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20/62

異文化コミュニケーションは大切にっ

お疲れ様です。


本文中に英文が出てきますので予めご了承下さい。そして、英文法が間違っている可能性も御座いますのでそこは軽く目を瞑って頂けると光栄で御座います。




 温かい御茶をコクンと喉の奥に流し込むと沸々と湧いていた憤りも一緒にお腹ちゃんの中に消えてしまいそうだ。


 春の木漏れ日が届く縁側でうたた寝をする愛猫と一緒に日光を浴びながらお茶を飲んで優しく息を漏らす。


 そして、柔和な顔を浮かべて訪れたユウ御婆ちゃんと一緒に茶菓子を摘まみながらあ――でもない、こ――でも無いと世間話を繰り広げ。遅々として流れ行く時間を満喫する。



 たかが一杯のお茶が本当に遠い未来に思い描いている理想的な老後の姿を脳内に再生してしまった。



「はぁ――……。和むわねぇ」


「それは結構な事ですねっ。私はまだ背中がヒリヒリしてそれどころじゃありませんよっ」



 自分でもだらしないなぁっと思える堕落した姿で座る私の左隣。


 そこで大変高級なミルクティーをコクコクと御上品に飲むカエデが静かに言葉を漏らした。



「だからあれは罰ゲームだから仕方が無いでしょ?? 私があのペンギンの中に入ったら同じ結果になったと思うし」



 プールサイドで私達が形成する輪の向こう側。


 端の端でビッチャビチャに濡れて寂しそうに横たわり私達の方を恨めし気に見つめている皇帝ペンギンの着ぐるみに向かって顎でクイっと指してやる。



「まぁ……。そうですけど……」



 ふふ、紅茶の高価が如実に表れているわね。


 三分前まではVHSテープの中に潜み、テレビの中から這い出て来る悪霊さえも寄せ付けない負のオーラを醸し出していたが……。一本千円の超高級ミルクティーが彼女の憤りを溶かしてしまった様だ。



 購買の自販機で売られているロイヤルカイザーミルクティー。



 何でも?? うちの担任の実家が養蜂を営んでいるらしく。そこの高級蜂蜜を使用した物だそうな。


 紙パック、五百ミリリットル一本に千円は高校生にとってちょいと高い買い物だが……。怒り心頭のままではとんでもないしっぺ返しがぶち込まれてしまうと考えると安い買い物だったのかもしれない。


 勿論?? 五人で割り勘して買ったけどさ。



「さて!! そろそろゲームを再開しますか!!」



 炭酸飲料をグビっと飲み干したユウが己の太腿をパチンと叩く。



「次は私の番だな」



 その言葉を受けてリューヴが指の各関節の骨を鳴らし。



「さぁ……。行くぞ!!」



 勢い良くルーレットを回した。



「あ――……。気合十分だったけど出鼻をくじかれちゃったねぇ」



 双子の姉妹であるルーが憐れみの意味を含ませた言葉をしみじみと放ち、二のマス目に止まった玉を眺めた。



「くっ……。だが、勝負は始まったばかりだ!! まだ分からんぞ!!」



 翡翠の色の人形をマス目に移動させ、そして勢い良くマス目に付着してあるシールを剥した。




『光る画面越しに陽気な黒人司会者を笑わせろ!! 睨めっこしましょう――、笑わせたら勝っちよっ。ワッショイショイッッ!!!!』




「――――。何か、無性に腹が立つ文よね」



 これまで受けた仕打ちの数々が私の心に悪影響を及ぼしているのか。只の文字の羅列でさえも微妙にイラっとしてしまう。



「まぁそう怒るなよ。えぇっと……。おぉ!! これだ!!」



 ユウがプリンっとした丸いお尻を振って無駄にデカイボストンバッグの中から取り出したのは普遍的なタブレット型端末と一枚の紙だ。



「ユウちゃん!! 説明書にはなんて書いてあるのかなっ!?」



「そう焦りなさんな。何々――?? このタブレットを起動させると画面に大変愉快な黒人司会者のゴンズさんが出てきます。彼は大変笑いに厳しく相当面白い顔を浮かべないと笑ってくれません。因みに、彼は日本語に疎く英語しか話せません。最後まで彼の笑いを勝ち取れなかった者の負けとなります」



 ほぉん。とどのつまり、日本語が通じねぇから顔芸で笑わせろって事か。


 至極簡単な事程、笑わせるのは難しいのよねぇ……。



「成程。ルールは理解出来ました。では、早速起動してみましょうか」



 カエデがタブレット型端末の電源を入れると、真っ黒の画面に梨の画像がぼぅっと浮かぶ。



「何か……。妙に既視感がある画面よね」


「まぁ、そうだな。欠けていないだけマシだろうさ」


「欠けていたら色々と不味いっしょ」



 ユウがまじまじと画面を見続け、その十秒後。



「hey!! Nice to meet you!!」



 片目をパチンと瞑ってサムズアップ。


 誰がどう見たって彼は陽気ですよ――っと刹那に理解出来てしまう姿で超陽気な黒人司会者が現れた。



「お兄さん初めまして!! 今から私達、ゲームするんだけど。いいかなっ!?」



 ルーが興味津々で話し掛けるが。



「oh sorry. I cant speak Japanese well」



 シュンっとした面持ちでルーの言葉に答えた。



「え――っと。流暢過ぎて聞き取り辛かったけど。上手く日本語が話せないって言ったんだよな??」


「ユウ、その通りですわ。では……。コホン。Can we start the game now??」



 蜘蛛がまぁまぁの発音で話し掛けると。



「oh!! Yeah!! Im ready to get in on!!!!」



 ノリノリの陽気で両手のサムズアップを披露してくれた。



「では、リューヴ。ゴンズさんを笑わせて下さい」


「あ、あぁ。分かった」



 リューヴがタブレットを受け取ると、まるで大事な空手の試合の前みたいに酷く緊張した面持ちで深く呼吸をする。



「リュー、試合じゃないんだからもっと肩の力を抜きなよ――」


「こういう類は苦手なのだ。で、では……。行くぞ!!」



 只でさえ鋭い目付きを更に尖らせ、顔を真っ赤にした状態で陽気な黒人司会者を正面に捉えた。



「oh……。You must be a thug?? I’ll surrender, so overlook it??」



 何て言ったか全然!! 分からんが。何だかめっちゃ怯えて後方へクイっと指を向けているわね。


 英語が不得手な者は皆等しくパチクリと瞬きをしているが。



「「……っ」」



 カエデと蜘蛛はクスクスと軽い笑みを漏らしていた。



「カエデちゃん。今なんて言ったのかな??」


「は、はい。えっと……。君はチンピラだろ?? 降参するから見逃して貰えないかな?? と仰いましたね」


「「「あははは!!!!」」」



『チンピラ』



 その言葉が先程のリューヴの顔に酷く誂えた言葉に聞こえてしまった私達は何の遠慮も無しに笑い声を解き放った。



「なっ!? だ、誰がチンピラだ!! その様な者はいつか退治してやったぞ!!」


「まぁまぁ――。そうかっかしたらゴンズさんが怖がっちゃうよ。じゃあ次は私ねっ!! いくよ――……。せ――のっ!!」



 お惚け女が蛙の合唱みたいに頬を一杯に膨らませると。



「nhh……。Soso」



 あと一息だぜ、お姉ちゃん?? もう少し頑張りましょう的な表情を浮かべた。



 おぉ、今の英語は分かったわ。


 まぁまぁって意味よね。



「あちゃ――。駄目だったか――。はいっ、次はアオイちゃんね!!」


「こういうのは苦手ですわ。では、御手柔らかにお願いします」



 蜘蛛が普段通りの顔でタブレットを見つめると。



「oh jesus. Your face is more beautiful than moonlight」



 何だかうっとりした顔で見惚れてしまっていた。



「うふふ、お褒めの言葉有難う御座います。ですが、私の体は全てレイド様の所有物なのであしからず」



 片言しか聞き取れねぇから何んと言ったのか分からないが……。まぁ褒め言葉なのでしょう。


 奴の顔は国境を越えても通じるってか??


 あ――、腹立たしい事この上ないっ!!!!



「何言ってんだよ。ほら、次はあたしなっ!!」



 出たよ……。顔芸なら他の追随を許さぬ芸達者のユウの出番だ。


 奴とにらっめこをして勝った奴を私は見た事が無い。


 今までユウと数えるのも億劫になる回数対決したけども、全戦全敗を喫してしまった。


 あの顔芸の魔術師に勝てるのかしらね?? 日本代表を嘗めてもらっちゃぁあ困るわよ!!



「よぉぉっし。いくぜぇぇええ……。うんがぁっ!!」



 タブレットでユウの顔が全部隠れて見えないが、これでもかと気合が満ちた声が漏れた刹那。



「ッ!?」



 黒人司会者のお口から微かに空気が漏れる音が届いた。



「んおっ!? お前さん、今笑ったろ!?」



 ユウが勝ち誇った顔で彼の指を差すが。



「no no. this yawned. I haven’t lost yet」



 まだまだ勝負はこれからといった表情を浮かべていた。



「へぇ――。ユウの顔芸に耐えるなんてやるじゃん」


「そうだねぇ。ユウちゃんの変顔は私達の腹筋を何度も壊しているのにさ」


「ちっ……。次はとっておきをブチかましてやるからな?? 覚悟しておけよ??」



 ユウがふふんっとしたり顔に変化した黒人司会者に悪態を付き、私にタブレットを渡してくれた。


 彼女程では無いが私もある程度に顔芸には自信がある。


 そして何より、一番で勝ち抜けてやるという勝負師の熱き魂が沸々と燃え滾っているのよね!!


 彼女から受け取ったタブレットを正面に置き、さぁ派手な花火を打ち上げてやろうとした刹那。






















































「hahaha!! Oh,come on!! Y,y,you really!?」



 まだ変顔にも形態変化していないのに彼はお腹を押さえてワハハと大胆に、文字通り抱腹絶倒していた。



「は?? まだ私面白い顔を浮かべていないんだけど??」



「bu!! Ahaha!! You drowning in the rotten river!? An ugly catfish is cuter than you!!」



 いやいや、地面に笑い転げて何か叫んでいますけども。


 全く何言っているか分かんねぇから。


 私が首を傾げて不思議そうに彼がのたうち回る姿を見つめていると。



「くっ、ふふふっ……」


「流石、本場米国の冗談ですわね。芯に来ましたわっ……」



 カエデと蜘蛛が肩をピクピクと細かく震わせて笑っていた。



「ねぇ、カエデ。コイツ、今なんて言ったの??」


「私も知りたいかなぁ――」



 ルーがカエデの肩をツンツンと突いて問う。



「ふ、ふ――……。あ、あはは!! 駄目です。ちょっと待って下さいね」



 お、おぉ。別に構わんがそこまで笑える英語だったのかしら??



「すぅ――……。うん、大丈夫です。彼はマイの顔を見つめてこう言いました」


「「ほうほう!!」」



 私の隣に座ったルーと共にコクコクと首を上下に動かして、彼女の次なる言葉を待った。


























「わはは!! 君は腐った川でジタバタと溺れているのかい!? 醜いなまずの方が君よりもウンっと可愛いさ!! と、彼は申しました。因みに少々脚色しています」



 カエデの言葉を受け取った刹那。


 頭の中で何かがプッッツンとブチ切れた音が鳴り響いた。



「ha――. I never give up」


「よぉ、そこでケタケタ笑い転げている陽気なアメリカ人さん」



 目に浮かぶ涙をそっと拭った野郎の顔を正面でマジマジと見つめてやる。



「oh my……。what an ugly mother fuc……」



「テメェがきったねぇ英語を話してるのは分かってんだよ――!! パスポートの有効期限が切れてるから本土へ強制送還してやるわぁぁああ――――ッ!!!!」



「wa,wait!!!!」



 慌てふためく黒人司会者の顔面に世界最強の拳をぶち込み、タブレットごと粉砕してやった。



「ふ――……。ふぅぅうう――ッ!!!!」



 怒りで拳が震え、肩から殺気が零れ落ちる。


 これ程までにブチっと切れたのは久々よ。



「お、おい――。これあたしの物なんだから壊すなよ」


「それは謝るわ。私が罰ゲームを受ければいいでしょ??」



 プスプスと黒い煙を放つタブレットを手に持つ友人へそう言ってやる。



「お、おぉ。マイがそう言うのなら別にそれで構わんよ」



 余程私の顔が恐ろしかったのでしょう。


 狂気に塗れた私の顔を見慣れた筈のユウでさえもちょいと慄いていた。



「では、私が罰ゲームの紙を引きますねっ」



 カエデが意気揚々と罰ゲームの紙が入っている箱へ手を突っ込み、そして煌びやかな面持ちで一枚の紙を引き抜いた。



「え……、と。紙には。『餅は餅屋。蛇の道は蛇。ゴムパッチンは五メートルで!!』 と書かれていますよ」



 確かに彼女が私達に示した紙には腹が立つ書体でそう書かれていた。



「ゴムパッチン?? それで何をするのかな??」



 ルーが不思議そうに紙を見下ろして首を傾げていると。



「お――!! あった、これこれぇ!!」



 我が親友がボストンバッグの中から数点の物を取り出して軽快な声を上げた。



 呼吸がし易い様に白いピンポン玉に複数の穴が開き、玉の両側には黒い革製の紐が括り付けられており。アレがどういった物かはバラエティー番組を見ていれば容易く看破出来よう。


 そして親切丁寧にピンポン玉にはとぉぉっても頑丈そうな長いゴムが接着されていた。



「何々?? 罰ゲームを受ける人はこのピンポン玉を咥えて下さい。そして罰ゲームの執行者は長さ五メートルのゴムパッチンを限界まで引っ張り、丁度良い塩梅の位置で勢い良くゴムパッチンを離して下さい。って書いてあるぞ!!」



「そんなウキウキした感じで話さなくても大体分かるわよ」



 俗物が好みそうなテレビ番組では、体を張る事が仕事の芸人達がアレを食らうとこぞって痛がる振りをしている。


 あぁんなちゃちなゴムが当たっただけで痛い訳ねぇだろと、いつもテレビを見ながら突っ込んでいたものさ。



「ほい、どーぞ」


「ん――……」



 ユウから手渡されたピンポン玉を咥え、そして後頭部で紐をキツク縛る。


 う、う――む……。


 何んと言いますか。いざ自分がやる立場になると多少なりも緊張するわね。



「あはは!! マイちゃんそっち系のプレイする人に見えるよ!!」


「ひゃかしい!! 好きふぉのんでやってふぁけじゃない!!」


「ふふっ。マイ、玉から漏れる吐息が情けない音を奏でているぞ」



 でしょうね!! 親鳥に餌を強請る雛みたいにピーピー鳴って五月蠅いしっ!!



「おっしゃ!! じゃあ、あたしがぁ……。ずぅぅううっと向こうまで引っ張ってやるよ!!」


「それなら私がマイちゃんが動かない様に後ろから抱き締めてあげるねっ!!」



「ふぉ、ふぉお。たふぉむ……」



 ユウがニッコニコの笑みを浮かべてゴムを引っ張り始めると、それにつられて顔が前に持って行かれそうになる。



「駄目だよ――、動いちゃ」



 陽気な阿保娘がこの場に留めようとして私の胴体に強くしがみ付く。


 その所為か。やたら鼻に付く柔らかさの双丘が背に感じてしまった。



 こ、こいつ。私の了承も無しにまた大きくなってねぇか??


 後でクドクドと長たらしい説教と乳をもぎ取る折檻を与えてやろう。



「お――い!! この辺りで良い――!?」



 プールサイドを十メートル程移動した所でユウが左手を此方に振る。



「ふぃいわよ――」



 ふんっ、たったあれっぽっちの距離で私を倒せるものですか。


 余裕たっぷりの面構えで親友の一投を待つ間。



「――――。ふむ、このゴムもMASA製ですか」



 カエデが放った小さな一言が多大なる不安を生み出してしまった。


 えっと……。つ――事はだよ??


 努力する方向を間違えた天才的且ヘンタイ的技術者の魂を籠めてこのゴムは制作された訳だ。



「フゥ!! やっぱふぁし!! もっとふぃかくでふぁなせ!!」


「行くぞ――!!」



 人の話を聞けや!! 破廉恥巨乳娘がっ!!



「そぉぉっりゃ!!」



 彼女が勢い良く手を離した刹那。



「ウブグェッ!?!?」



 常軌を逸した衝撃が鼻頭に生じ、鼓膜を破る勢いで炸裂音が鳴り響くと足元がフワフワの雲の上に乗った様な感覚に襲われた。



 あっ、素敵ぃ……。この感覚ぅ……。



 頭がフラフラと揺れ動き、足元が覚束なくなり、硬い筈のプールサイドがウォーターベッドに見えて来てしまう。


 甘い手を私に差し伸べているベッドちゃんへと突撃しようと片膝から崩れ落ちてしまいそうになった。



 だが!! 王は決して膝を着かぬのだよ!!!!



「ふぉんがぁ!! わ、私ふぁ!! 決して膝をふけんっ!!!!」



 どうだい?? 部活動で校内最強助っ人の名を持っている私の頑丈さは??



「何言ってんだ?? ばっちし床に着いてんじゃん」


「ふぇっ!?」



 グニャグニャに歪んだユウの顔が呆れた口調でそう話す。



 改めて目に力をギュンっと籠めて己が右膝を見つめると……。



「ふぁ、ふぁさかっ!! この私ふぁ膝を着けるふぁどありふぇない!!」



 私の膝ちゃんはしっかり仲良くプールサイドの床ちゃんと挨拶を交わしていた。



「頑丈なマイでも流石に効いたか」


「凄い音でしたからね」


「可能であるのならばもう一度、食らわせて下さいまし」


「おぉ!! アオイちゃんの意見に賛成だよ!! パチンッ!! って音が心地良かったもんね!!」



 好き放題に勝手に言ってくれちゃってまぁ――……。テメェらには地獄すら生温い罰を後で与えてやっからな??


 この後、どんな酷い目に遭わせてやろうかと考えていると。



「ワ――ン!! ツ――!! スリ――ッ!!」



 破廉恥爆乳娘が非情のカウントを始めてしまった!!



「く、くぅっ!!」



 な、何んとか十秒以内に立ち上がらないと!! 校内最強の名が廃るっ!!!!



「フォ――!! ファ――イブ!! シックスッ!!」


「そのふぁんとをふぁめろ!! 私はふぁつから!!」



 くそう!! 動けぇ!! 動けぇぇええ――!!


 生まれたての小鹿みたいにプルプル震える足を御し、頭の血管がブチ切れても構わない勢いで気合を入れると。



「おぉ!! 動き始めたね!!」



 錆びた鉄を無理矢理ひん曲げたような歪な音を奏でて足が動き始めた。



「セブ――ン!! エイトッ!! ナ――インッ!!」


「――――。ウゴヴァッ!! アァッ!! どうふぁ!! たったふぁ!!」



 審判の前でファイティングポーズを取り、フルラウンド闘う意志を見せてやった。



「よし!! 良く立ったな!!」



 ユウがニッコニコの笑みを浮かべて私の肩を優しくポンっと叩く。



「ふぅ――……。いや、すっげぇわ。コレ」



 口からピンポン玉を外し、私の膝を折ったMASA製のゴムを見つめてやる。



「マイ、どの程度の威力だった??」



 空手部のエースである彼女はこうした痛みに関してちょっと五月蠅いからね。


 私よりも興味津々といった感じでゴムを手に取っている。



「ジョールイスの右ストレートをブチかまされたようなもんよ」


「ほぅ!! あのヘビー級最多防衛回数を誇る彼の一撃かッ!! ふむ……。成程ぉ……」



 流石、格闘技マニア。


 ふつ――の女子なら決して知り得ない偉大なるチャンプの名も知っているか。



「そんなに気になるのならリューもやってみる??」


「そ、そうだな。本場米国の一撃を食らういい機会かも知れん。試してみるか!!」



 若干興奮気味に鼻息を漏らすと喜々とした様子でピンポン玉をカポっと咥え、そして後頭部に紐を回してガッチリと拘束する。



「フウ、いいふぉ。引っ張ってふれ」


「了解了解っ!!」



 しっかしまぁ――もの好きよねぇ、リューヴも。


 自ら激痛を食らいにいくなんてよっぽどの酔狂よ。



 ユウがニコニコの笑みを浮かべてゴムを両手で引っ張って距離を取ると。



「えへへ。リューが動かない様に腰を持っててあげるね――」



 陽気な双子が彼女の腰をキュっと掴んでその場に固定した。



「よぉ――し。いくぞ――!!」


「ふぉう!! さぁ……。ふぁふぁってこい!!」



 獰猛な狼を彷彿させる険しい瞳を浮かべた刹那。



「そいやぁっ!!」



 ユウが勢い良く放ったゴムがおっそろしい速度でリューヴの顔面へと迫る。


 ただ、その軌道が私の場合と違って若干斜め下から穿つ形となり。彼女の顎を綺麗に打ち抜いた。



「グフォァッ!?!?」



 鼓膜が破れるんじゃないのかと首を傾げたくなる炸裂音が響き、端整な御顔が天井を向くと。



「…………」



 彼女は操り人形の糸が切れた時の様に膝から地面へスットンと倒れてしまった。



「うっわ!! リュー、大丈夫!?」



 ルーが正面へと回り彼女の前で手を振るが。



「……」



 魂が抜けた体は一切反応する事は無かった。



「い、いやいや。すっげぇ音したけど大丈夫なの??」



 今も指先一つ動かない彼女を見下ろしつつ話す。


 私も一発ブチ食らってその威力を知っているが、鼻頭に直撃したし。打撃系の攻撃に慣れている彼女の意識を一撃で奪い去ったのだ。


 全く……。末恐ろしいわねぇ。MASA製ってのは。



「どれ、試しにカウントを始めてみますか!! 」



 いやいや、ユウさんやい。


 ここは友人に心配を掛ける場面であって。恐ろしい実験にワクワクする悪の科学者みたいな顔を浮かべる場面でありませんぜ??



「ワ――ンッ!! ツ――ッ!! スリ――ッ!!」



 両国国技館のリングで鳴り響く審判のカウントばりに威勢の良い声が室内に響く。


 た、多分反応しないわよ。


 だって両膝着いて座ったままうんともすんとも言わないし。



「フォ――ッ!! ファ――イブッ!!」



 審判の非情のカウントが進む中。



「……っ」



 な、何んと小指がピクっと動いて立ち上がろうとするじゃあありませんか!!



「お、おぉ!! リュー!! 頑張って!!」


「やりますわね。さぁ、立ち上がってみせなさい」


「頑張って下さいね。リューヴ」



 錆びた鉄の扉を万力で開く時の様な歪な音を奏でて、徐々に体が上昇していく。



「シ――ックス!! セブン!! エ――イトッ!! ナ――インッ!!」


「ッ!!」



 無情のテンカウントが響く前に彼女はユウへ向かって完璧なファイティングポーズを取り、戦う意思を見せた。



 はは、すっげ。意識が無いのに立ったよ。



「おぉっ!! さっすがリュー!! 遊びでも負けるのは嫌だもんね!!」



 ルーが無邪気且無警戒のまま、無意識の彼女の前へと立つ。


 私は格闘技にまぁまぁ詳しい訳だが、いつかこんな話を聞いた事がある。



 ボクサーは試合中に意識を失っても戦い続ける事が出来る、と。



 何百、何千とサンドバックを叩き続けた拳は例え意識を断ち切ってもその動きを忘れる事は無い。


 そして、命を断ちきらない以上。彼女の闘志は萎える事はないのだ。



 つまり。


 今の彼女は一切の制御が聞かない暴力の塊。強いて言うなれば鞘から抜かれた抜身の刀そのもの。


 無警戒のままそれに触れれば恐ろしい結果が待ち構えているのだ。



「ちょ、ちょっと。ルー、触っちゃ駄目よ」



 その事を思い出した私はニッコニコの笑みで彼女の肩を触れようとしているルーを御してやった。



「大丈夫だって!! リュー!! 起きて――」



 嫋やかな手がリューヴの肩に触れた刹那。



「ッ!!!!」



 確実に撲殺出来るであろう速さと威力を兼ね備えた右の拳がルーの顔面を襲った。


 すっげぇ……。レイセフォーばりの右フックじゃん……。



「う、うっそ!! あびゃぁっ!?!?」



 無警戒のまま触れた彼女は左頬に恐ろしいまでの一撃を食らい、巨大な水飛沫を上げてプールの中へと飛び込んで行ってしまった。



「――――。ハッ!? わ、私は一体……」



 拳に捉えた肉の感覚を受けて意識が戻ったのか。


 いつも通りの空手の型を取りつつリューヴが何度もパチクリと瞬きを繰り返す。



「ゴムの強烈な一撃を食らって気を失ったのよ」



 ルーみたいに殴られては叶わん。


 そう考え、彼女の攻撃範囲外から状況を説明してやった。



「そ、そうなのか……。攻撃を加えられて意識を失ったのはイスハ先生の攻撃を受けて以来だな」



 ピンポン玉を外し、特殊素材で作られたゴムを手に取って話す。



「ちょ、ちょっと!! リュー!! 酷いよ!!」



 綺麗な灰色の髪が水に濡れてしまい、大変残念な顔と髪型でルーが震える体を必死に動かしてプールサイドへと這い上がって来る。



「むっ?? 貴様、何故プールに入っている。それに左頬が腫れているではないか」


「リューが殴ったの!!!!」


「気絶している私に近付いたのか。それは余り勧められんな。私は気を失おうとも戦い続ける戦士なのだからっ!!」



 ふんっと鼻息を荒げ、足元でビィービィー泣きじゃくる双子を見下ろす。



「戦士だか何だか知らないけど!! 本当に酷い目に遭ったよ!! さ、早く続きをやろう!!」


「お、おぅ。そうね」



 プリプリと大変可愛い怒り方でボードの側へ座り私達を促す。


 間も無く一周を終えるし、それにゲームの内容にも慣れちゃいけないけども慣れて来た。


 マス目はまだまだ続いているので誰にでも優勝のチャンスは残されている。


 つまり、それを言い換えればもっと酷い罰ゲームが待ち構えている可能性がある訳。


 ここで気を緩めたらとんでもない目に遭う恐れがある故、一切気を切らずに試合を続けましょう。


 まだまだズキズキと痛む鼻頭を抑え。



「むぅ――……。こうなったらテガミでも優勝しないとっ」



 それを言うなら是が非だろうがこのすっとこどっこい、と突っ込みたくなる言葉をグッと堪え。


 鋭い狼の瞳を浮かべている彼女の隣に静かに座ったのだった。




お疲れ様でした。


次の御話でゲーム大会は終了。勝利は果たして誰が掴み取るのでしょうか。


次のネタが思いきましたのなら本編の後書きにて掲載させて頂きますね。


それでは皆様、お休みなさいませ。

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