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ジャンクブラザーズ  作者: 黙示
3/4

ミッション

 今日はテスト2日目である。

午前で下校となる本日は皆憂鬱でありながらどこか浮き足立っていた。

俺はアニキの指示通り湧元が好きだという甘いお菓子を持っていた。勿論手作りだ。

ん~女子力高い!


「なあ、なんで告白しないでお菓子でアピールなんだよ。さっさとくっつけばいいじゃん」

『もう、仁は本当にわかってないなー。恋は駆け引き!お付き合いするまでが1番輝いてるんだよ!』

「漫画知識な」

『イェスッ!』


とても楽しそうなアニキの声を聞いていると自然と笑みがこぼれる。


「なにニヤニヤしてんの?」


ドキッ。

一瞬自分の事かと思ったが、それは隣の席の湧元に友人がかけた言葉だった。

湧元がこちらを向いて目が合う。

湧元は顔を赤くしてはにかみながら視線を逸らした。

え?

昨日までこんなじゃなかっただろ!どこで!?

どこで恋に落ちたんだよ!!


「ゆーちゃん、すず。私今日昼休み用事あるから2人で帰って」

「また~」

「あ~さては彼氏だな~」

「え~ち、違うよ~」


湧元が上目遣いにこちらを見てくる。

おい、違えぞ。

俺らいつから恋人になったんだよ。

......あ、いや、これからなるのか。

俺は不細工な笑みを返した。

はー。疲れる。

早くテスト始まってくれ......。





 アニキは高校1年の夏、高等学校を中退した。

原因は何の事もない。イジメだ。

優しくて内気なアニキは格好の獲物だった。しかもオタクで常に機械を弄っており、ネクラだボッチだと罵声を浴びせられた。

学校に行かなくなってもアニキは優しいままだったし、イジメた奴も、クラスの人間も、先生へも悪口は1つも言わなかった。

多分本当に何も思っていないんだと思う。


アニキは聖人だ。

そんな聖人ばかり痛い目みて、悲しんで......そんなの間違ってる。


 俺はアニキと同じ高校に入学した。

最初はアニキをイジメた奴と見て見ぬ振りをした教師に復讐してやるつもりだった。

しかしアニキが望んだのはそんなことじゃなかった。


『青春を味わいたい』


アニキの失われた高校生活を俺が代わりに送る。

それが俺の高校生活の目的であり、意義であるのだ。


実はこのコンタクトとエアフォンもアニキが擬似的に高校生活を体験するための機械なのだ。


そして今俺たちが挑んでいるミッションが、そう、『彼女を作る!!!』。これは一般高校生でも至難の技。高難度のミッションである。

しかしもうじき成し得ようとしている。

あの女はクソほどにも気に食わんが、まあ、見た目はいいし。

最終的には皆土に還るんだ。南無阿弥。


【アニキ、失敗したらごめん】


声を発せられないテスト中、俺は回答用紙に書くことでアニキに話しかけた。


『全然大丈夫だよ!!だって仁かっこいいんだもん。ちょーっと笑顔振り撒けば女子がキャーキャーいっぱいやってくるから』

【お世辞下手くそか】

『お世辞じゃないも~ん』


......でもきっとこれに失敗したらアニキはもう恋人をつくろうなんて言わないだろう。

そんな、付き合うまで沢山の女子にアタックし続けるなんて不誠実なこと、アニキはしない。

1回勝負なんだ。

頑張れよ。俺!





 昼休み。

俺と湧元はまた2人で弁当を食べていた。


『テストお疲れさま。あと2時間で中間テスト全部終わりだね』

「テストお疲れさま。あと2時間で中間テスト全部終わりだね」

「うん。......」


湧元が何かを言いたそうにチラチラと見てくる。

イライラする。

いいからさっさと言えよ。


「あ、明日土曜日だね」

「あー」


そんな事か!?

そんな事が言いたかったのか!?


「そ、それでね。明日......」

「あ、そうだこれ」


俺は湧元をわざと遮るようにして作ってきたお菓子を差し出した。

湧元は慌てて、「わ、ありがとう!」と言うとモタモタと受け取った。

アニキの『あちゃー』という声が聞こえた。


「もしかして手作り?」

「ああ」

「すごいね!阿宋くんって料理得意なんだ」

「上手くはない。やってるだけ」

「ええ、それでもすごいよ」


なにがだ。


『違うよ。渡すときには「甘いもの食べて元気だして。残りも頑張ってね」って言ってって言ったのに~』


あ、そうだった。


「甘いもの食べて元気だして。残りも頑張ってね」

「うん!ありがとう!ごめんね。私何も返せるもの持ってなくて」

「いらない」


遠慮ではない。

心の底からの本音だ。


「それでね、阿宋くん。明日学校休みだから私の家来ないかな、と思って」

『え、デデデデートじゃなくていきなり!?ど、どうしよう!ねぇどうするの!?』


勝手に騒ぐアニキをムシして俺は言った。


「それだったら俺ん家来い。明日は母もいないから」

「え!?」


湧元の顔が沸騰した。

湧元に負けないくらいアニキも混乱した。


『は、母がいないからって情報......要った......?』

「来んの?来ないの?」

「い、いきましゅっ!」

「じゃあ学校前集合ね。午後8時」

「午後8時!?」

「来ねえの?」

「行きます」


こうしてこの日は終わった。

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