最強最悪の悪魔、降臨 その一
お疲れ様です。
本日の前半部分の投稿になります。
真っ赤に燃える太陽が元気な顔に似合わない巨大な大欠伸を放ち、もう直ぐ横になるから静かにしやがれと愚痴を零しながら西の果てへと沈んで行く。
この宇宙が生まれ時を刻み始めた時と同じように、一度始められたゲームは途中で止まる訳にはいかんのさ。
此度の提案者であるユウから始まったゲームはもう間も無く一周目を迎える事となる。そして次のプレイヤーは私と犬猿の仲である糞野郎だ。
神様、お願いしますっ。
ど――か。ど――――かっ!! 彼女に惨たらしい罰ゲームを与えて下さい。
残念ながら祈る神はいねぇが、都合に良い神様に届きやがれとして心の中で自分勝手な祈りを捧げたやった。
「さぁ、回しますわよ――」
蜘蛛がルーレットへ手を伸ばして勢い良く玉が回り、暫くすると四のマス目に止まった。
「四、ですか。では人形を移動しまして……」
白色の人形を四のマス目へと移動させ、いつもの要領でシールを捲る。
そこに書いてあった文字は……。
「え――っと、何々?? は、はぁっ!? ラッキーゾーンだって!?」
ユウが大きなお目目を更に大きく丸めて蜘蛛が止まったマス目を注視する。
彼女の視線と声に従いマス目に書いてある文字をじぃ――っと見てみると。
『君は超ラッキ――!! このマス目に止まった人は何もせず、のほほんと休んで下さいっ!!』
キャピキャピした野球部のマネージャーが武骨な部員に送ったラブレターの書体みたいな感じでそう書いてあった。
「ちぃっ。アオイ、運が良いな」
「そ――そ――。アオイちゃんだけずるいよ――」
灰色の髪の双子が恨めし気に白をジロっと睨む。
「うふふ。私は常日頃から徳を積んでいますからねぇ。本日も朝一番で登校してレイド様の下駄箱を厳重に封印し、レイド様の机の中を隅々!! までお掃除。それからは卑しい雌豚共が寄り付かない様に鋭い鷹の目を以て監視していましたから」
それは徳を積むじゃなくて只の傍迷惑だっつ――の。
そういえば、アイツ……。朝から嘆いていたわね。
『どうしたのよ、朝っぱらから荷物を運び過ぎて今にもぶっ倒れそうなロバみたいな顔して』
『下駄箱が釘で開けられない様に打ち付けてあってさ。イスハ先生にくぎ抜きを借りて全部引っこ抜いたら物凄く疲れた……』
たかが釘を抜くだけで疲れるものなのだろうか??
しかし、話を良く聞けば打ち付けられていた釘は五寸を超えるものばかりで。更には八十八本と言う数が打ち付けられていたそうな。
そりゃ汗だくにもなるわなぁっと。
美味しいコーヒー牛乳をのんびり飲みながら汗塗れのアイツを眺めていたのだ。
やっぱり私の予想通り、犯人は蜘蛛だったのか……。
「よぉぉし!! やっと私の番だねっ!!!! そぉいっ!!」
もう片方の双子に左頬を殴られ、その跡がまだ痛そうに残るルーが勢い良くルーレットを回す。
白き玉がカタカタと軽快な音を立てて回り、暫くすると六のマス目に停止した。
「あはは!! 六だって!!」
「何が面白いのよ」
コイツはいっつも事ある毎に笑うから始末が悪い。
何?? 六という数字に何かを見出したっての??
「別に面白い訳じゃないよ?? 誰よりも大きい数だから運がいいなぁ――ってさ!!」
灰色の人形を掴み、六のマスへと移動。
「じゃあ……。いっきま――すっ!!」
左手でマス目のシールを勢い良くペリッ!! と捲るとそこには……。
『以心伝心、拈華微笑!! 二人一組で二人羽織り!!!! 健やかなる時も、病める時も息の合った二人で困難を乗り越えろ!!』 と。
無駄に鍛え過ぎてしまったボディビルダーが妙にほっせぇ鉛筆をちょこんと摘み、鉛筆の芯を折らない様。
細心の注意を払いつつそ――っと丁寧に書いた書体で書き綴ってあった。
「二人羽織りって事は――……。おぉ!! あった!!」
美しい桃も思わず嫉妬してしまう角度のお尻をフリフリと振りつつユウが三着のデケェ羽織りをボストンバッグの中から取り出した。
「いや、二人羽織りをするのは理解出来るけどさ。それで何をすればいいのよ」
ユウから三着の羽織を受け取りそう話す。
「まぁ話は最後まで聞けよ、このあんぽんたん」
こ、このっ!!
毎度毎度人の神経を逆撫でする発言をしやがってぇ!!
「じゃあ聞いてやるからさっさと話しやがれ。使用用途が見つからない乳をぶら下げた乳牛」
へへんっとしたり顔になっているユウに向かってそう言い放つと。
「「……っ」」
飼い犬の散歩中。
ずぅっと向こうから歩いて来た同じく散歩中の犬と、うちの飼い犬が静かに睨み合い。何かきっかけがあれば直ぐに取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな一触即発の雰囲気が漂い始めた。
おっ?? 何々?? やんの??
こちとらいつでも喧嘩は買うわよ??
「まぁまぁ二人共――。落ち着きなよ――。じゃあ私が代わりに読んであげるね!! え――っと。二人一組で二人羽織りのよ、よう――……」
「要領」
「おぉ!! それそれ!! カエデちゃんいつも助かるよ!! 要領で目の前のおでんを食べて貰います。食べ終えるのが一番遅かった人が罰ゲームです。だってさ!!」
ほぉん。つまり、息の合った呼吸の相棒が必要ってな訳か。
勝ちたかったら気の合う奴を選ばなければならない……。
「おい、そこのベニヤ板。あたしと組め」
我が親友も同じ気持ちを抱いたのか。
臨戦態勢を解除して不敵な笑みを浮かべる。
「しゃあないわねぇ、あいつらにぎゃふんと言わせてやりたいから組んであげるわ。動物園の檻の中でだらしなく壁にもたれて無駄にデケェ胸を観客へ晒している雌ゴリラ」
私は彼女の気持ちを汲み、いつもの洒落を零して右手を上げてやった。
さぁ、パチン!! っと手を合わせて気合を入れようじゃあないか!!
心地良く軽快な音が鳴るかと思いきや……。
「……」
何を考えたのか知らんが、ユウは私の思いを無視して両手で私の顔面をムギュっと掴んでしまった。
「ふぁにすんのよ」
おばあちゃんのうっかりで潰れてしまった饅頭みたいな状態なので喋り辛くて仕方が無い。
「――――。さっきから、ちょっと言い過ぎじゃね??」
「ふぃやふぃや。あんたもたいふぁいよ??」
ベニヤ板だったり、あんぽんたんだったり。どっこいどっこいじゃん。
「ふぅん……。反省しないんだ??」
「ふぁ?? 反省するふぁけないふぁん。ふぁんただって結構ふぃつい事ふぃったし」
私が至極真っ当な意見を口頭にて説明していると。
「……」
何を思ったのか、ユウがクイっと顎を空に向けてしまった。
そして、その二秒後。
「ウンガッ!!!!」
雌ゴリラが気合に満ちた雄叫びを上げて、鋼鉄よりもそしてダイヤモンドよりも硬い額を私の額に衝突させやがった!!
「ンヴィィゲェ――!?!?」
頭突きを受けた衝撃で後頭部からの、の、脳がどっか行っちゃった!!!!
人生で五指に入る激痛によって額を抑え、微妙に湿ったプールサイドの上を転げ回る。
「だ、だ、誰か!! 私の脳を探して!! 絶対何処かに転がっている筈よ!!」
「んな訳あるか。ほれ、さっさと立って準備しろい」
「ふざけんな!! 痛過ぎて立てる訳ねぇだろうが!!」
目に大粒の涙を浮かべて思いっきりユウを睨んでやる。
「すっごい音したもんねぇ……。リュー、一緒にやろ――!!」
「あぁ、了承した」
「カエデ、やりましょうか」
「分かった。でも、おでんを煮なきゃいけないからちょっと待って」
「さっさと立たねぇともう一発かますぞ??」
「そ、そんな事したら額が割れて真っ赤な彼岸花が咲いちまうだろうが!!」
私が悶え打っている間に各々のペアが決まり、そしてカセットコンロの上の鍋でクツクツとおでんが煮える良い香りが立ち込め始めると漸く死合の準備が整った。
お惚け女の双子組み。我が校随一の可憐な華の組み。
そして、極悪非道の残虐凸凹コンビ。
どの組みが果たして勝利を掴むのか。それはやはり阿吽の呼吸が勝利の分かれ目になるだろう。
全員が幼馴染であり、おねしょをしていた年齢や歯が永久歯に変わった年齢まですべからく知っているので予想は困難だ。
もう一つの勝利の要因として挙げられるのは……。羽織りを被る後ろ側の人物。
つまり腕の役割を担う者が上手におでんを口に運べば自ずと勝利へと近付く。
これは言うまでもなかろうさ。
指示に役に従い慎重におでんを運ぶのか、将又それを一切合切無視して強引に食べさせるのか。
実に判断に迷うわね……。
「お――っ!! リュー!! 美味しそうだよ!!」
「貴様の背で前が見えぬ。耳障りだから叫ぶな」
双子組みの腕役はリューヴか。
恐らくコイツ等が一番息の合った組みであろう。視線一つで全てを理解した動きを偶に見せやがるし。
倒すのには相当の集中力と連携力が必要されるわね。
「カエデ。配膳されている器の中には手前からちくわ、大根。そして一番奥に卵がありますわ」
「分かった。手前から処理していく」
可憐な華の組みの腕役はカエデね。
双子コンビに勝てる確立は極僅か。つまり、最下位を逃れる為にはコイツ等をぶっ潰すしかない。
そして、残虐凸凹コンビの腕役は……。
「おい、ちゃんと箸で掴めよ??」
「わ――ってるわよ!! そんな事一々言わんでも理解出来るわっ!!」
勝負師である私にこの組の勝利を委ねられたのだ。
人生初の二人羽織りともあり、若干の高揚感に包まれ暗闇の中に包まれている。
ユウの背中から伝わる温かい体温、彼女の腹に両腕を回してひしと抱き着いているのでそれが直に伝わる。
超接近している事もあってか。
「……っ」
ユウの健康的に焼けた肌からすんげぇ良い匂いが鼻腔に届いちゃうわね。
何んと言い表せばいいのかしら、この匂い。
長い冬が明けて温かい春を迎えると生命が大地に満ち溢れて色とりどりの美しい花が咲き乱れる。
太陽の光を浴びて育った花は馨しい香りを放ち、お腹を空かせた蝶々や蜜蜂の手を誘う。
ユウの香りは虫達の頭を惚けさせる野に咲く一輪の花の香、とでも申しましょうかね。
はぁ――……。落ち着くわ――……。
もしもこの匂いの香水が販売されたら札束握り締めて開店の前日深夜から店の前に並ぶであろう。
「おい、くすぐったいから匂いを嗅ぐの止めろ」
「お、おぉ。わりぃわりぃ……。カエデ――!! こっちは準備出来たわよ――!!」
ムチュっとくっ付けていた鼻を外し、真っ暗闇の中で叫ぶ。
「こっちも良いよ――!!」
「ふむっ。では皆さん、用意は良いでしょうか??」
ちょいと離れた位置からカエデのくぐもった声が届く。
「おう!! さっさと始めよう!!」
「あぁ、腕が鳴るぞ!!」
各々の組みが準備完了を告げると刹那にピンっと糸を張った様な緊張感が漂い始めた。
お疲れ様でした。
現在、後半部分の編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。




