~エピローグ~ これからも私の素敵な青春は続いて行く
お疲れ様です。
週末の深夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。
木枯らし吹く外には真の闇が訪れプールサイドには黒を打ち払うべく照明が灯された。
ちょいと癖のある塩素の匂いを含んだ水気のある空気が私達の周りに漂い、各々がその空気を肺に取り込むと負の感情を含めた吐息を静かに漏らす。
皆の瞳に浮かぶのは是が非でも勝利を掴もうとする断固たる意志の炎が揺らめき、それは決して揺るがないと信じて疑っていなかった。
当然、私もここまで来たら優勝の二文字を渇望しているのだが。
体と心は受けた罰ゲームの数々によって十年以上使い古され、ボロボロのズタボロに擦り切れた雑巾よりも酷い状況に陥ってしまっていた。
正に満身創痍とはこの事。
幾ら頑丈な体の私でもハリセンで尻をしばかれ、無駄に硬いゴムで鼻頭を穿たれ、世界最強の腐敗臭を飲み込み。
更にぃっ!! 熱したスライムを顔面に投擲され、吹き矢で尻に穴を開けられればクタクタになろうさ。
私程ではないが各々の体も熱き闘志とは裏腹に限界寸前まで追い込まれていた。
「えぇいっ!! 後二マスが物凄く遠く感じるぞ!!」
「リュー、ちょっと五月蠅い。もう少し静かにしてっ」
「あ――……。腰がいてぇ」
「ユウ、腰ならいいじゃないですか。私は異常にお尻が痛いんですよっ」
「もう!! 私の麗しい髪にへばりついた糊が取れませんわっ!!!!」
悪鬼羅刹も慄く憤怒に塗れた瞳、鍛え抜かれた戦士も思わずヒェッと声が漏れてしまう恐ろしいまでの威圧感を各々が放ち。戦国時代宜しく正に群雄割拠の様相を呈す。
この下らねぇゲームもいよいよ終盤へと差し掛かり、全員が天下統一を目指して奮起していた。
「頼むぜぇ……。三が出てばあたしの勝ちなんだ!! ここまで頑張って来たんだから最後くらいいい夢をみせてくれよ!!」
ユウの番となり、彼女は祈る思いでルーレットを勢い良く回した。
クククッ……。
果たしてそう簡単に優勝出来ると思うておるのか?? この破廉恥乳娘め。
貴様が一着になった暁にはアァ――ッ!! と驚く最強の奥の手を見せてやろうぞ……。
「たのむっ……。たのむっ!!!!」
白き玉がコロコロと軽快な音を立ててルーレットの上を転げ回る。
ユウは両手を体の前に合わせ、運命を決める玉の様子を見守っていた。
そして彼女の願いを叶えるべく……。勝利の女神が彼女に優しく微笑んだ。
「やった……。はは、やった――!!!! あたしが優勝だ――!!!!」
ルーレットの玉が示した数字は三。
嬉し涙を零して己の人形をゴールのマスに移動させたユウが両手を激しく天へと突き上げた。
「よっしゃ――!! へへ、ほら。レイドに渡す予定のチョコを渡しな。あたしが代表として渡してあげるからよ」
「えぇ――!! ユウちゃんだけずるいよ!!」
「にしし!! そういう取り決めだからなっ。さてさて、レイドの真っ赤な顔を間近で……。ん?? おい、何してんだ??」
「……っ」
ゴールのマスに止まっているユウの人形を乱雑にぽぉ――っいと放り、私の人形をゴールのマスに置く。
そして静かに立ち上がると憐れな弱者を見下す強者の瞳を以て愚か者を見下ろしてやった。
「ククク……。あ――はっはっ!!!! これを見て慄くがいい!! 偽りの勝利に喜ぶこの道化が!!」
体操着のポケットから取り出した一枚の紙をユウの手元へ放ってやる。
「は?? えっ……と。このカードは罰ゲームを馬鹿みたいに受けた者への御褒美です。ゲーム中、たった一度だけ好きな者との配置を交換出来ますぅ!?!? ふっざけんな!! 何だよこれ!!」
「書いてある内容そのままじゃないか。私がアツアツ熱湯スライムをブチ食らった後、スペシャルボックスの中身を引けという指示があったでしょう?? その指示に従い、私は当然の権利を得たのだよ」
マスのシールを剥して出てきた指令の最後の方に小さな文字で『これまで七回以上罰ゲームを受けている人は罰の後にスペシャルボックスを引くチャンス!!』 って書いてあったし。
恐らく、ゲームが終盤へと向かい。劣勢を挽回するチャンスとしてのマスだったのだろう。
これまで受けた酷い仕打ちの数々。
それがよもや役に立つとはねぇ。まぁ……。熱々スライムは余分だったけど!!!!
優勝出来るのなら鼻の穴の中まで火傷した甲斐があるってもんさ。
「ってな訳でぇ。優勝は私よ!! おら、さっさとチョコレートを私に献上しろ!!」
威風堂々とした立ち振る舞いで高らかに完全勝利を宣言してやった。
「しょうがないなぁ……。はい、じゃあレイドに渡してあげてね!!」
お惚け女が取り出したのは黄色い包み紙が目立つ四角の箱。
「ふんっ。マイ、貴様に負けた訳ではないからなっ」
そして双子の強面が取り出したのは翡翠色の包み紙の箱。
両方とも同じ大きさだから同じ店、同じ商品を購入して包み紙だけを分けた形かしらね。
四六時中ニッコニコ笑っている片割れに対して強面のリューヴはこういう事に関して疎い。
恐らく適当な理由を付けてルーと一緒に買いに行ったのでしょう。
「ちっ……。折角あたしが渡そうと思ったのに」
ユウが渡してくれたのはやたら丸みを帯びた形状の箱だ。
快活且豪胆な彼女からは到底想像出来ない可愛らしい箱の形状と包み紙についつい笑みが零れてしまう。
この野郎……。破廉恥な乳をぶら下げているくせに随分と可愛い物を選んだじゃないか、えぇ??
このきゃわいいチョコを選ぶ為に店の中を右往左往していたのだろうさ。
「では、宜しくお願いしますね」
カエデが渡してくれたのは電車でちょいと行った先にある大型商業施設内に最近出店されたお菓子屋のチョコレートだ。
「おっ、カエデ。この店どうだった??」
テレビで紹介されてて行ってみようかと考えていたが……。高そうな店だから中々億劫になっちゃうのよね。
「本屋の帰り道に寄ったのですが、物凄い人でしたね。買うのも一苦労でしたよ」
ほぉん。
やっぱり世の女性は甘くて美味しい物に弱いのかしらね。それともただ単に新しい物好きなのか……。
これだけアイツに渡さないで自分だけ食べる事は出来ないのかしら??
美味しいって評判なのよねぇ。
「レイド様に直接渡すつもりでしたのに……。何故、貴女の様な人に渡さなければならないのですか」
蜘蛛が渡したのはチョコの箱では無くて、口紅だ。
いやいや……。ナニ、コレ??
「アオイちゃん。それ口紅だよ??」
「蓋を開けてみれば分かりますわ」
はぁ?? 一体何が入っているっていうのよ。
不躾な表情を浮かべている蜘蛛を他所に、円筒状の口紅のキャップをポコっと外して見ると。
「あはは!! 口紅の部分がチョコに代わっているね!!」
ルーがケラケラと阿保みたいに笑って説明した通り。
キャップを外して出てきたのは艶やかな朱の口紅では無く、甘い香りを放つチョコであった。
「私の唇にチョコを塗り……。貪る様に召し上がって頂きたかったのに……」
「アオイ――。去年はピアスチョコ、一昨年は指輪チョコ。これまで一度たりとも身に着けている所を食べて貰えなかったのにまだ堪えていないのか??」
だらしない姿で座るユウが蜘蛛を揶揄う。
「レイド様は恥ずかしがり屋さんなのですっ!! きっとご自宅ではアオイのイケナイ姿を想像して毎年チョコを舐めている筈ですわっ!!!!」
はいはい、勝手に言ってろ……。
各々から預かったチョコを鞄の中に仕舞い、一息ついていると何だかプールサイドの入り口から人気配が漂ってきた。
「んおっ!! レイド来たな!!」
「その様ですね。私達は非常口から外へ出ていますので、マイ。貴女が彼に渡して下さい」
「お、おぉっ。わ――ったわ」
カエデの声を受けると一つ頷き。
「じゃあ皆行こうか!! アオイちゃんも行くよ――」
「放しなさい!! あ――んレイド様――!! アオイはここですわよ――!!」
喧しい連中を見送ると今まで明るい笑い声が響いていたプールサイドがシンっと急に鎮まり、その静けさからか。何だか緊張してきたわね。
トックントクンと微かに聞こえて来る意外と恥ずかしがり屋さんの私の心臓の音。
地面に落ちた矮小な針の音さえ聞き取れてしまう静謐な環境下で微かに響く呼吸音。
酷く口が乾いてしまう嫌な緊張感では無くて、そう。
心地良い緊張感が私の体温と心を温め続けていた。
無意味に前髪を直し、柔軟運動の様に足首の関節をクネクネと解し。少しでも緊張感を紛らわせようとしていると。
「はぁ――。やっと着いた」
件の男がプールサイドに顔を覗かせた。
幼い頃から見続けている見慣れた顔は少々疲労の色に染まり、その顔を捉えると心臓ちゃんがキャァッ!! と可愛い叫び声を上げてしまった。
い、いやいや。
私は皆の代理としてチョコを渡すだけじゃない。緊張するのはまぁ致し方ないかも知れんが何もここまでバックンバックン心臓が動く事ないじゃん……。
「あれ?? マイだけか??」
私の顔を見付けた野郎が普段通りの歩みで此方へと向かって来る。
「お、おぉ。何か、皆揃って花を摘みに行ったわ」
「はぁ?? まぁ――……。女の子同士ってそういう一面があるから仕方が無いか」
右の口角を微かに上げると丁度良い距離感の位置に身を置いた。
「な、何かやたら散らかっているけど……。何したんだよ」
周囲に散らばるゲームの名残の数々、そしてユウ達が残して行った荷物を見下ろして小さな溜息を吐く。
「ユウが持って来たゲームをしてたのよ」
「ふぅ――ん。ゲームってこの人生ゲームみたいな奴??」
いつもの口調で先程まで激戦が繰り広げられていたゲーム盤の前にしゃがみ込む。
「そ、そうそう。それで私が優勝して。んで、ちょっと休憩しようかって感じでさ――」
「へぇ――……。所でさ」
「ん――??」
「何で鞄を持ちっぱなしなの?? 置けばいいじゃん」
遂にき、気付いてしまったか。
ボケナスの言葉を受けると自分でもあっつ!! と思える程に頬の温度が上昇してしまうのを掴み取った。
「え、っと。実は、さ……」
「うん」
「あ――、何んと言いますか。本日はどういう日かお分かり??」
上手く動かない舌を懸命に回してさり気なく本日は二月十四日であると仄めかしてやる。
「今日はどういう日って……。ッ」
お、おぉ。思い出したわね。
静かに立ち上がると私から視線を外して遠くを見つめ、小恥ずかしそうに鼻頭をポリポリと掻く。
「そ、そういう訳でね?? み、み、皆からあんたに渡す奴を預かっててさ。ほ、ほら!! さっさと受け取れ!!」
恥ずかしさからか、右手に持っていた鞄を奴に向かってぽぉんっと放ってやった。
自分でももうちょっと優しく渡せたらな――っと思う。でも、やっぱり恥ずかしいさ。
「投げるなよ!! じゃ、じゃあ有難く頂戴します」
嬉しいけども恥ずかしい。
そんな年相応の男子の反応を見せて鞄の中を覗き込む。
「これは……。あはは、多分ルーとリューヴのだな。それでこっちがカエデで、これがユウ。あ――……。アオイのか」
何で名前が書かれていないのに個人を特定出来るのよ。
まぁ、それはきっと。幼い頃からずっと一緒に過ごして来たから理解出来るのだろう。
「こりゃお返しを考えなきゃいけないな。手作りのホワイトチョコ……は流石に重いか。電車に乗って商業施設に買い出しにでも行こうか」
「え、っと。それはユウ達のでさ」
頭の中で簡易的なお返しの品を考えている野郎へ向かってしどろもどろにそう話す。
「ん??」
「こ、こ、こ、これは私からの奴よ」
背に隠し持っていた時価数百円の超!! 義理チョコを体の前に取り出してボケナスへ向かって差し出してやった。
「お――、有難うね」
万人の心を温めてしまう柔らかい笑みを浮かべて此方へ向かって一歩近付く。
「ぎ、義理!! 誰がどう見ても義理チョコだからねっ!! 偶々コンビニで見付けた奴だから!!」
「何もそこまで猛烈に義理を強調しなくてもいいだろう」
五月蠅い奴め。そんな感じでふっ、と小さな吐息を漏らす。
し、仕方が無いでしょう。自分の想いを見透かされるのは大っ嫌いなんだから……。
「でも、有難うね。嬉しいよ」
「お、おぉっ。有難く受け取れや」
「はいはい。辛辣な事……。ッ!?」
手の届く距離に身を置いた刹那。
ボケナスが右腕で口元並びに鼻を全て覆い隠して私から数舜で距離を取ってしまった。
え?? 急に何??
もしかして……。私のは受け取れないって事??
突然の出来事にパチクリと瞬きを繰り返していると。
「く、くっさ!!!! お、お前!! 何でそんなに臭いんだよ!!!!」
クソ真面目野郎が素敵な雰囲気をぶち壊してしまう言葉を放ってしまった。
「くっさぁ……。ユウ達がくれた物は臭くないのに。お前のは、スンスンッ……。ウェッ!! 滅茶苦茶臭いじゃん!! 何!? そんなに俺の事を虐めたいのか!?」
こ、こ、この野郎……。
私が折角恥を忍んでコンビニの姉ちゃんに金を払ってチョコを買ってやったってのに、喜ぶ処か汚物扱いするとは良い根性してんじゃねぇか!!
それに、ゲームの決着を気にし過ぎてシュールストレミングを食った後にシャワーを浴びる時間も無かったんだよ!!
「な、何が入ってんだよ、コレ……。はっ!? もしかして、お前……。トイレまで我慢出来ずにここで……」
見当違いな答えを聞いた刹那。
プッチィィンっと何かが切れた音が頭の中に響いた。
「女に向かって言って良い事と悪い事があんだろうがぁぁああああ――――ッ!!!!」
「や、止めろ!! 俺は何も悪く……。アベガッ!?」
相手の懐に入り込むと同時にピーターアーツばりの右上段蹴りを奴の左頬にぶち込んでやった。
苛烈な打撃音が静かなプールサイドに響くと野郎は荷物を手放し、綺麗な水で満たされたプールへと飛翔。
そして美しい水飛沫を上げて頭から格好良く入水を果たした。
「ぷはっ!! な、何すんだよ!!」
びっちゃびちゃに濡れた黒髪が浮かぶと同時に叫ぶ。
「私がくせぇのは罰ゲームの所為なんだよ!! それなのにも、も、も漏らしたと早合点しやがってぇ!!!!」
「あ、そ、そうなの。御免……」
コイツの良い所は己の非がある場合は素直に謝れる所だ。
プールサイドで仁王立ちする私に向かってキチンと背を正して頭を垂れた。
「ふんっ。相変わらず抜けているわね」
「誰だって嗅いだことの無い激臭を捉えればそうもなるさ」
痛そうに頬を抑えて此方へ向かって歩いて来る。
「まぁ私の不注意もあるし、一応謝っておくわ」
たっぷりと水分を含んで大変重たそうな制服を身に纏うボケナスへ向かって右手を差し出す。
「フィロさんに叱られるから帰るまでに……」
私が差し出した右手を優しく掴むと何やら閃いた表情を浮かべた。
「あ?? 何で母さんの名前を出すのよ」
「ふふ……。帰るまでに……。その匂いを落とさなきゃいけないって事さ!!!!」
何を考えたのか知らんが。
私の右手を男らしい力でぎゅっと握り締めると、一気苛烈にプールへ向かって引っ張るではありませんか!?!?
「おんどわぁっ!?!?」
微妙な中腰で手を差し出していた為、あっと言う間に視界がグニャリと歪み。微妙にちゅめたいお水ちゃん達の熱い抱擁を受け取ってしまった。
「ぶはっ!!!! テメェ!! 全部水浸しじゃねぇか!!」
浮上と同時にその辺のチンピラも思わずたじろぐ怒号を放つ。
「あはは!! 別にいいじゃん。匂いを落とすついでだよ」
「臭い臭いってしつこんだよ!!」
熱き魂を籠めた右の拳で左頬をブッ叩いてやる。
「いっでぇ!! 直ぐに手を出すのを止めろよ!! いつも言ってるだろ!?」
ちぃ……。水の中だから腰が入った拳が打てないわね。
通常よりも五割減の威力に大変歯痒い思いを抱いていると……。
「レイド様ぁぁああああ――!! 私の愛を受け止めて下さいましぃぃいい――!!」
「は?? おぶごっ!?!?」
きっしょい蜘蛛が勢い良くプールサイドを駆けて来ると勢いそのまま。ボケナスへ向かって飛び掛かってしまった。
「ぶっはっ!! ちょ、ちょっと!! アオイ!! 離れて!!」
「んふっ、い――やですわ」
ボケナスの首に両腕をシュルリと絡ませ、ムカツク二つの膨らみをこれでもかと密着させる。
ここはそういう事をすべき場所では無いと私の鉄拳で体に教えてやろうとした刹那。
「レイド――!! 私も混ぜて――!!」
「主の一大事!! それを救うのは私の役目だ!!」
「あたしもついで――っと!!」
「は?? おわぁぁああああ――――!!!!」
三つの綺麗な花達が蜘蛛に続けと勢い良くプールへ飛び込んでしまった。
「プハッ!! ちょ、ちょっと!! 何をしますの!?」
「えへへ、アオイちゃんだけずるいな――って!!」
「私は主の窮地を救う為に仕方が無く入ったのだっ」
「お――、レイド。どうだぁ?? 久々のあたしの抱擁は??」
「ん――――ッ!! ンン――ッ!?!?」
破廉恥爆乳娘の熱き抱擁を受けて藻掻き苦しむ大馬鹿野郎。
水を含んだ体操着の谷間町はさぞや苦しかろう……。転出届を提出してさっさと引っ越ししやがれってんだ。
「――――。ユウ、レイドが窒息死してしまうから放して」
あら?? いつの間に??
澄んだ声色が背後から聞こえたなぁっと思うと私の直ぐ隣にカエデが静かに立ち、大変こわぁい瞳で四つの花に囲まれる一人の野郎を睨みつけた。
「カエデも入ったんだ」
「ついでという奴ですよ。後で着替えれば良いですし」
まぁそれもそうか。
羞恥で温まった体を冷やす為、そしてまだ体に染み付く臭いを落とすのに丁度良いものね。
「プハッ!! ユウ……。洒落にならんから離れてくれ」
「え――、いっつもアオイがくっ付いているから偶にはいいじゃん」
「私はレイド様の妻ですからいいのですっ!! ささ、レイド様っ。気色の悪いお化け乳よりもアオイの整った果実を堪能して下さいましっ」
「駄目だよ――、アオイちゃん。抜け駆けは」
「ユウ!! 主が困っているだろう!! さっさと離れろ!!」
小さい頃から何度も繰り返し行われてきた乱痴気騒ぎ。
腹が立つと同時にこれが私達の日常なのだと呆れた柔らかい吐息を漏らしてしまっている自分が居る事に気付いてしまう。
それはどうやら隣の彼女も同じ気持ちの様で??
「ふぅ――。彼は後二分程で失神しますからそれから応急処置を施しましょうか」
やれやれといった感じで溜息を漏らしていた。
「カエデ、あんた優しい顔して偶に怖い台詞をシレっと吐くわよね」
「因果応報って奴ですよ」
それもそっか。
「さ――、あたしが優しくしてあげるからなぁ――……」
世界最高峰の腕力に顔面を掴まれ、生還不可能な魔境へと引きずり込まれていく。
「ヒィッ!! や、止めてくれ!!!!」
全力で彼女の力に抗うが、ユウの前でそれはほぼ意味を成さない。
双子の大魔王様の間に鼻頭がちょんっと触れ、死のカウントダウンの計測を始めようとしたその時。
「こ、こらぁぁああ――――!! こんな時間に何をしているのですかぁぁああ――!!」
うちの担任である姉ちゃんの怒号がプールサイドに響き渡った。
「もうとっくに下校時間は過ぎているのですよ!? それなのにあなた達ときたら!!」
老若男女、誰しもが綺麗だと断定する桜色の髪を揺らしてプールサイドに到着。
そして端整な顔を顰めて私達を仁王立ちの姿勢で見下ろした。
「いや、そこの野郎がプールに落ちたから救出する為に私達は入った訳」
可愛くプンスカと怒る姉ちゃんに説明してやる。
「だったら一人でいいじゃないですか!! 全員入る必要はありません!! それと!! ユウさん!! レイドさんに密着し過ぎですよ!!」
「あたしが引き上げたらから自然とこうなったんですって――。な、そうだよな?? レイド」
「まぁ……。えぇ、そうですね……」
アレを目の前でチラつかせて有無を言わせないつもりね??
脅迫紛いでは無くて、正真正銘の脅迫を受けてボケナスの顔色がサっと青ざめてしまった。
「そ、それならまぁっ……。で、ですが!! この散らかり用はなんですか!? 校内にゲームの持ち込みは禁止されています!!」
「それはマイちゃんが持って来たんだよ??」
「ふ、ふっざけんな!!!! ユウが持って来たんでしょうが!!!!」
お惚け女の吐いた台詞に一瞬で噛みついてやった。
「マイさん!! また貴女なのですか!? 停学になっても知りませんからね!?」
「うっせぇ!! 私は悪くないのよ!!」
「口調に気を付けなさい!! 私は貴女の担任なのですからねっ!?」
「そんな破廉恥な下着の色を履いている姉ちゃんに言われても説得力が無いわっ!!」
意外と高低差のあるプールの中から姉ちゃんのスカートの中を覗き上げて叫ぶ。
「ッ!? の、覗かないで下さいっ!! 今日はこれしか履く物が無かったの!!」
「ははぁ――ん?? って事は、今日一日。派手な下着を履いている事を誰にもバレない様に一人ドギマギしながら校内を歩いていたんだぁ――。可愛い顔してやらしぃ――」
「そ、そんな訳ありません!! 人の事を変態さんみたいに言わないで下さい!!」
「「「あははは!!!!」」」
暗闇が跋扈する外に比べ、照明が灯された明るいプール内には素敵な笑い声が乱反射する。
顔を真っ赤に染めて私に道理を説く担任、それを頑として跳ね返す私の度胸。そして、大変耳に心地良い友人達の笑い声が心をどこまでも温めてくれる。
気の合う幼馴染達とちょっとイケナイ校則違反の共有、腹の奥から湧き起こる笑いが止まらなくなっちゃう素敵な横着。
こうした下らないやり取りの数々は大人になれば自ずとやらなくなるし、今だけ許された特権なのだ。
勉強したり、部活に励むのも大事な事だと思う。でも、私は沢山の輝かしい思い出の蓄積の方が大切に感じてしまうわね。本日も心の中のアルバムに本当に素敵なページを綴る事が出来た。
大人になった時にそっと捲って温かい気持ちに包まれる、これは私だけの本当に大切な思い出のアルバム。
どんな物語よりも値打ちのある物語を完成させる為に今日も私は友人達と肩を並べて大笑いするのだ。
私は目の前で繰り広げられている素敵な青春の一ページをしっかりと目の奥に焼き付け、そして一切躊躇なく友人達と軽快な笑い声をいつまでも放ち続けていたのだった。
お疲れ様でした。
本編ブックマーク二百件突破記念として特別編を書きましたが如何でしたでしょうか??
今度はそうですね。キリのよい数字で二百五十件のブックマークを突破しましたのなら第二弾として~家庭訪問編~ を書こうかなと考えております。
そんな事よりも早く本編を書け!! と。わざわざ番外編まで読んで下さっている読者様達のお叱りの声が届きますが、現在誠心誠意プロットを執筆中ですので御安心下さい。
さて、次の御話からは淫魔の女王様の番外編が始まります。
本編でも馴染みのある登場人物ですが……。実際、主人公を除いて誰が一番人気なのでしょうかね??
なろう様にもアンケート機能があれば手軽に集計出来ますのに……。
それでは皆様、良い週末をお過ごし下さいませ。




