クリア
「アニキ。今日は鍵開けとけよ」
翌日。午後7時。
湧元との集合場所に行く直前、アニキの部屋の前で俺は怒鳴った。
「ええ、なんで」
「なんでもだよ。絶対開けとけよ」
「わかった......。でも僕邪魔じゃないかな」
「なに言ってんだ?ここで見てもどこで見ても変わんねえよ」
「そうかな」
「兎に角、俺行ってくるから。何があっても絶対声出すなよ」
「はいい」
湧元は大きく胸元が開いた服に履く意味の無さそうなミニスカート、ほんのりの化粧と香水という特上のおめかしをしていた。
湧元の頬は赤く、チークは無くてもいいんじゃないかと思った。
俺は緊張で喋らない湧元を2階に案内する。
1つの部屋のドアを開けた。
そこはアニキの部屋だった。
電気はついていない。
機械や部品が散乱した汚い部屋の隅には俺の視界が目一杯映された大きなスクリーンPC。
床に厚い敷き布団がらんごくに置かれている。
『ちょ、ちょっと、なになになに何でここに来てるの!?』
「声出すな」
アニキは積み上げられた部品の影に隠れており俺らからは見えない位置に居る。
俺は湧元の手に俺の手を重ねる。
舐めるようにするりと指と指の間に俺の指を食い込ませると、恋人繋ぎをした。
湧元がビクリと肩を震わせる。
俺はわざと部屋の電気をつけずに中に湧元を引っ張る。
「湧元、俺のことは千って呼んでくれ」
「え......でも阿宋くんって名前仁だったよね」
俺は湧元の耳に口を近づけると、「美心。千って呼んで」と囁いた。
湧元は首を折るようにこくりと頷いた。
俺は湧元を布団に導いて寝かせた。
「ちょっと目瞑ってて」
湧元が目を瞑ると、俺は物陰に隠れていたアニキを連れ出して湧元の上にのしかからせた。
「ムリムリムリムリムリムリムリムリ」
「大丈夫。相手も初めてだろうから」
小声で泣くアニキを放って俺は部屋を出た。
音を立てないようにドアを閉める。
「目、開けていいよ」
俺の声をアニキが復唱する。
『うわ!あ、あれ、じ、千くんちょっと髪伸びた?』
『え、あ、う~ん暗いからそう感じるのかなあ......はは』
『ここ千くんの部屋だよね。千くんの匂い、充満してる』
『あー!ファ○リーズしとけばよかったあああ』
『んふふ。何か千くん変。かわいい』
『えっ。は、あ......んん』
俺はエアフォンとコンタクトを外した。
さて、ご飯作るか。
やっぱ赤飯かな。