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カンロ  作者: ミニト
8/12

8 あや

 私は甘美な痺れるような余韻と、自分の名前をしつこく呼ぶ声への不快感を伴いながら、目を覚ましました。

 聞き覚えがあるはずなのに、その声の主が誰なのか分かりませんでしたが、その響きはひどく懐かしい気持ちにさせましたが、同時に恐ろしい程の殺意が心を覆いました。

 “夢から起こしたあなたを殺して、殺してやる。”

 私を起こしたのは、神田あやでした。

「クラスのやつから、みどりが倒れたって聞いてびびって来たんだよ。だけど、なんか大丈夫そうだね」

「ああ、うん。変な雪のせいでびっくりしちゃっただけだと思う。心配して来てくれてありがとう」

 “殺すから。甘美なものを取り上げたお前を殺すから”

 私は頭を充満する殺意が抑え切れなくなるような気がしました。そしてそんな自分が更に恐ろしくなり、気持ちを落ち着けようと、窓の外を見ました。窓の外ではあいも変わらず、黒い雪がしんしんと降り続けていました。

「外、まだ降っているんだね」

「え、ああ雪か。まだ降ってるよ。下手をしたら積もるんじゃないかな」

 “殺せ。甘美なものを取り上げたあいつを殺してやれ”

 “お願いだからやめて、お願いだからやめて、私のただ一人の親友を殺さないで”

 “お前が気づいていない事を、お前の記憶は気づいている”

「ああ、そうだ」

 あやはおもむろに私に向き直ると

「先生に頼んでさ、みどりのお母さんに連絡をしておいた。仕事を早退して迎えに来てくれるってさ。でさ、私もそん時に一緒に乗せてってくれない?」

「ああ、そうなんだ。じゃあ一緒に送っていくよ。家も隣同士だしね」

 私は至って普通のように振る舞いましたが、異常なほどのあやの殺意で頭の中は溢れ返っていました。そして、何度も私の頭をよぎる

 “お前が気づいていない事を、お前の記憶は気づいている”

 という言葉が何なのかがわからず、ただただ自分が恐ろしくなっていました。

「多分、すぐに迎えが来ると思うし、荷物を教室に取りに行こう。みどりが調子が悪いなら私が取りに行くけど」

「ううん、大丈夫」

「本当に大丈夫なの?」

「本当に大丈夫だって」

 私はベッドから降りると、保健室の先生にお礼を言って、部屋から出ました。

 “甘美なものを取り上げたあいつを殺してやれ、私はお前が気づいていない事を、お前の記憶は気づいている”

 私の頭に充満する殺意は、はっきり”私”と言いました。

 まるで私の思考が、自分とは違う別の意思を持っているかのようでした。

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