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そうは問屋が卸さない




 北大通の銀行に近付くにつれて、漆黒の闇に紛れた悪の塊達の表情が険しくなる。


 だが、それは自分達が今から行うであろう罪悪感からではなく。悪の所業の果てに待つ財宝を想像した高揚感からなのだろう。


 直ぐ前を歩く男の人は嬉しそうな荒い吐息を吐き、右隣りの人は未だ入手していないのにもうお金の使い道を想像しているのか厭らしく口角が上がっていた。



 私の左隣を歩く声が可愛い人は……。



 あら?? 随分と緊張していますね??


 ゴックンと固唾を飲んで額にはじっとりと重たい汗を浮かべていた。



 それと……。その毛糸の帽子。


 可愛いですね。


 季節外れの鮮やかな桜色で、綺麗な編み目模様が暗闇と悪人の中で異様に目立っている。



「ん?? どうした??」



 私の視線を感じ取ったのか、こちらに目線を送る。



「あぁ。この毛糸の帽子?? 安かったから買っちゃったんだよ。襲う際にはお前みたいに目出し帽にするんだ」



 顔を見られたくないのですよね。


 だけど、もう少し考えて買うべきですよ。


 流石に銀行を襲うって時にその色は有り得ないです。


 他の人の帽子は黒や灰色。


 落ち着いた色しか見られない。


 その中で鮮やかな桜色は酷く似つかわしく無い物だった。




「よし。到着だ……」



 隊の先頭を歩く兄貴さんが銀行の手前でピタリと歩みを止め、一軒前の細い路地へと入り様子を窺う。


 当然私達もそれに倣う訳だが、十名以上の人数となると只でさえ狭い路地が窮屈に感じてしまう。



 北大通りの人通りは少なく、見える範囲で五名程。


 堂々としていれば見つからないとでも思っているのかな??


 それとも颯爽と逃げ出す算段があるのか。


 お手並み拝見といきましょう。




「手筈通り、滞り無く仕事を完遂しろ。いいな??」



 周囲の男共、並びに私も兄貴さんの言葉を受けて静かにコクリと頷いた。



「…………。よし!! 今だ!!」



 大通りを通行する人達がいなくなるのを確認して帽子を深く被ると、一陣の風となって銀行へと突入した。



 わっ。待って下さい。



 中々に素早い所作で分厚い木製の扉を開いて銀行へ突入すると……。



「――――。申し訳ありません。本日の営業時間は終了しました」



 入り口の左右から制服姿の筋骨隆々な男性二人が現れこちらを不審な目で見つめて声を掛けて来た。


 偵察の情報だと、行員八人、警備員四人、客三人でしたが……。


 広い店内を確認すると客が一人減って合計十四人ですね。


 恐らく、帰ったのでしょう。



「営業時間は終了、か。へへ……。いいねぇ」


「おい。お前ら何しに来た??」



 兄貴さんの下へ向かって一人の警備員が鉄製の警棒を持ち歩み寄る。


 そして、兄貴さんが私に視線を送った。



 はいはい。


 段取り通りやりますよっと。



 もう一人の警備員さんの下へスタスタと静かに歩いて行く。



「邪魔だぞ。そこは出入口だ」


「おいおい。お前ら何してんだ」



 残りの九人が入り口を固めると正面の受付、なのかな?? 長机付近で警備に当たっていた警備員さんが此方へ近付いてきた。


 流石にこの雰囲気で察したのか、店内の雰囲気が騒然となり始めましたね。



「貴様ら……。強盗か!!」


「御名答!! 全部そっくり奪いに来たんだよ!!」


「させるか!!!!」



 警備員さんの太い腕から振り下ろされた警棒が兄貴さんの頭蓋へと向かって振り下ろされた。



 始まってしまいましたね。



「くそがぁ!!」



 安心して下さい。


 ゆっくり眠って貰うだけですから。


 素早く警棒を躱してゴツイ顎へ拳を叩き込む。



「ぐえっ!!」



 あっ。ちょっと力を入れ過ぎちゃった……。


 私の拳を受けた警備員さんの体がふわりと数センチ浮き、着地と同時に飲み過ぎて動けなくなった休日のお父さんみたいに倒れてしまう。



 ごめんなさい。もう少し手加減すべきでしたね。



「ちっ!! 素早いな!!」


「お前が……。遅いんだよ!!」


「ぎゃっ!!」



 兄貴さんの上段蹴りが見事に決まり、警備員さんが白目を向いて床に倒れ込んだ。


 へぇ。まぁまぁの身のこなしですね。



「暴れんな!! 大人しくしろ!!」


「この野郎!!!!」



 多勢に無勢。


 お店を守っていた四名の警備員さん達は瞬く間に強盗一団に取り押さえられ。



「手間掛けさせやがって。おい……」



「へい」



 兄貴さんの号令で残りの九人が縄を手に店内に残る人達へ向かって行った。



「こ、殺さないでくれ!!」


「いや!!」



 行員さん、お客さん。


 私達以外の人々を拘束し、猿轡を掛け、剰え目隠しもする。


 顔を見られない様にする為、か。用意周到だなぁ。



「おい。流石だな」



 彼等の手際良い所作を何となく眺めていると、兄貴さんが私に声を掛けて来た。



 うん?? どうかしました??





「お前の一撃、見事だったぞ」



 どういたしまして。


 そんな意味を込めて小さく頷いてあげた。



「兄貴!! 全員拘束しやした!!」


「良くやった。後は金を詰めるだけだ!! 行くぞ!!」



 行く?? どこへ??



 兄貴さんを含めた七人の悪者がでかい袋を引っ提げ、受付を飛び越え。正面の広い空間を突っ切り、此方から死角になっている広い店内の奥へと姿を消した。



 あぁ、奥にお金が保管されているのですね。



「へへ。行員から奪った金庫の鍵も渡したし、後は金を持って来るのを待つだけだな」



 あなたはここでお留守番なのですね。


 桜色の目出し帽が出入口付近で呑気に声を漏らした。


 この場所は恐らく、お客さんの待合室かな。受付の順番を待つ為か、長い椅子が沢山置かれている。


 拘束されたお客さん、そして警備員さん達はこの場所で。


 そして行員さん達は仕事を行う奥の場所で拘束されていた。


 皆一様に震え、恐怖が過ぎ去るのを只じっとして動かないでいる。



 もうちょっと待って下さいね。


 直ぐに助けてあげますから。


 しっかりと証拠を残す形で全員を倒したいのですよ。


 現金をしこたま抱えた状態でね。




「――――。兄貴達、遅いなぁ。早くずらかりたいのに」



 彼等が現金を奪いに行き、凡そ五分。


 それでも戻って来る気配は無かった。


 結構な額を詰めているので時間が掛かっているのでしょう。もう少しの我慢ですよ。



「お前、報酬受け取ったら何をする??」



 桜色さんが呑気な声でそう話す。



「…………」



 ぱっと思いついたのは本の購入それと……。普段からお世話になっている彼にちょっとしたお返しを贈る事かな??


 ちょっとしたお返し……。何が良いのだろう??



 レイドはこれといった趣味を持っていないので考えさせられちゃいますね。


 ん――、そうだな……。



 包丁か、頑丈な服なんかが良いかも。


 服は機能性云々と常々言っていますし、それに料理をしている時の顔はちょっと嬉しそうだから。それに添える形で贈りましょう。



「お――い、聞いてる??」



 あ、ごめんなさい。まだ回答していませんでしたね。


 フルフルと両方に首を振って答えてやった。


 残念ながら私は喋ってはいけないのですよ。



「未定か。そうだよな、大金だもんな。俺は……ん――。良い物食って、遊びに行って……。それでいい女を捕まえて豪遊するんだ」



 浅はかですね。もっと有意義に使用したら如何です??



 やれあそこの御飯屋さんは美味しかった――だとか。


 この前女性をナンパしたら断られちゃった――だとか。


 私が聞きもしないのに自分の事を軽快に話すのは結構ですけども、今現在。我々は重罪を犯しているのですよ??


 もう少し気を引き締めて犯罪行為をして下さい。



 意気揚々と陽性な声を滲ませて話す桜色さんへ諸注意を放ちたいのに放てないジレンマを抱いていると。



「おい!!!! 撤退するぞ!!」


「へ、へい!!」



 兄貴さんとその他全員が丸々と太った袋を背負って此方へ向かって走って来た。



 ちょ、ちょっと待って下さい。


 あれ、全部紙幣ですか!?


 凄い量だな。


 ちゃんと下調べした結果が出たじゃないですか。



「へへ!! やった!! これで俺達も大金持ちだ!!」



 桜色の入り口の扉を開けて兄貴さん達へ向かって手招きをして勝利を確信する。



「あぁ、さっさとずらかるぞ!!」


「「おう!!!!」」



 兄貴さんに続き全員が大金持ちになる為、試練の扉を潜ろうと足に力を籠めて速度を上げた。



 残念ながらそうはいきません。


 皆から見えないように手元に魔法陣を浮かべた。


 さぁ、仲良く寝て貰いましょうか。



 扉へと向かって行く勝利を確信した背中へ向けて魔力を解放しようとした刹那。




「そこまでだ!! 抵抗を止めて投降しろ!!」



 へっ!?


 な、何!?



 表通りから野太い声が響き、兄貴さん達が此方へ向かって慌ただしく踵を返してきた。




「ちくしょう!! 警察だ!!」



 桜色さんが入り口の扉を慌てて閉めて近くにある椅子を立て掛け扉を頑丈に固定。私達は籠城する形となってしまった。



 何と言う僥倖。


 恐らく、不審な人物が銀行に突入したと通報したのでしょう。



「兄貴!! 出入口は此処だけですか!?」


「そうだよ!! ちっ……」



 私達は袋の鼠、と言う訳ですか。


 あ、私以外。ですね。



「あ、兄貴ぃ。どうしやす??」


「第二案で行くぞ」



 それ、何です?? ちょっと興味がそそるのですが。



「この建物の後ろの壁を破り、背後の建物の中を通って向こうの出入口から脱出する!!」



 あぁ、成程。


 この建物は壁伝い、背合わせで建てられているのですね。


 よく考えましたね。



「了解です!!」



 犯人さん達が持ち込んだ鞄の中から、壁を打ち破る道具一式を取り出すと。五名の方が血相を変えて奥へと走り出す。


 忙しそうだなぁ。



「すまない。こんな筈じゃ無かったんだが……」



 私を労ってくれているのかな??


 兄貴さんがシュンとした感じで話してくれる。




「おい!! 抵抗を止めろ!! この建物は包囲しているんだ!! 早く出て来い!!」



 私達の抵抗心を削ごうとして警察の方が大声で怒鳴る。



「ちっ……」



 そしてその声を受けた兄貴さんは何を思ったか。



「きゃっ!! や、止めて下さい!!」



 床に力無く座っている人質を抱えると出入り口を少し開けた。



「こっちには人質がいるんだ!! 突入して来てみろ!! 全員皆殺しだぞ!!」


「わ、分かった!! 何もしない!!」



 人質を盾に、そしてそれを隠れ蓑として利用して背後の建物から脱出かぁ。


 銀行を襲うだけの計画はちゃんと練っているようですね。



「クソ共が」



 人質となっている女性行員を乱雑に放り投げて、本来であればお客さんが使用するであろう椅子にドカっと座る。



 計画通りにいかないと、腹が立ちますよね。


 その気持ちは大いに理解出来ます。


 レイド達と任務地に向かう際、正しい道順で進んでいてもどこぞのお惚け狼さんや赤き龍が道草を食うので、日程通りに進まない事があるので……。



「このまま籠城して……。そう、時間を稼ぐんだ。大丈夫、上手くいくさ」



 ぽつりと兄貴さんが言葉を漏らし、天を仰ぐ。


 上手く行くと良いですね。


 まぁ、それは叶わぬ願いですが。


 彼からそっと距離を取り、カーテンで遮られている屋内の窓からそっと外の様子を窺う。



「おい!! 配置に付け!!」


「分かっている!!」



 既に包囲は完璧にされているようですね。


 左右の路地、正面玄関。


 蟻一匹通さぬ構えだ。


 私が、じっと外を見つめていると何やら騒々しい音が部屋の奥から響いた。



 壁を破壊する為の作業開始の音ですね。




「おい!! 静かにやれ!! 外に漏れるだろうが!!」



 その声もどうかと思いますよ。


 しかし、彼の声が届いたのか。



「「……っ」」



 作業の音が一段小さくななった。これで外に漏れる事は無いでしょう。



「ちっ。役立たず共め」



 毒を吐くと再び溜息を付く。


 さてさて、これから事件はどう転ぶのでしょうか。


 自分が小説の中に入り込んだような錯覚に陥り、渦中の真っただ中に身を置いているのに変な高揚感が湧いている。


 犯人は上手く逃げ遂せるのか、将又、警察が取り押えるのか。


 事件の顛末が気になります!!


 あ、勿論。死者が出そうになったら強制終了させますから。


 血生臭い事件は嫌いですからね。


 どんよりと沈む銀行内を見つめ、私一人だけが酷く浮かれていた気分で観察を続けていた。




お疲れ様でした。


続きます。

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