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お呼びでない朝の来訪者

お疲れ様です。


本日の投稿は此処までです。


それでは、どうぞ。




 まだまだ眠り足りない太陽の欠伸声が聞こえて来る窓の外から雀の鳴き声が朝を知らせてくれる。


 寝不足でなければ気持ちの良い早朝の知らせなのですが……。



「う……ん……」



 カーテンの隙間から何とかして入ろう画策する光に背を向け、シーツの中にもぞもぞと潜り込み朝の訪れを延長させてあげた。


 ふふっ。惰眠を貪るのも偶にはいいかも。


 いつもなら喧しくておちおち寝て居られませんからね。



 微睡に身を委ねて現実と夢の間を彷徨い続けていると……。それを容易に打ち破る事象が突如と勃発した。



「っ」



 胃袋が裏返り、全身の毛が逆立つこの感覚……。


 急にどうしたのだろう??



 嫌々ながらシーツから目元だけを覗かせ、部屋の中を見つめていると閃光が迸り。


 所々に狼さんの爪痕が残る床の上に浮かぶ魔法陣の中から、一人の可憐な女性が現れた。



「じゃ――ん!!!! 私、華麗に登場っ!!」



 静寂の中に響く先生の声がどこか可笑しく聞こえますね。



「…………って!!!! カエデしかいないじゃん!!」



 勢い良く登場したのはいいけど、それが空振りに終わって憤りを感じているのでしょう。


 頬を可愛く頬を膨らまして私を見下ろしていた。



「おはようございます。先生……」


「おはよ――。レイドは任務に行くって言ってたから、この場に居ないのは千歩譲りましょう。けど、マイ達がいないのは何故??」


「レイドを尾行するって鼻息を荒げて出て行きましたよ??」


「ずっる――い!!!! ちょっと!! 何でそんな楽しそうな行事を教えてくれなかったの!?」



 もし、知らせてくれと頼まれていても先生に教えるのは躊躇したでしょうね。


 絶対問題起こすもん。



「知らせろという指示がありませんでしたので……」



 プンスカと怒る先生に対して無難な返事をしておいた。



「むぅ!!!! どれどれ……。レイドは今どの辺りかしら……」



 先生が目を瞑り、右手を翳すと淡く白い魔法陣が宙に浮かぶ。



「此処から魔力感知出来るのですか??」



「ん?? レイドの体の中に私の魔力を埋め込んであるの。それを辿って……。この大陸の地図と照らし合わせれば凡その位置は把握出来るのよ」



「…………その魔法。習っていません」


「教えてないもん」



 むっ。その態度は如何な物かと思います。



「ん――――。おっ、いたいた。街と街の中間、いや。その手前って感じか。ふぅん……」



 魔法陣を閉じて、私の右隣り。



「はぁ――……。よっこいしょっと」



 レイドが使用しているベッドに寝転んだ。



「今日はどういった御用なのですか??」



 先生が来るには理由がある筈。


 それも、余り良く無い理由が。



「用があるのは私じゃなくて、あのクソ狐よ」


「イスハさんが??」


「そうそう。何でも?? 私の彼とマイ達を呼んで来い――って五月蠅いのよねぇ」



 シーツに潜ると誰しもが羨む体に巻きつけ、濃い桜色の髪の隙間から覗く美しい瞳が私を捉えた。


 女性から見ても可愛いと思います。


 安易に言わないですけどね、増長しますから。



「イスハさんはどういった用件があるのですか??」


「んっと…………。あらっ?? フンフン……。おぉ……レイドの匂いがするぅ」



 鼻にシーツをあてがい匂いを嗅ぐと陽性な笑みを浮かべる。



「あぁん。この匂い……。堪らないわ……」



 彼が使用しているシーツに両足を無意味に擦りつけ、一人で勝手に昂っていた。



「先生。話を聞いて下さい」



 朝早くからこの人ときたら……。先ずは用件を伝えるのが優先事項でしょう。


 それを履き違えるのはどうかと思いますよ。



「いいじゃない。もう……ちょっとだけ。んんっ、はぁっ……」



 匂いだけでそこまで感情が高ぶるのはある種、特技ですね。


 流石淫魔の女王なだけはあります。



「やっ、駄目ぇ……。ふぅ。すっきりした」


「それは結構。で??」


「ちょっと。最近私に対する態度、冷たくなぁい??」



 むぅっと眉を顰めて話す。



「言葉の綾という奴です」



「ま、別にいいけどさ。クソ狐が言うには。ぬぁにぃ!? レイドとデ、デ、デートをしたじゃと!? あんの馬鹿弟子が!! 許さん!! 連れて来い!! って取り付く島もない状態なのよ。それで私が。お互い了承の上でしたのよ?? そうやって、至極冷静に言っても聞きやしないし。それなら直接言わせた方が早いと思ってマイ達を連れていこうとした訳」




 長々と説明して頂き有難うございます。


 成程。そういう事でしたか。



「残念でしたね」



「あら?? そう?? このままカエデを連れて行こうとしているんだけど」



 私の予定を無視して、自分の予定を貫こうとするこの姿勢は正直脱帽してしまいますよ。



「申し訳ありません。今日は予定がありますので……」


「予定??」



 小首を傾げて言う。


 そう。今日は私が楽しみにしている本の最新刊の発売日なのです。


 まだ書店は開いていませんが、もう間もなくしたら出発しようと考えていたのですよ。



「最新刊の発売日ですから……。それを購入してからでは駄目ですか??」


「別に構わないわよ?? 面白そうだから私も付いて行っていい??」



 先生と肩を並べて歩く、か。


 男性の目が体に突き刺さりそうですね。



「…………構いません」


「ちょっと。何よ、今の間は」


「街の男性の視線が先生に釘付けになる事を想像して。それから逃れる為の疲労を考慮した結果です」


「大丈夫だって――。あ、そうか。今日は隣にレイドがいないんだ。じゃあ何人かの男が声を掛けてくるわねぇ……」



 美し過ぎるのも時には酷。


 羨ましいと思いますが、私は特定の男性のみに好かれたいのでそこまでの美貌はいらない……。


 いや。


 少しだけの美貌で構いません。


 それで彼が振り向いてくれるのなら……。



「安心しなさい。手は出さないから」


「足を出すってオチではありませんよね??」


「あはっ。流石、我が生徒。良くぞ見抜いたわね!!」



 当たっても嬉しくありませんよ……。



「じゃあ早速出掛けましょう!! そうだ。クソ狐の奴にお土産でも買っていってやろうかな??」


「随分と気立てが良いですね??」



 これは素直に感心してしまった。


 仲が悪くてもそういう事には融通が利くんだ。



「勿論。見た目は甘そうな饅頭だけど、中身は激辛な物売っていないかしら??」



 前言撤回です。


 先生はやはり先生。


 天衣無縫な姿が良く似合っていますね。



「ほら、早く行くわよ!! …………ってその寝癖じゃ駄目か」



 むくりと上体を起こした私の寝起きの姿を見つめて先生が呆れた声色で話す。



「直ぐ直しますのでお構いなく」



 目を閉じ集中して、水滴一滴程の量の魔力を放出させた。



「んっ……。どうですか??」


「あんたねぇ。髪の毛を水で濡らして、雷の力で寝癖を直すのはどうかと思うわよ??」



 呆れた声でそう話す。



「ピリっとして目が覚めますよ??」


「櫛を使いなさい、櫛を。どんな教育してんのよ、テスラ達は」



 まぁ、お父さん達は基本放任主義ですからね。


 この寝癖の直し方を見ても特に苦言は吐かなかった。


 それどころか。



『うん、微調整が出来ているね』



 と、褒め言葉にも似た言葉を掛けてくれたのが良い思い出なのです。



「それでは出発しましょう。時間が惜しいです」



 着替えを済ませ、鞄を肩に掛ける。


 この鞄はレイドが使用している物だ。彼が出掛けている間、私が使って良い事になっている。


 色んな物が入るから助かるのですよね。



「ねぇ、その白のローブを偶には脱いで出掛けましょうよ」


「これを、ですか??」



 少し余った袖をキュっと摘まんで話す。



「そうそう。イル教の奴らと被るのよねぇ、外観が」


「彼等のは純白です。私のは刺繍やら柄が付いていますのでそれは無いかと」


「ん――。お洒落したら良い線行くと思うんだけどなぁ」



 爪先から頭の天辺まで舐め回す様にじぃっと見つめて来る。



「それはまたの機会でお願いします。行きますよ」


「あ、待ってよ……」



 くるりと方向転換して扉を開けて、若干の埃臭さが漂う廊下へと出た。



 あぁ、久々ですね。この高揚感。


 久々の新刊ですから胸が高鳴るのを抑えられませんよ。


 抑えきれぬ高揚した思いを胸に抱き、普段より数段速く足を運び宿を後にした。




お疲れ様でした!!


初めての試みとなる番外編ですが……。中々に緊張して投稿させて頂きました。


本編とは微妙な繋がりがあるものの、決してそこまで深く関わり合いを持たせない事に注意を払うのがまた難しくて……。



何はともあれ、本日から連載が始まる番外編を御楽しみ下さい!!



そして、本編連載中に突如として番外編を執筆する事も御座いますので。宜しければブックマークをして頂ければ幸いです!!



それでは皆様、おやすみなさいませ。

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