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振り上げた拳の行く末は如何に

お疲れ様です。


続けての投稿になります。




 時間の経過と共に警察関係の人達が慌ただしくこの地へと集結し始め、それを見物する為に野次馬の人集りが路上に膨れつつある。


 銀行強盗という非日常が行われているのですからね。興味がそそられるのは理解出来ますが、何分もう深夜ですので大人しく家に帰って温かいベッドで眠る事を勧めます。



 作業開始から数時間が悪戯に経過。



 これまで蓄積された疲労からか体の奥底から忍び寄る眠気を振り払い、欠伸を噛み殺して……。


 いや、毛糸の帽子をすっぽり覆っているから構わないかな。


 大きく口を開いて新鮮な空気を肺に取り込むと、幾分か眠気が覚めて来る。



「おい!! そっちに配置しろ!!」


「了解しました!!」



 人質を取られている手前、迂闊に手を出せないのか。今だ膠着状態が続き外の警察方々の厳しい視線が銀行に降り注いでいた。



「後少し、だな」



 兄貴さんが銀行の奥から戻り椅子に座るとぽつりと漏らす。



「魔眼の狩人さんよ、すまないな。ずっと見張って貰って」


「…………」



 あ、私の事か。


 視線を僅かに動かして黙ったまま頷いてあげる。



「もう直ぐ開通するからよ。そん時は一緒に逃げるぞ」



 もう直ぐですか。


 事件の顛末は犯人側の逃亡で決着が着くのかな??


 でも、申し訳ありませんが私は正義の使者。そうなったら全力で阻止させて頂きます。



「兄貴ぃ。暇っす」



 桜色の目出し帽さんがそう話す。



「暇なら奥に行って手伝って来い!!」


「そうしたら正面を誰が見張るんで??」


「ふんっ。だったら警察の人数でも数えてろ」


「わかりやした――。ひと――り、ふた――り……」



 単純な計算が出来ない彼です。きっと数え間違いますよ。


 こっちの通路には……。



「おい……。指示があるまで絶対手を出すなよ??」


「あぁ、分かっている。人質の命が優先だ」



 十五人か。


 普通の人間ならとても逃げ遂せる数ではありませんね。



「そっちの様子はどうだ??」



 兄貴さんが私に問いかけて来る。



『とてもじゃないけど、逃げられません』



 静かに首を横に振って、そんな意思表示をしてあげた。



「そうか……。逃げ場はない。でも、向こうが勝手にそう考えているだけだ。こっちには逃げ道がちゃんと残されている事も知らずにな!!」



 一人、魔物が紛れ込んでいる事も知らないのに。


 兄貴さんもちょっとだけ気の毒かも。


 私があの女性を救わなければ、この悪行は成功したのかもしれないのに。


 ですが、悪に手加減は無用ですからね。大人しくお縄について下さい。



「兄貴。明るくなってきやしたぜ」


「ちっ。不味いな……」



 その声を受けて微かにカーテンをずらして空を見上げると、まだまだ眠たそうな太陽さんが顔を見せ始めようと準備運動を始めていた。



 ふわぁぁ……。


 だからこんなに眠いんだ。


 参ったなぁ。


 恐らく今日か明日にもレイド達が帰って来るのに……。


 皆に寝不足の顔、見られたくないな。


 それに調査も後少し残しているし……。



「あ、兄貴ぃ!! 開通しやしたぜ!!」


「でかしたぁ!! よし。おまえら、ずらかるぞ!!」



「「「おぉうっ!!!!」」」



 あらら。開通しちゃいましたか。



「魔眼の狩人、待たせたな?? 行くぞ!!」


 兄貴さんが此方へ男らしく催促するので彼等の後を追った。



 その途中、拘束されている人達の様子を観察しましたが意識はちゃんとあるようで。



「んん……」



 何やら言いたそうにモゴモゴと口を動かしたり。



「ンググ……」



 拘束された縄がきつくて腕が痛むのか、矮小な所作で腕を動かしたりしていた。



 安心して下さい。


 もう間もなく解放されますよ。そこで大人しくしてて下さいね??



「兄貴!! ここです!!」



 この銀行の裏手、つまり最奥の壁に人一人がやっと通れそうな穴が開いていた。


 そしてそれは向こうの建物を貫通。


 既に向こう側には何人かの強盗さん達が此方を待ち受けていた。



 石作りの壁を破壊するのは骨が折れたでしょう。


 正義の使者から大変良く頑張ったで賞を差し上げます。



「よし。脱出する」



 兄貴さんに続き、続々と悪人共が穴を抜けて行く。



「ほら、受け取れ」


「おうよ」



 丸々と太った袋を向こう側に渡し終えていよいよ私の番となった。



「…………」



 よいしょっと。


 うんっ、意外と快適に通れましたね。



 背中側の建物の室内は随分と埃っぽく、空気が汚れていた。


 それもその筈。此処は倉庫だ。



 見上げんばかりの高い天井とがらんと開けた室内には大きな木の樽、箒、長い板等々。


 様々な物が置かれており、長い間放置されている事を証明する様に分厚い埃を被っていた。



「兄貴。この建物って……」


「安心しろ、ここは無人の倉庫だよ。どっかの施設だか知らないけど放置されている倉庫なんだ」



 これも事前に調べたのでしょうね。


 良く考えて行動しています。



「さ、早く行くぞ」



 等と感心していると兄貴さんが遠くに見える出入口へと向かい歩み始めた。



「ははっ、やっと解放されるぜ」


「腹減ったなぁ。一仕事終えたら美味い物食いに行こうぜ」



 間も無く訪れるであろう解放を想像したのか、その足取りは軽い。





 さて…………。いよいよ正義の使者の出番ですねっ!!



 此処にいる全員に魔力の欠片を付着させておきました。


 後は私が魔力を解放して詠唱すれば雷の力で全員仲良く夢の中ですよ。


 そして、目が覚めたら檻の中。



 ふふっ、警察関係の人はきっと驚くだろう。銀行の壁に開いた穴を辿って来てみれば犯人全員が埃っぽい倉庫の中で眠っているのですから。



 事件は一応の解決を迎えるが、事の顛末は首を捻ってしまう終わり方だ。


 正義の使者の暗躍は明るみに出す訳にはいきませんからねっ。



「出口だ……」



 よし、それでは正義を執行しましょう!!


 右手に力を籠めて魔力を解放しようとすると……。





























「兄貴。申し訳ない、あんたには此処で死んで貰う」



 一人の男が兄貴さんの歩みを止めた。



 えっ、えぇ――っ!?


 ここに来て裏切りですか!?



「おいおい。短剣が間違った方へ向いているぞ??」



 一人の男が兄貴さんの背中に短剣の鋭利な切っ先を突きつけていた。



「これで合っているんだよ。俺達はおじきに頼まれて今回の依頼を受けた。けどな……。報酬が割に合わないんだよ!!」



 な、成程ぉ。


 安い報酬よりも今手元にある現金を優先したのですね?? そして、それを持ったまま退散しようという訳ですか。



 金の切れ目が縁の切れ目。



 じゃあ無いですけど、随分と利己的な人達とお仕事を共にしたのですね。



「ふん、俺に勝てると思っているのか??」


「兄貴ぃ。すんません……」



 あ、桜色さん。


 やたら可愛い声の男の発言を受けると、その場にいる全員。


 私を除いてですけど。


 全員が兄貴さんと私に短剣の切っ先を向けた。



「へぇ。お前達全員、か」


「は、はい。おじきと兄貴には世話になりました……」



 相変わらず可愛い声で話しますね。


 この場面にはちょっと似合っていませんよ??



「だ、だけど。こんな見返りじゃあやっていけませんよ!!」


「お前は見返りだけを求めておじきの組に入ったのか??」



 組って……。


 確かヤクザとか悪い人達の事を指すのですよね??


 本にそう書いてありました。



「そうですよ!! 組に入って一旗あげようと考えていたんです!!」


「おい、魔眼の狩人。動くんじゃねぇ」



 報酬の為に依頼をこなすのは間違っていませんよ。只、問題はその組とやらに忠を尽くしているかどうかです。



 後、すいません。


 切っ先危ないんで、下げて貰って構いませんか??



「そう、か。俺の見込み違いだったんだな……」


「え??」


「覚えているか?? お前が組に入り立ての頃、金が無くてよく俺の家に入り浸っていただろ??」


「そ、そうですよ!! 金が無ければ住めないでしょ!!」





「俺は……あの頃が楽しかった。安い酒と安い飯。凡そ、大人が満足する量じゃなかったさ。おじきの組は過激で、舞い込んでくる仕事はどれも危険が付き纏っていた。でも、仕事終わりにお前と飲む安酒は……。この世のどんな酒よりも旨く感じたんだ」





「兄貴……」


 兄貴さん……。


 はっ!! いけません。


 彼の妙な温かみのある声色に思わず感化されてしまいそうでした。




「それからお互い組で地道に地位を上げていってよ。一緒に過ごす時間も短くなっちまった。今回の大仕事、俺はお前と組めると聞いて喜んださ」


「そ、それとこれは関係ないよ!!」



「関係?? ふっ。そんなちんけな言葉じゃ俺とお前の絆は表せないぜ?? いいか?? おれたちゃ確かにしみったれでくそったれな仕事ばかりしている。けどな、おじきに拾われた恩には筋を通さなきゃいけないんだよ!! 金なんか二の次だ!! てめぇらには……。その筋ってもんがないのか!? あぁ!?」



 兄貴さんの剣幕に男共が一瞬たじろぐ。


 良い気合ですねぇ。マイと良い勝負……、はしないか。


 啖呵でも喧嘩でも彼女が彼より一枚も二枚も上手だ。



「お前は……。それが分かる男だと思っていたんだよ」



 震える手で短剣を持つ桜色さんへ真っ直ぐ歩み、彼の肩にそっと手を添える。



「あ、兄貴……。で、でも。俺ぇ……」


「いいんじゃないか?? 間違えても。兄弟の契りを交わした仲だ。また、一からやり直そうや」



「はっ!! さっきから聞いていれば筋だの恩だの……。そんなんじゃ飯は食っていけねぇんだよ!!」



 一人の男が声を荒げて兄貴さんに詰め寄る。



 まぁ……。貨幣経済が円熟しきった社会ですからねぇ。貴方の言う事は間違っていませんよ??


 しかし、兄貴さんが言うのはそういった現利益的な物では無く。人の道理を説いているのです。



「うるせぇ!! てめぇらみたいな半端もんが俺に勝とうなんざ、百年はえぇんだよ!!」


「この野郎……。おい!! やるぞ!!」



「「「おぉう!!!!」」」



 始まりました!!



 不穏な空気から一転、激情に燃え上がった空気が私達を包み込む。



「おらぁっ!!!!」


「死ねぇぇええ!!」



 私には正面から二人の組員さんが向かって来た。



「魔眼の狩人ぉ!! そっちは任せたぜ!!」



 はいはい、任されましたよ。



「でやぁっ!!!!」

「食らえ!!」



 これまた愚直ですねぇ……。


 向かって右の男は短剣を小脇に抱えて私の腹部を狙い。左の男は短剣を振り翳したまま突撃してくる。



 さてと!!


 悪を懲らしめてあげましょうか!!



 向かい来る左の男の一撃に対し、私は右足を下げて半身の姿勢で回避して目の前を通過させてあげた。


 刹那にでも右の男は私の姿を見失う訳です。



「よけんな!! ごらぁ!!」


「や、やめ!! 危ないって!!」



 私の姿が見えない事に焦った右の男が左の男を押し退けて私に襲い掛かる。



「くらえぇ!!」


「……」



 マイ達の動きに慣れた所為か、彼等の動きが手に取るように分かってしまいますね。


 この人は恐らく、振り下ろした後に中段突きで腹部を狙う筈。



「せぁっ!!」



 大当たりです。


 それを躱し、右の拳を顎先へと捻じ込んでやった。



「ぷぁっ!!」



 誰もいない空間に短剣を二度振ると意識が遠退き、気持ち良さそうに地面へと横たわった。


 一本です。



「く、クソはえぇ……」



 いやいや。


 私なんかクソ……失礼しました。彼女達に比べれば滅茶苦茶遅いですよ??



「えぇい!! 死なば諸共よ!!」



 突貫は悪くない作戦です。


 しかし、状況判断を見誤るのは如何な物かと思いますよ。



 彼が向かって来る間に見付けた地面に横たわる子犬程度の大きさの樽。



 えいっ……。



 私はそれを彼の足元目掛けて蹴ってやった。


 樽はコロコロと面白い回り方をして一直線に彼の下へと向かう。



「でやあぁぁ!! へっ?? ほんぐわっ!!」



 私に注意を向け過ぎて状況判断を疎かにした彼が樽を踏むと、天高く足を上げて面白い角度で地面へと頭を打った。


 鈍い音がしたけど大丈夫かな??


 隣にすっとしゃがんで脈を取る。



 ……うん。


 気絶しているだけです。



 此方は状況終了っと。あちらはどうなりましたかね??


 兄貴さんの方を見ると、もう既に五人の男が彼の前に平伏し倒れていた。



 おぉ、やりますねぇ。


 でも、兄貴さんの雰囲気は余り良くありません。


 腕、額、拳。至る所からの出血が目立ちます。



「ぜぇ……ぜぇ……」


「いい加減くたばれよ!! 死にぞこないがぁ!!」



 残る敵性対象は二人。


 その内の一人は桜色さんであった。


 今も俯きがちに奥歯をぎゅっと噛み締めて床を眺めている。


 己の中で葛藤を繰り広げているのでしょうね。



「おい!! てめぇも手伝えや!!」


 残った男が桜色さんの肩を乱暴に掴む。


「お、俺……」


「さぁ……どうした?? 掛かって来ないのか??」



 息も絶え絶えに兄貴さんが話す。



「うるせぇ!! おい、やるのかやらねぇのか!?」


「で…………」


「あぁ!?」


「やっぱり出来ないよ!! 俺、兄貴を裏切る事は出来ない!!」



 大人の男らしからぬ甲高い声と共に大粒の涙を流して桜色さんがそう叫んだ。


 やはりピンクさんは最初から裏切りには反対だったようですね。


 芯の強い男性には好感が持てますよ。



「へっ。最初っからそう言えよ……。馬鹿野郎が」



 兄貴さんが頬から伝う血を手の甲で拭いながら話す。



「じゃあ……。てめぇはもう用済みだ。あばよ」



 男がピンクさんに向け、短剣を突き刺そうと振りかぶった。



 しまった!!


 此処からじゃ……。間に合わない!!



「わぁあぁぁ!!」



 桜色さんの大声が倉庫に響き、一瞬の静寂が私達の間に訪れた。



「……………………。あれ?? 痛く無い??」



 信じられません。


 あんな一瞬で彼を庇うなんて。



「よぉ。無事か??」


「兄…………、貴??」



 兄貴さんが桜色さんの前でふっと柔らかい笑みを浮かべて振り返る。



「なんだぁ。兄貴、無事……っ!!!!」



 兄貴さんの口元から一筋の赤い液体が零れ落ちると、彼は力無くその場に倒れた。



「やっとくたばったか」


「う、嘘だろ?? 兄貴??」



 桜色さんが兄貴さんを大事そうに抱える。


 その肩は細かく震え、今にも崩れ落ちそうな程頼りなかった。



「ゴフッ!! へへ……。俺も……焼きが回ったな」


「兄貴!?」


「裏切り者を庇うなんざ、甘さが取れていない証拠だぜ……」


「も、もう喋らなくていいよ!! 死んじゃうよ!!」



 己の頬をはらりと伝う涙を拭わずに話す。




「なぁ……。昔は良かったよ、なぁ。下らない事で、盛り上がって……。女引っ掛けようとして失敗して……」


「うんっ……。うん……っ!!!!」


「あの時、ハハ。お前、一目惚れした女、いたろ??」


「今も付き合っているよ!! 大事な、大事な女だ!!」


「そっかぁ……。付き合っているの、か。お前達の子供、見たかったぜ」


「見れるよ……。見れるさ!!!!」




 桜色さんが震える腕で彼の頭を力の限り己が胸に抱く。




「痛いぜ……?? お前も、強くなったな」


「お願いだ、兄貴。俺を置いて行かないでくれ!!」


「置いていくもんか。今日は…………。お前と……。とっびきりの安い酒を……」



 そう話すと兄貴さんの手が力無く床へと垂れ下がってしまった。



「兄貴?? あ、にき……?? 兄貴ぃぃいいぃ!! うわぁあああぁあぁ!!!!」



 桜色さんが己の胸の中で力尽きた彼に思いの丈をありったけに叫んだ。



「へっ。死にぞこないが。お前も死ね……」



 最後に残った男が短剣をピンクさんに向けて振り下ろすが。



「…………おまえが、くたばれぇ!!」

「ぐぶっ!!」



 熱き闘志を瞳に宿した桜色さんが男に得物を突き出すと、互いの腹部に鋭い切っ先が深々と突き刺さってしまった。



「く、クソが……」



 男は己の腹に刺さった短剣を驚愕の表情を浮かべて見下ろすと、その場から二三歩下がり床へと倒れ込んだ。



「兄貴。俺、やったよ??」



 腹部に短剣が刺さったまま兄貴さんの横へと両膝を着く。



「見て、くれたよね?? ほら、いつもみたいに褒めて、くれよ……」



 死に際とは思えない柔和な笑みを浮かべて返事をしない彼を見下ろしていた。



「冷たいなぁ……。いつも……そうやって……無視。するんだ、から」



 桜色さんが力無く横たわると、真の静寂が倉庫に訪れた。





「ふぅむ……」



 途中から私の存在は完璧に無視されていましたね。


 別に構いませんよ?? 良い物見れたし。


 さてとっ。


 先にも言いましたが、私は血生臭い事件は嫌いなのです。


 兄貴と桜色さんの美談を潰してしまいそうですが、皆さんの怪我を治療させて頂きますねっ。



「んっ!! ふぅ――。こんな夜中、いや。もう朝でしょうかね。朝一番から手の掛かる仕事ですよ」



 体を大きく伸ばして全身の筋力を解す。


 そして、呑気に小さな鼻歌を口ずさみながら埃が舞う床の上に倒れた彼等の治療を開始したのだった。




















 ――――。




 朝の気持ちの良い陽光が北大通りを照らす。


 そんな爽快とした中で大量の出血痕を体中に滲ませた男達が古い木造の建物から運び出されて来た。



「すいません!! 通して下さい!!」



 爽快な朝に酷く似つかわしくない出血が目立つ男性が現れると。



「「「……っ」」」



 人集りの中から驚きの声が上がった。



「おい。聞いたか?? 銀行強盗だってよ」


「えぇ――。嘘ぉ」


「何でも?? 金に目が眩んで仲間割れしたって話だ」



 一人の若い男性が声高らかにそう話す。



「でも、あれだけの出血で良く生きていたな??」


「それが不思議なんだよ。服は裂け、血が噴き出しているっていうのに傷跡が見つからないって話なんだ」


「はぁ?? 何だよ、それ」


「俺、聞いたんだって!! あそこの建物から出て来た警察の人達が話していたもん!!」



 半信半疑で男が聞いていると、ざわつく周囲の声よりも大きな声が響いた。



「これで最後です!!」



 黒みがかった茶色の短髪の男性が運び出される。


 群衆の中の彼が話していた通り、彼の傷跡は見られないのに出血の痕跡が確と服に滲みていた。




「おかしいですね。犯人達、仲間割れしたんですよね??」



 警察官の一人が上司に向かって話す。



「あぁ。目撃者の証言だと、犯人は十一人いたらしい」


「え?? 運び出された人数と合いませんよ??」


「金も全て残っている。そいつが何か知っている筈だ」


「確か……。女性で」



 若い警察官が口に指をあてがい、彼の思考を補完する形で上司が口を開く。



「目出し帽を被っていた。特定は難しいがやる事はやらないと。それが俺達の仕事だからな」


「了解しました」



 警察関係の人達が去ると、人集りは徐々に消え。


 何事も無かったように日常が流れ出す。



「怖いわよねぇ。お嬢ちゃんもそう思わない??」



 最後まで現場に残っていた壮年の女性が、紺碧の海よりも美しい藍色の髪の女性にそう語り掛ける。



「……」



 その女性はにこりと笑い、中年の女性に会釈を返した。



「お金に目が眩んで仲間割れ。命があって良かったものの……。お金の力って怖いわぁ。お嬢ちゃんも夜道には気をつけるんだよ。あ、今は朝か。あはは、こりゃ失礼」



 藍色の髪の女性はふっと柔らかい笑みを残して図書館へと歩んで行く。


 その後ろ姿はどことなく陽性な感情を滲み出しており、壮年の女性は。


 あぁ、本がよっぽど好きな子なんだねぇ。


 彼女の背中を見てそう感じ取ると普段の日常に身を委ね、北大通を南へと向けて立ち去ったのだった。





お疲れ様でした。

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