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猫に転生
我輩は猫になった。
晩年は数学者だった、と記憶している。
専門は統計学で、大量の数字からなるビッグデータを扱っていた。
大量の数字を解析し、意味のあるように計算する。
そして、それを有効活用する。
おそらく、していた。
さて、いつものようにパソコンでデータを解析していたところまでは鮮明に覚えているのだが、そこからの記憶が定かではない。
秘書が部屋にコーヒーを持って来てくれたような気もするし。
何かにつまづいて、転んだような気もする。
今、確かなことは、我輩が猫であるということである。
ペットショップの小さな檻の中で、ぼーっとしているのである。
パソコンが使えないので、データ解析はできない。
しかし、数学者は紙と鉛筆があればいいと言われるほど、道具を必要としない。
頭の中で論理を組み立てるのにはここはすごく居心地が良い。
ぼーっとしていても何も言われないし。
ご飯も飲み物も勝手に出てくるし。
ベッドもトイレもすぐそばにある。
たまにメモ書きをしたい時もあり、不便を感じることもあるが。
自分の考えに没頭できることはこの上ない幸せである。