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傍迷惑な淫魔のお散歩 ~プロローグ~

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 ~この御話は本編第三章百三十一話の前日譚となります。~




 年の終わりに相応しくない柔和な光がカーテンの隙間から差し込み、本日の始まりを静かに伝えてくれる。


 朝に強い人ならさぁ今日も一日頑張るぞ!! と。体を優しく包み込む羽毛の布団を蹴り飛ばして太陽に挨拶を交わすのだが……。生憎私はそこまで朝に強くない。


 寧ろ弱い分類に属しているだろう。



 う……ん……。この朝の微睡……。


 いつまでも感じていたいわねぇ……。



 温かな空気の中でゆるりと寝返りを打ちながら確実な幸せを噛み締めていた。



 自室での久々の睡眠。


 自分が思っているよりも心が落ち着いているのかもね。


 朝の清らかな空気の中に響く小鳥達の歌声が微睡を更に昇華させてしまい、再び深い眠りへ就こうとして幸せな吐息を漏らそうとした刹那。



「エルザード様。失礼します」



 非情の鐘の音がこの幸せな微睡に終了を告げてしまった。



 何よ、もうちょっと寝ていたかったのに……。


 こっちの気持ちなど一切考慮せず、無感情な足音が部屋を横断。薄暗い部屋の中に眩い光を招き入れた。



「おはようございます。エルザード様」


「ん――。おはよ――。グウェネス」



 シーツの中から目元だけを覗かせ、私の側近である彼女を視界に捉えた。


 艶を帯びた黒き髪を後ろに纏めて本日は右目側に前髪を流している。


 こんもりと盛り上がった双丘が窮屈そうに雄叫びを上げ、黒の服をぐっと押し上げていた。



 アレ?? 私がいない間に成長した??



 黒を基調とした真面目な服は四角四面の性格の彼女に酷く似合っている。いつもてきぱきと任された仕事を熟し。私が偶にしか帰って来ない事にも苦言を吐かない…………。事は無く。


 仕事が遅い、或いは全然屋敷に帰って来ないと恐ろしい瞳で睨んで来るわよね。



 気分屋である私が中々屋敷に帰って来ない事に対し、真面目な彼女が淫魔達の事を管理してくれている御蔭で私はある程度の自由を得ている。


 淫魔の癖に馬鹿真面目。少なくとも私より百は年上なのに子供はいない。


 何でも??



『私が満足する雄で無ければ孕む事は致しません』 と。私の問いに対して大変硬い顔で答えた。



 種を後世に残す為、私達は日々を生きているのよ?? それなのにやれ相手が見つからない。やれ仕事が忙しいと公明正大な言い訳を理由として中々相手を見つけようとしていない。


 自分で見出した答えへと愚直に進むのではなく、変わりゆく状況に答えを柔軟に合わせる。そんな考えが今風なのにねぇ……。


 顔もまぁ結構可愛いし、適度な相手を見付ければいいのになぁ。



「早速ですが執務のお時間でございます」


「え――。いやぁ――……」


 シーツの中に潜り、くるりと体を丸めて拒絶の意思を表示したが。


「この度、ここ淫魔の里で……」



 女王の権限と言葉を無視して無感情のまま話を続けてしまった。


 クソ真面目なグウェネスらしいわねぇ……。


 ふわぁ……。ねっむ。



「めでたく三名の淫魔が出産を控えエルザード様に承認の許可を請うています。申請書、並びに命名の許可。出産時の記録を記す書にも捺印を……」



「あ――!! もう!! いっぺんに言い過ぎ!! 後、もっとゆっくり話して!!」


 両足でシーツを蹴り飛ばし、驚くべき速さで上体を起こして講義してやった。


「そうで御座いますか?? 私的には今くらいの速さが合っていますけど」


「あんたはそうかもしれないけど。私はもっと遅く言われた方が好きなの!!」


「…………」



 私の願望に対して無言のまま此方を見つめる。


 お、分かってくれたかな??



「捺印箇所は私が丸印で分かり易いように記しておきました。現在、里に駐在していますのは出産を迎える三名、並びに帰省中の八十七人、計九十名です。他の淫魔は方々に散らばり自由を謳歌しております。又、エルザード様から捜索願を受け蜘蛛の里を襲撃したクレアの行方を追っていますが今現在も所在は不明です。捜索範囲は各街、村、森の中と多岐に渡りますが魔力の痕跡。淫魔特有の残留魔力も感知出来てないのが現状で御座います。そして……」



 前言撤回。


 こいつ。私が朝弱い事をいいことに絶対、楽しんでいるでしょ。


 捲し立てる様に言葉の波を発生させ、どうだと言わんばかりに寝起きの私を見下ろしていた。



「ねぇ??」


「はい。何でございましょう??」


「言葉の中にさ。クレアの所在が分からないって言っていたけど。まだ見つからないの??」


「左様で御座います。恐らく。これだけ捜索範囲を広げても見つからないという事は……。そういう事を示していると考えられます。しかし、万が一の事も御座います。方々に散らばっている淫魔にも自由を謳歌するついでに捜索する様に伝えております。捜索を一旦打ち切る場合、此方側から彼女達に通達する必要がありますね」



 ふぅむ……。既に何処かで命を落としている可能性もあるか。


 オークを引き連れてフォレインの里を襲ったのには何か理由があると思うのよねぇ……。


 元々人間嫌いな節が見受けられた彼女だが。私達を裏切って他種族を襲った理由、何故蜘蛛の里を襲ったのか、そして背後に居る黒幕の正体。


 ずっと前から気になっていたけど。行方知らずじゃ問い掛け様にも出来ないし。



「…………捜索は継続。里の者達には引き続き、ついでに彼女の行方を捜索するように伝えておいて」


「畏まりました」



 あの子の身に一体何があったのか。誰かに指示を受けて襲ったのか……。


 一応?? 女王の名を拝命しているのだからそれくらいは解明しておきたいのよねぇ。



「では、お伝えしました様にこれから執務室へと移動し、執務を開始して下さい」


「あ――。はいはい」


 面倒臭そうに右手を振って言ってやる。


「その服……。いえ。下着のみでは執務に影響しますよ??」



 ベッドに転がる下着姿の私を冷たい瞳でジロリと見下ろす。



「久々の自分の部屋でさ。ちょっと解放的になっちゃってね?? しかもこの下着、着け心地抜群なのよ!! 触ってみる!?」



 体の前で両腕をムギュっと合わせ世界最高の谷を作り惜しげも無く披露してやった。


 ふふん、どうだ??


 勝てないでしょう??



「…………。エルザード様。そのままお立ちになって下さい」


 私の果実を見て眉の角度が急傾斜になってしまった。


「え?? あ、うん」


 言われるがまま床に足を降ろし、二本の足で体を支えてやる。


「ふぅ……む」



 な、何よ?? 人の体をジロジロ見て。


 私の美麗な体を観察する様に口に指をあてがい宛がい。あらゆる角度から鋭い視線が突き刺さる。



「あぁ、分かりました」


「何が分かったのよ」


「エルザード様。大変申し上げにくいのですが……。少し、お太りになられましたね」


「はぁ!? そんな訳……」



 言われてみれば最近余り運動していなかったし……。


 あ、でもレイドに跨って訓練場を……。いやいや。


 あれは運動した内に入らないわね。


 クソ狐の所では御飯を食べて、お酒を飲んで、温泉に入って。凡そ運動と呼べる行為には及んでいない。


 意外と過ごし易いのよね、あそこ。その所為かしら??



「無きにしも非ず、かしらね……」


 脇腹の可愛いお肉ちゃんを指で摘まんでやった。


「まぁ良いのではないですか?? 『レイド様』 は容姿を気になさらぬ御方で御座います」


「ちょっと。何でそこで彼の名前を出すのよ」



 しかも、ちょっと強調して言っているし。



「周知の通り彼の周りには大魔の血を受け継し、『若き』 女王達が切磋琢磨しております。どういう訳か、皆一様に素晴らしい体型を誇っております。それに比べてもエルザード様の御体は『見劣り』 しませんが。油断は禁物で御座います。自己管理を怠る事の無い様、私が申した事を努々お忘れにならないように細心の注意を払って下さいませ」



「て、言うか。所々で妙に鼻につく言葉があったんだけど?? しかも!! そこだけ妙に強く言うし!!」


「さぁ?? 気のせいでは?? それでは執務室に書類一式を運びますので。着替えが済みましたのなら早々に移動を開始して下さい」



 ペコリと頭を下げ、微妙に腹の立つ足音を奏でて私の部屋から出て行ってしまった。


 くそう。何か急に猛烈に痩せなきゃって感情が沸いてしまったわ……。


 レイドは太った私の事、嫌いなのかな??


 ん――…………。と、取り敢えず。


 仕事を済ませましょう。行動はそれからよ!!


 箪笥からぱぱっと着替えを取り出し、彼から貰った大切な髪留めで前髪を留め。


 いつもと変わらない大きさのズボンを履きシャツとお気に入りの上着に袖を通して部屋を後にした。




続けて御話を投稿しますので今暫くお待ち下さいませ。

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