友人と酌み交わす笑み
お疲れさまです。
本日の投稿になります。
中央屋台群で蠢く鬱陶しい人の合間をすり抜け、沢山の笑みが零れている南大通りへと辿り着き不機嫌な腹の虫を抑え付けようとする。
それだけでも重労働だってのに、要らぬ運動が私の強い意志に綻びを生じさせてしまった。
「……。あっ」
きゅるりんっと。
形容し難い音が超偶然的にぱっと鳴りやんだ喧噪の合間を縫って盛大に鳴り響く。
「お腹、空きましたよね??」
「う、うん。ちょっとだけ、ね」
慌てて腹に手を当てて恥ずかしさを誤魔化す。
何で都合良く喧噪が鳴り止むのよ!!
「ちょっと、ですか」
「え、えぇ。ちょっとよ!!」
「今の音の具合から察するに。餓死寸前って感じでしたよ??」
「違うもん!!」
彼女へ食って掛かるが当の彼女はどこ吹く風といった感じで??
万人が好む朗らかな笑みを浮かべ、正面を捉えて歩いている。
「ふふ、私もお腹が空いた時。トアさんみたいにお腹が鳴っちゃいますからね」
「そうよ。人間は生きているんだから、こうした音が出ちゃうのは自然の摂理なのよ」
ウンウンと激しく頷く。
「ですが……。今程の音量は聞いた事がありませんね。馬の嘶きかと思いましたもん」
「ひっどい!! 何?? そんな変な音だったの!?」
「いいえ?? 可愛い音だなぁって」
正面を見つめていた笑みが私の方へとクルっと振り向いた。
いつもは後ろで縛っている明るい茶の髪は背に解かれ彼女の動きに合わせて楽し気に揺れ動き、弧を描く眉に真ん丸お月様も頷く円を描いた瞳。
すっと伸びた鼻筋の下には女性らしく、可愛らしい唇が柔和な角度で上がっている。
おぉう……。何て破壊力よ、この笑み。
女の私でさえ思わずドキってしちゃうんだから、男が見たらどうなる事やら。
「――――。あ!! ごめんなさい!!」
「あんちゃん。ちゃんと前を向いて歩きなよ」
彼女の笑みの効果は私の想像通り異性に対して効果覿面な様だ。
すれ違い様ロティの笑みを捉えた青年の顔が瞬時にぽぅっと朱に染まり、彼女の顔をいつまでも視界に捉えて歩いていたので向こう側から来る歩行者と衝突してしまった。
うむむ……。同じ女性なのにどうしてこうも差がついているのでしょうかねぇ……。
甚だ疑問が残るばかりよ。
「ど――せ私は不躾で、暴力が大好きで、直ぐに手を出す女ですよ――っと」
「可愛いって言ったじゃないですか。不貞腐れないで下さい」
そりゃこぉんな可愛い笑顔を見せられたら誰だって不貞腐れちゃうでしょう。
この笑みはあいつに見せちゃいけないわね。絶対卒倒するだろうし。
「トアさん!! 到着しましたよ!!」
おっと、危くお目当ての店の前を通り過ぎる所であった。
暴れん坊の足を強制停止させて踵を返す。
「っと。……ここ?? さっき言ってたお店は」
何処にでもある何の変哲もない二階建ての木造の建築物。それが最初に受けた印象だ。
だが、建物中から食事に舌鼓を打ち満足気な雰囲気と会話に華を咲かせた陽気な声が漏れている。
目に見えぬとも、建物全体から客達の楽し気な様子が窺い知れるお店は早々あるまい。
これは……。期待できそうね!!
「はい。味も然ることながら、料金も納得出来るお店ですよ」
へぇ――。そいつは良い事を聞いた。
機会があればレイドを連れて来てもいいかな?? 勿論!! 嫌と言う程奢らせてやる為だ。
「入りましょうか。ここで立って居てもお腹は膨れませんし」
「そうね!! 席が空いていますように!!」
小っちゃい……。
いいや。かなり重要な願いを口にして、ちょっとだけ傷が目立つ扉を開いた。
扉を開けるなり、私の食欲を大いに刺激する素敵な香りが鼻腔を突き抜けて行く。
ぎゅうっと胃袋を掴む大蒜の強い刺激臭が気持ちを逸らせ、小麦の香りが困った胃袋ちゃんに悲鳴を上げさせる。
広い室内の方々に散らばった丸の机の上には、私の視線を釘付けにしてしまう料理の品々が置かれており。
「美味しいよね!!」
「えぇ、本当に驚いたわ」
客達は目尻を下げて咀嚼を続け、料理の味によって口角を強制的に上げさせられていた。
客の笑み、漂う馨しい香り、そして店内に染み込んだ温かな雰囲気。
一歩踏み入れただけでこの店は私を満足させてくれると確知出来てしまった。
「いらっしゃいませ。お客様はお二人様ですか??」
机の合間を縫い、愛想の良い女性店員がパタパタと軽快な足音を立てて私達を迎えてくれる。
「えぇ。そうです」
「でしたら……。壁際で少々狭い席ですけど宜しいですか??」
女性店員が指したのは奥の壁際。
方々に散らばる大きな机とは二回り程小さな机がちょこんと部屋の隅で肩を窄めて座っていた。
まっ、そこ以外は空いていないし。
別に構わないかな。
「構いませんよ」
一つ小さく頷き、彼女へ言ってやった。
「では、こちらへどうぞ」
女性店員に連れられ、魅惑の品々が並ぶ机の合間を縫って客席へと向かう。
「ご注文がお決まり次第、御声を掛けて下さい。それでは失礼します」
愛想の良い笑みを浮かべて定位置であろうか。店の最奥に浮かぶ扉の前へと移動して行った。
さてとぉ!! 早速品定めに取り掛かろうかしらね!!
私は机の上に置かれている品書きを颯爽と手に取り、文字の羅列に目を向けた。
「ふぅむ……。色々あるわね……」
大蒜のパスタは外せそうに無いし。後、この若鶏のから揚げも捨てがたい。
更に更にぃ!! 豊潤小麦粉パンってのも気になるわね!!
「お薦めの品ってある??」
正面。
普段の柔和な笑みとは対照的な顔を浮かべる彼女へ問うた。
随分真剣に考えているわね。
「お薦めですか?? そう、ですね……。唐揚げも美味しかったですし、ここの定番料理の大蒜パスタは絶品ですよ」
やっぱり。
私の目論見は外していなかったわね。
机の合間を通る際。客達の前に並ぶ料理の前には必ずと言っていい程、素晴らしい大蒜パスタが置かれていたし。
「じゃあ……。この豊潤小麦粉パンはどう?? パン屋の娘としての率直な意見を伺いたいわ」
何気無く問うと、彼女の瞳が一瞬鋭く光った。
「贅沢な小麦をふんだんに使用すれば、パンは美味しくなる訳ではありません。小麦と水。それに、職人の腕で味の良し悪しが決まると言っても過言ではありません」
「そ、そう」
そんな早口で言わなくてもいいのに。
「食塩の配分、生地に空気をどれだけ含ませるか。焼きに掛ける前に様々な行程を頭に描き作業を開始します。パン屋でパンを食べる行為。それは、職人の計算し尽くされた料理を口にしていると同義なのです」
「う、うん」
「それが……ふっ。どうですか。豊潤小麦?? こんな簡素な文字でお客の目を惹こうと思う浅はかな思慮が嘆かわしいですねぇ」
あちゃ――。
私、彼女のイケナイ何かを刺激しちゃったみたいね。
にぃっと、普段なら絶対曲げない角度に唇が曲がっちゃってるし。
「き、貴重な意見をありがとう。ま、まぁ。一応頼んでみるわ」
「私は頼みませんけどね」
つめたっ!! この子、こんな声出すんだ。
冷涼な言葉と空気に一瞬で肝が冷えてしまう。今度からロティの前でパン談義は止めておいた方が賢明ね。
「えぇっと……。じゃあ……。うんっ!! 決まった」
「私も決まりましたよ」
良かった、顔がいつもの顔に戻ってる。
「すいませ――ん!! 注文お願いしま――す!!」
彼女の顔の形が元に戻った事に対してほっと胸を撫で下ろし、先程の女性店員に声を掛けた。
「――――お待たせしました。ご注文を御伺い致します」
「えっと。大蒜パスタを一つ、若鶏の唐揚げを一つ、豊潤小麦粉パンを一つ。そして、赤ワインを下さい」
「私は……。大蒜パスタと、若鶏の唐揚げでお願いしますね」
やっぱりパンは頼まないんだ。
「大蒜パスタを二つ、若鶏の唐揚げを二つ、豊潤小麦粉パンを一つと。赤ワインを一杯で宜しいですか??」
「えぇ。お願い」
「畏まりました。では、少々お待ち下さい」
女性店員がペコリと可愛いお辞儀を放ち、奥の扉の先へと姿を消した。
後は料理が来るまでこのどうしようもない空腹感に耐えるだけね。
「あ――。早く来ないかなぁ……」
恨めし気に女性店員が消えた扉を何とも無しに眺める。
空きっ腹に大蒜の香りは拷問ですよ……。
「今頼んだばかりじゃないですか」
「それだけお腹が減ってるの。昨日、夕方に帰って来てさ。何も食べず泥の様に眠って、起きたのが今日の夕方前だったし」
「そんなに眠っていたんですか!?」
「そ。だって、ここに帰って来るまでに三十日以上掛ったのよ?? しかも、一人で!! まぁ、道中街に寄って補給やら宿を利用したけど。それでもかなりの重労働に変わりはなかったし」
本当ならもっと眠っていたかったけど、空腹に打ち勝てず起きちゃったのは内緒だ。
腹ペコなんですねぇっと揶揄されるのは目に見えているからね。
「大変なお仕事なんですね」
「慣れちゃえば楽なもんよ」
そう、慣れだ。
私が訓練施設を卒業してから間もなく配属された前線基地では多くの仲間を失ってしまった。
傷つき、倒れ、志半ばで逝く仲間を見下ろしていると胸が張り裂けそうに痛かった。
そして悲しみの代弁者が目から零れ落ちてしまっていた。
何度もそれを目の当たりにし、幾度と無く打ちひしがれる。
繰り返していく内、もう悲しみの雫が流れ落ちる事は無くなってしまった。
慣れてはいけないのに、慣れてしまう。
それは多分……。人の防御本能なのだろう。
これ以上心が傷付いてしまえば体が崩壊してしまう。
自分でも気が付かない内に心が傷付かない様に固く扉を閉ざし、外部からの悲しみを遮断させる。
そうでもしなければきっと私は……。
そんな折、レイドと共に任務を遂行する事になった。
あの護衛任務。
私にとって一つの分水嶺になるとは思いもしなかったわね。
乾いた大地に温かい雨が降り注ぎ、蘇った大地から深緑の芽がそっと顔を覗かせる様に。私の心は彼と行動を続けている内に酷く潤されていった。
自分でも予想だにしていない心の癒しに心底驚いた。
彼の浮かべる笑み、むすっとした表情、そして仕方が無いとはにかんだ顔。
そのどれもが私を掴んでは離さない。
気が付けば、頭の内側にレイドの面白い顔がいつまでも消えずに残っている。
あぁ、そっか。
だから……。あんな事を口走ったのよね。
向こうは寝言と捉えていたけど、口から出た言葉に私は納得している。
意識せずに出した言葉。
それはきっと己の本心だから。
任務の途中で掛けられたあの言葉、まだ覚えている。
『先に逝った者達の光を紡ぐ為、しっかり生きよう』
あれがどれだけ支えに、そして励みになった事か。
護衛任務を終え、新しい前線基地に赴いてもあの言葉消える事なく今も思い出しては咀嚼を繰り返していたのだ。
「慣れ、ですか。友人が亡くなっても、慣れる事はあるんですかね……」
「う――ん……。それに関して私は何も言えないわね。只、経験者として言えるのは。人って怖い生き物、かしらね」
「怖い、ですか??」
「そう。ここだけの話にしてくれる??」
先程の女性店員が運んで来てくれた水をくいっと口に含んで話す。
「いいですよ」
「仲間の死を嫌って程見せつけられるとね?? 何も感じなくなっちゃうのよ。悲しみの感情が薄れていくって言えば分かるのかな。どうしてあの人が……。まだやりたい事もあっただろうに……。色んな悲しみの感情が沸き、涙も沢山流したよ?? けど、いつからか分から無いけど。あぁ、今日も生き残る事が出来た。私が死ななくて良かった。悲しいって感情が薄れる代わりに、安堵の感情が顔を覗かせちゃったのよ」
話し終えると大きく息を吸い、そして負の感情を含ませた息を大きく吐く。
「最低でしょ?? 私。仲間が亡くなっても悲しいって感情が沸かないで、安堵してたのよ??」
「そんな事ありませんよ。経験が無いから断言出来ないですが……。多分、私もトアさんと同じ立場なら、同じ事を考えると思います。自己防衛って言う奴ですかね。そうでもしないと心が壊れちゃうと思いますから」
うん。
私も、そう思うよ。
「……でさ。聞いて??」
暗い雰囲気を払拭しようと、ちょっとだけ口角を上げて話す。
「うん?? 何です??」
「今話していた状態の時にさぁ。前線から急に呼び戻されたの」
「どうしてです??」
可愛い首がきゅっと傾げる。
「護衛任務に就けって事でね、王都まで戻って来たの。そしたらぁ、レイドと一緒にとある人物を護衛する事になったのよ」
「レイドさんと??」
丸い目が更に丸くなる。
それだけ丸めて目、疲れない??
「あいつったらさ――。やれ御飯はこうして作れだの、やれしっかり仕事をしろだの。口喧しくて参っちゃったわよ」
「レイドさんは真面目な御方ですからね」
「んで、今から話す事はぜっったいあいつに言っちゃ駄目だからね??」
言わないと思うけど、一応釘を差しておきましょう。
「分かりました」
「その時の私は今話したみたいに正直、参っていたんだ。除隊願いも提出しようかと思っていたくらいね。でも、レイドがさ。任務の途中で私に声を掛けてくれたの。『先に逝った者達の光を紡ぐ為、しっかり生きよう』 って。それが、さ。今でもはっきり思い出せる程に嬉しかったのよ。言葉に救われたって言えばいいのかな?? 今まで生きて来た人生の中で、こんなに心に響く言葉は無かったから驚いちゃってねぇ……」
硝子製のコップへと視線を移し、矮小な水滴を纏った淵を人差し指でなぞりながら話す。
「ふふ。大切な友人の言葉はありがたいですよね」
「そりゃあ、まぁ。そうね」
大切。
その言葉がちょっとだけ私の心を大きく鳴らした。
「レイドさんもきっと、トアさんの状態を見て声を掛けてくれたんだと思いますよ??」
「え――。あいつが――??」
絶対そんな事考えていないと思うわ。
「仲間を想い、そして仲間を大切にする人だと私は思っています」
そう話す彼女の顔はちょっとだけ頬が朱に染まっていた。
うっわ、可愛い。
「ふぅん?? へぇ――??」
「な、なんです??」
「いやね?? ココナッツだとそういう顔浮かべないから、意外だなぁ――って」
「そ、そうですか?? お店の中でも割かし、笑みを浮かべていますよ??」
他人様と、特定の人物にだけに浮かべる笑みは違うでしょう。
「レイドの事、どう思ってる??」
紛らわしいのは苦手。
単刀直入に聞いてみた。
「レイドさんですか?? そうですね……。良い人だなぁって感じでしょうか」
良い人ねぇ。
あいつは物腰柔らかだし、そう映るのかもね。
「良い人?? 駄目よ?? 男を直ぐに信じたら」
「どうしてですか??」
「男はね。優しそうに見えても中身は獣よ。油断してたらぱくりと食べられちゃうわよ」
「え――。レイドさんは絶対そんな事しませんよ」
えへへと笑って話す。
「甘い。あいつもきっと狙ってるわよ?? 小振りなお尻とぉ、ふくよかに育った果実を――。がぶっ!! ってね!!」
「ちょ、ちょっと!! 駄目ですからね!?」
私が両手を前に翳してワキワキと中の指を動かすと、彼女は両腕で完全防御態勢を取ってしまった。
「うふふ――。美味しそうな果実じゃない?? ってか、ちょっとおっきくなった??」
腕の合間から零れているし。
「言いませんっ」
「え――。いいじゃん、教えてよ。私の大きさも教えるからさ」
「それでも駄目です。恥ずかしいじゃないですか、人にこれの大きさを教えるのって」
そうかしら??
私は女同士だったら別にいいけど。
それ程立派な物は持っていませんからね!!!!
「お待たせ致しました!!」
待ってましたよ!!
形容し難い動きの指を引っ込めると、私達が注文した魅惑の品の数々が女性店員によって運ばれてくる。
はぁぁぁぁ、やっばい。香りだけで意識が飛んじゃいそう。
茹でた麺と、大蒜と塩と胡椒。
単純且明瞭な麺料理なのに、どうしてこうも素晴らしく皿の上で栄えるのだろう。
香り?? それとも只単に私が空腹だから??
「わぁ。美味しそうですねぇ」
正面の彼女も満足気に麺を見下ろし、だらしない笑みを浮かべていた。
「じゃっ。早速頂こうとしましょうかね??」
赤ワインの入ったグラスをロティの前に掲げる。
「はいっ」
「「かんぱ――いっ!!」」
そして二人の杯が触れると、素晴らしい食事の開始の合図が鳴り響いた。
水で乾杯って侘しいと思うけど……。
お酒苦手って言ってたし、しょうがないわよね。
そんな事より!! 今は食事に集中しよう!!
赤ワインをくいっと口に流し込み、果実の豊潤な香りを喉と鼻で享受。そして唐揚げに視線を送る。
くぅっ!! 堪らないわね!! この武骨な形!!
普段見掛ける大きさより一回り大きく、しかも!!
揚げたてなのか、今もゆらりと食欲を大いに沸かせてしまう蒸気を放っている。
どれどれぇ私の舌を降参させてくれるのかしらねぇ……。
「頂きます」
意を決し、揚げたての唐揚げ様を大切に御口の中へと迎えてあげた。
「…………うっまい!!」
さっくりとした衣を前歯で裁断すると塩気を含んだ肉汁がじゅわりと溢れて来る。
塩と胡椒でしっかり下味が施され、このお肉にも大蒜が使用されていた。奥歯で熱々のお肉をムギュっと噛めば脳が痺れ、もっとそれを寄越せと体が雄叫びを上げた。
「美味しいですよねっ!!」
満面の笑みが私に問う。
「最高よ……。参ったわねぇ。ワインとこの唐揚げ、すんごい相性良いから……。ワインも進んじゃうわぁ」
お肉を食み肉汁で舌を溺れさせ。赤ワインの渋みで胃の中へ流し込む。
無限に続けられそうな行為に早くも私は囚われてしまった。
「すいませ――ん!! 赤ワインのお代わりくだぁ――い!!」
「はぁい!! 只今ぁ!!」
ぬふふ。上品に飲むのは最初の一杯。
後はざるに飲んでも構わない――ってね!!
「トアさん、大丈夫ですか?? そんなに飛ばして」
唐揚げの油で潤った唇が可愛く動く。
「余裕余裕。ほら、言ったでしょ?? 今日は二軒付き合って貰うって」
「えぇ。そうでしたね」
「最初の一軒はぁ、抑え目にしてぇ。二軒目で!! ががっと愚痴を聞いて貰うんだから!!」
「愚痴を肴にして、お酒を飲むのですか??」
「あったりまえ!! こうでもしないとぉ。やってらんないのよぉ――、最近の私は。んっんっ……。ぷっはぁ――!! んまいっ!!」
くいくいと赤ワインを飲み、胃から湧き上がるお肉とワインの香りを口から放出。
そうすればあら不思議。
心の蟠りも、凝り固まった義憤も、ぜぇんぶ綺麗に解けて何処かに行っちゃうではありませんか!!
「お酒は苦手ですから……。その感覚は全く理解出来ませんね。…………ふふっ。おいしっ」
綺麗に巻き取ったパスタを上品に御口へと運ぶ。
そこから零す笑みは破壊力満点ってね――。
「どれ、私もお一口。…………すっご!! 大蒜効き過ぎじゃない!?」
麺を口に入れた刹那。
大地の恵みを凝縮させた香りが鼻を強襲し、その香りを捉えた体の中に潜む食欲という名の鬼が目を醒ましてしまった。
素晴らしい香りねぇ。
でもやっぱりちょっとだけ香りがキツイよね。
「それを心配していたらここのパスタは食べられませんからね。疲れた体に良いんですよ?? 大蒜って」
「ふぅん。じゃあさ、大蒜を使ったパン。制作してみたら??」
「大蒜、ですか。…………ふむ。面白そうですね」
口に細い指をあてがい、真剣に考え込む仕草を取った。
頭の中であれこれと素材を組み合わせては、分解して再構築を続けている。そんな難しい顔だ。
そこまで深く考える物かしらねぇ。
「バターと大蒜……。うんっ。いけそう?? いや、でも……。香りが強過ぎるから他のパンが負けちゃうし……。いっその事、昼限定で??」
ううむ、パンに情熱を捧げる姿勢には頭が下がるわね。
アツアツの唐揚げをモムモムと咀嚼しながらロティの気難しい顔を見つめていた。
「お待たせしましたぁ。追加のお酒で――すっ!!」
「はぁい!! ありがとうね!!」
愛想の良い女性店員から受け取り、早速お代わりの赤ワインを口に迎えてあげた。
「…………ぷっふぅ――!! はぁ――……。んまっ」
苦味とちょっとだけキツイ酒の香が心を潤す。
顔、あっつ!!
「次のお店に行くまで、倒れないで下さいよ??」
若干呆れ顔が私の様子を窺う。
「らいじょうぶ!! 私は、お酒なんかに負けませんっ!!」
「舌。回っていませんよ??」
友人と酌み交わすお酒はこうも美味いものなのか。それを改めて再認識し、私達は大蒜と酒とお肉で心行くまで夕食に舌鼓を打ったのだった。
お疲れ様でした。
番外編の更新は久々でしたので少し気分転換になりました。
もう一話更新させて頂き、その次は本編を更新させて頂きますね。
それでは皆様、お休みなさいませ。




