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カンロ  作者: ミニト
9/12

9 殺意

「ねえ、元気になったんなら、早く教室へ行って帰る支度をしよう。あんたのお母さんが来ちゃうよ」

 あやに促されて、私は保健室のベッドから降り、教室へ戻ろうとしました。時間が気になり、壁にかけてある時計を見ると、時刻は17:30分を回った頃でした。この時間だと学校に残っている生徒は、私達だけかもしれない、そう思いながら、保険の先生に「ありがとうございました」と声をかけて廊下に出ようとしました。ですが、保険の先生は私達の声が聞こえていないのか、何も言わずに、黙って外を見ていました。その時の私は特に何も思いませんでしたが、後になってこの些細な出来事が、ある大きな事態になる前兆だったのです。

 私達は保健室を出て、教室へと向かいました。教室へと向かう途中の廊下の窓からは、外の雪景色が見えました。窓の外の雪景色がちらりと見える度に、頭の中が熱くなり、脳内麻薬が溢れでるような感覚に襲われ、外に飛び出したい衝動に駆られました。

 私は衝動に抗いきれずに、窓の外を見ました。外には、未だにやむことを知らない雪が、真っ黒な雪景色を作り出していました。黒い雪は木の上や、車の上に降り積もり、何かを主調することもなく、ただ降り積もりながら、景色を黒く染めていくようで、神々しい美しさを放っていました。

 外の景色をぼうっと見ていると、またあの不思議な感覚が襲ってきました。

 必死に頭でこの異常とも言える感情を抑えても抑えても、永遠に収まらない波のように溢れ出てくるのです。

「ねえ、何をぼーっとしてんの!」

 ぼうっとしている私に痺れを切らしたのでしょう。少し怒りながら私に向かって言いました。

 私はあやへの殺意を必死に抑えながら、

「ごめん、外の景色に見とれていた」と、ごまかしました。

「キレイって、もしかして雪のこと?」

 と、苦笑いを浮かべながら、

「私はキレイだとは思わない。まるでヘドロだよ。昔みた映画を思い出す。そんな事はいいから早く行くよ」

 あやは小声で「こんなのがキレイだなんて、どうかしてんじゃない」と言ったのを聞き逃しませんでした。

 私はこんなに綺麗なのにと、反論したくなりましたが、ぐっとこらえ、あやに促されるまま教室へ向かいました。


 私は教室へつくと、すぐにドアを開けようとしました。

 そうしたら、突然あやが私を遮り、ドアを思い切り閉めたのたです。

 私はどうしたのかと驚き、あやの顔を見ました。あやは何とも言えない表情でドアをじっと見つめていました。

 その時の私は、あやの行動が理解できませんでした。

 あやと私は同じクラスメイトではありませんでしたが、私へ会いにしょっちゅう教室へ来ていましたし、そうでなくとも、どうして教室へ入るのを躊躇するのかが分からず、困惑した私は「ここで待ってる?」と尋ねました。

 あやは低い声で「うん」と言いました。その時のあやの声色は悲しみを帯びているようでした。

 その瞬間またあの殺意の言葉が頭に浮かびそうになり、怖くなった私は急いで教室へ入りました。

 教室には先生と、他には生徒が3人程残っていました。

 その中に別れた彼もいました。

 私はてっきり、もう生徒は残っていないだろうと思っていたので、気まずい気持ちになりました。

 私は気まずい気持ちに耐えられず、鞄に適当に教科書を入れ、さようならと言い、教室を出ようとしました。

「気をつけて帰れよ」

 教室のどこからか、声がしました。それは私が好きだった声でした。もちろん、形式的にかけただけの言葉なのだと分かっていました。それでも、その声は私の心を揺さぶり、遠い昔の記憶を蘇らせました。

 私がまだ幼かった頃、両親とお祭りに行った時に、はしゃぎすぎてしまい、両親とはぐれ、必死に両親を探して彷徨い歩きました。周りにはお祭りで浮かれた人達の熱気で蒸し暑く、出店の光で煌々と輝いていました。

 私は長い時間を彷徨い歩いた後、行き交う人の中で大声で泣きました。幼い私は一人で置いていかれ、傍には愛する人もいない寂しさに支配されていました。

 記憶のフラッシュバックから戻った私は、愛する人に置いていかれてしまう寂しいという感情で一杯でした。

 彼が声をかけてくれたのは、言ってしまえば単なる挨拶のようなものです。こんな小さな事が、こんなにも私の心を動かし、こんなにも心を惑わせるのです。

 私が立ちすくんでいると、いつの間にか教室へ入っていたあやに後ろから肩を叩かれました。

「大丈夫だから、ほらいくよ」

 と、同情を帯びた声で言いました。あやのその行動に違和感を感じました。その違和感が一体どこから来ているのか、その時には分かりませんでした。

 “お前が気づいていない事を、お前の記憶は気づいている”

 また、あの声が頭の中で聞こえました。

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