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ジャンクブラザーズ  作者: 黙示
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マイブラザー

 「であるからしてx=3になる。ってお前ら全然聞いてねーなー。ほら阿宋(あそう)を見てみろ。ちゃんと俺の話聞いてるぞ。お前らも見習え。じゃ、次の問題、阿宋、答えは?」


有山高校2年1組の教室がしんと静まり返った。


「阿宋?」


先生がもう一度呼ぶが返事は無い。


「あーそーう?」





 ポンポンと肩をたたかれ、俺は右を見る。

隣の席の湧元(わくもと)が何か言っている。

俺はエアフォンの音量を下げると、湧元の、「先生が指してるよ」という言葉を聞いた。


は?今日は13日だろ。何で1番の俺が当てられてんだよ。


「どこ?」


湧元は不思議そうに首をかしげながらも問題を教えてくれた。


「ごめん。答えまでは分からないけど」


俺は立ち上がるのも面倒で、座ったまま目の前の先生に答えを言った。


「......正解。じゃ、解説してくぞー」


先生が黒板の方を向いたところで、湧元が小声で言った。


「すごいね。こんな難しい問題解けるなんて」

「あー、うん」


俺は身の無い返事をした。





 昼休み。

俺は屋上で弁当を食べていた。

10月に入って肌寒くなってからは人影が疎らになっていた。

ほぼ貸しきり状態の屋上で一人玉子焼きをつついていた俺に女が近づいてきた。

隣の席の湧元だ。


「ねえ、さっき何で先生の質問に答えなかったの?」


俺は湧元が何かぱくぱく言っているのを見てエアフォンの音量を落とした。

耳に流れていたJ-POPが消える。


「阿宋くん?......ほらこれ。もしかして阿宋くんって難聴なの?だからいつも一人なの?」


ん?悪口か?

そうでないことは分かっていたので穏やかな口調で返す。


「エアフォンで音楽聞いてるから」

湧元は目を大きくした。

「それって学校につけてきたらダメじゃないの!?」

カタイ女だな。

「エアフォンダメって校則あったっけ」

無い。

「そっか~、うーん、いいのか?」


納得しきれないようだが突っ込むのはやめてくれた。


「待って!エアフォンってあの超小型ワイヤレスイヤホン!?何百万円もする!!??」

煩いなあと思いながらも俺は頷く。

「しかも限定販売で入手困難なんでしょ!?阿宋くんちってお金持ちなんだ~」

「はあ......違うよ。アニキがそういうのに長けてて、ジャンク品安く買って改良してるんだ」

「へぇー!すごい!でももう壊しちゃう人もいるんだね~」


わざと気だるい感じを醸し出しているというのに、湧元はそんなことお構いなしに会話を続けようとする。


「あ、そういえば何で先生俺を指した?」

「数学で?えーっと、阿宋くんだけ真面目に授業聞いてたからだって。て、まあ実際は聞いてなかったんだけど」


先日席替えをしてまさかの最前列になってしまった。

今の席では真面目に授業を受けてるフリはやめたほうがいいな。


「どうも」


俺が頭を下げると、湧元は太陽みたいに笑った。

ちなみに勘違いしないでほしいが俺は湧元のような女が世界で1番嫌いだ。とりあえず飯食わせろ。


「あ、ねーねー明日から中間テストだねー。中間テストが終わったら体育祭―――」


俺は湧元の言葉を無視してエアフォンの音量を上げた。

アニキセレクトのキャピキャピアイドルの耳障りな歌声が流れる。

はあ......ホントアニキ趣味悪いなあ。


自分の世界に入って弁当を食べ始めると、湧元の顔が目の前にやって来た。

まだいたのか。

その口がぱくぱくと動いている。

俺は視界の端に映る音量メーターを瞳の動きで下げると、湧元の方を見ずに昼食を続けた。


「どう?テスト。あーでも阿宋くんいつも満点だもんね。心配ないか」

タコさんウィンナーを咀嚼する。

うまい。

「どうしたらそんな頭良くなるの?教えてほしいよ~」


湧元は、無視する俺の横で話続けた。


「あ、あと10分くらいで休み終わるね。阿宋くんって食べるの遅いんだ」


ブチィッ!!!

お前のせいだろ!!!

堪忍袋の緒が切れた。

俺は小声で呟く。

「アニキ、何て言ったらこいつどっか行く?」


「何?何て言ったの?」


さっきまで音楽が流れていたエアフォンから男の声が聞こえた。

『俺ちょっと一人で考えたいことがあるんだ。ごめんけど先帰っててくれない?』

優しい声は俺を落ち着かせてくれる。

俺はいくぶんか憤りを抑えた。


「俺ちょっと一人で考えたいことがあるんだ。ごめんけど先帰っててくれない?」


聞こえてきた声を復唱した。

湧元は未練がましく眉を下げたが、すぐに手を振って去っていった。


「ありがとうアニキ」

「どういたしまして奉り候う」

アニキの下らないあいさつを無視するとアイドルの曲が耳に戻ってきた。





 俺はこのエアフォンと、目についているコンタクトレンズ型ナビゲーション機械によって、常にアニキと繋がっている。

視界も聴覚もアニキと共有している。

 コミュ障であるということを俺は自覚している。

先ほどの湧元の言葉だって、アニキの助言がなければ、

「煩いこのクソヤロウ。他人が迷惑してることにも気づかないで悦に入ってんじゃねえよ偽善者が。さっさと去れ。もしくはここから飛び降りろ!!」

くらいは余裕で言っていた。

危ない危ない。

女子の一軍にそんなこと言ったらイジメられるところだった。


空になった弁当箱を片付けると俺は室内に戻った。

ピピッ。

視界に文字が表示される。

アニキからのメールだ。

音楽を邪魔しないための配慮らしいが、アイドルの曲を聞きたいと思ったことはないのでそんな配慮はいらなかった。


『そういえば数学の授業のときと屋上で質問に答えてもらったとき「ありがとう」って言ってないよ』


「どうもっていった」

俺は素っ気なく返事をしながら、ありがとうなんて絶対言わねえと心のなかで誓った。

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