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或る国の姫君

作者: ゆのか

貴女は白く気高く美しい。


ずっとそう言われて過ごしてきたの。

私は、汚れのない美しい白だと。

愛しい私の王子様。貴方が迎えに来てくれるまで、私は穢れたりなんてしないわ。




何処かのとある国。古い歴史と強大な力を持つその国を治めるのは、若く美しい姫君だった。


姫が王位に就くとたちまち近隣諸国にも噂は広がり、その美しさたるや誰もが一目見たいと国へ押し寄せるようになった。極上の絹糸のような白銀の髪と大きな紅玉の瞳。陶器のような白い肌に映える紅く艶やかな唇。凛とした佇まいから吐き出される澄んだ声から紡がれるのは見た目に反した辛辣で容赦のない言葉。浮かれた下心で謁見に訪れる客陣に国の長たる覚悟と風格を見せつけるものだった。次々と打ちのめされた諸外国の使者はいつかこの国諸共手に入れようと急ぎ自国に戻り画策するのだった。



彼の姫君の住まう城では時折宴が開かれた。

姫君は自分に相応しい王子を待っているのだという。近隣の名だたる王族達が自ら足を運んでは、姫の眼鏡に適う事なく城を後にするばかりだった。国民は次第に彼女が待ち望む『王子』の話題を口にするようになった。王子になれば姫とこの国を手に入れられるのだと。


今夜も舞踏会が開かれる。仮面を付けた男女の踊る甘美な宴。素顔も身分も仮面で全て覆って隠して、今はただの男と女。

しかし白銀の美しい髪は仮面の意味など成さぬ程人々の目を引いた。誰もがその美しさに一目置く、噂に名高い姫君だ。

「こんばんは白の君」

勇気ある若者が一人、佇む姫君に声をかける。

「今は白の君ではなくてよ」

慣れた答えを彼女は微笑みながら返した。

彼は姫君の幼馴染だ。暫く前に城務めを退いた家族と城を出て街で暮らしていた。顔を合わせるのは久しく、今は本来この様な場に居合わせる身分ではなかった。

「今夜は俺の相手をしてよ」

「貴方と踊るのは久しぶりね」

懐かしい日が脳裏に浮かび、仮面の下の顔が綻ぶ。対して彼女を見つめる若者の眼光は険しいものだった。

2人は手を取った。



くるくる回る2人の男女。触れては離れ言葉を交わす。

「随分上手になったのね」

「君の相手をしたくてね」

微笑む2人の間には白銀に光る剣が交わる。

キンと鳴り響く衝突音が周りで見守る男女の耳を劈く。

「そこまでして私が欲しいの?」

「君に真実を伝えたいから」

再び2人の影が近づいた時、若者の剣が大きく振り下ろされた。


「君に勝ったら、俺のものになってくれるんだろう?」

息が触れる程近くに、仮面の落ちた素顔の姫君がいる。頬は高揚し大きく開かれた瞳は潤んで雫が零れた。

さらに一歩近づいて一段と低い声で若者が言う。

「この国を返してもらうよ」


若者が離れると同時に細い姫の身体は崩れ落ち、フロアとドレスが赤く染まった。

会場は割れんばかりの歓声に溢れ、人々は仮面を脱ぎ捨てた。


白く美しいかの国の姫君。

世間知らずな清い姫君。

自らの気の向くままに民衆を苦しめ、贅を尽くして王子を待つ。

彼女が認める王子の条件は、彼女を負かす事。

民の誰もが王子が現れるのを待っていた。

天は彼女に美貌と強さを与えたが、民草を慈しむ優しさは与えなかった。

誰もが彼女の言いなりで、止めるものも勝てる者もいなかった。

国は荒れ、民は飢え、人々は姫を魔女と呪った。

白く気高く美しい、心根の真っ黒な魔女だと。

幼馴染の若者も、その後の生活苦から家族を亡くし怒りに震えた。

幼い日の可憐な姫君はもういない。

欲に塗れた真っ黒に汚れた女が笑っているだけだ。



見事姫君を射止めた若者は次代の王となり、国の再興に力を尽くした。


白くて黒い姫君は民衆によって葬られた。




待っていたの王子様

やっとここから連れ出してくれたのね


姫の最期の微笑みの理由は

誰も知らないままだけれど。


姫の本心と若者のその後についてまだ続いたりします。

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