表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/62

無鉄砲な小鴨を見守る母鴨の気持ち

お疲れ様です。


本日の投稿になります。



 常軌を逸した力の二人のいがみ合い、争う声は彼方へと消え。


 人体実験の一環として正体不明な物体を食わされる事も無い。


 静寂とは本当に貴重な存在であると、宿の一室で私はそう確信していた。




 あぁ……。


 このまま静寂に包まれ、流れる時に身を委ねて微睡んでいたいです。


 しかし、しかしです。


 一点だけ気になる事があります。


 それは……。




「おはようございます!! カエデさん!! 今日はいい天気ですよ!!」



 そう。鳥の女王……。


 失礼。


 ハーピーの女王がこんな平凡な宿に居る事が気になるのですよ。


 昨晩、御風呂を頂いた後にギト山から王都へ帰る時。



『カエデさん!! 明日ってお時間ありますか??』



 彼女がこんな質問を問いかけて来た。


 そこで私の頭の中に二つの選択肢が生まれたのです。



 一つは、時間が無い振り。


 まぁ、実際本の調査がありますので時間が無い事は確かですが。


 彼女の誘いを無下に断り本の調査を本格的に始動させる選択肢が浮かんだ。




 二つ、彼女の申し出を受け取り人間関係構築の為に時間があると伝える。


 恐らく先の質問とニッコニコの笑みから察するにレイモンドの街に来たいのでしょう。そして、私に街の案内を頼む筈。


 この二者択一に迷い、私が出した答えは……。


 二つ目の、時間があると伝えました。当然彼女は。




『本当ですか!? じ、実は一度レイドさん達の活動拠点?? であるレイモンドに行って見たいと考えていたんですよ!!』



 と、目を輝かせて話すものですから断れずに連れて帰って来てしまったのです。


 その夜は未だ読めないでいる新刊に手を伸ばそうとしましたが……。




『わぁっ!! ここが、レイドさん達が泊っている宿ですか!! カエデさんはどこのベッドを御使いに?? えぇ!! 角ですかぁ?? そ、それでレイドさんはどこのベッドを使って……。え?? 一番向こうのベッド?? じゃ、じゃあ今日はそこで寝ちゃおうかなぁ!! 彼には内緒ですよ?? あ、そうだ。明日はどこへ……』




 等と無数の質問が向かって来たので本を読む処では無かったのです。


 その仕返しじゃあないけど。アオイが使っているベッドをレイドが使用していると称して案内してしまった。


 これくらいの嘘なら許されるでしょう。



「カエデさん!! 起きて下さい!! もう太陽は昇っていますよ??」


「…………朝??」



 シーツから目元だけ覗かせて五月蠅く鳴く彼女の姿を確認した。



 あぁ……。見るんじゃなかった。


 萎れている私に対し、彼女は爛々と輝き今にも羽ばたいて部屋から出て行ってしまいそうな顔を浮かべていた。



「朝です!! 朝ご飯を買いに行きましょう!! 今日は案内してくれる代わりに朝ご飯を奢ります!!」


「そうですか。それは、お疲れ様です……」



 フンフンと鼻息を荒げる彼女を他所に、さり気なくシーツに潜り込もうと画策する。



「あ、ちょっと!! 駄目ですよ?? 二度寝しちゃ。私もピナに良く怒られるんです。二度寝していたら仕事が片付かないですよ――って。普通、女王の私がする必要のない仕事も押し付けて来るんです。それはどうかな……ってぇ!! 目を開けて下さい!!」



 誰かこの人の口に枷を付けて下さい。


 半ば引きずられる形で起こされ、寝癖を直し、強引に寝間着を剥がされ、普段着に着替えさせらてしまう。



「うん!! これでよし!! さぁ、行きましょう!!」



 ここまで来たら諦めますか。



「アレクシアさん。ちょっと待って下さい」


「はい?? 何でしょう??」


「人の言葉を理解出来るようにします」


「いつぞや話していた魔法ですね。宜しくお願いします!!」



 私が声を掛けなければそのまま出発していたのかもしれませんね。


 行動力の塊みたいな人だな。



「行きます……」



 右手を掲げ、魔力を解放して己自身と彼女へ一方通行の付与を開始した。



「おぉ。凄い魔力ですね」


「アレクシアさん程ではありませんよ。以前、殺されかけましたからね」


「も、もう。あれは操られていたからですっ」


「はい。終わりましたよ」


「これでもうおしまいですか?? 意外とあっさりしていますね」



 己の体をキョロキョロと見つめ、腕を動かしたりしている。



「御望みであれば少し焦がしましょうか??」


「結構です!! から揚げになっちゃいますからねっ!!」



 どうだ、と言わんばかりに勝ち誇った顔で私の顔を見つめる。



「…………」

「…………??」



 暫しの沈黙が私達を包み込むと、勝ち誇った彼女の顔が徐々に羞恥心に包まれ朱に染まっていく。


 何が言いたかったのかな??



 …………あぁ。


 鳥繋がりか。



「鳥な、だけに??」

「正解です!!」



 パチンッと指を鳴らした事に僅かながら殺意が生まれてしまった。



「さ、行きますよ」

「ちょ、ちょっと!! 置いて行かないでくださぁい!!」



 鳥頭の彼女を放置して、私は部屋の扉を荒々しく開き本日も若干埃っぽい廊下を進んで行った。



















 ◇




 私達にとっては見慣れた光景でしょうが彼女にとっては行き交う人々も新鮮に映るようですね。


 仲睦まじく歩く若い男女、美味しそうにおにぎりを頬張る男性、何か落ち込む事があったのか肩を落として大きく溜息を付いている女性。


 そのどれにも忙しなく視線を合わせて目で追い続けていた。


 お願いしますから変な人に着いて行かないで下さいよ??



『皆さん色んな表情を浮かべていますねぇ……。あっ、あのお店。可愛い服置いていましたよ??』


『そうですね。朝食は何が良いですか??』


『むむ。話、聞いていませんでしたね??』



 可愛く頬を膨らませて話す。



『いいえ。確と耳に届いていました。服屋より、先ずは朝食。そう仰っていたじゃないですか』


『それはそう……。ですけどぉ』



 浮かれる気持ちは十二分に理解出来ます。


 私も初めてこの街に来た時は浮かれる気持ちと、少しばかりの怖さを持って街を歩いたものです。



『朝ご飯は何を所望しますか?? 軽く想像して下さい』


『好きな御飯ですか?? ん――。甘い蜂蜜をたっぷり乗せたパンですかね??』


『普段食している物を食べても余り代わり映えしないでしょう』



 それに、ハーピーの里で獲れる蜂蜜と此処で頂ける蜂蜜とでは雲泥の差がありますので余りお薦めはしませんよ。



『ふぅむ……。それじゃあ、朝に相応しいさっぱりとした物が良いです』




 さっぱり……。


 無難におにぎりとかパンにした方がいいですね。


 こういう時、マイがいれば助かるのですが……。



『わ。綺麗な銀時計……』



 西大通りの歩道上で歩みを止め、この通りの名物である銀時計を見上げる。



『沢山の男女が時計の下でお話していますよ??』


『この場所は良く待ち合わせで使われているのです。恐らく、その為でしょう』


『へぇ。確かに素敵な時計ですものね。うんうん。これなら目立つし、迷う事もないでしょう』



 一人で勝手に理解して頷く姿についつい笑みが零れてしまいます。


 女王と言っても私とそんな年齢も変わらないでしょう。


 はしゃいだり、笑ったり、喜んだり。年相応の振る舞いをしたい筈。



 しかし、ハーピーの里では女王としての気概を見せねばならない。



 今日だけは肩の荷を降ろして楽しんで貰いましょう。


 彼女が浮かべる笑みは私にそんな気持ちを抱かせた。



『どうですか?? この街は??』


『色々あり過ぎて……。正直混乱しています。ピナが良くルミナの街にお使いに行ってくれるのですが、中々欲しい物が手に入らなくて。ここだと今日中にも揃っちゃいそうですね!!』



 ルミナ、か。


 生まれ故郷に近い人間の街ですね。


 レイドと出会って最初に訪れた街でもあります。


 そこで、操られたピナに襲われて……。


 今となってはいい思い出だな。



『因みに、何をお探しで??』


『えっと、先ずは本ですかね。人の言葉が理解出来る内に小説、雑誌。色んな本を見てみたいです。次点で服とか下着とか……。どれから行こうか迷ってしまいます』


『迷う事はありません。書店一択です』



 速攻で返事を返した。



『カエデさんは読書がお好きですからね。うわっ。何ですか!? あの人の流れは!?』



 西大通りを進み中央屋台群が見えて来ると、驚嘆の声が隣から漏れる。


 それもその筈。


 人の波が蠢き、街の中央の周囲を絶え間なく流れ続けているからだ。



『これでも少ない方ですよ??』


『こ、これで少ない……。良く耐えられますね、あの隙間に』


『空は何も障害がありませんからね。ちょっと我慢して下さい。狭いのはあそこだけですから』


『わ、分かりました!!』



 両手に可愛い拳を握り、気合?? を入れて私に続いて歩き出す。



「皆さん、ゆっくり進んで下さいね――!!!!」



 本日も朝から額に汗を流して交通整理を続けるお兄さんの指示に従い西大通りから中央屋台群の中へと進み、人一人分の隙間に体を捻じ込み流れに沿って歩み始めた。



『んぐぅ……。結構狭いですね……』



 他人の息遣いが聞こえる程の距離感に彼女は私の予想通り目を白黒させていた。



『慣れですよ、慣れ』



 ここへ来たばかりの頃、この人波に憤りを感じて何度魔法を唱えてやろうと思った事か。


 今では大分落ち着き……。


 いえ。今も変わらないですね。


 結界を展開させて心地良い空間を捻出してやりたいです。



「そこの綺麗なお姉さん達!!」



 一件の屋台の前を通ると、元気な店主の声が耳に届く。



『うん?? 私達の事ですかね??』



 アレクシアさんが声に反応してくるりと店主へと顔を向けた。



「そうそう!! そこの御二人さん!! 美味しいパンは如何かね!? クルミの風味が効いて美味しいよ!!」


『わぁ。カエデさん、あそこで買って行きましょうよ』


『いいですよ。列も出来ていませんし』



 人の流れから抜け出して彼の店の前に立つ。


 これだけのお店と人が居る場所でもちゃんと小麦の香りが鼻腔に届いて来ますね。


 良い小麦を使っている証拠です。



「幾つ買うんだい??」


『カエデさん、私三つ食べたいです』



 小声で私にそっと耳打ちする。


 彼女の提案を了承してこくりと頷き、店主へ向かって五本の指を提示した。



「五つだね!! 毎度あり!! ちょっとおまけして……六百ゴールドだよ!!」



 美人を連れていると得ですね。


 私は無言で鞄から現金を取り出そうとしたが、隣の女性がそれを遮った。



『私が奢ると言いましたよ??』


『……御馳走になります』



 アレクシアさんが現金を支払い、紙袋を受け取ると再び波に乗る。



『わぁ。良い香り』


『南通りへ抜けてから頂きましょう。大きな書店も近い事ですし』


『分かりました』



 そう話すと、アレクシアさんの腹の虫が機嫌の悪い声を上げてしまった。



「……っ!!」



 咄嗟に腹を庇い、私の方をちらりと窺い。


 今のは私が発したものでは無い、容易く看破出来てしまう嘘を露呈した。



『……ずっと歩いているからお腹が空いたのですね??』


『私のじゃないような気がします、よ??』



 いやいや。


 その顔を見れば一目瞭然。


 端整な顔が朱に染まり、恥ずかしさを誤魔化す為視線を忙しなく動かす。


 語るに落ちるって奴ですか。



 そんな恥ずかしがり屋の彼女を引き連れ、何とか南大通りへと馳せ参じると。歩道沿いのベンチに腰を下ろして少し遅めの朝食を開始した。



『んふっ。美味しそう。はい、カエデさんの分です』


『どうも』



 二つのクルミパンを受け取り、じっと見下ろした。


 クルミパン、か。


 このクルミパンはレイドの好物です。


 ひょっとしたらこのパンも彼が気に入るかもしれませんね。


 味を確かめて美味しかったら勧めてみようかな??



『頂きます!! はむっ!! …………うん。美味しい!!』



 どうやら彼女のご期待に叶ったようですね。


 満足気に口角を上げて咀嚼を続けている。


 どれ、私も賞味しましょう。



『ふむ……。中々ですね』



 歯に感じるクルミのサクサクとした硬い食感が歯を楽しませ、パンの甘味が絶妙に交差する。


 噛めば鼻腔に両者の風味が抜け心と体が安堵して食欲を増進させてくれた。



『この味、私達の街で再現出来ないかしら??』



 パンの断面をじっと見つめてそう話す。



『小麦粉、クルミ、上質な水。これらが揃えば可能では?? 問題はそれを調理する人物が居る事です』


『パンの職人さんかぁ。ん――……。いないですね』


『誰がパンを作っているので??』



『各家庭や私の料理を担当している方ですね。パン専門で調理する人はいません』



 それでは少し厳しいかも。


 折角美しい森林に囲まれ、魅惑溢れる材料に囲まれているのに。


 少し勿体無いと感じます。



『頑張って作ってみようかな??』


『料理の心得がおありで??』



 アレクシアさんの口からは料理の云々は伺った事がありませんね。



『無いです!!』



 自慢げに言う事でもありませんよ??



『何と言うか……。些か失礼かと思いますが、素人の付け焼刃は大怪我の元ですよ』


『まぁ……そうですね。駄目だなぁ。料理の一つや二つ、出来ないと女性として失格だと思いませんか??』


『それは、まぁ同意します。私も余り得意ではありませんので』


『へぇ。意外です』



 少し目を丸くしてこちらを見つめる。



『意外??』


『ほら、カエデさんって何でも出来そうに見えますから』


『何でもは出来ません。出来る事なら出来るだけです』



 至極当然の理を言った。



『ふふ。それは誰でもそうですよ。普段は誰が料理をしているので??』


『レイドです』



 本当は手伝いたいんだけど……。私の技術と彼の技術では差があり過ぎるので今は簡単な事しか手伝えないのが歯痒い思いですね。



『レイドさん料理がお上手ですからね。ほら、覚えています?? あの鯵の揚げ物』



 勿論覚えていますよ。


 アレクシアさんの暴走を止めた後、ルミナの街から運ばれて来た鯵を美味しく料理してくれたのですよね。


 因みに、私もちょっと手伝ったのです。



『美味しかったですよね。それと今年の夏の出来事なのですが、皆で無人島に赴いた時に出してくれた刺身がもう絶品で……。全員が舌を巻いていましたからね』



 あの摩訶不思議な筍は論外でしたが……。


 それ以外は……。うん、本当に楽しい思い出ですね。



『刺身かぁ……。美味しそうですよねぇ』


『今度、そのような機会があればこちらから連絡致しますので。御都合が合えばいらして下さい』


『本当ですか!? ありがとう!!』



 ぱっと明るい表情になり、私の両の手を取る。


 何と言うか……。


 いきなり綺麗な顔が近付くと、女性である私でも恥ずかしさを覚えますね。




『海かぁ。綺麗だろうなぁ。ひと夏の危ない冒険。私が浜辺で寛ぐと彼が徐に近付き、そっと手を添える。そして……。二人の距離が徐々に近付き……』


『それに嫉妬した赤き龍が現れ、巨岩をも溶かす炎を吐き二人は灰へと変わり果てる。残念無念、彼女達の冒険はそこで幕を閉じたのだった』



 好き勝手に想像を繰り広げていたので、強制的に終了させてしまいました。


 このままでは向こうの世界へ旅立ち、戻って来る気配がありませんでしたので……。



『ちょっと!! せめて美しい終わり方にして下さい!!』



『美しい?? 雷雲が空の彼方から押し寄せ、二人に嫉妬した雷が二人を穿つ。丁度良い塩梅に焼けた体を鳥がついばみ、その鳥を大型の鷲が捕食し、鷲が寿命で朽ち果てると地面に倒れ土へと還る。その土から一本の樹木が生え、二人の魂は皆を癒す木陰を供給する大木へと成長し大切に扱われるのであった』



『それは只の食物連鎖ですっ!!』



 ふふ。


 揶揄い甲斐がありますね。


 ぷくりと頬を膨らまして、私の創作話に苦言を吐く。



『せめて亡くならない話にして下さいよ……』


『それはまたの機会という事で。さ、行きましょう。このままでは日が暮れてしまいます』


『書店ですよね?? 分かりました!!』



 ベンチから立ち上がり、臀部をさっと払うと南大通りを南下する。



 彼女のお目当ての本が見つかればいいのですが……。


 見つからなければ私の好きな本を勧めてみましょう。


 今も隣を歩く、陽気な笑みを見つめてそう考えた。




お疲れ様でした。


いよいよ始まるゴールデンウイーク。皆様のご予定はもう既にお決まりでしょうか??


私の場合は……。服を買いに行き、友人と食事を交わす以外は執筆漬けの日々になりそうです。


そうでもしないととてもじゃありませんが、ゴールデンウイーク中に本編連載開始に間に合いそうにありませんので。


頑張って執筆しますのでもう暫くお待ち下さいませ。


それでは皆様、おやすみなさいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ