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立つ鳥跡を盛大に濁す その一

お疲れ様です。


長文となってしまったので分けての投稿になります。




 世の女性達が逆立ちしても叶わない破廉恥な乳を縦に揺らす彼女に従い、木の温もりが漂う廊下を進んでお邪魔したのは広さに大分余裕がある調理室だ。


 様々な料理器具が綺麗に陳列された背の高い木製の棚。美しい隊列で御主人の命令を待っている鉄製の包丁達。そして透明な硝子容器にキチンと収まっている調味料の数々。



「へぇ。凄く広いわね」



 視覚で楽しませてくれる道具達と調味料に思わず感嘆の声が漏れてしまったが、何が入っているのか外部からは分からない巨大な麻袋と。無駄に大きい米俵が否応なしに私の視線を引きつけていた。



「あぁ、それ?? ほら、主人はかなりの大食漢だから沢山用意しておかないと直ぐに切らしちゃうのよ」


「ふぅん。でもさ、これだけの量。どこで仕入れるの??」



 ふと沸いた疑問を問うてみる。



「ここからちょっと離れているけど里から北東へ向かった場所に私達の御先祖様が開拓した農園があるのよ」



 台所に掛けてあるイイ感じに汚れた前掛けを腰に巻きながら話す。


 あぁ、そう言えば以前そう言っていたわね。


 ここで獲れた農作物はフォレイン達の里から送られて来る衣服と物々交換しているんだっけ。



「巨木を引き抜き、大地に深く張った根を引きちぎり、大粒の汗を流して耕す。私達ミノタウロスの長所を生かして築いたのよ??」



 うはぁ、想像するだけでも重労働だと理解出来てしまうわね。



「ここに住む者は感謝を忘れず、汗を流して今もそこを守っているわ。幼い頃のユウちゃんにもね。こうやって言ってあげたの。『いい?? ユウちゃん。今食べているお米は御先祖様が開拓してくれた農園で作られた物なの。だから残したら罰があたっちゃうわよ??』 ってね」



 屈託のない笑みを零して話す。



「食べ物を粗末にするなって事ね。私も子供にいつか言うのかな?? そんな風に」


「親は子の手本になるべきよ?? 当然、子は親を見て育つ。エルザードさんがそういう風な考えを持っているのならお子さんもちゃんと親の気持ちを汲んでくれるわ。だから、安心して??」



 手本ねぇ。


 魔法や知識そして人生経験なら幾らでも話してあげられるけど。生き様や人の指標としての自分には自信が無い。


 しかしそれでも私の考えを見てくれると言うのなら……。それはそれで嬉しいわね。



「そっか。まだ先の話だけど……。うん、自信でた」


 ふっと一呼吸置いて言った。


「そう先の話でもないかもよ?? ほら、彼。エルザードさんに迫られたら直ぐにころっといっちゃうそうだし??」


「良く分かってるじゃない」



 その点には自信がある!!


 あのお馬鹿さんは私の魅力に全然気づかないからね。ネットリと、そしてじぃっくりと私の体の素晴らしさを彼の体に刻み込み。


 私の体無しでは生きて行けられない様に調教してあげよう……。



「でもぉ。娘の恋敵に今から塩を送る真似をしてもいいのかしら」


 そりゃ親としては複雑な心情であろう。


「良いじゃない。減るもんじゃないし。それに?? ユウが帰って来たら恋の指南をしてあげればいいんだし」



 人差し指を可愛くちょこんと頬に当てて考え込む姿勢を取る彼女へ至極当然の理を言ってやった。



「それもそっか。ユウちゃん一人だけで帰って来るのは有り得ないから……。ふぅ。忙しくなりそうねぇ」


「あ――……。そっか。マイ達も付いて来るのよねぇ」



 なぁんの変哲もない素敵な日常を謳歌していたら。



『やっほ――っ!! お邪魔しま――すっ!!!!』



 愛娘だけでは無く、暴飲暴食の権化が付随する形でいきなり登場するのか。


 ここにある全ての食材を洗いざらい食い尽くして行きそうね。



「以前来た時なんかもぅ忙しくて目が回りそうだったのよ?? 何でも。ここから南東にある街に任務で赴く時、ついでにって感じでね??」



 へぇ、それは初耳だ。



「沢山食べるからその分料理も沢山用意して……。久々に見る娘の目は……。ふふふ。すっごく楽しそうだった」



 目を細めて口元を柔らかく曲げて当時の光景を思い出している。



「娘はこの里から出た事が無いし、きっと見る物全てが新鮮に映るんでしょうね」



 すっごく分かるわぁ、その気持。


 私も幼い頃、勝手に里から飛び出して色んな物を見ては目を輝かせていたっけ。



「それと気の合う仲間達。楽しくない訳がない。そんな感じだったわ」


「気の合うじゃなくて。喧しい、じゃない??」


「ふふっ。そうでしたね」



 二人の陽性な感情が部屋に静かに反射する。


 娘の事を話すのは楽しくてしょうがないとして……。そろそろ本題に取り掛かろうかしらね。



「フェリス。料理、始めようか」


「あっ、いっけない。私ったら……。いやねぇ。母親になるとどうも子の話ばかりしちゃって」


「まだそんな年じゃないでしょ??」



 そう言えば……。フェリスって幾つだっけ??


 聞いた事が無いから分からないけど、女性に対して年齢を聞くのは同じ女性でも少々憚れるのよね。



「んふふ――」


 でも楽し気に鼻歌を奏でつつ台所に向かっているし、上機嫌そうだからこの際さらっと聞いてみようかしら。


「ねぇ。フェリス――」


「何??」



 こちらに背を向けている彼女に声を掛けた。



「ちょ――っと聞きにくい事なんだけどさ」


「うん??」


「今、何歳??」



 私が単刀直入且赤裸々に問うた刹那。




「――――ッ」




 部屋の空気が凍り付いた。


 へっ!? 何!? この空気!?


 彼女の背から無言で放たれる強力な圧はこの世で最も優秀な魔法使いである私に一歩後退させる事を余儀なくさせてしまう。



「…………。聞きたい??」



 ジャガイモをぽ――んと宙に放ち、右手に持つ切れ味の良い包丁が鋭い一閃を放って空を切り裂く。


 そして素晴らしい一閃を受け止めたジャガイモが彼女の左手に着地すると同時に……。綺麗に八つに切り分けられた。



『これ以上彼女の不可侵領域に踏み入ったら……。お前もこうなるぞ??』



 彼女の手の平のジャガイモさんは無言で私にそう伝えていた。



「きょ、興味本位で聞いただけよ。ほ、ほら。私三百年『しか』 生きていないし。それより上……」


「ッ!!!!」



 今度はまな板の上のキャベツが木端微塵に弾け飛ぶ。



「下!!!! そう下!! に見えるからさぁ!!」


「あらぁ――。もぅ――。御世辞が上手ねぇ――」



 どうやら機嫌が治ったようだ。


 ニッコニコの笑みを浮かべ左手を頬に添えて体をクネクネと揺らす。只、それでも右手に持つ包丁だけは手放す事は無かった。



 カチコチに凍り付いていた空気が程よく溶け、私は肩の力を抜いて大きく息を吐いた。


 はぁ……。何が子の手本になるべきよ。無言の脅迫なんて子供に悪影響しか与えないじゃない。


 ユウも苦労するわ。



「それで?? 今日は何を作るのかしら??」


 ほんの少しだけ警戒心を胸に頂き、台所の前に立つフェリスの横に並ぶ。


「ん――。本当は、キャベツをもう少し大きく切って使いたかったんだけど……」



 それはあんたが吹き飛ばしたんでしょうが。


 そう言いたいのをグッと堪えた。



「食事のお供。スープにしましょうか」



 ほぉ――。スープかぁ。


 簡単そうにみえて実は難しいのよね。



「いよぉし。張り切って覚えましょうかね!!」



 上着をパパっと脱ぎ、体の前に前掛け装備して拳をギュっと握り。



「先ずは何をしたらいいの??」



 外へ繋がる煙突付きの竈に火をくべる彼女に聞いた。



「そうねぇ……。コホッ。そこのジャガイモの皮、剥いてくれる??」


 こちらを見ずに台所の上のジャガイモがある場所を指す。


「ほいほい」



 ジャガイモの皮ね。



「確か……。この芽もくりぬいた方がいいのよね??」


「そうよ――。指を切らない様に気を付けてね――」



 彼女の指示通りに包丁を器用に操り、芽をくり抜き、皮を薄く剥いて行く。


 自画自賛じゃないけどまぁまぁな包丁捌きじゃない!?



 んふっ。いつか、さ。


 私がこうして台所に立って料理をしていると……。腹を空かした彼が後ろから声を掛けてくれるのよねぇ。



『おっ。良い匂いじゃないか』



 全部言わなくても声色から空腹具合が分かってしまうの。



『出来る迄もうちょっと待って――』



 料理が得意な彼の事だ。きっとこう言う筈。



『手伝おうか??』



 本当は肩を並べて一緒に作りたいけど……。



『旦那さんの舌を満足させるのは主婦の務めだからね。今日は大人しく待っていなさい』


『そっか』



 私の言葉を受けるとふっと一息付いて部屋を出て行ってしまうが。



『…………なぁ。やっぱり手伝うよ』



 数分後には少しだけ慌てた様子で台所に戻って来てしまうの。


 しつこく手伝おうとするのはやっぱり私の腕を心配しての発言だと思う。家事を手伝ってくれるのは凄く嬉しい反面、信用されていない事に少しだけ怒っちゃうのよね。



『なぁにぃ?? 私の料理、そんなに心配??』


『い、いや。そういう訳じゃないけど』



 むっと唇を尖らせると慌てて言葉を濁す。


 分かってるよ?? 私の事、心配してくれたんだよね??


 でもぉそんな顔されちゃうといつも通りに揶揄いたくなるのよね。



『ねぇ』


『うん??』


『私を……料理してみる??』



 新妻らしく汚れていない前掛けをはらりと外して、彼に誘う笑みを浮かべる。


 まっ。大方この先の展開は予想出来るけどねぇ――。


 困った顔を浮かべてたじろぐんだよねぇ――。



『……いいの??』


 へ!?


 私の想像とは裏腹に彼が私の腰をきゅっと掴み、己が胸へと男らしく収めてしまう。


『こっちの方も……腹ペコなんだ』


 激情に駆られた彼の顔が目前に迫る。



 だ、駄目よ!! 台所で何て……!!


 あぁ……。そんなとこまで!!



「…………お次は。もしもし?? 聞いてます??」


「え?? あぁ。ごめん。なんだっけ??」



 我ながら情けなくなってくるわ。


 本日何度目か分からないの都合の良い妄想に浸ってしまった。



「も――。ちゃんと聞いて下さいね?? スープには出汁を使う場合もあるって言ったんです」


「あ――。はいはい」



 あれでしょ??


 なんかよく分からないけど、味がまろやかになる奴よね??



「今日は鳥の骨で出汁を取ります。骨髄から味を染み出させるまでゆっくり煮込むの」



 竈の上に乗せられている大きな鍋に、ゴツゴツした大きな骨を熱湯の中へ静かに浸からせる。



「灰汁が出て来たらお玉で掬うの。ほら、やってみます??」



 すっと差し出されたお玉を受け取り、彼女の見様見真似で灰汁という輩を掬い取ってやった。



「そうそう!! 上手よ!!」


「そりゃどうも。それで?? お次は何をするの??」


「暫くは煮込むから。野菜を入れる順番を教えるわ」



 そんな物にも順番があるのか。いつもは適当に放り込んで煮込んでいるからなぁ――。



「硬い物から順に入れて行くのよ。今日の具材は人参、ジャガイモ、キャベツ、鶏肉だから……」



 鍋に入れて行く具材をまな板の上に順に並べていく。



「こうしておけば間違えないでしょ??」



 主婦の主戦場から此方へ向かってくるりと振り返り、陽性な笑みを浮かべた。



「じゃあ……。小一時間程時間あるからお茶でも飲んでお話しましょうか」


 再びくるりと向きを変えると棚へスタスタと陽気な足音を立てて移動を始める。


「ん。ありがと」



 何だか楽しそうな背中へ向けてそう言ってやった。


 しかし……。美味しくなる為に仕方がないとはいえ。スープ一杯の為に小一時間かぁ。もうちょっと時間を短縮できない物かしらねぇ。


 クツクツと、大変お腹が減ってしまう煮沸音を奏でる鍋をじろりと見つめてやったのだった。




お疲れ様でした。


この後、再び投稿させて頂きますので今暫くお待ち下さいませ。

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