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カンロ  作者: ミニト
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4 恐怖と安らぎ

 先程もお伝えしましたが、私は気づいた時には昇降口で体の雪を払っていました。

 軽い混乱はあったものの、すぐに気持ちを落ち着かせ、今やるべきことに集中しようとしました。

 昇降口で体に付着した黒い雪の全てを払いながら、ふと辺りを見回しました。周りでは同じように付着した黒い雪を払い、タオルで髪を拭いている者がいました。

 皆はある意味で年齢にしては大人のような振る舞いでした。ともすれば、突然真っ黒な雪が降り、あまつさえ体に付着しているという、明らかに異常な事態にも関わらず、皆はパニックに陥る事もなく、淡々と雪を払い、先生の指示に従っているのです。

 勿論中には不謹慎な冗談を言う生徒もいましたが、事態が事態なので殆の人は相手にしていませんでした。

 私が体についた雪を払い終わるころ、冷静さを装った教頭先生がやってきました。先生は昇降口にいる私達に向かい、各自の教室に向かい席につくこと、そして担任の指示があるまで勝手な行動をせず、席でずっと待機するように言われました。

 私は先生の指示に従い教室へ戻りました。普段ならば勝手な行動をするような男の子ですら、黙って先生の指示に従っていました。愚鈍で馬鹿で、まだまだ子どもだった私はその時になって初めて気がつきました。

 男子のほぼ全員が内心では不安なっているという事、人間は強がる時には、平静さを装っていても、どこかで表情にあらわれてしまっているという事に、です。

 皆の心には不安や混乱を越えて、恐怖が芽生え初めていたのです。

 実は私はこの時、不思議な安らぎに満ちていました。こんな不測の事態に対応できる程のです。

 黒い雪に触れた瞬間のお話はしましたが、その余韻が体を支配しており、まるで何か天使や聖母に優しく抱かれて包み込まれたような気持ちになっていたのです。どうして皆が不安になっているのか、この時私には全く分かりませんでした。

 私は皆とある意味で隔離してしまっていました。安心と安らぎに満たされ、ただ不快だと思うのは、歩くたびに濡れたブレザーが体に付くこと、それくらいでしたが、万能感に近い快感に支配されている時には、たったそれだけでも頭に来るのです。この場ですぐに服を脱いでしまいたい、そんな衝動すら感じました。もちろん、そんな事はしませんでしたし、そのような事をしていたら、私は今この家でインタビューを受けていなかったでしょう。


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