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カンロ  作者: ミニト
5/12

5 異変

 私は自分の席に座って指示を待っていました。

 先生たちも困っていたのでしょう。廊下からは先生の走り回る音や、少し苛立ったような声が聞こえてきました。この状況に、どのような対応をすればいいのか、先生達も分からなかったのだと思います。

 何の音沙汰もないまま、ただ時間が過ぎていきました。

 教室の中は、他の生徒の呼吸の音が聞こえる程に静かで退屈でしたが、窓の外ではひらひらと黒い雪が落ちては消え、私はそれに見とれていました。

 何の音沙汰もないまま、ただ時間が過ぎていきました。

 教室の中は、他の生徒の呼吸の音が聞こえる程に静かでした。

 残っていた生徒に仲の良い人は誰もいませんでした。

 退屈と不安、そんな感情に心がざわつき、気分転換と暇つぶしに、話したこともない同級生に話かけてみようかとも思いました。

 でも、結局のところ、教室の雰囲気や、何となく面倒くさくなってしまい、窓に当っては消える黒い雪を眺めながら、案外黒い雪も綺麗だななんて不謹慎な事を考えていました。もしこれが、海外からの核ミサイルのせいだったらと考えました。北のミサイルがたまたま、直撃してしまった、そんな事がふと心によぎりましたが、流石にそれはないだろうと思いました。

 もしそれならば、政府からの発表があるはずだと、中学の頃の私でも分かったからです。

 それから20分たった頃に、教室のドアが開いて、ふてくされたような顔をした2人の生徒と、苛立ちを真剣な顔をで誤魔化した先生が入ってきました。その一人は私を振った彼でした。

 私はその時初めて、彼がまだ校舎に残っていたのを知りました。

 彼は入ってきた時から不機嫌な顔をしていて、どうやら先生の指示に従わずに遊んでいて連れ戻されたようでした。

 心がざわざわしました。彼はとっくの昔に帰ったのだと勝手に思い込んでいたのです。私はできれば今日は会いたくないと思っていました。でも、心のどこかで嬉しい気持ちもあり、人の心というのは、矛盾を含む不思議なものだと、相反する心が同時に存在できるものなのだと、人の心の不可思議さを改めて知りました。

 彼を席に座らせた後、先生が教壇の前に立って、これからの方針を伝えました。

「各自親が迎えに来るまで待機してください。それまでは決して教室の外に出ないように。まだ体が濡れている所があるならば拭くように。親にはこちらから連絡をします。もし何らかの理由で迎えに来る事ができない生徒がいたら、私どもが責任を持って送ります」

 今、その時の先生の声真似をしましたが、上手いかどうかなんて記者さんには分かりませんよね。声が少し震えていました。その時の先生は余裕が無く、恐怖で一杯だったのでしょう。

 そもそも、体を拭けなんて無茶な要求です。

 私達の殆どは黒い雪に濡れて、服も湿っているのです。タオルの予備もありません。体を拭けと言われても、何もできません。

 それでも、誰も反論する事もなく、教室は静まり返っていました。

 ただ一人、彼だけはただ不機嫌な顔をして外を見ていました。

 窓に黒い雪が降る中で映る、彼の横顔は悔しいほどに美しかった。バチバチと、私の心に痛みをもたらしました。

 まだ私は、自分に起きている異変に気づいていませんでした。

 それは体の中からじわりじわりとやってきていたのです。



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