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最強最悪の悪魔、降臨 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




「では……。始めっ!!!!」



 カエデの声が鋭く鳴り響くと同時。


「ふんっ!!」


 私はユウの膝元に置かれている割り箸に手を伸ばし、そしていつも通りの所作で綺麗に真っ二つに割ってやった。



「んぉっ。さっすが、こういう事に関しては器用にやるな」


「まぁね――。所でユウさんやい」


「何だい?? マイさんやい」


「胡坐をかいて座るお前さんの前には何の種類のおでんがあるのかしら??」



 羽織りを被ったままおでんを配膳されたのでその種類が分からないのよね。



「一番手前がこんにゃく、その右奥が卵。んで左奥がちくわだよ」


「了解了解……。ちゃぁああんと御口ちゃんに運んであげるからねぇ――……」


「おう!! へへっ、小腹減ってるから丁度良いや」



 ふ、ふふ。クシシッ……。


 あはは。フハハハハ――!! あ――はっはっは――――!!!!!!


 私が普通――に二人羽織りをすると思うてか!? この馬鹿乳女めがっ!!



 開幕当初の激烈ハリセン、ヘンタイ集団が作り上げたゴムパッチンの右ストレート、そして先程の藤原組長を彷彿とさせる苛烈な頭突き。


 私が受けた罰ゲームの数々は確実に私のイケナイ心を蝕んでいるのだよ。


 ちゅまり、今の私は悪魔さえ慄く恐ろしい怪物の心の持ち主って訳だ。



 二人羽織りの前役は腕の動きが一切封じられている。


 背中側で両手を拘束バンドでギュっと絞められているからね。


 ゲームと称して正々堂々と憂さ晴らしが出来るのだ。これで悪魔の心が出て来ない奴はいないだろうさ。



『ね、ねぇ!! 普通にやらなきゃ駄目だよ!?』



 ち、ちぃっ!! まだ生き残ってやがったか。忌々しい善の心め!!



『熱々のおでんを邪険に扱ったらユウちゃんが火傷しちゃうよ?? 仲の良い友達が傷付いた姿を見ても心が痛まないの??』



 むぅっ……。そう言われると……。



『そうだよね?? 痛むよね?? だったら大人しく食べさせてあげ……』



 なぁ――んて言うと思ったか!! この馬鹿タレが!!


 私は純粋な悪の心を持ってこの世に生まれたんだ。良い子はさっさと家に帰ってママのおっぱいでも愛でていやがれ!!!!



『きゃ――!! ちょ、ちょっと――!! 後で覚えておきなさいよ!? このケダモノめ――!!』



 偽善者の尻を思いっきり蹴飛ばして心の準備は完了。


 さぁ――……。本日公開するのは地獄でも滅多にお目に掛れない、それはもう酷くて惨い拷問のショーです。


 皆様、決して目を背けずに御覧下さぁぁああい!!!!



「よぉしっ。先ずは卵を掴むわよっ」



 キャピっと可愛い声を漏らして皿がありそうな場所へと箸を伸ばす。



「皿はもうちょい手前。お――、そうそう!! んで。卵はもう少し右手側ね」


 ユウの先導通りに箸を動かして行くと、箸を持つ指先に確かな手応えを掴み取った。


「お、これか。よっこいしょっと」


「一発で掴んだな!! よぉ――し、後はあたしのお口に入れろ」


「はいよ――。ユウ、口開けた??」


「ふぉう。ふぃいぞ――」



 ふ、ふふ……。さぁ、復讐の開始よ!!


 普段通りの食事の所作で卵を彼女の口元まで移動させ。



「ふぉ、ふぉうすこし」



 あっぷあっぷと口を開いているであろうユウの眼前まで運び終えると。



「あ、やだ――。つい手がすべっちゃって――」



 左手でユウの体操着の襟元を思いっきり引っ張り。



「ふぁっ!?」


「おらっ、死ねや」



 右手の箸で掴んでいる超アツアツ爆弾を地獄谷へと投下してやった。


 そして、私の乾坤一擲が彼女の皮膚に触れた刹那。



「あっっっっちぃぃいい――――!!!!」



 私の荒んだ心がどこまでも潤う大絶叫が響き渡った。



「あっつぅ!! あっつ!! て、テメェ!! こんな時にふざけんな!!!!」


 熱さから逃れようとして体をクネクネうねらせている姿がまぁ何んと滑稽か。


「うふふ。ふざけてはいませんわよ?? これはぁ、あくまでもぉ、ゲームなのですからぁ。楽しまないと損で御座いましょう??」


「や、やっていい事と悪い事があんだろうがぁ!! や、やっべぇ!! 谷間に入っちゃった!!」



 ほぅ?? アツアツ爆弾が谷間の住人に送り届けられたというのかね。


 私には生まれて此の方、その谷間町たにまちょうという住所に人が住んだ事は無いのでどういう感覚か理解しようにも出来ないのよ。



 そしてぇ、何故か無性に腹が立ったので第二波を受けて貰おうか!!


 カモンッ!! 第二爆撃機!!



「ちくわちゃんのお届けで――すっ」



 お皿の左奥に存在するちくわをすかさず摘まみ上げ、再び襟をクイっと広げて谷間町へ華道の御花宜しくブッ刺してやった。



「んぎやぁぁああ――!! あっつぅ!! しゃ、洒落にならん熱さだってぇ――ッ!!」


「クヒヒッ!! ニシシシィッ!!!! い――い声で叫ぶじゃないかぁ、エェ??」



「う、うわぁ……。良かったぁ。マイちゃんと組まなくて。あ、リュー。その卵で最後ね」



 随分遠い位置から惚けた女のドン引きする声が届くが、それを無視して最終兵器へ向かって箸を伸ばした。



「さっ、ユウちゃんっ。あっつあつのこんにゃくを召し上がれっ」



 ルンルン口調でユウの顔面付近へこんにゃくを移動させ。



「ふ、ふ、ふざけんな……。こ、こちとら熱さで我慢する事で精一杯なんだよ。こんにゃくなんて食っていられっか!!」


「あっそ」


「んぶっ!?」



 生まれたての小鹿みたいにプルプル震える彼女を無視して、左手で顔面を掴み。



「ほ――ら、純国産品のこんにゃくを食らいやがれ」



 右頬に熱い液体を纏ったこんにゃくの接吻を交わしてあげた。



「あっぶい!! ばべろ!!」


「ねぇ、知ってる?? 一昔前は日本の農家さんを守る為にこんにゃくには高い関税が設けられていたんだけどさ」


「はっ?? あっつ!?」



 右頬からこんにゃくさんを外し、お次は左の頬へ接吻をさせてあげる。



「それでは自由貿易に影響を及ぼしてしまうとして高い関税が下げられちゃったの。国内の農家さんを守るのも大切だけど、国際社会で孤立するのも了承出来ない。こんにゃく一つで日本は世界から孤立してしまうかも知れないのよ??」


「し、しらねぇし!! 何で食い物関連にはすげぇ詳しいんだよ!!」


職人プロですから。さ、純国産のこんにゃくをお食べ」


「んぶっ!?」



 まだまだあっつあつのこんにゃくをユウのお口へと無理矢理捻じ込み。



「農家さんに感謝しながら食べるのよ――」



 箸をポォイっと放り捨て、横着な卵とちくわが移住した谷間町一、二を掴んで。思いっきり寄せてやった。



「ばっづぅ!!!! な、中で爆ぜたわ!!」



 でしょうね。


 何か、ポリって音がしたし。



「やった――!! 完食出来た――!!」


「ふむ……。やはり双子には勝てませんでしたか」



 おっ、向こうの二組は食べ終えたみたいね。



「マイ!! おまえさんの所為で罰ゲームを食らう破目になっちまったじゃねぇか!!」


「まぁまぁ、別にいいんじゃない?? 何か罰ゲーム食らい過ぎて私はどうとでもなれって感じだし」



 殴られ過ぎて頭のネジがちょいと緩んでしまったのかもしれないが。


 それでもユウをたぁくさん虐めてストレス発散出来たから良しとしましょう。



「えへへ、一緒に罰ゲーム受けようね」



 羽織り脱ぎ捨て、ほっかほっかに温まった顔でおでんの汁塗れになった至極残念なユウの顔を見つめてやった。



「知るかっ!!」



 プイっと顔を背ける姿がまぁ――可愛いのなんの。



「じゃあ、罰ゲームですねっ!!!!」



 ふんすっ!! と。いつもより三割増した鼻息を放ち、カエデが勢い良く箱へ右手を突っ込む。



 そして、一枚の紙を取り出したのだが……。



 え……。ちょっと、待って??


 さっきまで外側には何も書かれていなかったのに、何であの紙だけドクロマークが印されているのかしら……。



「罰ゲームの内容は……。『地獄へ向かっていってらっしゃい!! 最低でも一つは食べないと脱出出来ないゾ?? 皆だ――い好きっ!! アレの出番さっ!!』 と書いてありますね」



 カエデが陽気な声で読み上げた紙には、これを書いた奴の寝首をいつか掻いてやると決心させてしまう書体でそう書いてあった。



「最低でも一個食べないと駄目?? 一体どういう意味だ??」



 拘束を解かれたユウが一枚の紙を手に取り、訝し気な表情で見下ろす。



「何だ、食い物だったら余裕じゃん。私、生まれて此の方食べられなかった物なんて無いしぃ…………」



 私はそこまで言うと思わず言葉を切ってしまった。



「おぉ!! カエデちゃん、食べ物ってこれかなぁ!?」



 そう、ルーが取り出した嫌に目立つ黄色と赤の缶詰を視界に捉えてしまったからだ。



「「ッ!!!!!!」」



 あの黄色の缶詰を見付けた瞬間。


 私とカエデは山の中でオニヤンマを見付けてしまった虫の逃走速度を上回る速度でプールサイドの出口へと駆け始めた。



 う、う、嘘でしょ!? 何であれがここにあるのよ!!!!



「ちょっと――!! 二人共何処に行くの――!!」


「ルー!! ぜぇぇったいそれを開けるんじゃねぇぞ――!!」


「そのまま静かに床に置いて下さい!!」



 カエデもアレの危険度を承知しているのか。真剣そのものの表情で叫んだ。


 世界最強最悪の異臭を放つ食べ物……。そう、シュールストレミング様とよもや校内で会敵するとは夢にもおもわなんだ……。



「か、カエデもあの悪魔を知ってるの??」


「え、えぇ。あれって、シュールストレミングですよね??」


「う、うん。十中八九そうよ……」


「私は幸運かも知れませんね」



 幸運?? あれに出会えてって事??



「アレを食べなくて済みますので……」



 そう静かに話すと憐れんだ瞳で私を見つめた。


 そ、そっかぁ……。


 愉快痛快奇々怪々な感じでユウを楽しく虐めていた罰を受けなきゃいけないんだったぁ。



「ユウちゃん!! おっきい透明なアクリル板があるよ!?」


「何々――?? それを組み立てて中で食べるらしいな。そいでもって、一人一つ以上食わなければ外に出して貰えない……。だって。お――い!! マイ!! さっさと食べて続きやろうぜ――!!!!」



 知らない方が幸せだという言葉がある。


 正に今の状況にはうってつけだとは思わないかい??



 な、何で本物の悪魔を目の前にしてアイツはニッコニコと笑っていられるのよ。



「ユウはあの恐ろしさを知らないようですね」


「え、えぇ。そうみたいね……」



 さて!! 私はちょいと用を思い出したからこの辺りでお暇させて貰おうかしらね――。



「リュー!! そっちの枠を組み立てて!!」


「分かっている。耳元で騒ぐな、喧しい」


「へぇ……。アクリル板に付いている扉。中からは開けられない仕様になっているのですわね」


「仰々しい作りだよなぁ。最後は天井を設置してっとぉ!!」



 着々と処刑台を設置していく者共を尻目に私はそ――と静かに踵を返してプールサイドの方へと足を向けた。


 だが、私の不穏な雰囲気を察知した水泳部の人魚姫がそれを阻止してしまった。



「駄目ですよ。何処へ行くのですか??」



 それ以上は行かせないとして体操着をぎゅっと掴む。



「お、御花を摘みに……」


「それは後で結構です。ほら、設営が完了したみたいですし。行きますよ??」


「へ、へいっ……」



 強面の岡っ引きに捕まったコソ泥の様に大人しくなり、襟を掴まれたままプールサイドを静々と移動。


 そして、身の丈ニメートル程の透明な四角の箱の前へと到着してしまった。



「この透明の扉を開けて、んで中に入ってそれを食えってさ」



 ユウが遠足前の子供みたいに軽快な笑みを浮かべて黄色い悪魔を手に持つ。


 わ、私はあんたの正気を疑うわ。何でニッコニコしてその缶詰を持てるのよ……。



「じゃあさっさと食って続きをしようか!!」


「え、えぇ。そ、そうね……」



 悪魔とその封印を解く缶詰を持ってユウが背の高い四角の簡易処刑台へ入室するが、私の足は中々進み出そうとしてくれなかった。



「マイ、さっさと入れ」


「そうだよ――。ユウちゃん待っているよ??」


「うっせぇ!! んな事は分かってるんだよ!!」



 誰だって死にに行けと言われたら足が竦むでしょうに!!!!



「クスッ。臆病風に吹かれるとは正にこの事ですわねぇ……」


「誰がビビってるってぇ!? 上等じゃねぇか!! さっさと食って、テメェ等を地獄の底に叩き落としてやるわ!!!!」



 蜘蛛の嘲笑が私の闘志に火を点けてしまい、激情に駆られたまま処刑執行所に足を踏み入れてしまった。


 女二人が入るとちょいと閉塞感を覚えるが……。透明な壁のお陰もあってか。それは微々たるものであった。



「よ――し。開けるぞ――」



 その中でユウが胡坐を掻いて座り、右手に缶切りを持って遂に悪魔の封印を解き始めてしまう。


 さ、さぁ――……。これから先は口呼吸に絞るわよ。


 絶対!! 鼻呼吸はせん!!



「んおっ、意外と硬いな……」



 缶切りを器用に扱い、キッコキッコと封印が解かれて行きそして遂に……。


 世界最強最悪の悪魔がこの世に爆誕してしまった。



「うっわ。これ、ニシンの塩漬け?? ちょいと濁った液体の中に小指程度の魚がぁ……」



 ユウがそう話した刹那。


 小指の先程のとぉぉっても小さな液体が彼女の顔面へと向かって飛翔して行く様を捉えてしまった。



「ッ!? ぐぁぁああああっ!?!?」


「ユ、ユウ!? 大丈夫!?」


「メ、目に……。メニィ――ッ!!」


「な、何!? 沢山がどうしたっての!?」



 ユウが速攻で立ち上がると壁に背を預け。


 前時代的な洗濯板でしつこい汚れを頑張って落とそうとする主婦の手先の様に、物凄い勢いで両目を擦る我が親友へと声を掛けてやった。



「ば、馬鹿か!! こんな時にボケてんじゃねぇ!! 目に液体が入ったんだよ!!」



 あ、そっち。


 私のすんばらしい英語力が発揮出来たと思ったんだけど。



「あはは!! 早速悶えているねぇ――。ユウちゃん!! 匂いはどうかな!?」



 絶対安全区域からお惚け女の陽性な声が届く。



「ぐぅっ!?!? く、くっせぇぇええええ――――!! な、なんだこりゃぁ!?」



 ゴシゴシしていた右手の動きを停止させ、一度だけ可愛い御鼻ちゃんをスンっと動かすと右腕で鼻を押さえてしまった。



「ユウ、参考までに臭いの感想をお聞かせ下さい」


「そ、そうだな……。おうぇっ。この世に生まれて約十年もの間、一度たりとも水に浸かった事の無いきったねぇ猪の肛門を直接鼻にくっ付けられた臭いとでも言おうかな……」



 端的に臭いって言えば説明が付くのに……。


 こんな時まで真面目に比喩表現をする相方に思わず感心してしまった。



「ふ、む。成程。激臭である事は理解出来ました」


「それがそいつの正体よ。世界で一番臭いと言われている所以が理解出来たかしら??」



 ずぅぅっと遠くを見つめて嗚咽している我が友へと言ってやる。



「おぇっ!! 臭過ぎるのも程度ってもんがあるだろ!! ってか、これを食えっていうの!?」


「罰ゲームだからね。なぁ――に、鼻を押さえて食えば意外といけるっしょ……」



 勿論これは気休めだ。


 奴の常軌を逸した臭いは口から鼻腔へ、そして胃から鼻腔へと伝わるのだよ……。


 あぁ……、慈悲深い神様。もしも居るのなら私の目の前に鎮座してるあの悪魔を滅却しておくれ。



「臭い全然しないよ――??」


 ルーが小首を傾げて狼狽えるユウを見つめる。


「恐らく密閉されている所為でしょう。マイ、ユウ。早く食べないと中の空気が無くなって窒息してしまいますよ??」



 普段は特に表情を変えないカエデが微妙に口角を緩めて話す。


 微妙に笑っているあの笑み。


 極悪非道の限りを尽くした悪人を漸く処刑出来て御の字って感じの裁判官みたいな顔よね……。



「中からは扉を開けられない。つまり、我々が食べ終えたのを確認した後に外から開ければいいのか」


「リューヴの言う通りですわ。さ、早く食しで下さいましっ」



 ち、ちぃっ!! 他人事だと思って!!!!


 だが、刻一刻と窒息のタイムリミットが迫っているのだ。


 早いとこ食べて、そしてここから脱出しましょう。



「ユ、ユウ。私は腹を括ったわ」


「すげぇな。あたしはまだ勇気が出ないぞ……」



 悪魔の前で胡坐を掻き、そして震える手を必死に御して小さな魚をちょこんと摘まむ。



 う、っげぇ……。何よ、この絶妙な柔らかさは……。


 賞味期限が三年前のトロトロに腐った蒟蒻ゼリーよりも柔らかくそして死んだ魚の目が胃の奥から液体を召喚してしまう。


 嗅覚を断絶している、今。


 何んとか吐瀉物を吐き散らかすのを我慢出来ているが果たしてこれを口に迎えたら堪える事が出来るのだろうか??


 甚だ疑問に残るが、食わねば死んでしまう。



「はい、ユウの分」


「お、おぉ……」



 比較的小さな小魚をユウに手渡し、二人仲良く壁際に背を預けた。



「ユ、ユウ。せーのでいくわよ??」


「了解。合図は任せた」



 ユウがごっくんと硬い生唾を飲み終えるのを見届けると、私は死刑宣告を高らかに宣言した。



「せ、せ――のっ!! はむっ!!」



 目を瞑り、右手の掌に乗るブニョブニョした物体を一気苛烈に口の中へ押し込んでやった。


 そして、嫌悪感を与える柔らかさが舌の上に乗った刹那。



「ッ!?!?!?!?」



 口の中にもっっわぁぁああと広がる腐敗臭が鼻の奥から手前へと抜けて行ってしまった。



「く、く、くっさぁぁあああ――!!!!」


「ゴロブェッ!? こ、これを噛めっふぇいうの!?」



 二人同時に悶えつつ叫ぶ。



「そうです。ゴックンと飲み込んで下さい」



 か、可愛い顔してとんでもねぇ極悪非道な台詞をカエデが吐く。



「外に出る為にはそうするしかないのですよ。安心して下さい。死にはしませんから」


「安心の意味が分からんわ!! おっっぇ!! くっさ!! はぁ――……。ンブッ!?」



 万力で鼻を摘まみ、何んとか喉の奥へ流し込もうとするが……。



『止めてぇ――っ!! それは入れちゃ駄目――っ!!』



 それを体内に送り込むべきでは無いと体が拒絶してしまっている。



「ユ、ユウ……。飲み込んだ??」


「はぁっ……。はぁっ……。む、むりっ、絶対無理っ」



 ユウがぽっかぁんと口を開けて出産前の雌牛の様に喘いで拒絶の意思を表す。



「た、食べなきゃ窒息死よ?? 一緒に食べて、外の新鮮な……。おぇっ。空気を吸いましょう」


「ち、畜生……。何であたしがこんな目に遭わなきゃいけないんだよ……」



 右のお目目から一筋の涙がツツ――っと頬を伝っていく。



「あんたが持って来たゲームじゃん、自業自得よ。さ、さぁ――行くわよ!? 準備は良い!?」


「ひゃい……」



 ユウが両目をぎゅっと瞑り、それを合図と捉えた私は今にも吐き出しそうなのを堪えて威勢よく声を出した。



「せ、せ――のっ!!」



 喉の力を最大限に発揮。


 体の拒絶を上回る力を発揮して悪魔を飲み干してやった。



「御二人共、御口の中を見せて下さい」


「「……」」



 カエデの冷たい声を受けて二人静かに御口を開く。



「はい、確認しました。ではどうぞ外へ出て下さい」



 彼女が扉を開けた刹那。



「「ッ!!!!!!!」」



 我先に!! と。ユウと争う形で新鮮な空気が漂う外に転がり出る。


 そして、全力疾走に近い形でトイレへと繋がるプールサイドの出入口へと猛烈な勢いで駆けていった。





「――――。あ、あはは。二人共、吐きそうだったねぇ」



 マイちゃんとユウちゃんが口元を抑えてプールから出て行くのを見届け、しみじみと声を出した。


 そして、それとほぼ同時。



「あぁ、よっぽどの腐敗臭だったのだ……。ッ!?!?」



 リューが勢い良く透明な扉を閉めてしまった。



「く、くっさ――い!! 何、これ!?」



 塩素の匂いが漂うプールサイドの匂いを速攻で腐敗臭が上書きしてしまう。


 余りの臭さに私もトイレに駆け込んでしまいそうだったよ!!



「ひ、酷い臭いですわね……」


「流石世界一と言われているだけはありますね」



 アオイちゃんとカエデちゃんが鼻を押さえてアクリル板で囲まれたあの黄色い缶詰を見つめる。



「でも、これどうやって処理すればいいのかな??」


「ユウ達が帰って来たら一旦これを外に運び。そしてあの缶詰は袋で厳重に縛って処分しましょう。室内で開くべきではありません」


「だろうねぇ……。臭過ぎて室内じゃ……」



 私がそこまで話すと。



『『オロロロォォォオ――――ッ!!!!』』



 ここまで聞こえる嗚咽音と共に大量の液体が噴出する音が聞こえてきた。



「あちゃ――。やっぱ駄目だったか。二人の為に物凄く甘いジュース買って来るね!!」


「あぁ、ついでに消臭剤も持って来い」


「はいは――い!!」



 まだ鼻を摘まんでいるリューに軽く右手を上げてプールサイドをタタっと駆けて行く。


 マイちゃん、ユウちゃん。ゲームはまだまだ続くから頑張って戻っておいでよ??



『ヴェロロロ!! オドッブバァァアアアア――ッ!!!!』


『マイ!! もう少し静かに吐けよな!! こっちまで……。ウプゥッ!?』



 全然鳴り止まない可哀想な喘ぎ声と大量の水が噴出する音を他所に、私はルンルンっと軽快な足取りでプールサイドを出て行ったのだった。



お疲れ様でした。


次の御話がエピローグとなり、本編の番外編である淫魔の女王様の御散歩が始まります。


楽しんで頂ければ幸いですね。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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