第十六話 お姉ちゃんの提案
それから守くんは、なんだかんだと悶着がありながらも
午後の特訓をなんとかこなします
新しい魔法、「ヴィグァ・ハイト」の使い方やモンスターの探し方、
そして安全な倒し方などいっぱい教えられました
「とりあえず今日はこんなところかしら・・・、
そのうち復習する機会は作るけど、
明日はまた別のことを教えてあげるわねぇ」
「は、はい・・・、ありがとうございました・・・」
初めての実戦ということもあって緊張していたんでしょうか、
守くんはすっかりへとへとになっています
お腹もかなり空いており、お昼に食べたちょっと薄味のエネレーですら
ごちそうのように思えていました
「マモルちゃん、結構お疲れみたい・・・、
覚えることはそんなに多くなかったと思うけどぉ、
モンスターとの戦闘はそんなに大変だったぁ?」
「・・・そうみたいです、町の中に戻ったら
一気に疲れちゃって・・・」
「そうなのぉ・・・、まあ、一晩ぐっすり眠れば全快よぉ♪
とりあえず本部まで戻るけど、歩けるかしらぁ?♪
何なら私が抱っこして・・・」
「だ、だいじょうぶです、歩けます・・・!」
そう言うと、守くんは疲労を無視してさっさと歩き始めます
一見すると気遣うような言葉を妨げたのは、
ベルリーナお姉ちゃんの顔に昼間いたずらされた時のような
悪い笑顔が浮かんでいたからでしょう
「あら残念、でも仕方ないわねぇ・・・、ってあら、あの姿はもしかして・・・」
「誰か知ってる人がいたんで・・・、あっ!」
二人が揃って前の方を見ると、見慣れた姿が目に映ります
そこにいたのはアミーお姉さんでした
買い物が終わってすぐ迎えに来てくれたのでしょうか、
両手に荷物を抱えたまま二人の元に小走りで近付いてきます
「マモルくん、お姉ちゃん、お帰りなさい!」
「アミーお姉さん、た、ただいま・・・♪」
「アミーちゃん、ただいま♪ わざわざ迎えに来てくれたのねぇ♪
そんなに心配しなくても、私が付いてるんだから大丈夫よぉ♪」
「やっぱり気になっちゃうわよ・・・、マモルくん、特訓どうだった?
大変じゃなかった? 危なくなかった?」
「だ、大丈夫です、ベルリーナさ・・・、お姉ちゃんが
いっぱい教えてくれました♪」
心配そうに尋ねられますが、
アミーお姉さんの姿を見て元気が出たらしい守くんは
問題なさそうに答えます
ところが、その返事の中で気になる部分があったらしく、
お姉さんは少し驚いたようにこう尋ねてきました
「ベルリーナ、お姉ちゃん・・・? それ・・・、もしかして
お姉ちゃんがそう呼ぶようにって・・・?」
「・・・? はい、そう言われましたけど・・・」
「・・・ちょっとお姉ちゃん? マモルくんに何したの・・・?」
「あら、なんのことかしらぁ?♪ 私たちは特訓してただけよぉ?♪」
「とぼけないでよ、お姉ちゃん呼びさせてるってことは
そういうことなんでしょう?」
「あの・・・、ベルリーナさ、お姉ちゃんの呼び方って
何か意味があるんですか・・・?」
二人の会話がよく分からない守くんは、
呼び方を変えるよう言われたことが何を意味するのか尋ねます
アミーお姉さんは、何とも言えない表情でベルリーナお姉ちゃんの方を見ながら
簡単な説明をしてくれました
「あの人はね・・・、気に入った相手にはお姉ちゃんって呼ばせてるの・・・、
だけど気に入るポイントは、『悪戯を仕掛けて楽しいか』っていう部分が大きいのよ・・・」
「えぇっと・・・、じゃあつまり・・・、僕と、アミーお姉さんは・・・」
「悪戯の反応が楽しいから気に入ったってことね・・・、
それだけではないと思うけど、主な理由はそれよ・・・、
まったくもう、マモルくんに一体どんな悪戯をしたのかしらね?」
どこか責めるような目を向けながら
アミーお姉さんが尋ねます
しかし、ベルリーナお姉ちゃんはどこ吹く風と言った様子で
堂々と答えました
「うふふ、バレちゃったぁ♪ ・・・そうね♪ 悪戯もしたのは確かよぉ♪
でもほんのちょっと遊んだだけ♪
別に変なことはしてないわ♪ ねっ?♪」
「う・・・、は、はい・・・、そう、です・・・」
ベルリーナお姉さんは悪戯っぽく笑いながら
守くんにウィンクして見せます
二人で何をしていたかは黙っているという
アピール代わりの行動なのでしょう
下着や胸元を見せつけられて鼻血を出してしまったなど
恥ずかしくて言えない守くんは、お姉ちゃんの言葉に同調するほかありませんでした
「・・・そうなの? ならいいけれど・・・、
でもマモルくん、お姉ちゃんに変なことされたら私に言うのよ?」
「はい、分かりました・・・」
「私って信用がないのねぇ、悲しいわぁ・・・」
「ベルお姉ちゃんにはいっぱいお世話になったけど、
それと同じくらいからかわれてたからね!」
「もう、アミーちゃんったら厳しいんだからぁ・・・♪」
「お姉ちゃんが悪戯ばっかりしてるからでしょ?
何されたかちゃんと覚えてるのよ? もう・・・」
仲が良さそうな二人のやり取りを眺めていた守くんですが、
そこでお腹から大きな音が鳴ってしまいます
はっとして顔を抑えますが、二人にも聞こえていたらしく、
揃って守くんの方を向いていました
「マモルくんお腹空いちゃった?
そうね、今日はいっぱい特訓してたみたいだし無理もないわ」
「ご飯、お昼の分だけじゃなく多めに持って来ておけば良かったわねぇ、
そのお買い物の荷物に何かある?」
「エネレーはないの、マモルくんの着替えとか、
日用品で必要そうなものを一通り買っただけで・・・」
「あらぁ・・・、それじゃ仕方ないわねぇ・・・」
「あの・・・、大丈夫です、僕、まだ我慢できますから・・・」
お姉さんたちはまるで守くんが空腹のあまり動けないかのように、
一刻も早く食料の準備をしようとしています
守くんもさすがに恥ずかしくなってやんわりと口を挟みますが、
あまり聞こえていないのか、二人は話し合いを続けていました
「どっちにしろここで話してても仕方ないわ、とりあえず帰りましょう、
お姉ちゃんは本部に戻るのよね?」
「ええ、そのつもりだけど・・・、そうだ、ここからなら
私の家の方が近いわぁ♪ みんなでお泊りしない?♪」
「えっ? いいの? でもお姉ちゃん、本部に入り浸りで
あんまり帰ってないんじゃない? お掃除とか・・・」
「心配しなくても、ちょうど昨日帰ったわよぉ♪
荷物の中にマモルちゃんの着替えなんかもあるんでしょう?
あなたの服は置いてあるからお泊りばっちりじゃない♪」
「うーんそうね・・・、今からお家に帰るよりは
そっちの方が近いかしら・・・、というわけでマモルくん、
今日はベルお姉ちゃん家にお泊りってことでいいかしら?」
「はい、大丈夫です」
「決まりね♪ じゃあ私、守衛さんに今日は本部へ戻らないこと
伝えてもらうから少し待っててぇ♪」
そう言うと、ベルリーナお姉ちゃんは小走りに町の入口へ立っていた人のところへ行き、
二言三言会話するとすぐに戻ってきます
「さ、これで大丈夫、それじゃ行きましょうか♪」
こうして守くんは、なんだかんだでベルリーナお姉ちゃんの家へ行くことになりました