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カンロ  作者: ミニト
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3 校舎の中で

 気づいた時、私は昇降口で外にいたと思われる皆と一緒に先生の指示に従い、体に付いた黒い雪を払っていました。

 私は黒い雪を払いながら、校庭の端にあるポプラの木から、校舎の昇降口までどのようにして戻ってきたのか、思い出そうとしたのですが、何をしたのかまるで覚えていない事に気づきました。確かに校舎までの距離は大した時間ではないのですが、少しでも記憶が抜け落ちている現実に恐怖を覚え、混乱し、軽いパニックのような状態になりました。とりあえず、気持ちを落ち着かせる為にも、校舎までの道のりで私が何をしていたのかと、記憶を手繰り寄せるように必死に思い出そうとしましたが、一欠片の記憶も浮かんでこなかったのです。

 頭を必死に働かせ、思い出そうとしても、浮かんでくるのは恋人との記憶の事だけでした。

 先程も軽く触れましたが、黒い雪に触れると、なぜか別れた恋人との記憶が病のように、繰り返し反芻し永遠に続くかのように、頭の中で再生され続けるのです。

 まるで白昼夢を見ているかのようでした。

 雪がふわりふわりと体に触れる度に、冷たく甘い露が直接脳へ染み込みんで、それが恍惚感を生み出しているかのようでした。

 いえ、もしかしたらあの黒い雪は本当に不思議な力で脳に染み込んでいたのかもしれません。

 恋人と初めてカラオケでデートした時の記憶や、恋人と初体験をした時に感じた緊張感と現実感が希薄で、まるでふわりふわりと幽体離脱のような感覚と、その後に初めて挿入された時の痛み、そして行為が終わった後に髪の毛を優しく触るようにして撫でてくれた時の安らぎと、夕陽が恋人の顔を薄ぼんやりとした日差しで照らした淡く幻想的な風景、そんな記憶が頭の中で再生する度に、全身の皮膚や細胞に宿った記憶が甦り、恋人の皮膚の肌触りや、キスをした時の舌触りや唾液の味など、その時に感じた事細かな感覚が蘇るのです。

 結局いくら思考を巡らせても、何も思い出すことができませんでした。

 私がこの不思議な黒い雪が降る事件を体験した後で、記憶が曖昧なのはこの時だけです。それ以降は忘れようとしても忘れられない、そんな呪いが私を苦しめ続けていくのですから。どうしてそんな風になってしまったのかは、今後、あなたが私のお話を聞いて下されば、納得して頂けます。

 荒唐無稽なお話ですが、あなたなら信じて頂けるのではないかと、根拠はありませんがそのように感じるのです。

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