無稽……………。何だ?? トア」



 得意気に私の事を話す背中をちょいちょいっと指で突く。



「誰がぁ……。暴れん坊だってぇ??」


「おっかしいなぁ。俺、そんな事言ったっけ??」



 惚けた様にニコリと笑みを浮かべる顔が……。まぁ――腹の立つ事で。



「思い出させてあげましょうか??」


「うん?? どうや…………。お、おいっ!! 胸倉掴むなって!!」



 ボンクラの前に堂々と立ち、憤怒の激情を籠めた右腕でお惚け野郎の胸倉を掴み。力の限りに天へと引っ張ってやった。



「もう一度、聞くわ。誰が、食いしん坊だってぇ??」


「訂正します!! トア様は可憐で、聡明で、心優しく!! 万人から好感と支持を得る御方であります!!」



 んふっ、そうやって最初から言えばいいのよ。


 ふっと力を抜こうとしたが。



「くっさ!! お、おい。どんだけ大蒜食べたんだよ!! そ、それに酒の匂いも……」



 こいつの要らぬ一言が私の激情に発破を掛けてしまった。



「クサイ??」


 大蒜の匂いで顔を顰めた後、私の怒りを改めて見下ろして恐怖で歪んだ顔に言い放つ。


「け、決してその様な事は!!」


 軍属の者らしく、両手両足がピンっと一直線に伸びる。


「ふぅん。さっきね?? 二人で大蒜料理食べて来たのよ。美味しかったわよねぇ――??」



 つま先立ちになるコイツの体越しにロティを見つめてやった。



「え、えぇ。美味しかったです……」



 うん??


 どうしてそんなに離れるの??



「だって??」


「好きな物を食べるのは別に構わんけど。人前で胸倉を掴むのはどうかと思うぞ」


「だってさぁ。私も一応、女だよ?? それなのに、あんたと来たら臭いって……。ハハ。臭いって言い放ったのよ??」


「……ッ」



 ゴクリと生唾を飲み込む音が響く。


 それが何んと心地良い音か。



「いや、言い訳に聞こえるかもしれないけどさ。いきなり大蒜の口臭が襲い掛かって来たら誰だって顔を顰めるだろ」


「じゃあ、私の口臭は臭いって事よね??」


「…………」



 頭上の顔が注意して見ないと分からない程、矮小な上下の動きを見せた。



「アハハ――。かったい、壁と仲良く転がってろぉ!!」



 両手でがっちりと襟を掴み、腕力を全開放させ近くの壁にぶん投げてやった。



「いやあぁぁああああ――!! んぎぃっ!!」



 あはっ、良い音っ。


 生肉を思いっきり壁にぶつけた音が響き渡り、私の心の雲がスッカァ!! と晴れ渡った。



「レイドさん!! も――。トアさん、やり過ぎですよ」


「乙女心を傷付けたこいつが悪い!!」


「俺が一体何をしたって言うんだ。いてて」



 今も涙目を浮かべ、体中を擦る同期の情けない姿を見下ろして話す。


 あっ。そ――だっ!!


 私ってぇ何て頭の回転が早い女なのかしらねぇ。



「ありがとうね?? 手を貸してくれて」


「い、いえ」



 彼女が手を放すと、再びレイドから距離を取る。


 あぁ、匂いの事を気にして離れているのか。まぁそれはいいや。



「レイド」


「ん――。何だよ」



 よろよろと立ち上がり、体に付着した土埃を払いながら話す。



「私はあんたの一言で大変傷ついた」


「俺は負傷したぞ」



 違う。内面的な事なのだよ。



「心が傷付いちゃったの」


「ふぅん。それで??」



 はいっ、確定。



「つまり、あんたには私達を癒す義務が発生した訳」


「いやいや。それじゃあ俺の怪我は誰が癒してくれるの??」



「さぁ??」

「さぁ!?」



 要領を得ない顔をしちゃってまぁ。



「端的に話すわ。私達はこれから二軒目にお邪魔して女同士の会話に花を咲かせようと考えていたの」


「そりゃ結構。俺は束の間の休暇を楽しむ為、今から宿に戻る途中なんだ。それじゃっ!!!!」



 私の怪しげな様子に気が付いたのか。


 慌てて会話を区切り、空を舞う燕も思わずほぅっと頷く速さとキレで逃げ遂せようと画策するが。


 それを見逃す程、私は甘くは無い。



「待て」

「ぐへっ」



 襟足をがっつり掴み、進行を妨げてやった。



「何すんだよ」


「話を続けるわ。あんたは私達の楽しい時間を台無しにしたの。お分かり??」



 白々しく逃げようとする後頭部に言う。



「匂いの件は謝ったじゃないか」


「あはは――?? 御免って謝れば済むほど世の中は甘くはないのっ。ってな訳でぇ!! 二軒目はあんたの奢りっ!!」


「はぁ!?!? 何でそうなんだよ!!」


「うっさい!! 積もる話もあるし!! それに、トア様と一緒に行動を共に出来る幸せを噛み締めなさい!!」


「そりゃ横暴って…………。ぐえぇぇ!!」



 有無を言わさず、襟足を掴んだまま堂々と南大通りを歩み出す。



「い、いいんですか??」


 ロティが心配そうな顔を浮かべて私と肩を並べて歩き。


「は、放せぇ!!」



 情けなく引きずられているレイドと私を交互に見つめていた。



「あ?? こいつ?? 大丈夫!! 首を絞められたって死にやしないんだから」


「死ぬに決まってんだろ!! 馬鹿じゃないのか!?」


「馬鹿?? ふぅん……。この期に及んで、私の事を馬鹿って言う奴には……。躾が必要っ!!」


「いぎぃいいいぃ!?」



 左手でレイドの右腕を握ってやると、気持ちの良い悲鳴が私の心を潤す。


 はぁぁ……。本当に良い声で泣くわねぇ。



「か、勘弁して下さい」


「二軒目で食事をしたら解放してやるわよ。さっ、行きましょうか」



 満面の笑みを浮かべ、心配そうなロティの顔を見つめる。



「は、はい……。レイドさん、ごめんなさい。トアさん、酔っ払っていますので……」


「そ、その様ですね……」



 私の今の姿はさながら、狩りから帰って来た猟師ね。


 でっかい獲物を肩から担ぎ、どうだ!? と言わんばかりに家族へ獲物を見せつけるのだ。


 んふふ――。今晩の獲物は大物よねぇ。叩けば叩く程、奢ってくれそうだし!?

 

 史上最大級の陽性な感情を抱いたまま、私の姿を捉えて呆れ顔を浮かべる通行人の波を意気揚々と掻き分け、次なる店へと向かって行った。



お疲れ様でした。


連休二日目ですが、皆様は楽しんでおられますか?? 私の場合は……。まぁまぁな所でしょうか。


日曜日のルーティンを終え、この投稿を終えた後に買い物へと出掛けて参ります。


それでは皆様、引き続き休日を楽しんで下さいね。

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