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説明書に書いてある事には従いましょう

お疲れ様です。


少々長めの文となっておりますのでごゆるりと御覧下さい。




 皮膚にじわぁっと纏わり付く湿気のある空気、鼻腔をちょこんと刺激する塩素の香り。外は真冬の寒さが漂うってのに室内プールは過ごし易い温度と湿度を保っていた。


 久し振りに来たけども、このプール特有の匂いは変わっていないわねぇ……。


 プールサイドで堂々と腰を下ろし、特に何処かを見つめるという訳でもなく只々周囲へ視線を送っていた。



「いよぅ!! お待たせ――!!」



 ユウがプールサイドに現れると同時に無駄にデカイ声を出して私達に向かって右手を仰々しく振るので。



「遅いって――。一体どんだけ待たせるのよ」



 そんな彼女へ向かって適当に右手を挙げて到着を労ってやった。



 本日の全授業が終了すると同時。



『では皆さん、プールサイドへ行きましょうか』



 水泳部の人魚姫ちゃんの先導で荷物一式を持った私達は教室から移動を開始した。


 しかし、我が親友は。



『部室に残りの荷物を受け取りに行ってから行くよ!!』 と。



 明日から夏休みが始まるのかしら?? と首を傾げたくなる燦々と光り輝く快活な笑みを残し。人から注目を集めてしまうけたたましい音を奏でてレスリング部の部室へと駆けて行ってしまった。


 つまり、爆乳娘が到着しない限り下らねぇ勝負を始められなかったって訳さ。



「わりぃ――!! 荷物が多過ぎてぇ……」



 右肩から下げる大人が四人ぐらい入りそうなボストンバッグ、お前さんはエベレストでも踏破しに行くのかい?? と首を傾げたくなる大きさのリュック。そして左肩にも視力を疑いたくなる大きさの鞄を引っ提げ。



「よっこいしょっと――!! はぁ――、重かった!!」



 その荷物全てプールサイドに下ろすと額に浮かぶ汗を右手の甲でクッと拭った。



「ね、ねぇ。ユウちゃん、これ一体何が入っているの??」



 ルーが戦々恐々しながらボストンバッグの側面を突く。



「罰ゲームの衣装やら、それに使う道具だよ。そしてぇ――……」



 バッグのチャックを開き、女性らしい丸みを帯びたケツを左右にフリフリと振りながら目的の物を探し素振を見せると。



「これが……。昼休みに言っていたゲーム盤だ!!!!」



 私が想像していたよりも一回りデケェ一枚のボードが御目見えした。



「ユウ、普通の人生ゲームってさ。マス目に何か書いてあるけど……」



 そう、ざっと数えて百を超えるマス目には何も記載されておらず。ただ白の空白だけが描かれているのだ。



「このプラスチックの人形をプレイヤーに見立てて、んで。そこのルーレットを回してマス目に移動させる。そしてぇ……。止まったマス目に張ってあるシールを剥してマス目の効果を確認しろ。だってさ」



 ユウがデカイゲーム盤に対して、非常にうっすい取扱説明書を朗読して大まかなゲームのルールを説明してくれた。


 ほぉん、マス目に止まって初めてその効果が分かるのか。



「因みに、重複したマス目に止まった場合もそれを実行しろだってさ。一番初めにゴールのマス目に止まったプレイヤーが優勝。つまり!! レイドにチョコレートを渡す代表権を得られる訳って事さっ!!」



「「「……」」」



 優勝の二文字、若しくはボケナスにチョコレートを渡す権利。


 どちらかの言葉が胸に刺さった六名の女性達の間に不穏な空気が刹那に流れていった。



「ルールは理解しました。何やら物騒な物がバッグからはみ出ていますので……。汚れても構わない体操着に着替えて始めましょう。部室に部員達の体操着が置かれていますのでそれに着替えて下さい」



 カエデがボストンバッグの出口からさり気なぁく覗いている鞭の先端を見つめて話す。



「了解。ちゃちゃっと開始して、パパっと渡して帰りましょう!!」


「お――!!!!」



 私の鶴の一声で各々が立ち上がり、カエデの先導で部室へと向かう。


 さ――って……。くっだらねぇ代表権は別として、勝負師としての血が騒ぐわね。


 例え遊びだとしても私は負けるのが嫌いなのよ。雁首揃えてギッタンギッタンのボッコボコにしてやったからな??


 一人静かに沸々と闘志を燃やし、散らかっているとも整理されているとも受け取れる部室の中へとお邪魔させて頂いた。











 ―――――。




 各々が戦闘を開始し易い様に着替えを済ませてプールサイドに再集合を果たすと。



「「「……」」」



 得も言われぬ雰囲気が塩素臭い空気の中に漂った。


 私は負けない。この権利は譲れない。ぜってぇ張り倒す等々。


 人が内に秘める闘志を燃やし、瞳には炎が揺らめき、肩口から零れだす熱気が空気を朧に揺らしていた。



 ほぉ――う。中々に良い闘志じゃあないか。


 だが、貴様等は所詮私の勝利を飾る花でしかないの。それを改めて思い知らせてやろうとしますか!!



「じゃ、さっそく始めよう!! 持ち主であるあたしからルーレットを回してもいいよな??」


 右隣りのユウがニっと笑みを浮かべて勝負開始の合図を告げる。


「別に構わないわよ。じゃあ時計回りで、ユウ、私、カエデ、蜘蛛、リューヴ、ルーでいきましょう」


「は――い!! えへへ、何だか皆と一緒に遊べて楽しいよねっ!!」



 楽しい、ねぇ……。


 果たしてお惚け女の言う通り楽しいゲームになるのだろうか??


 昼休みにユウが言っていた『恥に塗れるゲーム』 これがど――も引っ掛かるのよねぇ……。



「よっしゃ!! 一位はあたしが貰うぞ!! では、ゲーム開始ぃ!!」



 ユウがルーレットの摘まみを回すと、カラカラと心地良い音を奏でてドーム状内の白き玉がルーレットの動きに合わせて弾む。


 そして、白き玉が五のマス目に停止した。



「おぉっ!! 五か!! へへっ、幸先いいねぇ――」



 緑色の人形を開始位置から五番目のマス目へと移動させ。



「さぁ――って。何が書いてあるのかなぁっと!!」



 彼女が勢いよくマス目のシールを剥した。


 そしてそのマス目には。



『僅か五秒!! 制限時間内に小豆を違う皿へ動かせ!!』



 と、やたら仰々しい文字でそう書かれていた。



「小豆ぃ?? そんなもの一体どこに……」


「ありました。これですよね??」



 カエデがデケェバッグの中から小さな袋に入った小豆五粒と小皿二枚、更に割り箸を取り出してプールサイドへと静かに置いた。



「あら、丁寧にストップウォッチも入っているのですか。至れり尽くせりですわねぇ」


「そう見たいですね。ユウ、時間を測りますので準備を整えて下さい」


「おうよ!!」



 右腕を思いっきりブンブンと回し、両手の指の骨をパキポキと鳴らす。



「あのね?? 誰かと喧嘩する訳じゃないんだから」



 猛った牛の鼻息を漏らし続ける親友へと言ってやる。



「ゲーム開始の狼煙を上げるゲームだからな!! 気合を入れるのは当然さ。カエデ!! 準備出来たぞ!!」


「分かりました。では…………。始めっ!!!!」

「ッ!!」



 カエデの声とほぼ同時にユウが箸で正確に小豆を摘まんでもう一方の皿へと移動を開始させた。



 へぇ――。ユウって意外と箸使い上手いのね。


 御飯を食べる時も行儀良いし、何となくそれは理解していたけども。



「五、四、三、二、一……。それまで!!」

「っしゃ――――!!!! 目標クリアっ!!」



 ちっ、いきなり罰ゲームとはいかなかったか。


 見事な箸捌きで小豆ちゃんを移動し終えてしまった。



「ふふ――ん。このままだとあたしが恥を掻く事は無さそうだなっ」


「何言ってんのよ。まだ一つ目じゃん。よっしゃぁああ!! 次は私ね!!」



 我が親友宜しく、右腕をグルンっと回して勢い良くルーレットを回してやった。



「――――。ふっ、勢いは良かったが。一、か」



 リューヴの鼻で笑う声が耳にいてぇ……。



「まぁ――、確立ばかりは世界最強の私でも操作出来ないからねぇ。さて!! どんなゲームの内容が書かれているのかなぁ――っと!!」



 初手から一という情けない数字を引いてしまった大変宜しく無い雰囲気を払拭する為、勢い良くマス目のシールを剥してやった。




『全員参加!!!! 大きな嘘が大大大っ嫌いなブルちゃんを微妙な嘘で騙せ!! 嘘発犬器うそはっけんきから逃れろ!!』




「は?? 嘘発犬器??」


「――――。えぇっと、これかな??」



 ユウがボストンバッグの中から取り出したのは黒い土台付きのやたらゴッツイブルドッグの人形だ。


 両前足の下にはアニメでよく見かける太い骨を大事そうに抱いており。その前足の上に顎を乗せた姿勢で眉をギュっと顰めて眠っていた。



 端的に言い表せば猛犬注意って面ね。




「説明書はこれだね!! えっと……。嘘発犬器の電源を入れて、ブルドッグの顔に向かって二十文字以内の嘘を付いて下さい。この犬は嘘の大小を見抜く事に長けています。小さな嘘には反応しませんが、大きな嘘には敏感に反応して吠えてしまいます。誰かが付いた嘘、若しくは自身が同じ嘘を付いても吠えてしまいます。誰かが嘘を見抜かれ、吠えられた時点でゲームは終了。吠えられた人は罰ゲームを受けて貰います。だってさ!!」



 ルーの簡単な説明で理解出来たけどさ……。


 あんなちゃちな人形が人様の嘘を見抜くとは到底思えないんだけど??



「あ、まだ書いてあった。MASAで開発されたこの嘘発犬器は特許取得済みです。安心、確実な精度を誇るので御安心下さいませ」



「MASAって米国であの宇宙開発とかやってる所??」


「そうですよ。世界でも指折りの天才達が集まる機関です。成程……。これは興味をそそられますねっ」



 くっだらねぇ事に労力を割いている暇があれば他にやる事なんて幾らでもあるでしょうに。


 カエデが興味津々といった感じでブルドッグを様々な角度から眺めていた。



「まっ、いっか!! 取り敢えずやってみましょう!!」



 ブルドッグの尻にあるポッチを押して電源を起動。


 すると。



「……」



 静かな起動音が鳴り響きそして私は駄犬を真正面に捉えて軽い嘘を付いてやった。



「すぅ――……。今日の朝ご飯はおにぎりだ」



 本当はサンドイッチだったんだけどね。


 さぁ――て、反応するかしら??



「…………」


「「「おぉ――」」」



 私の小さな嘘に一切反応せず沈黙を貫く犬。それを受けた各々が感嘆の声を上げた。



「いやいや、まだ一つ目じゃん。ほい、カエデ」



 左隣に座る彼女へ犬を渡す。



「では……。私は魚が嫌いです」


「……」



 これも無反応か。



「カエデちゃん、魚が好物だもんねぇ――」



 特に秋の名物秋刀魚が好みよね。


 皆で出掛けたあの秋刀魚食べ放題の店の店主の顔ときたら……。



『も、もう宜しいのでは??』



 私とカエデの前に積まれた皿を見上げて顔を真っ青にしていたし。


 普段は少食なくせに大好物ともなると大食漢の私に肩を並べる。あの華奢な体のどこに詰まっていくのか不思議で仕方が無いわ。



「これも反応しませんでしたか。アオイ、どうぞ」


「コホン……。今着用している下着は青ですわ」


「……」



 蜘蛛が着けている下着の色とかクソど――でもいいが、これにも反応を示さなかった。



「アオイ、渡せ」


「はい、どうぞ」


「うむ……。今朝走った距離は五キロだ」

「……」



 リューヴの嘘にも以下同文。



「ってか、リューヴ。今日何キロ走ったのよ」


「えへへ。ワンちゃんおいで――」



 ワクワク感全開の様子でブルドックを受け取ったルーを尻目に問う。



「今朝は主と共に十キロ走破したぞ。実に有意義な時間であった……」



 その光景を思い出すかの様に感慨深く目を閉じる。


 私だったら朝も早くからぜってぇ走りたくないわね。アイツも可哀想に……。朝っぱらから十キロも走らされて。



「じゃあいくよ――!! 私は昼寝が嫌いですっ!!」

「……」



 また無反応かよ。



「あんた、授業中馬鹿みたいに寝てるもんね」


「部活で疲れてるからね――。でも、マイちゃんには言われたくないかなっ」


「私は胃の中の物を消化する為に眠る必要があるのよ。ほら、寝ないと体が疲れちゃうでしょ??」


「お――。そういう理由もあったんだね!!」



「コイツの言い訳を素直に信用するなって。じゃ、あたしだな!! えっと……。何にしようかなぁ」



 うんともすんとも言わない嘘発犬器を受け取ったユウが腕を組んで悩む素振を見せる。



「ん――。お、そうだ!! あたしはマイが嫌いだ!!」

「……ッ」



 ン゛ッ!?


 今、微かに口元が動いた!?



「おぉ!! 何かちょっとだけ動いたね!!」


「びびった――……。吠えられるかと思ったぞ……」


「その犬は大きな嘘が嫌い。つまり、ユウはそれだけマイの事が好きって事になりますよね」



 カエデから何気なく発せられた言葉を受けると。



「「……ッ」」



 二人共何とも言えない顔を浮かべてそっぽを向いてしまった。



「確かに嘘には反応するようだな」


「そ、そうみたいね。ユウ貸して」


「お、おぉっ……」



 たどたどしく犬を受け取りそして胡坐をかいて座る私の前に置いてやった。


 リューヴが言った通り、確実に嘘には反応するのよね?? 問題はその大小の塩梅。


 つまり、勝負師の血が騒ぐ私がその境界線を皆へ知らしめてやらねばならんのよ。


 ここは一つ、微妙とも大胆とも受け取れる絶妙な嘘を付いて見せましょうかね!!


 私は大きく息を吸い込み、意を決してブルドッグの顔面に向かって丁度良い塩梅の嘘を放ってやった。






















































「私の胸はBカップだ」

「ワンワンワンワンワンワンッ!!!! バウバウババウバウバウバウバウバウ!!!!!!」



 私の小さな嘘を捉えた刹那。


 飛蝗よりも素早く体を起こし。キュっと閉じていた目を開くと真っ赤に光った恐ろしい瞳で私を捉え、火災警報音よりも更に巨大な音量で吠えて来やがった!!




「んなっ!?」



 そ、そ、そんな馬鹿な!?


 こ、この絶妙な塩梅の嘘をコイツは見抜いたのか!? し、しかも。全部言い終えるまでに体を起こして吠えて来たしっ!!



「ギャハハハハ!!!! マ、マイ!! お前それは無いって――!!」


「あ、あははは!!!! マイちゃんそれは駄目だよ――!!!!」


「ふ、ククッ。マイ、貴様……。虚偽の報告はいかんだろう」


「クスクス……。憐れですわぁ」


「今まで嘘の大小を確実に見分けてきたその犬がそれだけ吠えるって事は……。クッ……。ふふっ」



「お――お――。人が黙って聞いていれば好き勝手に言ってくれちゃってまぁ――」



 けたたましい犬の叫び声が響く中、憤怒を籠めた拳をぎゅっと握ってやる。



「ま、まぁ……。プッ!! これはゲームなんだからぁ――。あはは!! は――……。怒っちゃ駄目だよ??」


「ルーの言う通りだって。ってか、まだすんげぇ怒ってんぞ?? この犬」



 ユウの言葉を受けて駄犬を見下ろしてやると。



「グルルルルゥ……。ガルルルルゥ……!!」



 まだ怒り心頭なのか、鼻頭に深い皺を寄せて大変低い嘯く声を放ち私を睨みつけていた。



「相当嘘が嫌いな様ですね。では!! 罰ゲームを開催しましょう!!」



 カエデがふんすっ!! っと鼻息を漏らしてボストンバッグの中からデケェ四角い箱を取り出した。



「先程説明書を読んだ際、罰ゲームを与える時はこの箱の中から一枚の紙を取り出して下さいと記載してありました」




「ふん。どうせ軽い罰ゲームばかりしか書いてないんでしょ?? 私はどんな罰を与えられようが……。決して逃げんっ!!」

「バウバウバウ!!!! ワンワンワンッ!!!!」



「うるっせぇ!! 糞犬がぁぁああ――――ッ!!!!」



 まだまだ怒り心頭の犬を掴み、勢い良く電源を落としてやった。



「マイ?? お前さんやっべぇ罰ゲームだったら逃げる気だったな??」


「んな訳あるか!!」



 ニッ!! と快活な笑みを浮かべる親友の肩口を一発ぶん殴ってやった。




「本当に嘘が嫌いなのですね。では、私が引いてあげましょう!!」



 いつもは冷静沈着なカエデが意気揚々と箱の中に手を突っ込み、そして一枚の紙を取り出した。



「えっと……。愚か者の尻をハリセンで叩け!! そして宇宙の果てまで吹き飛ばしてやろうぜ!!!! と書いてありますよ」



 キチンと四つ折りに畳んである紙の中には彼女が話した通り、やたらゴツイ文字でそう書いてあった。



「はっ。たかがハリセンで私の尻を吹き飛ばそうなんて。土台無理な話ぃぃ……」


「んおっ。ハリセンってこれ??」



 ユウが荷物の中からハリセン擬きを取り出すと、思わず口を閉ざしてしまった。



 え、やだ。何、あれ……。


 巨大怪物撃退用に作られた鈍器じゃん……。



「MASAが開発した特殊素材で作られ鉄よりも硬く、ゴムよりも優れた弾力性を誇るハリセンです。使用上の注意は……」



 ユウがハリセンに付属していた紙の文を読み上げて行く。



「えぇっと、因みにぃ使用上の注意は何て書いてあった??」


「んっ?? あ――…………。用法容量を守って正しく使用して下さいだってさ!!」


「ぜぇってぇ嘘だろ!!!! そ、そんな危なそうな物で人の尻をブッ叩いて良い訳ないじゃん!!」



 鉄よりも黒くそしてあからさまに超重たそうな質感しているしっ!!!!




「なぁ――にっ。痛みは一瞬だ。ほれ、四つん這いになってあたしに尻を向けなっ」


「ち、ちぃぃいい!! 覚えていろよ?? あんたが罰ゲームを食らったら絶対これよりも酷い目に遭わせてやっからな??」



 ユウの指示通り、プールに向かって四つん這いの姿勢になってやる。



「おぉ――っ。マイちゃんのお尻プリプリだねっ!!」


「えぇ、良い形をしています」



 いや、女に褒められても嬉しくないんだけど??



「まぁ――、それも今日までの話だな。あたしがぁ……。月の裏側まで飛ばしてやるからなぁ」


「ユ、ユウ!! て、手加減してよ!? 絶対してよね!?」



 世界で五指に入るであろう怪力無双にケツを叩かれたら本当に月まで旅行する羽目になりかねん!!


 そう考えて、憐れな子羊に慈悲をと請うたが……。



「すぅぅ――……。うんぬぅぅううっ!!」



 お前さんは屈強な戦士が揃うメジャーリーグでホームランキングでも目指すのかい?? と首を傾げたくなる超強振を披露。



「お、おいおい。今の音、洒落にならないって……」



 一昔前の日本のホームラン王は日本刀で素振りをしていたと伝え聞く。


 それを体現したかのような空気を切り裂く鋭い音が鼓膜に届くと、私の心臓と尻が一瞬で氷付いてしまった。



 あ、あの重たそうなハリセンをいとも容易く振り抜く腕力。


 右足に重心を乗せて、独楽が回る要領で腰を入れて振り抜く一連の動作。


 もう既にこれは絶対人に対して放っては駄目な奴って香りがプンプンと漂うじゃん。



「ふぅ――。準備運動はこれくらいか」



 ユウが満足気に鼻息をふんっ!! と一つ漏らすと私の背後の右打席に立ってしまった。



本気マジで手加減してよ!? あんたが本気出すと洒落にならないんだから!!」


「はっは――。形の良い尻をフリフリ振って何か言ってら――」




 くっ!! こ、この野郎!!


 自分はブッ叩かれないからって調子に乗りやがってぇぇええ!!




「ユ、ユウ様!! 月旅行は止めて、せめて伊豆半島にして下さい!!」


「優しいユウちゃんは君の願いを叶えてやりたいけどぉ――。残念ながら他の女性はブラジル旅行を望んでいるみたいだよ――??」


「は、はぁ!?」



 我が親友の声を受けて四つん這いの姿勢のまま振り返ると。



「「「……っ」」」



 四者四様、皆等しく煌びやかに瞳を輝かせて私の臀部に頑是ない子供と何ら変わりない素敵な色の視線を送っていた。




「ブ、ブラジルって……。地球の反対側じゃん!! 無理無理!! じゃあ佐渡サド!! 佐渡島にしてぇ!!」



「マイちゅわぁんはドMですからねぇ――。サドが大好きなんだね――」



「い、い、意味を履き違えんな!! 危険過ぎて使用用途すらも見つからない破廉恥な乳をぶら下げた野郎めが!!」



 見当違いな台詞を吐いた愚か者に対して私が勢い余って毒を吐くと。




「――――。ふぅぅぅぅ――ん。マイはあたしの胸を見て、そういう風に思っていたんだぁ――」



 快活な笑みがふっと消失。



「フンッ!!!!」



 無表情且無言のまま打席に入って打撃前のルーティーンを開始してしまった。



 えっ?? バリーボンズもドン引きする凶悪なアッパースイングをブチかますつもりなの??


 その物騒な鈍器の先にあるのは硬球じゃ無くて私の尻だよ??




「ご、ごめんなさい。ユウ様。佐渡じゃなくて。しょ、小豆島でいいから」


「聞こえな――い。それにぃ……。最近、全然本気で何かをブッ叩いて無かったから丁度良いやっ」


「ひ、ひ、人の尻をストレス発散のはけ口にすんな!! 頼む!! お願い!! 後生ですからぁ!!!!」



 口から出したくも無い泡を吐きつつ懇願するが残念無念。


 それは叶わぬ願いとなってしまった。



「はっはっはっ――――!!!! いいや!! しないね!! ブラジルの陽気なサンバでも聞いて来いやぁぁああああああ――――!! うんがっ!!!!」



 MASA特製ハリセンが空を切った音が鼓膜に届いた刹那。



「おぎぃぃぃぃいいやぁぁああああああ――――ッ!!!!」



 臀部に激烈な痛みが発生。


 私の体は彼女が発した力の源を受け止めきれず、物理の法則に従い清い水面へと一直線に突貫を開始。



「あぶっ!?」



 平らな石の水切りの要領で水面を一度跳ね。



「おぐぶっ!?!?」



 二度目の着水時にコースロープへ激しく背を打ち付け、常軌を逸した動きが停止してくれた。




「ぎゃはは!! MASAすっげぇ――!!!!」


「あはは!! マイちゃん飛んじゃったね――!!!!」


「お馬鹿で間抜けな体が吹き飛んで行く様が素敵でしたわぁ」


「ふっ、くくっ……。ユウ、的確に振り抜いたな」


「リューヴの話す通りですねっ。お尻の真芯を捉えていましたからっ」




「―――――。ユウ、あんたの血は何色??」



 水面からぷっかぁと顔を覗かせ、顔に掛かった前髪を一切拭わずプールサイドでキャッキャと騒ぐ彼女へ問う。



「あ?? ちゃんと赤色だよ」


「そう……。ちゃんとそれを証明しないといけないからぁ……。後でぜぇぇったい血ぃ、吹き出させてやっからな??」



「やれるもんならやってみろよ。自称Bカップちゃん??」


「ッ!!!!」


「ユウちゃん止めて――!! これ以上笑ったら、ヒ、ヒィ……。笑い死んじゃうよ――!!」



 ユウから発せられた言葉。


 それを受けた瞬間、頭の中で何かがブッチィ!!と千切れ飛ぶ音が聞こえてしまった。



 ク、ククク……。


 貴様等……。よぉぉく覚えておけよ?? 楽しくギャアギャア笑っていられるのも今の内だからな??



「ユウ、そのハリセンの使用用途には何て書いてありましたか??」


「怪我をする恐れがありますので人間に対して絶対に使用しないで下さいって書いてあった」


「あ、あははは!! だったら最初っから入れちゃ駄目な奴じゃ――んっ!!」


「だよなぁ!! ギャハハ!!!!」



 プールサイドでキャアキャアと騒ぐうら若き花達へと向かい。


 私はおっそろしく歪に口元を曲げ、漆黒よりもドスグロイ感情を胸に抱き。無音で泳ぐ蛙よりも更に静かにプールサイドへ向かって平泳ぎで移動して行ったのだった。




お疲れ様でした。


本日は本編と番外編の同時更新となり、指先が悲鳴をあげております。


コツコツとプロットを執筆しているのですがコレといったネタが思い付かなくて苦悩しているのが本音ですね。


何処かに面白いネタが落ちていないかなぁ――っと考えて日々を送っている次第であります。


それでは皆様、お休みなさいませ。


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