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第十三話 素質の危険性とお姉さんの心配

 外に出てからそれなりの時間がたちましたが、

守くんとベルリーナさんは何体かのモンスターを倒しました


 恐らくはいろんな人が毎日のように見回っているのでしょう、

ゲームのように後から後からわいてくるようなことはありません



「あっ・・・、あそこにいますよね? 数は・・・、2体くらいでしょうか?」


「ええ、確かに2体よ、いけるかしらぁ?」


「はい、やってみます・・・、ヴィグァ・ハイト」



 またモンスターを2体見つけたところで、

今度は守くんが最初に攻撃をしかけます


 すると魔法は狙った1体にきちんと命中して倒すことができました



「命中よぉ、魔法があたっても消滅するまでわずかに時間がかかるから

絶対確認するようにねぇ」


「は、はい、確かに消えました」


「うんうん、さぁ、もう1体がこっちに気付いて向かってくるわ」


「はい、いきます・・・、ヴィグァ・ハイト」



 残った方にも魔法を放ち、無事に2体とも倒します


 少しずつ慣れてきたのでしょうか、

守くんからぎこちなさが減ってきました



「今度もちゃんと消えました、次は、魔石の回収ですね?」


「ええ、だけど周りを確認するのを忘れないようにねぇ」


「はい」



 手順を確認しながら行動する守くんと、

アドバイスしながら後ろをついて歩くベルリーナさん


 段々手助けする回数が減って来ているため、

守くんの様子を観察するほうにも力を入れ始めます



(ここまで何体か倒させてみたけれど、

撃ち漏らしは一つとしてなし、私のやってみせた通り

1発で急所を打ち抜いてるわぁ)


(熟練者ならともかく、おおまかにしか狙いをつけてないマモルちゃんじゃ

間違いなくできないこと・・・)


(それに魔力の減り具合だって明らかに少ないわぁ、

それなのに、私とほぼ同じ威力が出てる・・・)


(やっぱり、あの子が魔法を使うときに感じる不思議な力のお陰かしらぁ・・・、

あれが女神様の素質・・・、とんでもない技術ねぇ・・・、

もしかしたら私今、とんでもないものを見せられてるのかもぉ♪)



 守くんが使う魔法、というよりもそれを可能にしている女神様の素質について

ベルリーナさんはあれこれ考えています


 そこへ、魔石を回収し終えた守くんが声を掛けました



「ベルリーナさん、両方とも拾えました」


「ええ、上出来よぉ♪ じゃあ次は・・・、そうねぇ、

そろそろ疲れてきたでしょう? ちょっと休憩しましょうか♪」


「そんなことありません、まだあんまり歩いてないし・・・、

もっといけます」



 少し休むよう言われますが、守くんは身体を動かして

疲れていないことをアピールします


 だけど、それを見たベルリーナさんは

少し驚いた表情を浮かべました



「えっ? そんなことないはずよぉ?

結構魔力も減ってきてるみたいだし、普通なら疲れを感じてもおかしくないわぁ」


「そうなんですか? でも、本当に大丈夫なんです」


「そんなはずは・・・、ともかくちょっと休みましょう?

良い時間だからそろそろお昼にしようと思ってたところだし・・・、ねっ?♪」


「はい、分かりました・・・」



 ベルリーナさんがかわいらしくお願いすると、

守くんもようやく頷きます


 二人はそのまま草の多い場所へ座り込み、

そして昼食というところで守くんはあることを思い出します



「あ・・・、そういえば僕、食べる物は持ってないんです、

えっと、アミーお姉さんはベルリーナさんに・・・」


「ああ大丈夫よぉ♪ もちろんとびっきりおいしいのを用意してあるわぁ♪」



 そう言ってベルリーナさんが取り出したのは、

やはりエネレーという食べ物でした


 ただ、お姉さんのところで出された物のように

分かりやすい色がついていません



「これ・・・、何味のエネレーなんでしょう?」


「よくぞ聞いてくれましたぁ・・・♪ これが私のもっとも愛するプレーン味よぉ♪」


「プレーン・・・? それってつまり・・・」


「えぇ、味を付ける前のもっともシンプルな形、

それゆえに何もついてないから食べやすく、なにより安価、

私はこれさえあれば何もいらないの♪」


「そ、そうなんですか・・・」



 嬉しそうな顔で熱弁するベルリーナさんに、

どう答えて良いか分からない守くんは無難な返事をします


 どうやら、彼女はこの食べ物に並々ならぬこだわりを持っているようです


 味に関してはあまり期待できそうにありませんが、

さりとてお腹がすいている守くんが食べ物を喜ばないはずはなく

楽しい食事が始まりました



「いただきま~す♪」



 守くんがそう言ってエネレーを一口かじってみると、

ささやかな塩気とわずかな甘みのついた素朴な味が広がります


 どうやらこれがエネレー本来の味であり、

ここからいろいろ整えて変化させるようです


 とはいえ守くんにそういった違いをじっくり味わう余裕はなく、

あっという間に食べつくしてしまいました



「ごちそうさまでした♪」


「あらもう食べちゃったの? 早いわねぇ♪

アミーちゃんならきっとまだ文句言ってるころよぉ♪」


「えっ? 文句、ですか・・・?」


「あの子、プレーン味あんまり好きじゃないのよねぇ・・・、

私が用意するときはいっつもこれだから、他の味が食べたいって良く言ってたものだわ・・・♪」


「そうなんですか・・・、あの、アミーお姉さんとベルリーナさんって、

どういう関係なんですか?」



 アミーお姉さんについての思い出を楽しそうに話すベルリーナさんを見て

守くんはつい二人のことを尋ねてみます


 すると、ベルリーナさんは少し考え、

やがて重たい口を開いてくれました



「そうねぇ・・・、あなたになら話してもいいかしら・・・、

一言で言うと、私はあの子のお姉ちゃんだったわ」


「お姉ちゃん、ですか・・・」


「本当の姉妹じゃなかったけれど、小さい頃はよく相手してたのよ、

あの子が両親を亡くし、祖父母に引き取られた後も何かと面倒を見たものだわ・・・」


「アミーお姉さんが・・・? じゃあ、お姉さんのお父さんとお母さんは・・・」


「ええ、もういないわ・・・、あの二人も魔物を退治していたのだけれど、

運悪く手に負えないモンスターに出会ってしまってね・・・、

こういうことは過去にいくつもあるのよ? 魔物退治ってそのくらい危険なことなの」



 悲しい過去を聞かされた守くんはすこしぎょっとしてしまいます


 どうやら、自分がやろうとしていることが

本当に危険なことだと改めて思い知らされたようです


 ちょっとだけ怖くなりながらも、

気になったことをベルリーナさんに聞いてみました



「そ、そうなんですね・・・、じゃあ、お姉さんが魔物を退治してるのは・・・」


「ご両親のかたき討ち、じゃないわよ? だいいちどんなモンスターに殺されたかなんて

分からないんだから、討ちようがないもの・・・、

あの子はねぇ、両親の代わりに育ててくれた祖父母へ恩返しがしたかったの」


「おんがえし・・・」


「苦労をかけた分、できるだけ良い暮らしをさせてあげたいって思ったんでしょうね、

危険はあるけど確実に稼げるもの・・・、だけど、あの二人はいつだって

アミーちゃんに危険なことをやめて欲しいと思っていたわ・・・、もちろん最後まで言わなかったけれど」


「そっか・・・、お姉さん、おじいさんとおばあさんにとっても大切にされてたんですね・・・」


「そうね・・・、唯一の家族だったもの・・・、だけどそれはあなたも同じことよ?」


「えっ?」



 いきなり自分が話題に上り、守くんは少し驚いてしまいます


 ベルリーナさんの言葉はどういう意味なのか、

それを尋ねようとしましたが、その前に答えが返ってきました



「アミーちゃんにとって、あなたはもう立派な家族なんだからねぇ?

だから大事にするつもりなの、あの子を見ていればよく分かるわ・・・」


「そう・・・、なんですか? 確かに、家族だって言われたんですけど・・・」


「ご両親が亡くなった時、きっとあの子はひとりぼっちになってしまったと感じたんでしょうね、

引き取り手が決まってすごく嬉しそうだったもの・・・」


「ひとりぼっち・・・」



 守くんはそこまで聞いたところで、なんとなくベルリーナさんの言いたいことを察します


 この世界に来たばかりの、知ってる人は誰もいないひとりぼっちだった自分に

手を差し伸べてくれたのが他でもないアミーお姉さんです


 一人のつらさが分かるからこそ気にかけてくれて、

家族になろうと言ってくれた


 そして、家族が危ないことをしているのが

とても心配なのだと、ぼんやり理解できます



「あの・・・、僕・・・、お姉さんに、悪いことしちゃいました・・・」


「あら、どうしてぇ?」


「だって、その・・・、とっても心配してくれていたのに・・・、

女神様との約束だからって、危ないことを・・・」


「それはそうかもしれないけれどぉ・・・、

あなたのことなんだから、最終的にはあなたが決めていいんじゃなぁい?」


「えっ?」



 てっきりベルリーナさんもモンスター退治をやめさせたいのだと

思っていた守くんは、その言葉に驚きます


 そのまま不思議そうな顔をしていると、

ベルリーナさんはもう少し深く話してくれました



「結局はね、アミーちゃんだって反対されてるって分かってたけど

自分のやりたいようにやってたの・・・、

だから多分、あなたのことも止める権利がないことは分かってるはずよぉ」


「そう、なんですか・・・?」


「ええ・・・、はっきりと賛成はできないけれど、

あなたが本気でそうしたいと思ってるなら反対はできないってきっと思ってるわ・・・、

だけど、心配してるのは確かだからねぇ?」


「う・・・、やっぱりそうなんですね・・・」


「ええ・・・、今日だってあなたが怪我をしないような戦い方ができるよう教えて欲しいって

熱心に頼んできたんだから・・・」


「アミーお姉さん・・・」


「まあ、私は最初からそのつもりだったけどねぇ♪

ふふ、あの子を指導した時が懐かしいわ・・・♪」


「えっ? じゃあ、アミーお姉さんもベルリーナさんに・・・?」


「そうよぉ、あの子が試験に挑みたいって言うから私がいろいろ教えてあげたの♪

そういう繋がりがあったからこそ、私を頼ってきたわけ♪」


「なるほど・・・、そうだったんですね」



 二人の関係やお姉さんの心境、いろいろと話を聞いた守くんは

新しい決意を胸に抱きます


 女神様との約束を守ること・・・、できるだけお姉さんに心配をかけないこと・・・


 そのためにはどうするべきか、もちろん訓練する以外になく、

守くんは元気よく立ち上がりました



「お昼ご飯も食べたし、もう充分休みました・・・♪

だからベルリーナさん、もういち、ど・・・?」



 ところが、立ち上がった拍子にバランスを崩し、

守くんは転んでしまいます


 もう一度立ち上がろうとするものの、

どういうわけか足に力が入りません



「あっ、急に立ち上がっちゃだめよぉ? ほら、倒れちゃったぁ」


「あ、あれ・・・、足が・・・、どうして・・・?」


「だいじょうぶぅ? 魔力が減ってる時に無理して動いちゃだめよ?

もっとたっぷり休まないと力は回復しないんだから」


「そ、そうなんですか・・・? これ、どうすればいいんでしょう?」


「言ったでしょう? 休まなきゃだめって、

魔力が戻れば動けるようになるから、それまで休んでなさぁい?」


「は、はい・・・」



 窘められた守くんは、ベルリーナさんの言う通り休むため、

そのまま地面に寝転ぶことにしました


 その様子を眺めながら、ベルリーナさんはあれこれと考えます



(どうやら、あの力がこの子の魔力で魔法を使ってるって仮説は

ほとんど正しいみたいねぇ・・・)


(普通は魔法を使えば使うほど疲れるから、

魔力が減ってきてることは誰にでも分かるけど・・・)


(自分の力で魔法を使わなかったからこそ、疲労を感じられなくて

魔力不足に気付かなかったんだわ)


(それに、彼自身が魔法を使えるレベルに達していないから、

自身の魔力もまるで感じることができてない)


(もしも大魔法なんて使ったら危険ね、

下手をすれば危険な領域まで魔力を減らしてしまうかも・・・)


(試験まであまり時間がないけれど、

そういうところをきっちり教えておかないと危ないわぁ・・・)



 女神様の素質、その危険性を心の中で探りつつ

守くんをどう導くか思案するベルリーナさん


 彼が心配されないくらい強くなれるのは、

もっともっと先のことのようです・・・




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