はい!! こちら私立アイリス学園で御座います!! ~バレンタイン狂想曲編~ プロローグ
ブックマーク二百件突破記念として番外編を掲載させて頂きます。
この御話は日頃の感謝を籠めて読者様達へ贈る御話となっております。
それではごゆるりと御覧下さい。
何の変哲もない超絶怒涛の平和な昼放課。
教室の中にはただ聞いているだけでも陽性な感情が生まれる楽し気な会話が飛び交い、廊下から聞こえて来る快活な生徒達の声が授業で疲弊してしまった私の荒んだ心を潤してくれる。
三十名の生徒を収める教室には昼食時に相応しい雰囲気が漂っていた。
私はその雰囲気に従い鞄の中から中型犬程度の重量を誇る弁当箱をゆるりと取り出す。
そして、蓋をパカっと開けるとそこは正に桃源郷と呼んでも差し支えない素敵な光景が広がっていた。
農家の皆様に感謝を伝えたくなる色と艶を誇る白米、水々しさを惜し気も無く放つレタス等々。
このメガ盛りマックス弁当には様々なおかずが私へ手招きをしつつ横たわっているのだが……。その中でも異様に存在感を放つのが、この馬鹿げた大きさを誇る唐揚げさんだ。
敢えて衣を厚めになるように揚げられており。
『えぇ――。これぇ、私ぃ。一口じゃぁ食べられなぁい』 と。
私はか弱い女ですよ――と自分の弱さを前面に出す下らねぇ女の口では到底収まり切らぬ大きさを誇っていた。
だが、それはあくまでも一般女性に対しての感想。
私にとってこの程度の大きさ等、なぁんの障壁にもならんのさっ。
「では……。頂きますっ!!」
唐揚げを箸で摘み上げて何の遠慮も無しに齧り付いてやった。
んま――――いっ!!
お、おいおい。これは一体なんだい?? 本当に唐揚げかい??
前歯でサクっと衣を突き破ると、中に閉じ込められていた鶏肉からじゅっわぁと肉汁が溢れ出し。衣と混ざり合って丁度良い塩梅の塩気を感じる。
そして奥歯でもぎゅもぎゅと咀嚼すれば肉を食らっている!! と実感出来る噛み応えが御口ちゃんと歯を喜ばせてくれた。
母さんめ……。いつの間に腕を上げたのだ。帰ったら私直々に褒めてやろう……。
「ンッ!! ン゛ンッ!!!! ガロッホゥ!!!!」
はは、やっべ!!
箸が止まらねぇや!! ずぅぅっと食べていられそうよ!!
「ったく。もう少し味わって食えよな」
私の右隣りの席から親友の揶揄う声が聞こえて来る。
「うっさいわね!! 例え米国の大統領であろうと、私の食事を邪魔するのは許されないのよ!?」
一旦箸の手を止め、咀嚼中の口をクワッ!! と開けて文句を言ってやった。
「ふざけんな!! 何か飛んで来ただろ!!」
あらやだっ、こりゃ失礼しました。
「ハハッ、わりぃわりぃ。んで?? 何か用??」
「ふふ――ん。今日は何の日でしょう――かっ」
うっわ、うっぜぇ。
敢えて私から答えを引き出させようとするこの悪戯な笑み。
「あぁ?? あ――……。あれでしょ?? 日本中の男子生徒が意味不明にソワソワする日でしょ」
「正解っ!!」
「ユウ、人の顔を指で差すなと超絶巨乳の母ちゃんから教わらなかったの??」
朝の登校時からクラス中の男子共は気もそぞろにしているし。
ひでぇ奴になると普段は髪型を整えないのに今日だけ無意味にワックスでバッチリ決めているから質が悪い。
そう……。本日は……。
女子も男子もある意味辟易するバレンタインなのだよ。
「マイはえっと……。そのぉ……。誰かにチョコをあげたりするのか??」
そこの乳牛。
頬を染めてクネクネと体を動かすなや。
「いや、やらん。チョコはワタシガクウ」
「それ、何語??」
何で私が他人様に対して食べ物をあげなきゃいけないのよ。
あげるくらいなら私が食べるに決まっている!!
――――。
ま、まぁ?? それが普段の私なのだが。
どういう訳か?? 知らぬ間に!? 超自然現象的に!?
私の鞄の中には時価数百円のチョコが入っているのだっ。
勿論、これは誰にも言ってねぇし。教える事も無いだろうさ。
「やらん?? つまりぃ、それってぇ――……」
「あぁ――!! 唐揚げうっま!! すべからくうっま!!」
冷めても美味しい唐揚げを食み、己の太腿をパチンと叩いて太鼓判を押してやった。
「まぁ何となく分かっていたよ。朝から何だか様子がおかしかったもん」
ほっ??
何を言っているのかね?? ちみは。
「育ち過ぎて誰にも見向きもされない破廉恥な西瓜をぶら下げている女。私がいつ気もそぞろに男子生徒を眺めていたというのかね」
「あ?? 朝一からずぅっと無意味に鞄を撫でているし?? 視線はとある男性に留まっているもん」
「んな訳あるか!!」
見当違いな答えを出す牛女の乳を思いっきりブッ叩いてやった。
「いってぇなぁ――。それでさぁ、あたし的にちょいと提案があるんだけど??」
「て、提案?? それは何よ」
こっぇええ……。
制服の上から叩いたってのにまだグワングワン揺れてんじゃん……。
「ほら、奴さん。一気に受け取ったらきっと頭の中がショートして参っちゃうと思うからさ。誰か一人が代表して渡せば良いんじゃね?? と考えている訳よ」
ほぉ――ん。
乳に栄養と知識が取られている割には賢い考えじゃないか。
「ってな訳で!! カエデ!! リューヴ!! ルー!! アオイ!! ちょっと来い!!」
ユウがクラス中に響き渡る声を放ち、一部を除く私達の友人へ召集命令を発令した。
声、うるさ。窓ガラスが微妙に揺れ動いてしまう声量で叫ばなくてもやって来てくれるって。
「何でしょうか??」
「何か用か??」
「何――。ユウちゃん」
「ユウ、私はレイド様を視姦する準備で忙しいのですわよ?? それだけでなく。他の女生徒からの贈り物を未然に防ぐ為、鷹をも慄かせる冷酷な視線で警戒しているのです」
「よぉ――し、集まったな。先ずはあたしの話を聞いてくれ」
ユウがきしょい女の言葉を無視して先程の案を述べて行く。
「――――。って訳で、あたし達の代表権を賭けたゲームを開催しようと考えているんだ!!」
「「「ゲーム??」」」
「にししっ!! そのゲームはぁ……。コイツさ!!」
彼女が鞄……。と言いうか、どこで売ってんのそれ?? と。首を傾げたくなる大きさのボストンバッグの中から取り出したのは一昔前に流行ったありきたりのボードゲームの箱だ。
「は?? 人生ゲームで勝敗を決めるって事??」
「ば――か。タイトルを良く見ろよ」
「次、馬鹿って言ったらあんたの乳もぎ取って実家に送りつけてやっからな?? え――っと……。タイトルはぁ……。はぁ!? ナニヨコレ!?」
無駄にデカイ箱にはありきたりな人生ゲームという文字は記載されておらず。
『マスに書いてあるゲームは必ず実行!! 恥を掻いて、搔きまくってゴールを目指せ!! 羞恥塗れゲーム!!』
と、妙に丸みを帯びた文字で書かれていた。
「人生ゲームはほら、お金が増えたとか。一回休みとか書かれているだろ?? その代わりこれにはマス目にやるべきゲームが書かれているんだよ。勿論、罰ゲーム付きでねっ」
「へぇ――。面白そうじゃん」
代表権云々はさておき、どんな罰が書かれているのか気になるのは事実だからね。
「だろ!? 罰ゲーム用の衣装とか、付属品とかも親切丁寧についていてさ。いやぁ――。学校まで持って来るのに苦労したよ」
「だからユウちゃん修行僧みたいな大きいバッグを背負って投稿したんだね!!」
ルーが灰色の髪をルンっと揺れ動かしてニコリと笑って話す。
「そう言う事」
「面白そうですが、罰ゲームの事を考慮すると大きな場所が必要になります。今日は水泳部の練習は休みですので、部員の方に話を付けてプールサイドを貸して貰う様に伝えておきます」
「カエデわりぃね」
「お気になさらず。では、放課後に皆さんで向かいましょう」
「えへへ。何か楽しそうだね――」
阿保面を浮かべたルーが私の膝の上にポンと座り、プーラプラと両足を揺れ動かす。
「ユウ、それ幾らだったの?? おら、退けや」
「いっだぁぁ――いっ!! マイちゃん放して!!」
至高とも呼ぶべき私の足の上に座った横着者の妙にやわらけぇ乳を思いっきり掴みながら問う。
許可無く食事中の私の上に乗るテメェがわりぃんだよっと。
「これ?? 四万八千円」
「「「たっか!!!!」」」
この場に居るほぼ全員が口を揃えて驚きの声を上げた。
「お年玉とか、偶にやるバイト代とか全然使っていなくてさ。皆で楽しめる物は無いかなぁ――っと探していたら見付けたのですよ」
「自分の為に使えばいいのに。後、マイちゃん。胸に跡が残ったら責任取って貰うからね!?」
「勝手に私の膝の上に乗るおめぇさんが悪いんだよ」
嬉しそうにプンスカと怒る女にそう言ってやる。
「だが、代表権を勝ち取ったとしても。主が学校に居なくては意味が無いだろう??」
あぁ、その事もあったか。
「別に直接家に行って渡してもいいんじゃない?? ほら、アイツ。両親が海外赴任して一人暮らしじゃん」
私の家から徒歩約三十分。
何とも微妙な出で立ちのマンションの二階に数年前から一人で暮らしているのだ。
一度、己はエロゲーの主人公か!! と突っ込んでやったが。
その手のゲームはやった事が無いから分からんと、クソ真面目な返答が返って来た。
男の一人暮らしは凄惨たるものかと思いきや……。よく皆で遊びに行くのだが、野郎の家は綺麗過ぎて逆に実家の汚れがやたら目に付く様になってしまった。
自炊は完璧、且掃除洗濯も非の打ち所がない。
世の主婦が参考にすべき主夫力を持つ私達の幼馴染へこれを直接渡すと思うと……。やっぱりちょっと緊張しちゃうかな。
「それは流石に緊張するよ――……。それに学校で渡した方が雰囲気出るし??」
「何の雰囲気よ。大体ねぇ」
笑みが良く似合うお惚け女に釘を差してやろうとして口を開くと。
「――――。はぁ――、やっと帰って来れた」
件の男が二月の寒い季節だってのに、額に大粒の汗を浮かべて教室に入って来た。
「よぉ――、レイド。お帰り」
それを何事も無かったかの様に普通の表情で迎える我が親友。
ほぉう?? お主、乳がデカイ割に意外と役者よのぉ……。
「ただいま。いや、生徒指導のイスハ先生と担任のアレクシア先生に呼び出されてさ。もう大変だったよ。ルー、そこは俺の席だからちょっと退いて」
「あぁ、はいはい」
ユウの真後ろの席に座り、大きな息を吐いて体を弛緩させる。
「イスハと姉ちゃんに呼び出されたの?? 用は何??」
「ん?? あ――……。イスハ先生はほら、空手部の顧問だろ?? だから空手部員である俺に道場の徹底的な掃除をしておけと命令されてさ」
「主、それは私も手伝う使命があるのでは??」
ボケナスとリューヴは同じ空手部だし。まぁ、それは頷けるわね。
「それがさぁ――。男子部員がふざけた所為で汚れた!! って女性部員から苦情が来て。俺は全く関係ないのにその尻拭いをする訳。そして、アレクシア先生からは隣の高校から寄せられる苦情処理を纏めるのに人手が足りないから助けてくれって涙目で懇願されたよ」
「隣の高校からの苦情?? それって何??」
残り二割になった弁当を食みながら問う。
「赤い髪の女性が無許可で構内に侵入して購買を勝手に利用。花壇に植えてある花を踏み荒らす。とある女生徒との乱闘騒ぎ。男子生徒の食べ物を強奪した。――――、御望みならまだまだあるけど、どうする??」
そう話すと、ボケナスの冷たい瞳が私を捉えた。
「も、もう結構よ。はぁ――!! お弁当美味しいなぁ――!!」
「あはは、マイちゃんそれで一週間停学になったもんね――」
「喧しい!! だ、大体!! この学校の購買で売っている量が圧倒的に少ないのよ!!」
一番美味い鶏とジャガイモのデュエット(唐揚げとフライドポテト)なんて秒で売り切れちゃうし。
パン類も少なければ素敵なおにぎりさん達も昼時には完売しちゃうもの。
「馬鹿の所為で遅くまで学校に残る破目になったのか。そりゃお疲れさんっ」
「多分陽が落ちても帰れないよ。部活が無いのが唯一の救いだね」
「ふぅ――ん。成程、成程ぉ……。まっ!! ゆっくり丁寧に仕事に励むといいさ!! あたし達はカエデに頼まれてプールサイドの掃除しているから、そっちの用事が終わったらこっちに顔を覗かせてよ!!」
「ん――。了解」
ユウがニィっと笑みを浮かべると私達だけにしか分からない目配せを刹那に送る。
あの瞳の意味は……。
『これでお膳立ては済んだ。作戦は滞りなく決行するぞ!!』 という意味でしょうね。
「さてと!! 俺もお弁当を食べようかな!!」
「……ッ!!!!」
ボケナスが鞄からお弁当を取り出した刹那。
私は何故か知らぬが猛烈に廊下の空気が吸いたくなり、結構な速足で教室の扉を潜って行った。
「ん?? マイ――。どこ行くんだよ――」
ユウの言葉を無視して更に足を加速させてやる。
「おい!!!! 誰だ!? 俺が丹精込めて作ったポテトサラダを食った奴は!?」
そして、ボケナスのけたたましい叫び声が耳に届くと。
廊下じゃなくて、外の空気を吸いたいんだ!! との考えに至り。
「あぁ!! こらぁ――ッ!! 廊下は走るなって言っているでしょ――!?」
担任の姉ちゃんの声を無視して一陣の風を纏い、玄関口へ向かって猛烈な速度で駆け抜けて行ったのだった。
お疲れ様でした。
本編とは違い、こちらは不定期更新となっております。新たなる罰ゲームが思い付いたら掲載しますので予めご了承下さいませ。




