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狐の里の名物 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 冬の寒空に浮かぶ茜の陽光と七輪から空へと立ち昇って行く黒き煙が一日の労を労う様に儂の心を何処までも温めてくれる。


 乾燥した空気の中に紛れる炭の埃っぽい香りが鼻腔を擽り、得も言われぬ食欲を増進させる匂いが半ば強制的に三本の尻尾を揺らす。


 顔を温める付き始めたばかりの炭の弱火、御馳走が間も無く到着すると逸った口内が分泌させた沢山の唾液をゴックンと喉の奥へと送り込む。


 広大で尊厳ある山の中ではちっぽけな存在にも映る七輪に儂の五感は奪われてしまっていた。



 ぬぅ……。まだ、じゃな……。



「ケホッケホッ……」



 七輪の中の炭を凝視し過ぎたわい。仄かに宿る炎が煙を上げて儂の鼻腔にぬるりと侵入してきおった。


 じゃが……。これから感じる味覚を考慮すれば嫌いじゃない痛みと匂いじゃのぉ。

 

 七輪の隣。



「ふふっ……」



 皿の上に静かに横たわっている狐の尻尾を愛しむ様に見つめた。


 これこれ、慌てるな。


 頭頂部からぴょこんと伸び出たふさふさの耳が逸る儂の気持ちを代弁し、早く食らいつきたいという卑しい気持ちを御してやった。


 先日は食いしん坊達の所為で食べられなかったからのぉ。逸る気持ちも致し方無しじゃて。



「ふっふふん。ふっふふ――ん」



 少しずつ炭に火が移る様を見て儂の可愛い三本の尻尾が揺れ動く。


 早く火が灯らぬかなぁ。



「あっ、イスハ様。どうですか?? 火加減は??」


「お――。ぼちぼちじゃな」



 温泉の方向からモアが軽快な足取りで、手ぶらで帰って来る。


 手ぶら?? 儂の酒を乗せた盆は何処じゃ。



「これ。儂の酒はどこじゃ??」



 まさかとは思うが……。


 そう思い恐る恐る問うてみた。



「エルザード様がどうしてもと所望されましたので……。御安心下さい。今一度お持ち致しますね」


 小さくお辞儀を交わし、里へと続く道を歩いて行く。


「ちぃっ。相変わらずこちらの予定を乱しおって」



 奴の所為でご機嫌な夕餉が台無しじゃよ。


 ふらりと来ては緻密に組み立てた予定を粉々に破壊する。混沌と呼ばれるのも合点が行くわい。



「ほっ」



 七輪から少し離れた母屋の縁側に腰かけ飲みかけの茶を啜る。



「年の暮れじゃのぉ……」



 茶の渋み、夏より寂しさを増した夕空、七輪から静かに立ち昇る煙。


 そして美しい花々の香りが微風に乗りこの雰囲気を一つの芸術作品へと昇華させていた。


 こうして心静かに過ごせるのも……。最後かも知れぬな。


 マウルが言うたあの言葉。



『魔女の復活が近い』



 この短い言葉が私の中でドンっと腰を据えて居座り、気持ちの悪い不安感を生み続けていた。


 年が明け暫くすると、オーク共との一大決戦が始まろうとしておる。


 各地に住む大魔達にそろそろ通達せねばならぬなぁ。



「はぁ…………。やめじゃ、やめっ!!」



 今は先の暗い事を考慮するよりも目の前の小さな幸福を享受しようではないか!!


 心配しておっても事は進まぬし。


 束の間の幸せを頂いても罰は当たらぬじゃろうて。



「どぉれっ。火加減はどうじゃ??」



 プ――ラプラと揺れ動かしていた両足を地面に着け、軽やかな足取りで小さな七輪の前に歩み寄りちょこんとしゃがむ。



 おぉ――。大分いい感じでは無いか!!


 黒の中に赤が混ざり、そこから強い熱がじわぁっと発せられている。


 うむうむ!! 良い塩梅じゃて!!



「イスハ様――。御持ち致しました――」


「待っておったぞ!!」



 機を伺った様にモアが盆の上に徳利を四本乗せて息を荒げながらやって来た。



「ふぅ――。ちょっと走ったから汗掻いちゃいましたよ」



 赤みがかった顔に手の平でパタパタと風を送り縁側に腰掛ける。



「御苦労じゃったな!!」



 よぉし、主役と助演も集まった事じゃし。早速宴を始めようとするかのぉ!!!!


 菜箸で狐の尻尾を摘まみ、ゆるりと七輪の上に乗せてやった。



「わっ。良い香りですねぇ――」


「じゃろ!?!? 儂が態々裏山まで獲りに行ったのじゃ!! 美味いに決まっておる!!」


「あはは。まだ食べていないじゃないですかぁ」



 玄人は分かるのじゃよ。何十、何百年もの間獲って来たのじゃからな。


 ほれ、見てみろ。この丸々と太った傘!! それにすっと通った芯!!


 茶と白が織り成す一つの芸術作品に涎が止まらぬわ……。



「ぬ!? ここで……裏返す!!」



 危ない。焼き過ぎる所じゃった。


 小さな焦げ目は許容範囲じゃが、焼き過ぎるのは駄目じゃよ??


 折角の風味が飛んでしまうからの。



「ん――。そろそろいけそうか??」



 白から薄い茶へと変色し始めた芯を菜箸で摘み、裏側を確認するが……。



「んふっ。まだじゃった」



 白が目立つ色は駄目じゃ。黒と茶の良い塩梅の焼き加減があるのじゃよ。



「イスハ様――。お醤油の皿、ここに置いておきますね――」


「うむ!!!!」



 流石、里一番の料理番。皆迄言わなくても用意するとは……。


 さぁて、完成まで後少し。ここはじっくり腰を据えて待つべきじゃ。


 遅々として完成に近付いて行く作品を眺めていると。



「や――!! 良い匂い――!!」



 儂の束の間の幸せを盛大にブチ壊す鬱陶しい声が聞こえて来てしまった。


 幸せな時間はいつまでも続かない、非情な現実をまざまざと見せつけられた様な気分じゃな。



「モア――、隣座って良い――??」



 上着を脇に抱え、半袖一枚の姿でこちらへと向かって来る。


 蒸気した顔は温泉の所為か、将又酒の所為か……。いずれにせよ早く帰って欲しいのが本音じゃ。



「はい。どうぞ」



 ふんっ。どうやら顔が蒸気しておるのは酒の所為じゃな。


 呂律が怪しいわい。



「ね――。何焼いているの――??」


「貴様には教えぬ」



 一本の尻尾を器用に動かし、犬をあしらう様に振ってやった。



「いいも――ん。匂いで分かるし――。狐の尻尾でしょ――??」


「…………」



 だったら聞かぬともよかろう。


 脂肪の声を無視してだんまりを決め込み、儂の宝物をじぃっと見つめていた。



「エルザード様。大分酔っていますねぇ」


「んふっ。空きっ腹にお酒は効くわねぇ――。ほぉら。暑い暑い――」


「ちょ……。抱き着かないで下さいよ――」



 うぇ。脂肪の塊に抱き着かれたらドブ臭くて寝れなくなるわ。


 モアの奴、災難じゃな。



「すりすりしちゃうもんねぇ――」


「キャハハ!! くすぐったいですぅ!!」



 しかも!! ドブ臭い匂いを染み込ませて来るとは……。


 災難処か厄災認定じゃな。



「ふぅむ……。これで良い、か??」



 菜箸で狐の尻尾を摘まみ上げて鋭い視線を以て状態を確認する。



 網の焼き目が残る傘、仄かに香る山の香り……。共に良し!!!!


 完璧じゃ!!


 さてさてぇ、完成した宝物は取り皿に置いて――。ついでにもう一つ完成させてやろうかの。


 完成した芸術作品を取り皿に優しく置き、次なる狐の尻尾を七輪に乗せた刹那。



「え?? 何?? くれるの?? えへへ――。偶には良い事するじゃない!!」


「は?? ……………………はぁあぁあぁあぁあぁアア!?!?!?」



 脂肪があろうことか儂が生み出した芸術作品を堂々と奪い去り、汚い尻を振りながら縁側へと戻って行くではないか!!



「エルザード様、このお醤油を御使い下さい」


「そうよね――。ちびっと醤油を付けて食べるのが……。んっ。おいひっ!!」



 く、く、くそがぁぁああ!! 出来立て一番を食らうとは何事じゃ!!



「しゃひしゃひして――。香りも良いわね――」


「今年の出来は上々らしいですよ?? そうですよね、イスハ様」


「ふんっ。儂が探して来た奴じゃからな!!」



 心の中に湧き起こる憤怒を余すことなく放出して言ってやった。



「一本くらいならいいじゃないですか。ほら、お裾分けですよ。お裾分け」


「そ――そ――。無下に扱うのは駄目だぞ――」


「帰れ!! 酔っ払いめ!!」



 全く!!  どいつもこいつも儂の松茸を奪いおって!!


 いや……。そう言えば馬鹿弟子の奴は食っておらんかったな。


 正確に言えば食べられなかったと言うべきか。少ない本数をマイ達が食ってしまったからのぉ。


 今度は儂と二人で七輪を囲み……。師弟の絆を深めながら食すのも一考じゃなぁ……。



「ねぇ――。そこの狐さ――ん」



 無視無視。


 新しい狐の尻尾を七輪の上に乗せ、再び素晴らしい香りを享受し始めた。



「お――い。クソ狐――」


「……」


「聞こえているでしょ――。弟子を寝取られそうになっている史上最強の狐さ――ん!!」


「喧しいわ!!」



 しつこく絡み付く脂肪へ向かい、怒りを司る神も慄く勢いで返事をしてやった。



「テスラの所へ行ってさ――。例の件。二か月後位にかんへいするって――」


「何でそんな大事な事を黙っておったのじゃ!!」


「だって――。聞かれなかったもんっ」



 もんっ。じゃあなかろうて!!


 しかし……。二か月後、か。


 魔女の復活には間に合いそうじゃが問題は……。あの戯け共じゃな。


 儂も心を決めた。あ奴らにも心を決めて貰わねば。



「ねぇ――。ちゃんと色々考えているの――??」


「あぁ、もう確と心に決めておる。儂は腹を括ったぞ」


「そう。じゃあ……。ちゃんと伝えるのね」


「そうじゃ」



 脂肪が陽気な顔から一転。暗い表情を以て小さな一言を漏らす。


 思わず縋りたくなる甘い嘘では無く、醜悪で吐き気を催す真実をこの口から伝えねばならぬのか。


 堪えるのぉ。



「言い難かったら私が言うわよ??」


「儂には伝える責任があるのじゃよ。お主も知っておるじゃろ」


「まぁ、うん。そうね……」



 蒸気した阿保面でもこの手の話はちゃんと頭に入っておるようじゃな。


 蕩けた瞳とは打って変わり、真剣その物の瞳で儂を正面で捉えている。



「安心せい。何んとかなるじゃろう」


「その自信はどこから湧いて出て来るのよ」


「さぁな」



 醜い真実によって打ちのめされ膝から崩れ落ち、もしかすると二度と立ち上がれぬやも知れぬ。


 それでも立ってくれるだろうか。



「…………ねぇ」


 えぇい!! 迷いはとうの昔に捨てた!!


 儂の役目じゃぞ!!


「お――い」


 じゃがもしも二度と立ち上がれぬ様になったらどうする??


 その時は……。尻を蹴ってでも立ち上がらせてやるわ!!


「ねぇってば!!」


「さっきから鬱陶しいわ!! 何度も何度も叫びおって!!!!」



 貴様の声はいつまでも耳に残るから嫌いなのじゃよ!!



「それ、焦げてるわよ??」


「何ぃっ!?!? おわぁあぁあぁあ――――ッ!!!!」



 慌てて菜箸で掴み上げ愛しの狐の尻尾を救出するが……。



「こ、焦げてしもうた……」


 グスグスと黒い煙を上げ、料理下手な新妻が作る料理よりも悲惨な姿に成り果ててしまった。


「あはは!! 残念でした――!!」



 脂肪がケラケラと笑い転げて儂の宝物を指差す。



「ふんっ。中は大丈夫じゃろう……」



 縁側に腰掛け、祈る想いで傘を裂くと。



「…………微妙――ですね??」



 モアが話す通り狐の尻尾の中身は確かに白を残しているが……。馨しい香りは殆ど感じられなかった。


 試しに醤油に付けて口に運ぶが。



「…………。苦美味い」



 舌の上に僅かに残るシャキリとした食感と、焦げ目を纏ったじゃりっとした食感が何とも言えない残念な気持ちを与えた。


 はぁ――。折角途中まで上手く行ったのになぁ。



「さっきのお礼よ。今度は私が焼いてあげるわっ」



 わっ。じゃないわい。


 脂肪がフルンっと気色の悪い尻を振り、七輪の下へと向かって行った。



「イスハ様。どうぞ」


「おっ。すまぬな」



 モアの酌を受け取り、苦い茸を摘まみにくいっと喉を潤す。



「んっふぅ――。美味いのぉ」


「良かったです」



 マウルの言っておった復活の期限まで残り後僅か……。儂と脂肪だけでは七人全ての面倒はちと荷が重いのぉ。


 各種族の族長に通達を出し、一度腰を据えて話し合いの場を設けるべきか??


 そちらの方が効率的且、期限にも間に合う……筈。


 問題はどの段階まで血の覚醒が追い付くかどうかじゃ。


 マイ、ユウ、アオイ、カエデ、リューヴは何度か覚醒の機会を得ているが残りの二名の指導となると。


 うむむ……。悩み過ぎて酒が効かぬわ。



「あれ?? エルザードさん、来てたんだ」


「やっほ――。メア――。元気ぃ??」



 地面から迷いの視線を外すと、メアが盆を手に持ち何やらこちらへ運んで来ている所を捉えた。



「もう酔ってるんですか??」



 そして、脂肪の上機嫌な顔を見るとやれやれといった感じの笑みを浮かべた。



「こんなのぉ。酔った内にはいりませ――ん!! っていうかぁ。それ、なぁにぃ??」


「これ?? モアが作った果実酒ですよ。まだ試作品だって言ってて。一応、今日完成したからイスハ様に試飲して貰おうと思って持って来たんですよ」


「香り、味。共に保障しますよぉ――」



 メアの声を受け、モアが甘ったるい声で返す。


 ほぅ!! 果実酒か!!


 いつもは米から醸造した酒しか口にしておらぬからなぁ。


 どれどれ、物は試しじゃ。一口呼ばれようかのぉ。


 縁側からぴょこんと飛び降り、メアの下へと進み出した。



「美味しそうじゃない!! ちょう――だい」


「はいはい。徳利は二つあるから御一つどうぞ」



 ふんっ。そいつにはやらんでもいいわ。


 儂の為に態々醸造したというのに。



「イスハ様もどうぞ」


「う、うむ……」



 御猪口に並々と注がれていく無色透明な液体を見つめていると喉が嬉しそうにきゅんと一つ鳴く。


 これだけ離れておるのにもう果実特有の甘い香りが漂ってきおるわ。


 小さな御猪口を二本の指で摘まみ、逸る気持ちを抑えて口に運んだ。



「…………ほぉぉぉ。滑らかな舌触りに喉越しも爽やか。ぴりっとした感覚は抑えられ代わりに果実の甘味が口内を包むのぉ。鼻から抜けるこの馨しい香り……。うむうむ!! 上出来じゃ!!」



 喉の奥に流し込んでも腹の奥底から未だに香りを発しておるわ。


 これは美味じゃ!!



「ありがとうございます。丹精込めて作った甲斐がありますよ――」


 モアの柔和な声が背後から漏れて来る。


「本当。美味し――。ね――。これって何から作っているの――??」


「…………。普通――の果実ですよ――」



 うむ?? 何じゃ??


 今の間は。



「普通ぅ?? ふぅん。でも、美味しいからいっか――」



 酔っ払いの脂肪があははと笑い、トクトクと御猪口に注ぎ上機嫌のまま口へと運ぶ。


 普通、か。


 脂肪は笑い飛ばしておるが何から作られているのか気にならぬのか??



「ささ。もう一献!!」


「う、うむ……」



 空になった御猪口にメアが笑みを浮かべたまま注ぐ仕草を取るのでそのまま受け取る。



「くはっ!! んまいぃ!!」



 まぁ……。味がいいから変な物は入っておらぬじゃろう。


 精神的疲労から来る杞憂じゃよ、杞憂――。



「イスハ様、いける口ですね。まだまだありますのでガンガン呑んで下さい!!」


「ぷはっ!! じゃがのぉ――……。空きっ腹に酒はちと厳しいわ。おい、脂肪。狐の尻尾はまだ出来ぬのか??」



 先程から七輪の前でしゃがみ込み、微動だにせず酒を呑んでいる脂肪へと問うてやった。



「へ?? しっぽろ?? あ――――……。多分、焼けてる?? かしらね??」



 トロンと蕩けた目尻に微妙に長い瞬き。呂律は怪しい処か全く機能しておらぬ。


 酔っ払いそのものの仕草で菜箸を操る姿が多大なる不安を与えて来る。



「しっぽろじゃなくて、尻尾じゃ。この虚け者が」


「はによぉ――。ほら、最後の一本。食え食え!!!!」



 覚束ない指使いで七輪の上に乗せられていた儂の宝物を摘まむが……。



「…………おい。それは何じゃ」


「え?? しっぽろ、よ??」



 目の前に差し出されたのは一応、キノコの原型を残したどす黒い塊だ。


 焦げ臭い香りを周囲に放ち見るも無残な形へと成り果てていた。



「き、貴様ぁ……。儂がそれを獲るのにどれだけの労力を費やしたと思っておるのじゃ??」


「さぁ――??」



 さ、さぁ??


 きょとんとした顔で小首を傾げる。




「ならば教えてやろう。朝早く起床し、身支度を整え裏山へ出発。険しい山道、斜面を登っては降りてを繰り返し目を皿の様にして樹木の根本を捜索。汗が体を伝い、息を荒げやっとの思いで満足の行く数本を採取してここに帰って来たのは日が暮れる前じゃ。それから七輪を用意し、炭に着火させ、ご機嫌な酒と共に最高の夕餉を満喫しようとしておったのじゃ」



 どうじゃ。


 これだけ儂は苦労したのじゃぞ。



「あっそ」

「…………」



 こ、この腐れ淫魔がぁ!!!!


 儂が熱弁を振るって苦労を説明してやったのにたった一言で済ますとは何事じゃ!!



「お、お主は儂の苦労を水の泡にしたのじゃぞ?? 弁明も無しか??」


 怒りで震える手を必死に抑え込んで話す。


「別に――。私、苦労してないも――ん。あはっ。メア――お代わり――」


「ありません」



 クソ脂肪のあっけらかんとした態度が儂の堪忍袋の緒をいともたやすく断ち切った。



「い、い、い、いっぺん……。死んでみるかぁあぁあぁあ!!!!」



 体内から迸る魔力を解放し、天高くから雷撃を脂肪へと放ってやる。


 淫魔の頭蓋を穿つ素晴らしい感触が爪先を喜ばせるかと思いきや。



「や――。あっぶな――い」



 着弾まで後僅かな所で脂肪がするりと躱し、儂の足が地面を抉り取るとその衝撃で石礫が周囲へ飛び散る。



「いたっ。イスハ様――。御庭を壊さない様にして下さいね――」


「分かっておるわ!!!!」


「同族に同情されて情けないわねぇ――。おっとっと……」



 儂相手だというのに右手に徳利、左手に御猪口を持ち今も果実酒をグビグビと呑み散らかす。


 その姿が余計に……。癪に障った。



「きょ、今日こそはお主のブヨブヨの体……。二つに裂いてくれようぞ」


「やれるものならやってみなさいよぉ。お酒が零れちゃうから遅くしてよ??」


 脂肪の言葉を受けると頭の中で何かがプチっと切れる音が響く。


「その口、永遠に閉ざしてやるわぁあぁあぁ!!!!」


 そして儂は怒りに身を任せ足元が覚束ない一人のボケ淫魔へと突撃を開始した。












 ――――。




「ふぅ――。やっぱりこうなっちゃいましたか」


「だな。モア、そっちのお酒取って――」


「はぁ――い」



 イスハ様とエルザード様がいつもの戯れに興じている中。私とメアは縁側に座り、夕空の下で酌を始めた。


 んぅ――。もうちょっと辛くてもいいかなぁ??


 麹を変えて、そして最近作った『あの子』 を入れてみたらもっと美味しくなるかも??



「ぷはっ。んまっ」



 うふふ。


 メアが満足気に呑んでいるソレ。


 ちょ――っとだけ隠し味が入っているのよ??



「ん?? どした?? 変な顔して」


「ううん。何にもっ」



 危ない危ない。私の可愛い子供達の存在は公にする訳にはいかないのですよ。


 この事を知っているのは……。



 一人の男性と一人の女性のみ。



 あの二人にはバレてしまいましたが皆の手前、さり気なく存在を消す訳にはいきませんからねぇ。


 私の子供達にすこ――しずつ改良を重ね、すこ――しずつあの二人の体内を私の子供達で満たしてあげないといけませんねぇ……。


 そうして知らず知らずの内に私の可愛い子供達に浸蝕されていくのですよ……。


 う……ふふ。ふふふ!!


 あハハ……。アハハハあはハはハ!!!!!!



「何か楽しそうな顔だな」


「そう?? 普通だよっ??」



 当たり障りの無い笑みを浮かべメアの的外れな意見をサラリと後方へ流す。


 あの二人の人体改良育成計画を頭の中で思い描くとついつい込み上げて来てしまう常軌を逸した狂気を必死に抑え込み。



「避けるな!! 腐れ脂肪が!!」


「ちょっと近付かないでくれる?? お酒が飲めないじゃん」



 目の前で繰り広げられている大魔の御二人のじゃれ合いを若干冷めた目で見つめていたのだった。




お疲れ様でした。


本日は庶民感溢れる食事処では無く、少しこじゃれたお店へ行って食事を摂って来たのですが……。


いつもとは違う感覚に体が戸惑っていた所為か、妙に肩が凝りました。


自分は、何も気にせず只無心で食べたい飯を食らうのがつくづく似合っているのだなぁっと思った食事でしたね。



さて、淫魔の女王様の御散歩も残す所一、若しくは二話でお終いです。


完結しましたのなら本編を再開しますのでそれまで今暫く筆者の余興に付き合って下さいね。



それでは皆様、お休みなさいませ。



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