競馬新聞
食べて、寝て、頭の中で数学の論理を組み立てる。
我輩の自由気ままな生活に少し変化が訪れた。
昨晩、飼い主の佳子が帰宅した際に、新聞を持っていたのだ。
そして、我輩は今、その新聞の虜になっている。
その新聞とは、競馬新聞である。
もともと競馬をやったことがない我輩であるが、新聞の一面に広がる数々の表は、数学者の我輩の興味を引くには十分である。
昨晩は、佳子が新聞を独占していた。
新聞を見ようと机の上に登っても、邪魔をするなとばかりに、膝の上に抱えられる。
膝の上の居心地が悪かったわけではない。邪魔をしたかったわけでもない。
我輩はただ、新聞が見たいだけだったのだ。
次の日の朝、佳子を、ニャア、と見送ると、我輩の世界を作り出した。
新聞を一枚一枚丁寧に広げ、床に大きく広げた。
広げた新聞の真ん中に座り込むと、新聞の内容が一望できる。
なるほど。
新聞からは非常に多くの有用な情報が得られる。
コースの情報。馬の情報。親の情報。さらには、馬主の情報までもある。
これらは解析のパラメータとして利用できるはずだ。
すでに誰かがデータ解析をした情報もある。
使用した理論がわからないので、評価はできないが、参考にはなるだろう。
我輩は、ある表の右上に赤ペンで丸がつけられているのを見つけた。
そして、ふと、佳子が昨晩、紙に何かを書いていたことを思い出した。
机の上に置いてあった紙には数字が書かれていた。
これが佳子の予想であろうことは、容易に想像できる。
佳子の予想は、
3―1―5
であった。