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買い物という名の脂肪燃焼運動へ向かっていざ出発っ!!

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 速読と捺印、捺印と速読。交互に行われる煩わしい単純な作業を文句の一つも言わず……。


 いや。何度か鬱憤を晴らす為、その辺りの物を掴んで乱雑に投げてやったわね。


 だって腹が立つじゃない?? 私が一生懸命仕事に没頭しているってのに我関せずぼ――っと存在しているのだから。


 少々遠回りをしたけど繰り返される一連の作業を滞りなく済ませた御蔭か、太陽が真上に昇る前に山を見事に制覇してやった。



「ん――――!! はぁっ。終わったぁ――……」



 椅子の上でぐんっと体を一伸びさせ、凝った腰と肩の筋力を解してやる。


 いたた……。慣れない事はするもんじゃないわねぇ。


 双肩に発生するズキンとした痛み、大きな鉛の塊を乗せられた様に腰がずんっと重たい。


 誰かに揉んで解して貰いたい気分だわ。



「失礼致します」


 長い箒を片手にグウェネスが入室してくる、そして私の机の上を見ると。


「おや、もう済んだのですか??」


 意外、そんな目で仕事を終えた私と積み上げられた書類を交互に見つめていた。


「ふふん。超優秀な私が全力を出せばこんなもんよ」



 たわわに実った果実を強調する様に、椅子の上で胸を張って言ってやった。



「超……について。その点は甚だ疑問が残りますが。優秀なのは肯定出来ます」



 うわっ、出た出た。


 そうやって一々あれこれ文句付けてからの肯定。


 素直に褒めればいいのにどうして回りくどい言い方をするのかしらね。



「所で。あそこに無惨に転がっている細かい皿はどうされたので??」



 部屋の片隅で一個から数十個に分裂してしまった皿を冷たい瞳で見つめる。



「なんかさ。飛びたい――って言ってたから承認してやったのよ」



 我関せず。どこ吹く風。興味索然。


 飄々とした口調で明後日の方向を見て話してやる。



「こうして我々下の者が女王の我儘にお付き合いして疲労が蓄積されていくのですよ?? 第一、物に当たるのは女性としてどうかと思います」



 部屋の片隅に向かい歩き始め。


 沢山に増えた皿を箒で一箇所に集めて行く。



「し――らないっ」


「左様で御座いますか。エルザード様」


 特に感情が籠っていない声が部屋に響く。


「なぁにぃ??」



「そろそろご出発したら如何です?? その……フッ。減量?? ですか。多くの時間を飛翔に費やせばその分。脂肪の減量に繋がると思われます。それにこれ以上余計な物を増やされても困りますので鬱憤晴らしのついでに買い物は一考の価値があると思いますよ」


「…………グウェネス。途中、笑った??」


「いえ?? 埃が喉に入りましたのでその所為かと」



 絶対嘘だし。


 絶対、私の事太ったと思っているし!!



「じゃあ出掛けようかなぁ?? あ、そうだ。グウェネス――」


「何で御座いましょう??」



 今もせっせと箒で掃除を続ける彼女に扉の前から言ってやった。



「新しい下着、買って来てあげようかぁ?? ほらぁあんたのそれ。クスッ。知ってるわよ?? 何か詰めているでしょう――??」


「いいえ?? 何も詰めていませんが??」



 むっと眉を顰めてこちらを睨む。


 流石、先代の女王に仕え里を支え続けた事はあるわね。


 静かに佇むも彼女の細い体からは私も思わず頷いてしまう程の魔力が放たれていた。



「私のより大分小さいからさぁ。そのちっちゃな胸に合う下着、沢山売っていると思うのよねぇ??」


「結構で御座います。私は自分に合う下着しか着けませんので……」


「ぷくく――。そう謙遜なさらずにぃ?? 買って来てあげるって――。私位の大きさの奴をさ――」



 あ――。さいっこう!!


 こうしてクソ真面目な奴を揶揄うのってなんでこんな楽しいのかしらねぇ。



「左様で御座いますか。では、一つ所望しても宜しいですか??」


「んふっ?? なぁにぃ??」



 数段高い位置から勝ち誇った笑みで見下ろしてやる。



「大きな石鹸を所望しても宜しいですか??」


「石鹸?? 備品室になかったっけ」



 確か、買い物ついでに買って来たと思うけど。



「はい。シーツの『しつこい』 汚れを落とすのに大量の石鹸が必要になりますので」


「だ、だから!! 汚く無いって言ってんでしょ!!!!」


「はて。私は一度もエルザード様のシーツだとは言っていませんが??」


「大体!! 私は一族を束ねる女王よ!? 立場を考えなさい!! 立場っ!!」



 人目も憚らずに大声を出してやると、窓の外で羽を休めていた小鳥達が驚いて飛び立って行ってしまった。



「立場?? それはもう重々に理解しておりますが」



 こ、この!! よくもまぁあっけらかんと言えるわね!!



「あんたは私を支える役目を担っているんでしょ!!」


「それと同時に指導を施す様にと先代様から受け賜わっております。特に、その……大きな尻を拭う為、注力を尽くす様にと口を酸っぱくして言われていましたね」


「誰の尻がデカイって!?」


「さぁ。聞き間違いでは??」


「もういい!! 出掛ける!!」


「畏まりました。気を付けていってらっしゃいませ。人様に迷惑を掛けぬ様、心掛けて下さい」


「うっさい!!」



 あぁ――もぅ!! 腹立つわね!!


 小さい頃からガミガミとしつこく文句言って!! 大人になった今もかわりゃしないんだから!!


 力一杯に扉を閉めて自分の部屋へ大股で向かう。



「この行き場の無い怒り。どうしてくれよう……」



 今からクソ狐の所に行ってぱぁっと温泉に浸かる??


 いやいや、先ずは買い物よ。憂さ晴らしの為に両手に抱えきれない量の買い物をしてやるっ。


 流行りの服、可愛い下着にカッコイイ小物。


 そして今日受けた仕返として子供用の下着買って転移魔法で送りつけてやる……。


 覚悟なさいよ。


 淫魔の女王を怒らせたらどうなるかを嫌って程知らせてやるんだから!!


 肩で風を切り、木製の床が苦い顔を浮かべる勢いで廊下を進んで行った。






















 ◇




 お出掛け用の荷物を纏めて小さな鞄の中に詰め込み、屋敷の外に出ると元気一杯の太陽が私の出発を明るい笑みで祝ってくれた。



「んっ。い――い天気っ」



 さっきまでの憤りが太陽の光で溶け出しちゃいそうねぇ。


 不意に訪れてくれた温かい冬の陽射しについつい顔の筋肉が緩んでしまう。



 さ――てとっ!!


 気分を変えてパァ――っと!! 買い物に出掛けましょう!!


 いつまでも怒っていたら皺になっちゃうし、掘り出し物を求めて大冒険の始まり始まりぃっと。


 屋敷の外と中を隔てる門へ続く整理された石畳の上を軽い足取りで進んで行くと、道の両脇に美しい花が咲いていた。


 冬の殺風景を彩る大輪の葉牡丹、シクラメンの香りが少し冷たい風に乗って鼻腔を楽しませてくれる。



「ふぅん……。綺麗じゃない」



 クソ真面目な淫魔のグウェネスが手入れしているだけであって冬の寒さに負けずに元気に咲き誇っているわね。



 どこぞの婆じゃないけど、私は余り花の手入れに興味は無い。


 でも、私も一人の女性なんだな。


 綺麗な花を見ると自然に陽性な感情が沸いてしまう。



 いつか、レイドがさ。


 両手一杯の花束を持って来てくれないかなぁ。



『お待たせ。エルザード』


 そうそう。いつものはにかんだ顔で待ち合わせに遅れて来るの。


『遅い――。わっ。なぁに?? その花』



 待ち合わせに遅れた手前。


 本当は微塵も怒っていないけど怒った振りをして、彼が両手に持つ花を見て驚くのよ。



『エルザード、喜ぶかなぁって』


『は、花じゃ喜ばないもんっ』



 嘘仰い。


 本当は凄く嬉しい癖に。



『遅れたのは謝るよ。だから、な??』



 あ――もう――。嗜虐心をそそる顔ねぇ。



『じゃあ……。しよ??』



 どうせ色々と理由を付けて断るんだろ――な――。


 こぉんな美女の誘いを断るなんて勿体ないぞ。大体、雄の務めを果たしなさいと言っても全く聞く耳を持たないんだから……。



『えぇ!?』



 ふふ、ほらね??


 目を真ん丸にして驚いちゃって。その可愛い顔に免じて許してやろう。



『仕方ないなぁ……。昨日も沢山したし。一回だけだぞ?? これから食事なんだから』



 やれやれといった表情を浮かべると私の細い腰をきゅっと抱き寄せ、優しい顔が眼前に迫る。



『へっ!?』


 彼の予想だにしない行動を受けた妄想の中の自分と、現実の自分が同時に驚く。


『ほら、脱げよ。エルザードの全部は俺の物なんだろ?? 腹の奥まで俺の命を注いでやるよ……』



 あぁ!? 駄目!!


 そんな乱暴に服を脱がされたら私っ……!!!!



「――――。エルザード様、如何なされました??」


「へっ??」



 いつの間にか屋敷の外に出てしまっていたようだ。


 妄想もここまでくると呆れてくるわね。


 屋敷の外。


 里の外まで一直線に続く左右に開いた大通りに一人の淫魔が立ち、私の様子を怪訝な表情で見つめていた。



「ちょっと考え事していたのよ」


 咄嗟に思いついた言い訳を放つ。


「そうですか。駄目ですよ?? ぼうっと歩いていたら。木に当たるかもしれませんからね」


「私は犬か」


「ふふっ、冗談ですよ。では失礼致します」



 小さく頭を下げると通りの向かいにある家の中へと向かって行った。


 里の中央を通る大通りの左右には大小様々な木造の家が立ち並んでいる。先代から引き継いで少々痛みが目立つ外壁の家屋、新築の木目が美しい二階建ての家屋等々。


 この里で普遍的な暮らしが出来る様に各々が工夫を凝らして好きな様に家を建てている。



 まぁ、この家屋全部に人が住んでいる訳じゃないんだけどね。


 淫魔は自由奔放。


 好きな時に帰って来て好きな時に出掛ける。それをモットーに人生を謳歌しなさい。


 母親が亡くなり私が女王の座に就いた時、初めて里の者に命じたのがそれだ。


 人からやれこ――しろだ、あ――しろ。大体、何かに縛られて生きるのって窮屈なのよねぇ。



 自由奔放に生きる私だけどある程度の事は勿論ちゃんとしているつもりよ??



 偶に屋敷で行う執務、極々稀に召集される一族の長達との集い、そして世話のかかる生徒達の指導。


 その指導の所為か彼等に会う度に時間が過ぎて行くのが早く感じわね。


 九祖の血を受け継ぐ子達はある程度教えれば勝手に強くなっていくけど。


 レイドの場合は……。まっ、私が付いていれば大丈夫でしょう。


 手取り足取りねっとりと絡み付く様に指導しないとねぇ。


 ふふ、私のイケナイ妄想を受けて今頃クシャミしていないかなっ。



「………あっ。そうだ」



 ある一軒の家の前を通過しようとした際に出産承認の件を思い出した。


 確かここの家よね?? 出産間近の子って。


 出掛けるついでに様子を見ていこ――っと。



「やっほ――。ラーナいる――??」



 家主の了承も得ずに大分古くなった木製の扉を開いて我が家に帰って来た様に何の遠慮も無しにずかずかと入る。



「エ、エルザード様!! お久しぶりです!!」



 私の突然の訪問に目を丸くして包み隠さずに驚きを表現していた。


 そりゃそうよね。いきなり人が入って来たら誰でも驚くでしょ。



 まぁまぁ広い一階の部屋の中央に置かれている四角の机。


 その上には食器やら日用雑貨が整然と置かれ、彼女は大きな椅子の上に大分楽な姿勢で寛いでいる。


 そして……。


 朗らかな笑みを浮かべて大きくなったお腹を大事そうに撫でていた。



「久々ね。おぉ――。こりゃまたおっきいわねぇ」


 彼女の前にすっとしゃがみ、新しき命が宿るお腹に優しく手を添えてやった。


「あ、ありがとうございます。態々様子を見に来て頂いて」


「ついでよ、ついで。今から出掛ける所だったからさ」


「は、はぁ……」


「ね?? 相手の男、どんな人だった??」



 机の対面。


 そこに置かれている座り心地の良い椅子に座って問う。



「えっとぉ。黒髪が良く似合って、凄く笑顔が素敵な男性です」


「…………ちょっと。その男ってパルチザンの兵じゃあないでしょうね??」



 まぁ有り得ないとは思うけどさ。万が一って事もあるから確認しなきゃ。



「いいえ?? 旅商人の方ですよ??」


「あ、あぁ。そう言えば書いてあったわね」



 いけない。落ち着きなさい、私。


 彼は凡百の女には靡かず、私だけの事しか頭にないのよ??



「ちょっとはにかんだ顔が良く似合うんですよ」



 くそぅ、それ。滅茶苦茶分かるわ。



「言葉が通じないけど表情と手の仕草で何んとか意思の疎通を図り、頑張って私から誘ったんです。あ、エルザード様から受け賜わった魔法。そして、一族の掟に則って子を授かりましたから安心して下さい」


愛の牢獄(メルティルーム)?? 精神世界の中だけど、ちゃんと人間と会話出来たでしょ??」



 肉体は認識阻害によって汚されているが魂までは汚されていない。


 特殊な空間を作り出して互いの肉体から穢れ無き魂をそこへ移動させ、外の肉体と同調させる。


 つまり、夢の中に居る様な感覚だけど。夢の中で行われている行動は現実でも行われているのだ。


 認識阻害を一時的に遮断出来る魔法はかなり高度な術式が要される。


 その分、愛の牢獄は大量の魔力を消費するが他人の意識を操れる淫魔の特徴を最大限に利用した魔法だ。


 我々にとってお誂え向きな魔法なのだが……。これを開発するのに膨大な時間を要したのよねぇ。


 まっ、種族繁栄の役に立てたのが唯一の救いだ。



「は、はい!! 奥手な私でも彼が頑張ってくれました!!」



 ちっ、それはよう御座いましたね。



「夢と現実。両方で両方が頑張って……。お互いの命を溶け合うまで混ぜ合わしました。それはもうっ……ふふ。天にも昇る気持ち良さで。私、何度失神した事か……。クタクタになって横になり、そして起きては続ける。その繰り返しでもう……」



 お――い。帰ってこ――い。


 その時の情事を思い出しているのか。頬をポっと朱に染めていた。



「その男、そんな強い精力の持ち主だったの??」



 まぁ私の夫には勝てないでしょうけどね。



「い、いえ。普通でしたよ?? た、只。私が初めてでしたので……。その……耐性が無い所為か。直ぐにアレを迎えてしまいまして……」



 あ――。はいはい。アレ、ね……。


 何よ!! アレって!!


 した事が無いから分からんっ!!!!



「最初、貴女が出産すると聞いて驚いたのよ?? 一族の掟を破ったんじゃないかって」



 淫魔の掟、それは子を孕む時は必ず淫魔から男を誘い精を貰う事。


 強制的。


 つまり、男から無理矢理迫られる方法は古来から認められていないのだ。


 九祖から見れば人間は只の生殖の道具若しくは餌。


 それに無理矢理迫られる等言語道断、という訳でいつしかその様な掟が出来たそうな。


 まぁこれには私も少しばかり理解出来てしまう。


 だってさぁ。好きでもない男の精なんていらないし。ましてや子供の事なら尚更だ。


 好きな男の精を貰い己の命と混ぜ合わせる。


 はぁ……。きっと素敵な感情が沸くんだろうなぁ……。


 いいなぁ。私もガッツリしたいなぁ……。



「大丈夫ですよ。彼とは二日間かけてお互いの愛を確かめ合い。互いの体を貪り尽くしましたから」


「そ、そう」



 うはっ。ラーナの口から貪り尽くすと来ましたか。


 たかが百歳程度のお子様の癖に……やるわね。



「それより……。どうですか?? エルザード様の方は」


「へ?? 勿論、気に掛けている……。いや。もう心に決めている人はいるわよ??」



 そう話すと。


 一人の男性の慌てた顔が頭の中に浮かんだ。



『お、俺にはまだやるべき事が沢山あるんだから!!』



 まぁた、そうやって私から逃げる――。



「本当ですか!? 良かった――。エルザード様から浮ついた話を聞いた事はありませんでしたので」


「ちょっとぉ。酷くなぁい??」


「ふふ。申し訳ありません。……いたっ!!」



 柔和な笑みを浮かべていると突然顔を顰めた。



「どうしたの??」


 慌てて彼女の下に歩み寄る。


「だ、大丈夫です。お腹の中の子が蹴っちゃいまして……」


「ふふ。こらっ、お母さんが痛がってるぞ」



 すっとしゃがみ、ラーナのお腹に手を添えて言ってやると。



「…………。本当にやんちゃね」


 今も手の平から動く様が伝わって来た。


「あ、はい。偶に寝返りというか……。子宮の中で体をゴロゴロと動かすんですよ」


「わんぱく娘め。生まれて来たら泣き叫ぶまでこわ――い指導しちゃうぞ??」



 添えている手を通して淫魔の女王様の実力を知らしめてやると……。



「あらぁ……。赤ちゃんでも分かるのかなぁ??」



 先程まで活発に動いていた動きが途端に止まってしまった。



「きっと女王様の威厳に慄いたのでしょう」


「苦しゅうない、面を上げよ!! 我は淫魔の女王なり!! ってね??」



 片目をパチンっと瞑り、ラーナを見上げてやった。



「ふふふ。お戯れを……」


「いい話聞かせて貰ったわ。じゃあ、そろそろ出発するわね??」



 すっと手を放して扉へと向かう。



「エルザード様。ありがとうございました。娘もきっとエルザード様の魔力に触れられて喜んでいると思います」


「ん――?? いいって。生まれたら教えてね??」


「は、はいっ!!」



 ぱぁっと明るい顔を浮かべ、私を見送ってくれた。



「はぁ…………」



 家の外に出ると意識していないのに大きな溜息が出来てしまう。


 これってきっと……。一人の女性として追い抜かされた事にがっかりしているのよねぇ。


 魔法の種類、強力な魔力、そして単純な強さ。そのどれもがラーナの数千倍上なのに。


 母親としての強さは向こうが数千倍……。


 いやいや。孕んでもいないから勝負にもならないか。



 里の外へと向かいつつ将来の自分の娘の事が頭の中で浮かんだり、消えたりしていた。



 レイドと一緒に育てていくのもいいなぁ。


 でも、私の娘だからきっと言う事を聞かないよね??


 淫魔の血を色濃く引く訳だし。



『こらっ!! 言う事聞けって言ってるでしょ!!』


 娘の横着に対して私がそう怒ると。


『え――。お母さんこわ――い。それにお父さんはやっても良いって言ったよ??』



 私に似てしまった娘はそうやって責任転嫁するのだろう。



『まぁまぁ、落ち着けよ。この子も悪気があった訳じゃあないし』



 そして私の夫はあのはにかんだ顔を浮かべて困り果てるんだろうなぁ。


 この光景だけは直ぐに想像出来てしまう。



『やったぁ!! お父さん大好きぃ!!』



 むっ、娘よ。


 幾ら血の繋がった者とはいえその人だけは渡せないわね。


 そこから娘と絶え間ない喧嘩が続き、くたくたに疲れ果ててベッドで休むんだろうなぁ。


 そして、レイドがベッドに腰かけて労ってくれるんだ。


 …………。



 やめやめ!!


 頭の中に広がる自分本位な妄想を手で振り払ってやった。


 危ない、また向こうの世界に行ってしまう所であった。


 現にいつの間にか里を出て森の中に出てるし……。



 深い緑の中に風がさぁっと吹くと木々の枝が揺れ動き、葉が擦れる小気味良い音が体を優しく撫でてくれる。


 鳥達の歌声が耳を喜ばせ、木の幹を一生懸命に昇って行く愛くるしい栗鼠の姿が私の心を掴む。



「あはっ。栗鼠さん。頑張ってね??」


「……」



 そう話すと私に一瞬だけ視線を送ると森の奥へ姿を消してしまった。



 やっぱ栗鼠って可愛いわねぇ。あのモコっとした尻尾に私の心は釘付けよ。


 さて!! ここで立って居ても買い物は出来ないし。


 久々に本来の姿に変わりましょうかね。



「んっ…………。はぁっ!!」



 腹の奥底に力を籠めて魔力を解放すると体中から力が溢れて滾って来る。


 久々に解放したけど……。



「ふふっ。いいわねぇ。この高揚感」



 私の魔力に恐れて周囲の風が止み、大地が小刻みに揺れて矮小な砂が地面から浮き上がる。


 恐れ戦け。我こそ九祖が一人。淫魔の女王よ!!!!


 世界最高の魔法使いが格好良く現世に降臨したのはいいけども。



「この翼、なんとかならないかしらねぇ。それにぃ、この角……。全然可愛くない!!」



 腰とお尻ちゃんの中間地点から蝙蝠の翼に似た漆黒の翼が生え左右に伸びる。


 漆黒の翼を見た者は恐れ、頭を垂れ、許しを請うのだが。どうせならアレクシアの翼みたいにふわふわの毛がついたのが良かったなぁ。



「……っ」



 頭にそっと手を添えると、硬い感触が私の心を嫌な感覚が侵食する。


 この角って見た目はまんま山羊の角、よねぇ??


 くるりと丸みを帯びた純白の角は淫魔の女王である証拠なのだが。


 硬いし、可愛くない!! 角なんていらないのよ!!


 何でこんな所に生えるのかしらねぇ。


 それにと肌に浮かぶ赤い紋様!! 私の白い肌が台無しよ!!


 服の隙間から覗く、淫魔の女王にしか浮かばない朱の紋様に顔を顰めた。



「レイドが見たら怖がるかなぁ……」



 これから先、ずっと一緒に過ごして行きたいからさ。


 私の本当の姿は見て貰った方がいいよね?? 何かを隠して生きて行くなんて絶対嫌だし……。



 ん――。まぁ、その内でいっか。きっと気に入ってくれるわよ!!


 いや、でもなぁ……。驚いて距離を取られたらどうしよう……。



 淫魔の女王が森の中で腕を組み勝手気ままに落胆したり、独りよがりの想いを抱き発奮して浮足立っている。


 そんな中、森の生物達は常軌を逸した女王の魔力を受け微動だに出来ず苦しんでいた。


 一刻も早くこの森から立ち去ってくれ。


 矮小な彼等に出来る事は只一つ。彼女の逆鱗に触れぬ様、静かに祈りその時を待つ事だけであった。




お疲れ様でした。


本編では淫魔の里について少し触れましたが、番外編ではこんな感じで本編では余り触れない場所にスポットライトを当てる予定です。


これから淫魔の女王様が何処へ出掛けて、誰に迷惑を掛けるのか。それを楽しんで頂ければ幸いです。



今日一日を費やして人間側の訓練突入までプロットを書き終えましたので、明日は本編を更新させて頂きます。


魔物側の訓練のプロットも着実に出来ていますので御安心下さいませ。


それでは皆様、明日は本編でお会いしましょう!!

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