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悪に紛れた正義の使者

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 知識と古紙の香りが溢れる空間にお邪魔するとざわついていた心が平穏を取り戻す。


 私もちょっと理不尽かも知れませんね。


 彼女達は彼女達なりにレイドの事を思って尾行を開始したのです。私一人でお留守番をするのは理にかなっているのかも。


 お留守番と言うより、調査の依頼ですよね。


 レイドが帰って来たら依頼料を貰おうかな??


 きっと目を丸くして驚くだろうなぁ。



『えぇ!? お金、取るの!?』



 ふふ、黒い瞳をきゅっと見開いて驚く姿が容易に想像出来てしまいます。



 本日付の新聞を手に取り、いつもの場所へ向かって階段を上がる。


 本棚の間を進んでがらんと開いた空間に併設された長机の前の椅子に腰掛け、陽性な気持ちを抱きつつ新聞の一面に目を通すが特に気になる点は見られない。


 新聞の一面には国の経済状況、魔女やオークに対する兵達の損害状況や殉死した者達の名が記載されていた。


 此処に……。


 彼の名が記載されないように、私達がしっかりと彼を支えないと。


 殉死者の一覧を見つめて気持ちを入れ替えた。



「ん??」



 二面に移り、気になる文字が視線の動きを止めた。




『ティカ付近の前線基地の再建を完了。魔女、及びオークに対する防衛網完成か』



 ティカ……。


 あの恐ろしい事件があった北部の基地でしたよね。


 先生が教えてくれた奈落アビス遺産プロパティから現れた恐ろしい怪物に襲われ、運良く私達が訪れた事で誰一人として命を落とす事も無かった。


 これは恐らく私の推測ですが、仮に私達があそこへ足を運ばなくても先生が駆けつけものの数秒で退治したでしょうね。


 あの化け物を退治した後、直ぐに現れたのが良い証拠です。



 その後の任務は……。


 あぁ、そうだ。大蜥蜴さん達と戯れ、雷狼の御二人と出会いを果たしたのですね。


 それからずっと一緒に行動を続けて行く内に彼女達の里へお邪魔させて頂きました。その任務は……。



 雷狼の里の聖域を犯した人間を救助する為。



 私個人の意見としては、興味本位で他人の領域に侵入した愚か者はその土地の者に裁かれるべきだと考えます。


 だってそう思いませんか?? 人は人の法に従う義務があるのですが、我々魔物は彼等が作った法に従う義理はありませんので。


 異なる種への法という名の拘束具を与えるのは……。烏滸がましいとも思えてしまいます。


 勿論?? 公共の福祉という概念は必ず守ります。それは意思と感情を持った生物として当然の理ですからね。



「ふむ……」



 時間もある事ですし、これまで得た情報を簡易的に纏めてみましょうか。


 頭の中の文字を一つずつ丁寧に組み立て、構築していく。


 先ず大前提として、イル教は何をしようとしているのか。


 これに尽きます。


 建前としては、魔物排斥を掲げレイドが所属しているパルチザンと共闘して魔女を撃ち滅ぼそうとしている。



 うん。矛盾していませんね。


 では、彼女達が魔女を滅ぼそうとする動機は一体何か??


 これこそが悩みの種ですね。



 魔女を抹殺した後、この大陸には人間と魔物が残る。


 今までの軋轢からして直ぐに両者の間に構築された溝が埋まる事は無いでしょう。


 相互理解の為には先ずその溝を埋めて対等な目線と立場から意見を酌み交わす必要があります。


 だけど……。もしも彼女達がそれを望んでいなければ??


 十人いれば十人全員が私達を迎え入れてくれるとは思えません。


 それは此方側もまた然り。



 相反する者同士が反発しあい、火花が方々へと飛び散り戦火が広がり収集が付かない程の業火へと発展。


 そうならない為にも誰かが両者の間に立たなければならない。


 そう……。もしかすると、彼がその役割を果たすのかも知れませんね。



 我々魔物と人間との和解の象徴に成り得るかも知れない彼を、私は命に代えても守り抜く。


 彼が私の下へ帰って来てくれた時に心の中で固く誓ったのです。



「……」



 話が逸れちゃいましたね。



 イル教がパルチザンへ協力する理由それは……。



『認識阻害』



 恐らく……。というか、十中八九これを払い退け。魔物が編纂した文字、及び古い資料を理解したいから協力しているのだ。


 先の聖域への領域侵犯が最もな理由です。


 あそこに何かがあると踏んだイル教の最高指導者は足切りにしても構わない人物達を向かわせた。


 発見に至らずとも良い。又は発見に至った場合、一切の手出しを禁ず。


 彼の任務に附款されていた条件をみれば一目瞭然です。


 そして彼女の目論見通り。あそこには何かが在って、人間には理解の及ばない事象が起こって三名が帰還した。


 きっと彼女は真の闇の中で偽りの仮面を外して薄ら笑っているのでしょうね。


 私の思い描いた通りに事は進んでいる、と。




 あの任務は……。


 正直受けるべきでは無かった。




 彼女に何かがあると知られ、そして手元の資料。恐らく挿絵から判断したのでしょうが、その資料が間違っていないと決定付けられてしまいましたから。



「はぁ……。レイドの馬鹿っ」



 周囲に誰も座っていない事を確認すると、宙へ向かって少々汚い言葉を放った。


 仕事だから受けなければいけないのは分かりますけど……。こう、何んと言うか。


 非情な心も持って欲しいものです。



 魔女を倒さなければ人も魔物もいつか倒れてしまう。


 何れにせよ、この星に生きる者達の非願成就の為に我々もそして人間達も身を粉にして活動しているのだ。


 しかし、その後。認識阻害が解けてしまえば次なる一手をイル教が打つ。



 魔女を倒してはいけないのに、倒さなければいけない……。




 くそう。良く考えていますね、あのシエルとやらは。


 彼女が思い描いた通りに事柄進んでいる気がします。


 イル教が魔女を倒したい理由は大体こんな感じでしょう。




 そして更に未解決なのは。



 誰がイル教へ聖域の存在を仄めかしたのか。それとも以前から所有していた物から推測したのか。


 この二つでしょう。



 魔物が人間と内通して渡したのかな?? それだと全てが直ぐに解決するのですが。


 恐らくこれにはもっと深く暗い闇が絡んでいる筈。


 彼女と結託して魔物に利益等あるのでしょうか?? 破滅思考な人が居れば当嵌まるのですが……。



 イル教と協力して得をする魔物なんて一人もいませんよ。


 先生がイル教と協力?? ん――両者とも利益を得る事は先ずありませんね。


 それに、先生は彼女達の事を毛嫌いしていましたので。先生の素顔は良く知っていますからあれは彼女そのものの顔でした。



 そして先生の仲間であるイスハさんも、フィロさんも、フォレインさんも。彼女達と袂は別ったミルフレアさんも当て嵌まらない。



 それとも……。もしかしてお父さん達??


 それも無いかな。


 お父さんはどちらかと言えば人間と関わりを持ちたがらない傾向が見られますから。



 そうなると該当する人物が見当たりませんねぇ。


 私が知らない第三者の魔物??


 協力するにも知識や資料が必要ですから、相応の力を備えた人物であるのは確実です。


 大魔以外の魔物がイル教と協力して互いに利益を得る?? 意思疎通を図るのには高度な魔法が必要になるから……。



 ――――。


 駄目だぁ。



 圧倒的に証拠が少な過ぎます。


 どれも憶測の域を出ない。


 先生が以前言っていた通り、私達は未だ知る必要が無いのかもしれません。


 私達は歯車の一部となり、非情なる運命に否応なしに巻き込まれる。


 時計の針は正確に刻み続け、刻一刻とその時に向かう。



 それは遠く無い未来。



 もう間もなく訪れようとしているのでしょうか??


 運命に抗い勝利を勝ち取るのか。それとも敗北者として残酷な運命に敗れ去るのか。



 いずれにせよ私達に残された時間は余り残されていない様な気がします。


 取捨選択を間違えず、最善な選択をして選び続けなければなりません。


 川に張った薄氷を渡り続けるかの如く危険な道を進まなければならないが、私が決して踏み外させない。


 レイドには勝利を勝ち取って貰いたいですからね。



 はぁ。


 何だか頭が痛くなってきました。


 思考を巡らせたのは良いですが、得られる物が余り無かった気がします。


 所詮は机上の空論。


 私の考えは胸に秘めておきましょう。


 当てずっぽうで話しても良い事はありませんからね。



「んっ……。ふぅっ!!」



 さてと、本の調査を開始しましょう。


 時間は有限です。


 先生に言われた言葉を咀嚼して胸に確と刻んで席を立つ。


 有限、か。


 レイド達と行動するのもいつかは終わりが来るんだよね??


 嫌だなぁ。ずっと一緒に居たい。


 皆で過ごす時間は何物より代えがたい素晴らしい物ですから。



『おらぁっ!! テメェのパン寄越せや!』


『これは俺の分だ!! ほ、ほら。ユウの手元には未だ口付けていないパンがあるじゃないか』


『んにっ!?』


『こっちに来たら張り倒すっ!!!!』



 喧しい雰囲気も。



『あはは!! カエデちゃんって近くで見ると意外とちっこいよねぇ――』



 鼻につく言葉も大好きです。



 そう声を大にして言いたいですけど、恥ずかしいから無理かな??


 今の時間を大切にして、忘れないように宝石箱に仕舞って……。


 これからの長い人生の糧にしよう。


 時折思い出すのですよ、宝石箱を開けて。



 マイのふざけたおふざけ。ユウの温かい朗らかさ。


 アオイの了承し難き淫乱さ。


 ルーの何処までも明るい笑み。リューヴのカッコいい顰め面。



 そのどれもが宝石の様に煌びやかに光り輝く大切な思い出。


 ずっと、ずっと大切にします。


 そして……一番大切なのは。



 レイドの……。


 ふふ。


 これは内緒の場所に仕舞いましょう。


 何人も入る事の出来ない聖なる領域に厳重に保管するのですよ。


 私の大事な想いも一緒に添えて。



 静かな図書館に似つかわしくない想いを抱いていると、何だか頬っぺたが温かくなって来た。


 いけませんっ。


 集中、集中っ!!!!



 自分に厳しい言葉を言い聞かせ、元の棚へ新聞を戻すと早速彼からの依頼に応える為に調査を再開させた。
























 ◇




 美しい茜色の空の中を舞う鳥達が私の姿を見下ろすと、不思議そうにちょっとだけ首を傾げて家へと帰って行く。



 あの鳥達が心配していたのは恐らく、私の歩く様でしょうね。


 考え事と本の調査。


 この二つを同時進行させたが不味かったです。



 調査は私の思う様に進まず、誰から見ても落胆していると確定出来る肩の落とし具合。そして重い足取りで北大通りを南下していた。



 借りて来た本も今日の内に読まないといけませんね……。


 でも……。体に感じる疲労感は不思議と嫌いじゃ無いものだった。



 ひょっとしたら私は本の生まれ変わりなのでは無いでしょうか??


 いや、大魔の血を引く者なのは周知の事実ですけど。


 そうでもないと、心地良さを感じる筈がありませんから。


 何万、何十万もの文字を相手にするのは並大抵の労力では無いのですよ。


 今日一の終わりを知らせてくれる鳥達の軌跡をぼぅっとした表情で見つめてそう考えていた。



 さてと。


 今日の晩御飯はどうしようかな??



 ココナッツで買って帰ろうかな……。あ、しまった。この前利用したばかりじゃないですか。


 連続で来店するのは勇気が要りますし……。


 ん――。


 特にお腹も減っていないし、今日はいいかな??



 ちょっとだけ不機嫌な腹の虫と相談を繰り広げていると……。
















「――――――。おい、金を出せ」



 ドスの効いた男の乱暴な低い声が私の耳に届いてしまった。



「は、は、は、はい」



 北大通りから一本入った暗い路地。


 一人の男性が女性に向かいナイフを差し出して金を脅し取ろうとしている。


 ガタイの良い体格、そして悪意に満ちた瞳。


 客観的に見ても悪意の塊を放っている。



 物騒ですねぇ……。



「こ、こ、殺さないで……」



 女性は男から恐怖を突きつけられ、細かく震えて地面にぺたりと座り込んでいた。


 これを見過ごす程、私は薄情ではありませんよ??



「これだけかよ。しけてんなぁ」


「ご、ごめんなさい!!」


「ま、足りない分はその体で払って貰おうかな?? 良い体してんじゃん……」


「や、止めて……」



 女性の柔らかい頬にナイフの腹が付けられると。



「や、や、止めて下さい……」



 彼女が今にも消え入りそうな声を上げた。



 むっ……。


 ひ弱な女性を力で脅して自分の良い様にする気ですね??


 同じ女性として彼女は私が守ってあげないといけませんね!!



 フンスッ!! っと荒い鼻息を荒げて暗い路地へと向かう。



「仕事が始まるまでのお楽しみ……。あぁ?? 何だてめぇ??」



 全く。


 どうして初対面の他人に対して、そこまでの悪意を向けられるのですかねぇ。


 凡そ、真面な教育を受けて来なかったからこんな風に育ってしまったのでしょう。


 教育環境の抜本的な改革を所望します。



「殺すぞ??」



 私の存在に気付くと、彼女に向けられていた悪意が此方に向かう。


 この人の得物は……。何だ、ナイフ一本だけですか。


 刃渡り十五センチ程。


 鋭い切っ先に怪しい光がギラリと反射する。


 まぁ、普通の人は凶器を向けられたら体が竦みますよね。



 生憎、私は普通の人間では無いのですよ。


 あ、勿論?? 私の倫理観、並びに価値基準は普遍的ですよ??



「おぉ?? お前の方が良い体してんじゃないか」



 それはどうも。



「お前が金を出せばこいつを見逃してやる」



 大粒の涙を浮かべている女性にナイフを向けて話す。



「……」



 私は拒絶の意味を込めて首を横に振った。



 貴方に与えるお金はありません。


 私が所持しているお金は彼と私達が血と汗を流して得たものなのですからね。



「はっ!! じゃあ、お前がこいつの身代わりになるって言うのか??」



 今度はコクリと軽く頷いてやった。


 身代わり、にはなりませんけどね。



「結構結構!! その白い肌……。かぁ!! 堪んねぇな!!」



 さてと、どうやって処理しましょうか。



 女性に見られている手前、魔法の使用は御法度。


 つまり、徒手格闘でこの暴漢を倒さなければなりません。


 他に私達を見ている人は……。



「どこ見てんだよ」



 あ、お気になさらず。周囲の状況を確認しているだけですので。


 うん、大丈夫。



 此処には私達三人しかいません。


 よぉぉしっ!!!! やるぞ!!



「服を切り裂いて……。気持ち良くしてやるよ!!」



 来ました!!


 右手に持つナイフを左斜め上から、袈裟切りの要領で振り下ろして来る。


 私は半身の姿勢で初太刀を回避。相手の間合いを図って半歩下がった。



「おっ。良い動きしてんじゃん」




 褒めてくれるのは嬉しいですが……。


 その……。何んと言いますか……。


 遅過ぎません??



「連撃はどうだ!?」



 上下左右から鋭い切っ先が空気を切り裂く音と共に私の体に襲い掛かる。


 正確に向かって来る全ての斬撃を目線で追い丁寧に躱す。



 ふぅん。


 急所に何の躊躇もなく切りかかるのですね??


 人間相手に力を揮うのは憚れましたが……。これは手加減する必要はなくなりました。



 悪は綺麗さっぱり成敗、正義の名の下に粛清します!!!!




「うらぁ!!」



 待っていましたよ??


 その大振り!!



「…………!!」



 私の目線の上から強襲する男の右腕の軌道を左手で僅かに逸らすと、人体の弱点の一つである顎が。


 どうぞ此処へ打って下さい!! と私に明るい笑みを浮かべて待ち構えていた。


 勿論!! そのつもりです!!





『レイド。格好良く拳を打ち抜くコツを教えて下さい』


『格好良く、か。ん――……。俺は師匠の型をそっくりそのまま真似しているからなぁ。威力も段違いだから格好良いとは……』


『それで良い。だから、早く』


『あ、は、はい。先ず右手の甲を敵に向けて、それから下から天へ向かって穿つ感じで。腕の力だけじゃなくて下半身の力と一緒に打つんだ』


『こんな感じ??』


『もっと足を踏ん張って、腰を入れる感じで。それから……』




 レイド……。


 貴方に教えて貰ったこの拳、此処で使用させて頂きますね!!




「ふっ!!!!」



 無防備になった顎先に向かって今持てる全ての力の塊をぶつけてやった。



「がぐぁっ!?」



 気持ちの良い音が鳴り響き、じぃんとした感触が拳に広がる。


 手応え十分です!!



「あ、かっ……」



 跳ね上がった顎が元の位置へ戻ると、男はそのまま地面にぐしゃりと倒れて動かなくなってしまった。



 ふむ、気絶しましたね。


 最小限の動き、且無駄の無い力の入れ方でした。


 初めての実戦での使用でしたが……。彼が教えてくれた通りに穿てて良かった。


 どうせなら見て欲しかったけど。徒手格闘戦に特化した方々にまだまだ甘いと揶揄されてしまいそうですよね。



「あ、ありがとうございます!!」



 いえいえ、どういたしまして。



 腰が抜けて座り込む女性が此方へ向かって感謝を述べる。


 私は静かに手を差し伸べ。



『大丈夫??』



 そんな労いの意味を込めて微かに口角を上げた。



「本当に何んとお礼を申したらいいのか……」



 気にしないで下さい。


 相手を落ち着かせる笑みを浮かべ、ちょっとだけ頷く。



「では、私はこれで……。本当に、本当にありがとうございました!!」



 私に向かって勢い良く頭を下げると大通りの方へと駆けて行ってしまった。


 頭を勢い良く下げた所為か。頭に被っていた灰色の毛糸の帽子が落ちてしまう。



 落とし……、まぁいいか。彼女は今それ処じゃ無いでしょう。



 何事も無くて良かったですね。


 大通りへと向かって行く安心に包まれた背中を見送り、安堵の息を漏らした。



 正義は勝つ。悪に屈する正義は無いっ!!



 ふふっ。


 何と言いますか、小説の中の登場人物みたいですね。


 女性の危機に颯爽と現れて大悪を穿つ。


 そんな勧善懲悪を体現した登場の仕方、決着の付き方でした。



「…………あ」



 この人どうしよう??


 暴漢がピクリとも動かないで地面の上に横たわっていた。


 警察に引き渡したい所ですが、生憎話が通じませんし。






 …………。


 そうだ!! 勧善懲悪ですよ!!


 この人にはキツイお仕置きが必要です。


 ここから遠い所に空間転移で飛ばしちゃいましょう。


 どこにしようかなぁ。



 コールド地方はネイトさん達に迷惑が掛かるし。


 ギト山はイスハさんに怒られちゃうし。


 アオイの故郷に至っては危険が一杯だし……。



 ん――。北の大森林でいいかな??


 あそこなら街道もあるし、道に迷う事も無いでしょう。



「よしっ!!」



 誰もいない事を確認して刹那に魔力を解放。



「…………んっ!!!!」



 地面に魔法陣を浮かべ淡い光が彼を包むと、その存在が目の前から綺麗さっぱり消えた。



 悪者さんには反省して貰いましょう。


 己の愚行を反芻し、懺悔を繰り返して歩んで下さい。



 よしっ!! これにて成敗かんりょ……。




「――――。待たせたな」



 嘘っ!! 見られちゃった!?


 背後から男の声が響き、私は咄嗟に地面に転がっている毛糸の帽子を深く被った。




「!!」



 いけません!! 前が見えない!!


 男に背を向けたまま、毛糸の帽子の目元付近を風の魔法で切り裂く。


 こ、これで何んとか……。



「おい。聞こえているのか??」



 低く芯のある男の声を受けて振り向くと、そこには九人の男が立っていた。


 先程の暴漢と同じで皆危ない雰囲気を放っている。



 もしかして……。僻地送りにしてあげた男と待ち合わせしていたの??


 そう言えば、仕事の前とか言っていたな。



「お前が……。魔眼の狩人だな??」


 へっ!?


 それ、私の事ですか??



 黒みがかった茶色の短髪、顔と腕には無数の傷跡が刻まれている。


 体格も良く、さっきの男性よりこっちの人の方が随分と強そうだ。


 後ろの人達を纏める人かな??



「初めまして、いや。挨拶はいらねぇか。今日の仕事は大掛かりになるんだ、お前さんの組に依頼したのはその為だ」



 仕事??


 大掛かり?? 組!?


 い、一体何の事だろう。




「あそこの銀行を襲うんだ。お前の力、頼りにしているぜ」



 え……。えぇっ!?


 ひょっとして……。


 私の事、勘違いしているの!?



「まさか、お前が女だとは……。いや、いい。気にするな。仕事をするのに女も男も関係ねぇ。要は腕が立つかどうかだ」



 それは了承しますけれども。


 先ずは相手の身元を確実に確かめる必要があるかと……。



「そろそろ銀行が閉まる。閉店間際に突入して、客と行員を取り押えるんだ」



 この人達、銀行強盗だ。



 嘘ぉ。本当にいるんだ。


 小説の中にしか存在しないと思っていましたが、まさか目の当たりに出来る日が来ようとは。



「おじきから渡された紙に書いてあった段取りは覚えているな??」



 段取り??


 首を傾げようとするが……。と、取り敢えず頷いておきましょう。



「一応、確認しておくか」



 あ、態々すいません。


 説明をお願いします。



「銀行に突入後。行員、客並びに警備員を取り押える。安心しろ、閉店間際だからそこまで客はいねぇ。行員と警備員の数は残っているだけで……。十人程だ」



 あれ??


 随分と少ないですね。



「こちとら何か月も掛けて銀行の動きを探っていたんだ。今は催し物が開催されていて、銀行にはたっぷりと現金が貯めこまれている。そして行員は全員が最後まで残っている訳じゃないんだよ」



 へぇ。良く調べていますね。


 その情熱を違う事に向ければ良いのに。



「俺とお前が二人の警備員を取り押え、それ以外の者が行員並びに残りの警備員を強襲。抵抗出来ない様に縛った後、現金をしこたま袋に詰めて颯爽と退散。どうだ??」



 どうだ、そう言われましても……。


 まぁ、それでいいんじゃないんですか??



「……」



 私は彼の提案にゆっくりと頷いてやった。



「兄貴ぃ――。偵察終えました」


「おう。御苦労」



 あらら。もう一人増えちゃった。


 これで銀行強盗さん達は十人。


 私を合わせれば十一人か。



「行員さんは八人、警備員さんは四人、お客さんは三人。計十三人残っています」



 いやいや。


 計算違っていますよ。


 後で合流した銀行強盗さんの声がやたら可愛いので吹き出しそうになってしまった。


 それと態々さん付けするあたり何処か優しい性格な人の様ですね。



「馬鹿、計算が違うだろう。十五人だ」


「あ、そっか」



 えへへと可愛い笑みを浮かべて兄貴さんと呼ばれた人を見つめる。



 間抜けな人。


 でも、この人達は今から罪を犯そうとしている。


 ここで全員眠って貰う??



「よし……。野郎共、仕事の時間だ」



 あ、ちょ、ちょっと……!!


 私が魔法を掛けようとすると、全員が兄貴さんの声を皮切りに大通りへと進んで行ってしまう。



「おい、行くぞ」



 まぁ……。ここで眠って貰っても、起きた後に銀行を襲うかも知れないし。


 事件が発生した後に大人しく眠って貰いましょうかね。


 私は機を窺って空間転移で逃げればいいだけですので。



「へへ。血が騒ぐな」



 可愛い声の人が意気揚々と声を上げる。


 その気持ちは分からないでも無いです。


 小説で読んだ事件が目の前で起きようとしているのですから。



 私は、悪に紛れ込んだ正義の使者。



 ふふふ。


 銀行強盗さん達には悪いですけど、正義の鉄槌を下させて頂きます。


 これが正義の使者の気持ちなのかな。


 銀行にいる方々には些か不謹慎かと思いますけど……。ワクワクして、ドキドキする。


 彼等がお客さん並びに行員さん達の命を奪う真似をしたら速攻で片付けよう。


 それは流石に見過ごせませんので。


 沸々と湧く妙な高揚感を胸に抱き、彼等と共に夜の帳が下りて静かになった北大通りを歩み続けた。



お疲れ様でした。


皆様は本日の夕食は何を召し上がりましたか?? 私はお腹と相談した所、四川ラーメンが食べたいとの事でしたので。車で三十分程かけてラーメン屋さんへと向かいました。


そのお店の四川ラーメンなのですが、まぁ辛いのなんの。


豚骨ベースにピリっと効く辛み、そして程よくスープを絡ませる縮れ麺。辛さで舌が参ったらトロミのあるチャーシューをパクリと口に含んで辛さを誤魔化す……。


気が付けば器の具材、麺は全てお腹の中に収まり。大変満足して先程帰宅した次第であります。


それでは皆様、お休みなさいませ。

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