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狐の里の名物 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿なります。




 西から一日の終わりを告げる茜が射す大空の中を誰にも邪魔されず、勝手気ままに飛翔を続けていると沈んだ気分も幾らか晴れて来る。



 ん――……。はぁっ!! 気持ちが良いわねぇ!!



 思えば今日一日。一人であれこれと勝手に思い込んで浮かんでは沈んでいたからなぁ。


 その原因は多くを語らずとも自覚している。


 そう、たった一人の男性。彼一人の存在が大魔である私を浮き沈みさせているのだっ。


 これは由々しき問題よねぇ……。


 三百年程生きて来たがここまで一人の男性に対して乙女の様に甘く想ったり、酸っぱく悩んだりした事は無かった。


 彼の顔を、そして共に過ごした時間を思い出すだけで心がきゅっと仄かに温かくなる。


 本当に……参っちゃうわよ。姿を見せぬ相手にここまで心が支配されるなんて。



「おっ。見えて来たわね」



 甘酸っぱい思いを胸に抱き飛翔を続けていると、本日の最終到着地点である大きな山が見えて来た。


 山の麓の里は深い森に囲まれ、冬の日照時間の短さに備え早くも明かりがポツポツと灯り始めている。


 何度も訪れた御蔭か将又、アイリス大陸の中央やや南という分かり易い位置する所為か。


 決して見逃す筈が無いギト山を足元に置きゆるりと下降を始めた。



 馬鹿フォレインの所為で汗掻いちゃったし。温泉でぱぁっと汗を流しに来たのよね!!


 クソ狐の存在は大いに余分だけど温泉は最高の二文字に尽きるのよねぇ――。



「よっと。到着っ!!!!」



 我ながら完璧な着地ね。


 温泉の脇に建つ脱衣所の隣へと華麗に着地をビシっと決めて自己肯定してあげる。


 さて!! 温泉に浸かってさっぱりしよ――っと!!



「んっんっふふ――ん」



 陽性な感情によって湧き起こるナニかに従い鼻歌を口ずさみ脱衣所に侵入……基。お邪魔させて頂いた。


 私の華麗な体を隠す服を巧みな早業で脱ぎ捨て、棚の中の籠に乱雑に投げ入れてやる。



 さぁさぁ――……。


 男性諸君、いよいよ私が下着に手を掛けますよ――?? 刮目せよっ!!



 上の下着を外すと我儘な果実が顔を覗かせ、その容貌に持ち主でありながら思わず大きく息を吸い込む。


 んぅ――む。


 大きさ、張り、形。


 自己満足する訳じゃないけど客観的に見てもどれ一つをとってもやっぱり満点よねぇ。


 ぎゅむっと下から持ち上げ自己採点をするが……。ぐうの音も出ない程の逸品に舌を巻く。



 お次はぁ。


 甘い桃も歯軋りをして妬む柔らかい曲線を描く可愛らしいお尻ちゃんの出番で――す。


 下着を外してお尻ちゃんの丸みに沿って指を這わせ張りと形の確認をするが、これまた素晴らしい出来栄えに驚いてしまう。


 おっと……。これも外さなきゃね。


 彼から頂いた髪留めを大切に外して脱いだ服の一番上にそっと置く。



 では、温泉に浸かる前に今日一日の成果を確認しようかなっと。


 ちょいとおっかなびっくりしつつ己が腹に手を添えた。



 んぅ!?



「うっそ。一日で痩せちゃった!?」



 お尻と可愛い脇腹ちゃんに手を当てると、今朝感じた物より幾分か量が減った感触を覚えてしまう。


「えへへ。御飯抜いたお陰かなぁ」



 襲い掛かる幾つもの誘惑に負ける事無く頑張ったもんね!!


 その成果よ。良くやった、私。


 今日一日の成果を受け、大変御満悦な心のまま爛々と浮かれた足取りで脱衣所を抜け、いざ温泉へ。



「んふぅっ。良い雰囲気じゃない……」



 冬の冷たさを吸収してひんやりとする石畳の地面、白濁の湯から立ち昇る温かな蒸気が茜色と混ざり合い湯に入らずとも幻想的な光景が溜まった疲れを解き解してくれる様だ。



「んっ。あつっ」



 先程まで高所を飛翔していた為か自分でも気付かぬ内に体が冷えていたようだ。


 桶で湯を掬い体に掛けると私の美しい肌が熱さに驚いてしまう。



 よぉし。入りましょうかね!!


 我儘な体が驚かない様に爪先からゆるりと湯に浸かって行くと魔力を放出して疲れた体、風を受けて痛んだ皮膚を白濁の湯が癒そうときゅっと抱き着いて来る。


 御風呂に浸かるとついつい出てしまうあの吐息……。私は例に漏れず、人目も憚らずに甘い声を漏らした。



「…………。あっはぁぁぁぁ――――んっ」



 これよ、これ。


 温かい湯に包まれ湧き起こる陽性な感情を抑えず声に出して漏らす。これこそが御風呂の醍醐味なのだ。


 後は……。


 徳利に注がれたお酒とぉ。この感情を一緒に享受してくれる男性がいたら最高なんだけどなぁ――。


 まっ、無い物ねだりしてもしょうがない。


 ゆるりと黒が青を侵食し始める空を堪能しましょ。


 岩壁に背を預け、一日の終わり行く様を最高の雰囲気の中で目に焼き付けていた。



「…………。やはりエルザード様でしたか」


「ん?? おぉ――。モア、どうしたの??」



 不意に響いた声に反応してくるりと振り返るとクソ狐の給仕担当のモアが盆に何かを乗せて温泉にやって来る所であった。



「ここで何度も感知した魔力を肌に感じましてね。あ、今日も来たのだと思った訳ですよ」


「ふふっ。何それ――。酷く無い??」


「只、普段感じる魔力より幾分か小さかったのはどうしてですか??」



 石畳の地面の上にちょこんと座り、盆を脇に置く。



「いや実はね……」



 減量の為、朝から大陸を飛翔しながら横断している事を端的に伝えてやった。



「――――。成程、それは大変でしたね」


「だから一日の疲れをこうして湯に流しているの。それよりぃ――。そのお酒、ちょうだぁい??」



 モアの可愛らしい顔よりも盆の上に乗せられている徳利が気になって仕方がないのが本音だ。


 まるで私の手を誘う様に盆の上で楽しそうに踊り、さぁ一緒に踊りましょうと御猪口と共に私へ向かって手招きしている。


 気が付けば私の手は楽し気に燥ぐ二人に誘われる様に手を伸ばしていた。



「これですか?? ん――。どうしましょう。イスハ様の為に用意したのですが……」


「いいって。また後で持っていけば」



 んっ。もう少し……。



「しかしですねぇ。また里に下りて持って来るとなるとイスハ様を待たせる事になる訳ですよ。しかも、間もなくイスハ様が七輪を取り出して狐の尻尾を焼き始めますので。それに合わせる様にと仰せつかっているのですよねぇ」



 あんっ。遠ざけないの。



「狐の尻尾?? 形はどうあれ、あの茸美味しいわよね――」


「冬の味覚の代表格と申しても宜しいのでは?? 鼻腔を優しく刺激する山の香り、そして咀嚼すれば得も言われぬ触感がまた心地良くて……」



 石畳の上に上半身を乗せて腕を伸ばしてっと……。



「そうそう。初めて食べた時はあのシャキシャキした触感が心地良くて驚いちゃったわよ」


「毎年この季節になるとイスハ様自らギト山の裏山に出立して採取されます。今年の取れ高は……。まぁ、例年通りと申しても構わないでしょう」



 んぅ!!!!


 持ち上げちゃイヤ!!



「意気揚々と狐の尻尾を持ち帰ったのですが。数日前、レイドさん達がこちらに立ち寄った際に洗いざらい食べ尽くしてしまいまして……。残念ながらイスハ様が口にする事は叶わなかったのです。そして、本日再び採取して来た。と、いう訳です」



 淡々と話す言葉の中に私の心をトクンと鳴らす単語が耳に入って来た。



「…………レイド、来たの??」


「えぇ。北の街へ任務で向かうみたいで。任務地に到着するまでに危険な箇所は無いかと御伺いして出発しましたよ??」


「ふぅん……。そう……」



 北へ向かったんだ。しかも数日前。


 私が飛んで行けばちょっとで追いつけるな。



「相も変わらず元気なお姿で安心しました。…………。私の可愛い子達のお陰でね」


「ん?? 何か言った??」


「いいえ?? それより……その恰好ですと汚れますよ??」



 気が付けば私の体は甘い誘惑に誘われる様に温泉から完全に退出。可愛いお尻丸出しの姿で徳利目掛け体を乗り出していた。



「やんっ。意地悪しないでお酒頂戴よぉ」


「はぁ……。畏まりました。では、ごゆるりとお楽しみ下さい」



 やれやれといった感じで盆を置いてくれる。



「やったね!!!!」


 やっとの思いでお酒ちゃんを手に入れ、体全部を湯に入れてやる。


「空いた徳利は盆に乗せ、そこに置いておいて下さい。後で取りに来ますから」


「はいはぁ――い!!」



 モアのやれやれといった感じの立ち去り際の声を受け流し、早速徳利から御猪口にお酒を注いでいくと。



「おほぉう!!」



 温泉の湿気ある香りの中に鼻腔の奥を優しくツンっと突くお酒の香が届いた。


 お酒の香りと温泉の香りと混ざり合いどんな香りも太刀打ちできないぞ?? と。水面に浮かび強烈な自己主張を始めてしまう。


 私の両手は誰かの傀儡となり小さな御猪口にお酒を注ぐ。



「これって、もう一種の媚薬よねぇ……」



 何人もこの香りに誘われたら手を跳ね除けられない。そう思わせる程の香を解き放っていた。


 でも、レイドってお酒呑みたがらないわよねぇ。



『酒類は正常な判断を狂わす』 とか。


『どこからか湧く正体不明の陽性な感情が苦手なの』 とか。



 何かと御堅い理由を以て酒を摂取しないのだっ。硬くなるのはアレだけで十分なのにぃ。



「おっとっと……」



 危ない。もう少しで麗しの君を御猪口から零す所であった。


 さてとっ!! 準備が整いましたのでぇ。



「頂きま――すぅ!!」


 小さく唇を窄めて御猪口に口を付け、くいっとお酒を喉の奥に流し込む。


「くぅぅぅぅ!! はぁっ。これよ、これ!!」



 うんうん!!


 舌をピリリと刺激する辛み、口内から鼻腔に抜ける馨しい香り。


 う、美味過ぎるわね……。


 喉からお腹へ液体が到達するとじわりと熱さが体内から込み上げて来る。



「んふふっ。駆けつけ二杯目――」



 この間抜けな口調からして恐らく私の顔はだらしない事になっているだろう。


 お酒の力が顔の筋肉を緩ませて心と体を陽性な感情へ方向転換させていく。


 堪らないわねぇ……。この高揚感っ。



「んっんっ。くはっ!!」



 初めの一杯目は何よりも美味いと言うけど。


 二杯目は相も変わらず味も、爽快感も依然変わらずどこまでも私の感情を高めてくれる。


 やっば……。美味過ぎて手が止まらないわ。


 トクトクと小気味の良い音を立てて無色透明な液体が御猪口をが満たす。



「…………ふぅ。でも、一人で飲むより。二人で飲んだ方がきっと美味しいわよね」



 御猪口を温泉の淵に置き。再び壁に背を預けてぽぅっと空っぽになった頭で夕焼け空をぼんやりと見上げる。


 ねぇ、レイド。今、何しているの??


 夕焼けに問うが当然、彼?? 彼女?? は無言を貫き通す。


 私、今日一日貴方の事を考えていて寂しいんだよ??


 しかし、私が幾ら問うても太陽は困った顔を浮かべるのみであった。



「はぁ。したい、なぁ……」



 彼の体を抱きしめられぬ代わりに熱くなった己の膝を抱える。


 いきなり会いに行ったら迷惑、だよね。


 ううん。別に、私と彼の間柄なら構わないじゃない。


 でもぉ……。



「やめやめ!! 暗い事考えるのは駄目だから!!」



 右手を振り、頭の中にふわぁっと浮かび始めた暗い感情を霧散させてやった。


 お酒の力って怖いわぁ。陽性な感情から一転。途轍もなく暗い感情まで抱かせてしまうのだから。


 こうなったら全部飲み干して酔ってやる。


 そうすれば暗い感情なんて尻尾を巻いて逃げ出すでしょ!!


 自分に都合の良い考えを無理矢理肯定し、一本目の徳利を速攻で空け二本目に突入してやった。




お疲れ様でした。


後半はこの後食事に出掛けますので、帰宅後に編集をして投稿する予定です。


今暫くお待ち下さいませ。

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