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正射必中!! ペンギンの行進を妨げろ!!

お疲れ様です。


久し振りの更新となります。


本文に英文字が使用されていますので、予めご了承下さい。


それでは、どうぞ。




 まるで熱した鉄を当てられた様な痛みが生じる尻を労わる為、丁度良い塩梅に温かい温水プールへと浸かり続ける。


 この忌々しい痛みは本日も地獄で盛大に行われているえげつない拷問を更に越える痛みであろうさ。


 地獄の従業員である鬼達も。



『い、いやいや。俺達でも流石にあそこまではぁ……』 と。



 おっそろしい顔を歪めて私のお尻ちゃんへ憐憫の眼差しを向ける事だろう。


 畜生めがっ。


 私の桃尻を馬鹿みたいな勢いで叩きやがってぇ……。この怨みは必ず晴らしてやるからな??


 憎しみを籠めた瞳でキャッキャウフフとプールサイドで燥ぐ愚か者達をじぃっと睨み付けていた。



「よぉ、マイ。早く上がって来いよ。次のゲームが始められねぇだろ」


「うっせぇ!! 尻が痛過ぎてプールの水で冷ましてんだよ!!」



 私を悠々と見下ろすユウへ正直な思いを叫んでやる。



「あっそ。じゃあカエデ、ルーレットを回して」


「分かりました」


「無視すんなっ!!!!」



 水族館でガキンチョ共に素晴らしい跳躍力を見せる海豚いるかさんを余裕で超える跳躍力でプールサイドへと登り。ユウの尻を爪先で蹴飛ばしてやった。



「いって。あたしの尻がデカくなったらどう責任取ってくれんだよ」


「安心しなさい。あんたの尻は鉄よりも、ダイヤモンドよりも硬いから私の攻撃じゃあビクともしないって」



 そう、私の攻撃ではの話だ。


 ぐ、ぐふふふ……。ユウが罰ゲームを食らったらあのハリセンを取り出してぇ、数十秒前に受けた痛みを数百倍にして返してやろう。


 貴様のプリンとした尻に因果応報の四文字を刻み込んでやるっ!!



「マイちゃん顔怖いよ??」


「あ?? 誰だって理不尽な痛みを受けたらこんな顔にもなるさ」


「目を疑う速度で飛翔しましたからね。おっと、私は三つ進む事になりました」



 常時冷静なカエデが藍色の人形を開始時のマスから三つ先のマス目へと動かし。



「では、どんな指令が書いてあるのか。確かめてみましょう」



 大変お可愛い指先でマスに張ってあるシールを捲った。




『貴方も今日から可愛いペンギンさんっ。妨害に負けじと平均台を渡り切れ!!!!』




 はっ?? ペンギン??



「え――っとぉ。おぉ!! これだ、これ!!」



 ユウがバッグの中から超大きな皇帝ペンギンの着ぐるみを取り出した。


 いやいや、デカすぎじゃね??



「ほら、カエデ」



 大人の女性ならすっぽりと収まり、まぁまぁ背の高い男でも何んとか入れそうな着ぐるみをカエデに渡す。



「へ、へぇ……。これは……。中々に可愛いですね!!」



 ふんすっ!! と。


 彼女が興奮した時にだけ零す鼻息を披露して早速着ぐるみの背に縫い付けられたチャックへと手を伸ばした。



「うん、大きさも余裕があって。よいしょ……。中も意外と過ごし易いですよ??」



 ペンギンのヒレをちょこちょこと動かし、首を左右に振り、鋭い爪を模倣したモコモコの足を可愛らしく動かす。



「あはは!! カエデちゃん、可愛いよ!!」


「正確に言えばカエデでは無くて、その着ぐるみが可愛いのだがな……」



 ルーとリューヴがマジマジと皇帝ペンギンの動きを見つめて軽快な声を出していた。



 カエデって水の生物が特に好きだからねぇ。



「ふふっ、どうですかっ??」



 今も軽快に動くペンギンの動きがそれを証明している。



 幼稚園の頃だっけ。


 教室内でテレビを見る時間になると、彼女は食い入る様にお子ちゃま番組を見ていた。


 どうやら家では余り見せて貰えないらしく?? その所為もあってか誰よりも熱心にそして情熱的な瞳を浮かべて瞬きする間も惜しむかのように見ていたのだ。


 カエデが特にお気に入りだったのは、『お兄さんとお姉さんといっしょ』 だったわね。


 公共放送局の一番組で司会進行役のお兄さんとお姉さんが子供達と戯れるほのぼのとした番組。



 その中で出て来る殿様ペンギンの寅丸に彼女は魅了されていた。



 外見はほぼ皇帝ペンギンなのだが、頭頂部に仰々しいちょんまげを乗せ。豪華で金ぴかの束帯衣装を身に纏い。汚い言葉を吐きつつお兄さんとお姉さんを揶揄しながら左団扇を仰ぐ。



 何であのゲスなペンギンが好きかと問うたら。



『せいぎとあく。あいたいするふたつのそんざいがせいりつすることでばんぐみがなりたっています。みなさんはむじかくのうちにせいぎがわにしゅかんをおきますが。わたしはかれのいいぶんがただしいとしんじているからすきなのです』



 幼稚園児には大変難しい言葉を並べてくれた。


 煌びやかに瞳を輝かせている彼女の横顔へ向かってユウと共に。



『『おめぇ、なにいってんだ??』』



 そう言っても彼女はお構いなしに光る画面の中のペンギンに視界を奪われてしまっていたのだ。



「ふふ……。さぁ、我を崇めよ!!」



 普段よりも三段階程低く声を落とし、右足の踵を床にクイっと突き立てて左のヒレでペンギンの横顔を仰ぐ。


 そうそう、あのポーズと台詞が大好きだったわねぇ……。



 懐古に浸りほのぼのと頷いてペンギンの所作を眺めていると。




「ふぅっ!! 意外と面倒な作りだなぁ」



 ペンギンが華麗な舞いを披露する傍らユウが平均台の設置に汗を流している姿を捉えた。


 ってか、それどこから出したの??



「ユウ、何か手伝う??」


「ん――?? あぁ、マイはそこのカセットコンロで湯を沸かしてくれ。んで、アオイは空気注入式水鉄砲を皆に渡して」


「は?? ペンギンの着ぐるみに着替えて平均台を渡るだけじゃないの??」



 大変カッコいい汗を流して作業を続ける彼女に問うた。



「いや、ルールにはさ。熱湯を入れたMASA特製の水袋を着ぐるみの中に入れて。んであたし達はカエデが平均台を渡り切らない様に、微妙な熱さの水を入れた水鉄砲をぶっかけて阻止しろって書いてあるんだよ」



 ユウがさり気なく放った言葉がプールサイドに響くと。



「ッ!!」



 可愛らしい動きが一切合切消失したペンギンが慌てて私達の下へと駆け寄って来た。



「ユ、ユウ。ルール説明の紙はどこにありますか!?」


「ん――」


「ッ!?!?」



 彼女から渡された紙を受け取ろうとして必死にヒレを動かすが。



「受け取れません!!」



 結局諦めて地団駄を踏んでしまった。



「私が取ってあげるよ――。はい、どうぞっ」


「申し訳ありません。目の位置はもう少し中央側です」


「あぁ、はいはい」



 ルーが両手で持ち上げた紙をペンギンの頭をコクコクと揺れ動かしながら読んで行く。


 ちょっとその姿が可愛いと思ったのは秘密にしましょう。



「確かに……。そう書いてありますね」


「だろ?? よし!! 平均台の設置は完了したぞ!!」


「こっちも熱湯の準備出来たわよ――」


「水袋も用意できたぞ。しかし……。不思議な感触の袋だな」



 リューヴが訝し気な顔を浮かべて無駄にデケェ袋を持つ。



「でもさ。熱湯を入れたら熱くて持てないんじゃないの??」



 目の前でグッツグツと煮沸する湯を見つめながら話す。


 ここにカップラーメンでもあれば最高なんだけどねぇ。今は我慢しよっと。



「水袋に付属されていた紙にはMASAが開発した最新材が使用されていると書いてあったぞ。熱は外部に伝わり難いしかしある程度の衝撃を受けたら破裂するそうだ」



 リューヴの渋い声がプールサイドに響く。



「き、き、危険過ぎませんか!?」



 一頭のペンギンが私達の方へグルッ!! と顔を向けて抗議の声を放った。



「大丈夫っしょ。直ぐそこにプールがあるんだし??」


「ちょっとだけ手加減して冷ましてやっから安心しなって――」


「ユウ、マイ。その言葉、決して安くはありませんよっ??」



 左右の黒いヒレをワナワナと震わせ、絶妙に尖った嘴を私達の頭頂部へと突き刺す。



「水袋へ熱湯を入れて――」


「そしてすこ――しの水で冷まして――っと!! はい、完了!! ルー、カエデの背中へこの水袋をぶち込んでやりな!!」



 育ち過ぎて不安になってしまう大きさへと変貌を遂げた球体をルーへと渡してやる。



「おっも……。カエデちゃん、後ろ開けるよ――」


「いいですか!? くれぐれもゆっくり入れて下さいね!?」


「わかってるって――」



 彼女がチャックを開けると、秒速数センチの速さでそ――っと球体を着ぐるみの中へ投入。


 そして触れたら傷付けてしまう物を触れる様にチャックを締めた。



「どう?? 背中は暑くない??」



 一切の活動を停止させたペンギンへ問う。



「使用期限が迫ったホッカイロくらいの温かさですね」



 絶妙に分かり易い比喩ね。



「よっしゃ!! じゃあ平均台へ昇ろうか!!」



 ユウに手を引かれ、水族館でよく見るペンギン特有のヨチヨチ歩きで平均台の端へと向かって行く。


 あの尻尾の揺れ具合も完璧に再現してあるわね。


 MASA製に嘘偽り無しってか。



「水鉄砲の準備も整いましたわ」



 蜘蛛が絶妙にあっつい水が入った水鉄砲を各々へ渡して準備は完了!!


 さぁ――、いつでも進みたまえ。



「い、言っておきますけど。私の背中には熱湯が入っている事を忘れてはいけませんからね!?」



「お――、十二分に理解しているよ」


「そうね。完全完璧に理解しているわ」


「カエデちゃ――ん。早くスタートしてよ――」



「行きたいのは山々なのですが……。視界の悪さと、皆さんの空気を注入する音で集中出来ないのです!!」



 そりゃそうよね。


 五人全員がペンギンの始動を待ち構えて水鉄砲にシャコシャコシャコシャコ空気を入れているしっ。



「で、では……。行きますっ!!」



 ヨチヨチ歩きのペンギンちゃんが恐る恐る平均台に足を乗せて昇ると。



「「「っ!!」」」



 私達は熱湯を入れた水鉄砲を装備したままで平均台の左右に素早く配置を完了させた。



「よ、よいしょ……」



 カエデが慎重に一歩足を前に出すと、ペンギンのヒレと体全体が左右にグーラグラと揺れ動く。


 たった一歩進むだけでも相当な労力を費やしそうね。


 それもその筈。


 あの着ぐるみの足は無駄にデカく設計されており、己の真の足を探り当てて平均台のド真ん中へ置かなければならないのだから。



「ふ、ふぅ!! これは中々に難しいですね!!」



 漸く一歩進んだペンギンの中から陽性な声が届く。


 そして、その声を皮切りにルーが記念すべき第一射を投じた。



「カエデちゃん行くよ!! そ――れっ!!」



 空気圧でパンパンに膨らんだ水鉄砲から熱湯擬きがペンギンの腹部を直撃するが。



「ルー!! 何処へ向かって撃っているのですか!?」



 ペンギンさんは多少ぐらつく程度で済んでしまった。


 そして着ぐるみ越しでも大変私は怒っていますよと、可愛らしい所作で怒りの表情を醸し出した。



「えへへ。お腹さんだよ――。あれ?? 熱くないの??」


「えぇ。意外と装甲が厚い所為か、全く熱さは感じませんね」



 右足を前にして両のヒレを楽し気に上下にブンブンと振る。



「「へぇ――。熱くないんだぁ……」」



 それは良い情報を聞いた。


 私とユウが一字一句見事に口を揃え、そして歪に口元を曲げてペンギンさんへ照準を定めた。



「や、やっぱり熱いです!!」



 無表情の筈のペンギンが大変慌てた顔を浮かべていそいそと平均台を渡り始めてしまう。


 そしてそれが水の狂宴の開幕の狼煙となった。



「行かせるかぁ!! くらぇぇええ――!!」


「おらぁ!! 極上の水を浴びせてやんよ!!」


「あはは!! 尻尾に掛けちゃお――!!」


「カエデ。偶には私も悪乗りをさせて頂きますわよ」


「乾坤一擲の一撃を与えるのは……。ここだ!!」



 五人の若き女性から放たれた熱湯擬きの水がペンギンを襲う。



「きゃあああ!! ちょ、ちょっと!! 止めて下さい!! お、落ちてしまいます!!」



 びっちゃびちゃに濡れたペンギンが慌てふためきつつ悲鳴を叫ぶ。



「落とす為にやってんだろうが!! あはは!! さぁさぁ!! ゴールはまだまだ先ですよ――!?」



 最大限にまで高めた空気圧でペンギンの踝を狙い撃つ。すると。



「あっつ!! ちょっと!! そこは止めて下さいっ!!」



 どうやら装甲が分厚いのはメチャ短い足より上の様で??


 足の部分は装甲が薄いらしい。


 その言葉を受け取った刹那。



「「「…………ッ」」」



 五人全員がマフィアのボスも顔を真っ青に染めてしまう程に悪い顔へと変貌を遂げてしまった。



「み、皆さん。どうかしましたか??」


「あ?? あ――……。気にしないでそのまま進めばいいわよ」



 水鉄砲にシャコシャコと空気を送りつつ、敢えて感情を殺した声色で応えてやる。



「そ、そうですか。では今の内に……」


「なぁ――んてね。そうは問屋が卸すかってんだぁぁああ――!! 悶え打って落ちろっ!!!!」



 ペンギンの足の甲へ向かって最大圧力の水鉄砲を撃ち込んでやった。



「あっつぅぅうう!! 誰ですか!?」


「あはは!! さぁねぇ!! ユウじゃないの――??」



 私から軽いバトンを受け取ると。



「いやいや、多分リューヴさんだと思いますよ――??」



 飄々とした声でペンギンのアキレス健をユウが穿つ。



「ぃぃっ!? ちょ……」



 んおっ!? 落ちるか!?



「ふ、ふ――。危なかった」



 ちぃっ……。後少しの所で粘りやがってぇ……。



「右の足は貰った!!」


「では、私は左の足で」


「あたしはリューヴの援護だ!!」


「アオイちゃん!! 手伝うよ――!!」


「手伝わなくてもいいですっ!! あ、足が熱湯の足湯に浸かっているみたいに猛烈に熱いのですからっ!!」



 一歩踏み出す度に、一昔前のゾンビゲームに出て来るポリゴンのゾンビみてぇなビチャッ、ビチャッて足音を奏でているし。


 相当な水の量を吸い込んだ足はさぞや動かし難い事だろう。


 だがしかし。よろよろ、フラフラしつつも後一歩の所で平均台の上で可愛い声のペンギンは踏み留まっていた。



 平均台の端まで残り三分の一に到達してしまい私の残弾も残り僅か。



 ふぅむ……。


 このままじゃあのペンギンは確実に渡り終えてしまうであろう。


 あそこから何んとか叩き落としてやろうとする、私の勝負魂が燃え盛って来た。



「あ――。もう殆ど水が残ってないや」


「あたしも――。残り数発かな」



 五人一分隊の残弾も残り僅か、か。


 こりゃ隊長である私が何んとかしないといけないわねっ!!



「あはっ!! 後少しで到着ですよ!!」



 俯きがちだったペンギンがふっと面を上げて喜びの声を放つ。


 あ――。真下を見て歩いていたのか。私はてっきり正面を見据えて歩いていたとぉ……。



「ン゛ゥッ!?!?」



 ひ、ひ、閃いたぁぁああ――――っ!!


 天才的な私の頭脳にピコォンッ!! と妙案が閃きましたよ――!!



「んおっ。びっくりしたぁ……。いきなり奇声放つなっていつも言ってんだろ」



 私の素晴らしい声を受けて刹那に肩をビクッ!! とさせたユウがきゃわいい御目目を見開いて此方を見つめる。



「ユウ、私がたった一発でアイツを撃ち落とすわ。あんた達は左右からの援護をお願い」


「ほぉ……。では、その腕前。確と拝見させて貰おうかな!!」


「おう!!」



 ユウとパチンと右手を合わせ、ペンギンの左側面から真正面へと移動を開始。



「よ、いしょ……。後少し、後少しですからね……」



 自分へ落ち着く様に言い聞かせて俯いているペンギンに対し、全てを見通す神の目を向けてじぃぃっくりと観察を開始した。



 さっき……。紙が見えないって言っていたわよね??


 つまり、ペンギンの中からは覗き穴を通して外を見ている訳だ。


 その穴さえを捉えれば!! 私達は勝利を掴んだも同然ッ!!



 相変わらずシャコシャコと水鉄砲の空気圧を高めつつ、乾坤一擲となる箇所を探す。



「カエデちゃん!! そうはさせないよ!!」


「リューヴ!! アオイも残弾を気にせずガンガン撃て!!」


「分かりましたわ!!」


「あぁ!! 銃身が焼け落ちるまで撃ち続けてやるぞ!!」



 私の指示通りに左右から中々の圧を伴った援護射撃が放たれるが。



「ふ、ふぅ――。良い調子ですねっ」



 ペンギンの分厚い装甲は相も変わらずビクともしなかった。


 そうやって余裕ぶっこいて歩いていられるのも後少しよ??


 さぁ――……。絶好の位置まで歩いて来るが良い。



 私は平均台の終着地点付近で片膝を付き、微妙に揺れ動く照星フロントサイトにペンギンを捉え続けていた。



 くそう。せめてドットサイトでもあればもっと正確に狙えたものの。



 だが、ないものねだりをしている暇は無いっ!! 必ずやあの鳥擬きを叩き落としてみせる!!




「やった!! あと一歩ですよ!!」



 ペンギンが安堵と陽性な感情を出して猫背の姿勢を正した刹那。



「「…………」」



 ほんと――に、よぉ――く注意しないと見えない覗き穴越しにカエデと目が合った。


 そして、この時を待っていました!! と言わんばかりに私は勢い良く水鉄砲の引き金を引いた。



































「Hasta la vista……。ベイビ――――ッ!!!!」



 最大圧力の水の一撃が美しい直線を描いてペンギンの見えない覗き穴を直撃。



「あっっつぅ!!」



 予想だにしていなかった射撃を食らったペンギンのヒレが己の首元を抑えると同時に、『背中から』 プールサイドへと落下してしまった。



「ッ!?!?!?」



 空気を切り裂き鼓膜をつんざくパァンッ!! という炸裂音と共にペンギンが地獄の苦しみを与えられたかの様に床の上を悶え打ち、転げ回る。


 その姿が滑稽に映ったのか。私を筆頭に方々で軽快な笑い声が響いた。



「ぎゃはは!! カエデ――!! 中々楽しそうに転げ回るじゃん!!」


「ぶはは!! なんだよ――。そんなに熱いのか――!?」


「カ、カエデちゃん!! ふ、あはは!! 熱いのならプールに飛び込んだら――!?」



 ルーの言葉を受けて逃れられない熱さから救いを求めるかの如く。



「ッ!!」



 飛び込み選手も天晴!! と十点満点の評価を叩き出す姿勢でプールへと飛び込んだが……。



「し、し、沈みません!!!!」



 着ぐるみの中に空気がたっ――ぷりと詰まっている所為か、彼女の願いとは裏腹にペンギンは水面の上をしっちゃかめっちゃかの姿勢で暴れ回っていた。



「あ、あ、あはは!! カエデ!! これ以上私の腹筋を攻撃しないでよ――!!」



 私は腹筋を抑えてユウの体にもたれて爆笑を続け。



「ぶはは!! もっと派手に暴れれば……。く、くくっ!! 水が早く入って沈むんじゃないの!?」



 親友は私の両肩を持って激しい水飛沫を上げ続ける不沈艦ペンギン号を見つめて大笑いを放っていた。


 だが、あの常軌を逸した激しい運動のお陰か。たぁっぷり水を吸い込んだ足元から徐々に沈降を開始。



「……」



 ブクブクと泡を吐きながら一体のペンギンがプールの底へと沈んで行った。



「カエデちゃん大丈夫かな??」



 沈降後、暫く経っても浮上して来ないペンギンを心配な面持ちでルーが見つめる。



「大丈夫っしょ。カエデは両足がツっても泳げるんだし?? それにぃ……」



 私が話している途中でペンギン号が静かにゆるりと浮上。



「…………」



 そして、私達の方へ嘴の先端を向けたままじぃ――と何かを伺う様に微動だにせず制止していた。



「よぉ――。カエデ、大丈夫だったぁ――??」



 ユウが右手をスっと上げて安否を問う。



「――――。えぇ、今は大丈夫ですよ」



 無表情且感情が一切籠っていない声色で話す。



「そ、そっか。じゃあ何で一切動こうとしないの??」


「制御しているのです」



「「はぁっ??」」



 私とユウが同時に首を傾げる。



「今動くと殺意の衝動に駆られてしまい、このペンギンのヒレで皆さんを撲殺してしまう恐れがありますからねっ」



 殺意全開のペンギンが水面下からニュっと右側のヒレを上げた。



「そ、そうなんだ。着ぐるみの中に水が入り過ぎて重いだろ?? 手を貸そうか??」



 ユウが慄きつつそう話すも。



「結構です。この常軌を逸した憎悪を鎮静化させる為に今必要なのは動かない事。そして燃え滾る殺意を冷やす為にもこうして立ち尽くす事が最善の選択肢なのですからっ」



 プールに立つペンギンは彼女の手を受け取ろうとはしなかった。



「そ、そっか。じゃ、じゃあ――。ちょっと休憩してゲームの続きをしよう!! な!!」


「え、えぇ。頭を冷やす為にも休憩が必要よね――!!」


「あ、あぁ。賛成だ」


「ジュ、ジュースを買って来よう!! カエデちゃんは何か飲みたいものある??」



 私達がぎこちない足取りで出入口へと向かいつつびっちゃびちゃに濡れたペンギンに問う。



「H2SO4を買って来て下さい」



「「「はっ??」」」



 聞いたことがねぇ横文字に三者三様首を傾げていると。



「硫酸の化学式ですわっ」



 私達の肝がヒェッと冷える発言を蜘蛛が放ってしまった。



「う、売っている訳ないじゃん!!」


「後!! 誰にそれを飲ませるつもりだったんだよ!!」


「意外と酸っぱくて美味しいかも知れませんよ??」



 んな訳あるか!!


 喉が溶け落ちるわ!!



「じゃ、じゃあ!! カエデが好きなミルクティーでいいわよね!! じゃ、買って来てあげるからそのまま暫く待機してなよ――!!」



 ペンギンへ向かってシュッ!! と右手を上げると。私を先頭に五名がいそいそとプールサイドから脱出した。



「…………」



 ひろぉいプールの中で静かに佇む一頭のペンギン。この状況を知らぬ者にとってそれはそれはもう酷く不気味に映る事だろう。


 彼女は器用に嘴の先端を確実に私達の方へ向けて終始無言を貫き、ドス黒い殺意の波動を静かに滲ませていたのだった。





最後まで御覧頂き有難う御座いました。


本文で登場した熱湯擬きを決して人に向かって放射しないで下さいね。危険過ぎますので。


本日は本編と番外編の同時更新となった為、指が悲鳴を上げております。指先を労わる為にも早めの就寝を心掛けましょうかね。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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