表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/62

誰しもが振り返る天井知らずの美

お疲れ様です。


本日の投稿になります。少々長文となっておりますので予めご了承下さい。




 一切の穢れ無き青の大海を自由気ままに進み正面から迫りくる白い綿雲の中を容赦なく突き破ると、再び何処までも続いて行く青い海が出現する。


 全力までとはいかないが体内に宿る九祖の力を解放して体に嵐の力を纏い空中散歩を優雅に楽しんでいた。


 あの口煩い執事の拘束から逃れられた所為か、本当に気分が良い。少しだけ気に入らない翼を動かせば速度が上昇して高揚した気分に拍車を掛ける。



「あはは!! 最高っ!!!!」



 体中に感じる凄まじい風圧。耳をつんざく風を切る甲高い音。地上のそれと比べて塵が含まれていない純粋無垢な空気。


 そのどれもが私の気分を否応なしに高めていく。



 偶には飛んでみるのもいいわねぇ。



 眼下に広がる緑の大地を捉え、果てしなく続く青い地平線に視線を送り。体をクルっと回転させて仰向けになると地上から見るよりもちょっとだけ黒が強い空を捉えた。



 こうして一人で勝手気ままに長距離を飛ぶのってどれ位振りかしらねぇ……。


 ん――……。十年位前かな??


 そうやって考えると短い……、訳は無いわね。人間の感覚で十年といえば赤ちゃんが少年少女に育つ位の年月じゃん。


 後頭部で両手を組み体の力を弛緩させて飛翔を続けていると、ふと誰かの視線を感じた。



「ん??」


『…………っ!!』



 さり気なくそちらに視線を送ると錘型に変態……基。編隊を組んで羽ばたいている渡り鳥さん達と目が合ってしまった。


「はぁい。今からお出掛けかしら??」



 挨拶として、ヒラヒラと手を振ると。



『『……』』



 目を丸くして私と距離を取ってしまった。


 むぅ、何よ。


 挨拶位交わしなさい。大人の常識よ?? じょ――しき。


 撃ち落としてやろうかしら?? それともカリカリに焼いた野鳥を手土産として彼に持って行く??



 あ、でも。焼き鳥を貰って嬉しがるのは微乳龍の娘の貧乳龍とお惚け狼さんくらいだからぁ……。


 お土産は私よっ!!


 可愛い紐で淫靡に包装して。さぁ、召し上がれってね……!!



『勘弁して下さい!!』



 ほぉら、また逃げる――。


 こんな可愛い淫魔が迫っているってのにさっ。孕んであげるって言ってるのにさっ。


 据え膳から逃げるって男として情けないし、私は雄の責務を果たせと言いたいのよ。



 驚愕の表情を浮かべて私から逃げ遂せようとしている彼の姿が思い浮かぶと自然に眉がムっと寄ってしまう。


 真面目なのはいいけど、真面目過ぎるのも問題よねぇ。私好みに追々修正掛けていこ――っと。


 空に浮かぶ彼の顔に別れを告げ、仰向けになると巨大な街が見えてきた。



「お――。到着だ」



 広大な大地の上に巨大な円が構築され、背の高い外壁で外と隔たれた街の中には数えるのも億劫になる人間達の営みの力を感じ取れる。


 今の大きさは私の手の平にすっぽりと収まる円だけど地上に降りたら途轍もなく巨大な街なのよねぇ。



 私の屋敷から出発してから三十分位かしらね?? 飛翔すると約千八百秒か。


 はぁ、無駄な時間だなぁ。空間転移だったら数十秒で到着するのに。


 それに使用する魔力と体力を考慮すると遥かに効率が悪い事が窺い知れてしまう。


 まぁでもこれは減量の為だし。泣く泣く了承しますよっと。



「さて。どうやって着地しようかしら??」



 足元に広がる街には大量の砂が蠢いている。


 当然、あの動く砂は人間達の姿だ。あれにバレない様に着地するのには……。


 そうだ!! 久々に光を屈折させてみよ――っと。


 今はこの姿だから容易に詠唱出来るでしょ。



「ふぅ……。淫魔の女王が命じる。遍く存在する力の波動よ。私の下に集いその片鱗を現せ!!!! 光迷彩オプティカルトランスパーレント!!」



 右手を掲げると淡い光を放つ魔法陣が浮かび、術式から溢れ出た煌びやかな光が私を包んで行く。


 これ、便利な魔法なんだけど。滅茶苦茶疲れるのよねぇ。


 まぁ光を屈折させて私の姿を見えなくするんだから当然なんだけども……。



「うん!! 完璧っ!!」



 己の手の平を見れば、光が通り抜けて眼下の街が透けて映る。


 我ながら大したものだわ。


 大きくウンウンと頷いて自画自賛していると……。



「ちょっ!! 前、前!! きゃぁっ!!」



 先程追い抜かして行った渡り鳥が私目掛けて突撃して来るではありませんか!!


 鳥達の思わぬ襲来に体の態勢を崩してしまう。



「あっぶないわねぇ。焼き鳥にして食うわよ!!!!」



 飛び去る背中にそう叫んでやった。


 彼等としては見えなくなったこちらが悪いと言うかもしれないけど。


 まぁいいわ。私は寛大なの。


 また鳥の襲来が来るのではないか。そんな杞憂を抱きつつゆるりと地上へ向けて下降を始めた。




 えぇっと。


 北西地区に見えるのはレイド達の軍が所有している訓練施設だったわね??


 大通りに着地すると厄介だから北西地区の裏通り。人通りの少ない場所に着地しよっと。


 体から滲み出る魔力を極小に抑え且、光の屈折で体を隠す。


 ふふ。この高度な魔力の使用はカエデには出来ぬ芸当よ??


 芸達者な私だからこそ出来る業に肯定していると足に硬い感触が広がった。



「――――。ふぅ!! 解除!!」



 周囲に人の姿が無い事を確認すると、認識阻害を一時解除する魔法を詠唱。そして人の姿に変身して光の屈折を外してやった。


 さてさて、これから楽しいお買い物の時間ですよっ!!



「……っ」



 右足を軸にクルっと体を回転させ……。まぁこれは完全完璧に蛇足だけど。


 ほら、絶世の美女も色を覚えてしまう美麗な私が降誕したのだから。ちょっとした所作を加えた方が様になるじゃない??


 御自慢の髪をフルっと揺らして回転を終えると。



「…………。こんにちは」


「ッ!?」



 突如として女性の声が聞こえて来たので心臓が思わずキャァッ!! と可愛い声を放ってしまった。


 わっ!! びっくりしたぁ。


 こんな所に女性が歩いて来るとは思わなかったので思わず変な声が漏れてしまいそうだった。


 艶のある黒髪に私より少し低い身長、そして……。


 へぇ、流石パルチザンの兵ね。武の匂いが己で意識していなくても体の外に滲み出ていた。



「……」



 私が口角を上げてニコリと笑みを浮かべ会釈するとそれに返してくれた。


 レイドと同じ制服だし。知り合いかしらね??


 でも……。軍属の者だったらあんなみすぼらしい家には入って行かないわよねぇ??


 どこにでもある普遍的な家屋へ向かって行く彼女の背を見続けていると。



 あらら、入って行っちゃった。


 彼女はまるで実家に帰る様な所作で家の扉を開けて中に堂々と入って行ってしまった。


 軍資金が少ないのかしら……。世知辛い世の中になったものだ。


 世の不景気を憂いつつもそれは直ぐに霧散する事になる。


 だって、今から楽しい楽しいお買い物だも――ん!!



 私は夏の陽射しの光量を優に超える明るく陽性な感情を抱きつつ大通りへと躍り出た。



 丸々と太ったパンを食み目尻を下げる男性。やれどこの服が可愛いだ、安いだと互いの持論を交わしつつ練り歩く若い女性。



「は――い。ちょっとごめんよ――」



 荷馬車が石畳の車道の中央を堂々と移動し、後方の荷台には沢山の冬の実りがこんもりと乗せられていた。


 流石、この大陸最大の街ねぇ。


 視線を僅かに動かすだけで興味が沸く事象が見えて来る。


 人の流れに沿い興味津々といった感じで歩き続けていると。



 西大通りの名物と世に認知されている背の高い銀時計を視界に捉えた。



 ふふっ、懐かしいなぁ。


 彼と待ち合わせに使った思い出の場所なだけに気持ちが温かくなるのを覚えてしまう。


 たかが少し前の出来事なのに昨日の事の様に思い出される。


 沢山歩いて、一杯お話して、そして……。これをくれたのよね。



「……っ」



 前髪を留めている銀細工に指を添えた。



 別れ際にくれた時。心臓が痛い程嬉し泣きしちゃった……。


 心の空模様を悟られまいと隠すのに必死だったけどさ、バレていないわよね??



 ん――……。少し位ならバレてもいいかも?? そっちの方が意識してくれるかもしれないし??


 まぁ何はともあれ、思い出に浸っていても物が買える訳では無い。


 掘り出し物を探しに、お店探訪と行きますか!!



 お値打ちの服を探してぇ、カッコイイ小物を見付けて、更にぃ。朝の仕返しとしてお子様用の下着を買わなきゃね!!


 時間がありそうで無いのよ。


 西大通りの北側の歩道で良い感じのお店が無いか、のんびりした歩調で取捨選択を行っていると。



「「「…………」」」



 有象無象の鬱陶しい好奇の目が私の体に突き刺さった。



「お姉さん!! 良かったらお食事でもどうですか!?」


 は――い。時間が無いからごめんね――。


「ねぇねぇ!! 名前、何て言うの!?」


 無視無視――。


「あなたこそ俺の運命の人です!! どうか、是非とも素敵な時間を一緒に過ごさせて下さい!!」


 お疲れ様で――す。



 あぁ……もぅ、邪魔だなぁ。


 淫魔の魔力を放出してもいないにも関わらず男共が次々と群がって来た。


 数十歩歩けば愚か者が何んとか私の気を引こうとして無意味な声を掛けて来る。何度無視しても絶え間なく続く男達の無駄な努力には慣れている、しかし流石の私にも限度ってもんがあるのよ。



 どこか、避難場所は……。


 おっ、丁度良い。下着屋さんに入っちゃえ。


 女性用下着の店に男はおいそれと入って来れないでしょ。新しい下着も欲しいと思っていた事だし。



「お願いします!! 俺と一緒にぃ!!」



 目に涙を浮かべて私の足に縋ろうとする男を無視して、可愛い看板の目立つ下着屋に軽快な足取りでお邪魔させて頂いた。



「いらっしゃいませ!!」



 わぁ、一杯あるわねぇ。


 色とりどりの花達が来店を心待ちにしていたのか、私が入店するなり早く手に取って下さい!! と。各々が元気良く挙手を始めてしまった。


 そう慌てないの。ちゃんと見てあげるからさ。


 楽しそうに笑みを浮かべて買い物を満喫している女性客の中にさり気なく混じり、物色を始めた。



「ねぇ!! これ、どうかな!?」


「え――。殆どお尻出ちゃうじゃん」


「私の彼氏さ――。こういうのが好きなんだって」


 きゃっきゃと陽気な声をあげる女性二人の手元に視線を移すと。


「うっそ……。真面目そうに見えて結構エグイ形が好きなんだ」



 防御を捨てて攻撃力に大特化した好戦的な下着を手に取って盛り上がっていた。


 前は確かに隠れる。しかし、お尻に当たる箇所は僅かな紐が一本通っているのみ。


 彼女の言う通りお尻丸出しよね。



「ちょっと無理かなぁ。あんまりお尻の形に自信ないし」


「お尻だけぇ?? 胸もじゃないのぉ??」


「あぁっ!! ひっどぉい!!」



 好戦的な下着を棚に置き、違う色の花が咲く場所へと移動を開始した。



「…………」



 喧しい女性達が先程手に取っていた下着を何気なく手に取る。



 ふぅん……。形はともあれ材質は良いじゃない。


 ツルツルした感触が指の腹を喜ばせ、肌もニッコリと笑みを浮かべて満点の評価を出すでしょうね。



 色は……。黒と赤の二種類か。


 二つの色を見比べていると。



『彼氏さ――。こういうのが好きなんだって』



 先程の女性の言葉がふと頭の中を過って行く。


 レイドは……。何色の下着が好きなんだろう??


 彼は汚れが目立たぬ黒の服を好んで着ているけど、異性の下着の色の好みまでは流石の私も分からないし。


 機能性を重視しているのは知っているけどこれは流石に引いちゃうかもなぁ。


 必要最低限の場所を隠すだけの布面積、所々が透けてしまい地肌がガッツリ見えちゃってるもの。



「お客様!! どうですか!? その新作の下着は!?」



 様々な角度で好戦的な下着を興味深く見ていると背後から元気な女性店員が声を掛けて来た。



「…………」


 彼女に対し、愛想笑いを浮かべると。


「その下着。お客様の様なお美しい方に誂えた形だと思いません??」



 店員が取るべき雛形の笑みを浮かべ、媚び諂う言葉を放ち私の隣に立つ。


 そうかなぁ?? ちょっと攻め過ぎの様な気がするのよね。



「お客様の体型ですと……。胸を支えるのは一番大きな形が宜しいかと思います。下の下着は……。まぁ!! 完璧な曲線で御座いますね!!」



 ど、どうも。


 おべっかだと分かっていても褒められて悪い気はしないわね。



「ささ!! 是非試着してみて下さい!! あ……、勿論。衛生面を考慮して上半身のみの試着になりますが……」



 ちょっと!! 背中押さないで!!



「はぁい!! では、ごゆっくり――!!」



 何と言う強引さ。


 赤と黒。


 その両方の下着を手渡され、あっと言う間に試着室に押し込まれてしまった。

 

 まぁ……。興味があったからいいけど。折角だし、試着してみようかな。



「……」



 お気に入りの上着を脱ぎ、シャツをパパっと軽快に脱いで手渡された下着を早速装備してみる。


 えっと……。こんな感じかな??


 下着の中に二つのお肉ちゃんをムギュっと収め、そして綺麗に整えて己が胸を見下ろした。



 あはっ、良いじゃない。


 形の良い双丘は更に男心を擽るものへと昇華し、透けた布地の隙間から白く肌理の細かな地肌が露出している。


 地肌に当たる感触も心地良いし。うん、買ってもいいかも。


 ふふっ。この下着姿を見たら気絶しないかしら??



『ねぇ――。見て?? 新しい下着だぞ??』



 私が何かを誘う笑みを浮かべて惜しみなく下着姿を披露する。


 どうせ慌てふためいて脱兎の如く逃げ出す……。



『良いじゃないか。良く見せてくれ……』



 あらっ?? 現実の彼は恥ずかしがって目を覆い、裸足で逃げ出しちゃうんだけど??


 これが下着の力なのかも知れない。


 その力にあやかる訳じゃないけど、形も素材も気に入ったし。


 買っちゃお!!



「どうでしたか!?」


 試着室を出るなり、先程の店員さんが私を逃さぬ様しっかりと迎える。


「……」


 黒の下着を手に取り、私は小さく頷いてやった。


「ありがとうございます!! 上下の購入で宜しいですね!?」



 勿論。


 続け様に小さく頷く。



「ではこちらへどうぞ!!」



 忙しないわねぇ。もうちょっとゆっくり歩きなさいよ。


 急ぐ店員に対し、私はゆるりとした歩調で会計へと向かった。



「いやぁ、この下着なんですが……。正直、体型に似合う人がいなくて扱いに困っていたんですよぉ」



 へぇ、そうなんだ。



「美の女神も羨む大きさの胸はしっかりと張り。つんっと上を向いた滑らかな曲線を描く臀部。お客様の様な超完璧な体型はおいそれとはいませんので」


 そ、それはちょっと褒め過ぎじゃない??


「売れ筋商品ではありませんので在庫行きかと思いきや……。本当に有難う御座います!!」



 な、何??


 急に声を張り上げて。



「この下着屋に務めて早三年。何百何千と女性の体を見て来ましたが、私は本日至高の体と初めて出会ったのです!! こうして声を張り上げるのも致し方ないと思いませんか!?」



 至高??


 それって私の事かしら??



「そうですよ!! お客様の事でございます!! 感動に打ち震え、こう……。胸の奥がグっと燃え上がっているのです!!」


 そ、そう。それは良かったわね。


「完璧な体に出会えた。それを祝し更に年末の大特価割引を致しまして、この下着を半額の五千ゴールドで提供させて頂きます!!」



 それはど――も。


 現金を渡そうと財布を取り出すが……。私は見逃さなかった。



「お客様……。それは??」



 受付近くの棚から、胸が膨らみかけた子供といつまでも胸が成長しない大人。そのどちらにも通用してしまう程の大きさの下着を手に取って受付に置いてやる。


 黄色を基調とした下着で上の下着には可愛い鼠の刺繍が施されていた。



「ま、まさか……。お子様がいるのにその体型なのですか!?」



 違います。これは揶揄い用に買うんです。


 値段も五百ゴールドだし。



「ま、参りました……。えぇい!! 二つで、四千ゴールドで構いません!!」



 どんどん安くなってない??


 お店の経営的に心配になるけど、安くなるのは助かるわ。


 財布の中から現金を取り出し、煌びやかに瞳を輝かせている彼女へ御釣りの無い様に現金を渡す。



「袋は分けて居れますね。毎度ありがとうございましたぁ!! 是非、また来てくださいねぇ――!!」



 そして、女性専用の武器が入った綺麗な花柄の紙袋と。揶揄い用の下着が入った紙袋の二つを胸にきゅっと抱いて店を出た。



 ふふっ、良い物買っちゃった。


 少しだけ浮かれた気分のまま軽やかな足取りで西大通りを進んで行く。



 至高の体、か……。ちょっと自信持っちゃおうっかなぁ――。


 今度レイドと会う時はこの際どい下着を着けて行かなきゃなぁ……。


 んふっ。どうやって見せてあげよう??


 二人きりの時?? それだと中々時間が取れないしぃ。彼の精神世界に飛び込んだ時にしようかな??


 それなら惜しげも無く見せられるし、触ってくれるかもねっ。



『あらっ……』



 しまった。ここはどこかしら??


 生活感溢れる痛んだ家屋の壁、表通りのそれに比べて黒くくすんだ石畳、そして人の気配が感じられずシンっと鎮まった雰囲気。


 浮かれた気分のまま歩いていた所為か、全く見覚えの無い裏通りに迷い込んでしまっていた。


 歩いている途中、必死に生殖行為に繋げようとする男共の憐れな声が聞こえていたが……。それを無視し続けている内に裏通りへと来てしまったようだ。



 まぁっ、いっか。


 誰もいなし、嫌がらせとして下着を空間転移させよっと。



『ふぅ…………。んっ!!』



 右手に矮小な魔力を籠めると淡い光を放つ魔法陣が浮かび上がり、揶揄いの品と自分用の下着を目的地へ超爆速で配達してあげた。



 これにて終了っと……。


 ぷっ、クスス……。グウェネスの奴、おこちゃま用の下着を送られてきっと怒り心頭なんだろうなぁ。


 眉間に皺を寄せてどこにもぶつけようも無い怒りを感じている彼女の顔を想像するとどこまでも心が湧いてしまう。


 一通り満足して表通りに向かおうとすると……。




「ちょ――っと待った。へへ。姉ちゃん。お時間いいかなぁ??」




 目付きの悪い男が私の行く手を阻んだ。


 中肉中背で汚れが目立つ服に身を包み、刃渡りが短いナイフを右手に持つ。


 何か、典型的な強盗って出で立ちよねぇ。もう少し凝った服装とか、派手な登場で驚かして欲しいものよ。


 他に凶器は……。持って無いわね。


 更にクソ男の足元に視線を移す。



「なぁ――。俺さ――。ちょ――っと困っているんだよねぇ」



 普通の靴に汚れたズボン。


 重心を置き方、隙だらけの構えに殺気の籠っていない目付き。


 はぁ……。相手にするのも面倒な糞雑魚か。



「ちょっと前にさぁ。向こうの路地裏で仕事前に小遣い稼ぎしていたら変な女にいきなり殴られてよぉ。気持ちよぉぉく気絶しちまったんだ」



 私の買い物の邪魔をした罪は重いわよ??


 先ずは両手両足を業火でじぃぃっくりと焼いて動けなくしてぇ。それからぁ、体中の骨を丁寧に一本ずつ折っていこうかしら。



「んで、気付いたらなぁぁああんと!! 北の辺鄙な場所で起きたんだよ!!」


 どうせ酔っ払っていたんでしょ??


「そこから右往左往しながら街道を南下して。さっき王都に到着したばっかりでね……」



 おっ、雰囲気変わったわね。



「実はお金に困っているんだよ。お姉さん、美人でお金持っていそうだし。有り金全部くれないかなぁ??」



 それ、脅しているつもり??


 手元のナイフを無意味にちらつかせ、刃面の光が男の薄汚い顔を下から照らす。


 ん――。例えあのナイフに刺されても治癒魔法を掛ければ……。刺されている最中にでも治りそうね。



 ちょっと脅かしてやろうかな?? 淫魔のお姉さんに喧嘩を売ると恐ろしい事になるんだぞ――って。



「なぁ?? 聞いてんのかよ??」



 やっぱやめ!!!! 面倒!!


 大体、こいつ誰に話し掛けていると思ってんのよ。


 無視して行こ――っと。



 あからさまに面倒な溜息を零して男の脇を通り過ぎようとした、その刹那。



「おいっ!!」



 ナイフの切っ先が私の鼻先を掠めた。



「無視すんなよ」



 あ――らあらあら。せぇっかく最初で最後の好機をあげたのに。


 それを不意にするなんて……。ド屑失格よ??



「……」



 私は男に向かい、人差し指をすっと曲げて親指の腹に掛けてやった。



「あ?? 何それ?? まさか、人差し指一本で俺に勝つつもり??」


 不服なら……。小指でもいいけど。


「あはは!! 気に入ったよ、あんた。ほら、好きに打ってみろ」



 心底ムカツク笑みを浮かべるとさぁ此処へ打ちなさいとして薄汚れた額を披露する。


 そこでいいの??


 じゃあ、いくわよ……。



「はぁい。どうぞ――」



 彼の額の前に手を翳し、砂粒程度の魔力を指先に集約させる。


 えぇっとぉ。死なせない程度に手加減をしないといけないからぁ……。魔力はこれ位かしらね??


 地面を這う蟻を摘まみ上げる程度の力を籠め、糞雑魚ナメクジの額に狙いを定めた。



「ほぉら。打って…………。あぐべばっぁぁああ!!!!」



 おぉ!! 飛んだ飛んだ!!


 指先がとんっと触れるとほぼ同時。


 憤りがスカっと爽快に晴れ渡る角度で後方の家屋の壁へと吹き飛び。



「…………。あっがっ」



 そして壁に衝突して地面に倒れ込むとそのまま白目を向いて失神してしまった。



 ば――かっ。人間風情が私を襲う何て烏滸がましいのよ。


 さてさてぇ……。皆さんお待ちかね、お仕置きの時間の始まりっと!!



『ふっふふ――ん』



 北から来たって言ってたからぁ……。もう一回送っちゃおっ!!


 鼻歌混じりに本日二回目の空間転移の用意を整え魔力を放出すると男の髪の毛一本残らず北の大森林へと送ってやった。



 寒いわよ――?? この季節の大森林の夜は。


 勧善懲悪の余韻に浸り荷物も送って身軽になった所為か気分が頗る良い。



 さて!! この後は小物とか色々見て回って満足のいく買い物を済ませてから大陸横断に戻ろ――っと。


 再び軽やかな歩みで大通りへと戻り年末の活気が溢れる大通りを進んで行った。



「「……おぉっ」」



 彼女の浮足立った様子を見た街の男共は感嘆の声を上げて女の歩く姿に只々見惚れていた。


 歩く度に揺れる形の良い双丘、彼女が横を通り過ぎれば心が騒がしくなってしまう香りが鼻腔に届き。背に流れる桜色の髪が否応なしに男達の視覚を独占してしまう。


 世界中の美を詰め込んだ彼女の前では、世の女性はあくまでも彼女の美を装飾する為に添えられた花。


 その中央に存在する彼女は意識せずとも幾百の男の視線を独占していた。



「お、お姉さん!! 一緒に食事に行きませんか!?」


「なんでも奢るから!! 一緒に歩いてくれ!!」



 幾人もの男が玉砕覚悟で世界一へと挑戦するが……。彼女の前に立ち塞がる巨大な壁の前に崩れ去ってしまった。



「ねぇ!! さっきからどこ見てるのよ!!」


「あ、あぁ。ごめん……」



「ちょっと!! あの女の人の事見過ぎっ!!」


「いや、だって……。滅茶苦茶美人だから……」



 いつか私もあんな風に男共を容易に魅了出来る美貌を手に入れてやる!!


 彼女の容姿に魅了されてしまい鼻の下をだらしなく伸ばしたかれしの顔を捉えて一念発起するのだが……。数日後の冷静になった頭で考えるとそれは到底叶わぬ夢であると、ふと我に帰るのであった。



お疲れ様でした。


この御話で買い物を終え、彼女は次の目的地へと旅立ちます。


次に迷惑を被るのは一体誰なのか。それを楽しんで頂ければ幸いです。


そして、次の更新は本編になります。そちらでまたお会いしましょう!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ