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ベレッタM92

 十勝16キロの直線はT字路で終了していた。国道は左折になっていたが、阿部は躊躇わずに右折、南下した。

「何処行くね?アベさん」

「裏をかくのさ。もしもオレが警察だったら、この先の国道274号線と241号線との合流の手前で網を張る。当然これまでのルートから北上すると予測するだろうからな。だが、もう逃げる必要は無い。高浜の囮は充分に果たしただろう」

「それが・・・」

 とマリアは言いよどんだ。

「どうした?」

「タカハマさんを保護したっていう連絡が来て無いね」

 阿部は一瞬、考える素振りをした。

「そうか」

 そう答えるとダッシュボードのホルダに置いた自分の携帯電話を見た。メール着信有り。既に速度を落としていたスープラは続いて右折すると農道を走って行く。上空のヘリが監視しているはずだから、いずれまた逃げなくてはならないが、水温を落とすためにも低速で移動する必要があった。阿部は電話を取るとメールをチェックした。

 高浜からだった。

 素早くメールを読むと、すぐに削除した。これはマリアには見せないほうがいい。

「誰からね?高浜さん?」

「いや、違う。カノジョからだ」

「アベさん、ガールフレンドいたね?」

 阿部はそれには答えず考えを巡らせた。高浜は自ら行方をくらますことで自分の開発した物や、それを海外へ売り飛ばそうとしたことの責任を果たそうとしているのだろう。

「それが正しいことなのかどうか、後にならなくちゃ分からない」

「え?」

「独り言だ」

 高浜は決断した。ならば、阿部はそれを助けてやるのが自分の役割だろう、と思った。

 阿部は、速度を落とすと、スープラを路肩に停めた。


 ドアを開けトランクに回る。

「どうしたね?アベさん」

「位置情報発信装置だ」

「電源を切るね?まだ連絡来ないね」

「永久に来ないさ」

 そう答えると、その機械の塊をスープラから下ろした。慌ててマリアが降りてくる。阿部はAK47ライフルも降ろした。

「何をするね?」

「ぶっ壊すのさ。こいつはコールドスリープ装置の心臓部なんだそうだよ、マリア」

「なにを言っている・・・ね?」

「高浜は確信が持てなかったのさ。マリア達が本当に平和利用目的で開発をするのかってことに。だから位置情報装置をメカ中枢部と一緒に取り外してスープラに載せた。いざって言う時には高浜自身か俺が破壊できるように、な」

「さっきのメールね?」

「察しがいいな、マリア。高浜は俺も騙してくれたよ。これはただの末端部品だと。でも、事実は違ったようだ。初めから強奪されることを前提で設計された機械だからな。中枢部にある部品はダミーで、実際の中枢部は末端部品に隠されていたってわけだ。これが無ければ、あの機械はただのガラクタだ」

「じゃあ、それを壊したら・・・」

「そう、すべては水泡に帰す、ってわけだ」

 そう言うと阿部は安全装置を外して発射モードをフルオートにした。

「やめて、アベさん。うちの会社は、絶対に平和のために・・・」

 そこまで言い終えるか言い終えないうちに迫力のあるエキゾーストノートが耳に入ってきた。阿部が振り返ると道路外へ弾き飛ばしたはずのランエボが近付いてくるのが目に入った。


 この状況はマズい、と阿部は思った。

 フルオートにしたAK47の銃口を機械に向けた。それを見てマリアが阿部に体当たりをした。

「バカ、危ないだろう。暴発したらどうするんだ」

 阿部は、マリアに怒鳴ると、空いた左手で振りほどく。

「ダメね、アベさん。それは大事なものね」

「なんでそんなに頑張るんだ?」

 思わず阿部はマリアに言った。

 何かを言いかけたマリアの声はランエボの排気音にかき消された。スープラのすぐ脇に停車すると、ぱっと助手席が開いた。ジェームスは、スープラの体当たりが頭にきていた。拳銃を構えるとドアの影から照準を合わせた。

「動くな。ライフルを捨てろ」

 だが、怒りにまかせて行動する愚かさに、すぐに気がついた。

 ジェームスは脂汗をかいていた。万が一、スープラの男がライフルを発砲してきたらランエボのドアなんてAKのライフル弾の前には、なんの役にも立ちはしない。だが、阿部はあっさりとライフルを放り出すと2、3歩あとずさった。

「女、お前も下がるんだ」

 マリアは一瞬、考え深げにAK47を見たが、諦めたように立ち上がった。

 ジェームスはベレッタ拳銃を構えたままランエボのドアから踏み出した。

「タカハマはどこにいる?」

 阿部は首をすくめると答えた。

「さあな。自分で行方をくらましたよ」

「それを信じろというのか?」

 阿部は笑顔を作ってみせた。

「そうメールしてきたよ。証拠は、そうだな、マリアの組織も高浜を手に入れそこなった、という事実がある。それを調べる能力は、あんたの会社にはあるだろう?」

 ジェームスは無表情のまま近寄るとライフルを拾い上げた。

「ホンモノのAK47ライフルだな。コピー商品だが性能はいい」

 ある会社名をジェームスは口にした。マリアが、びくっとした。

「マリアというコード名なのか?」

 答えを期待したわけでは無かった。

「知っているのか?この取り引きの主導権は中東テロリストが握っていると」


 マリアは首を振ると答えた。

「私たちはそんなことはしない。うちはヨーロッパ資本ね」

 ジェームスは首を振った。

「そんなことは無いんだよ、お嬢さん。あんたのところはトライバイテックよりも性質が悪いんだよ」

 阿部は、そっと足の先でコールドスリープ装置に土をかけた。さっき転がした時に溝にはまっていた。上から土をかける。

「トライバイテックの人に言われても説得されないね」

 ジェームスは苦笑いをした。

「私は民間業者じゃないよ。政府のものだ。ステーツの、ね」

「軍人、か」

 阿部は薄笑いを浮かべて言った。

「何故そう思う?」

 ジェームスも大きく息を吐いて無理に微笑むと尋ね返した。

「拳銃さ。ベレッタM92、アメリカ軍制式拳銃だろ」

「正しくはM9だがね。イタリー製ではないライセンス生産だからな。これも日本にいる駐留部隊から借りてきた。昔なじみがいるのでね」

「そのCIAがなんの用だ?」

 ジェームスは作り笑顔のまま答えた。

「単刀直入でいいね。私はジェームス。君の名前は?」

「阿部だ」

 大きく頷くとベレッタを降ろした。

「まずは君のお友達のタカハマくんだ。それからコールドスリープ装置。テロリストに渡すわけにはいかない。出来れば回収したいが、それが出来なければ破壊するのが任務だ」

「どっちも出来ないな、ジェームスさん」

 ジェームスはベレッタを振りながら言った。

「そういうわけにはいかないんだ、阿部君。君だって、あの機械がテロに使われたら大変に危険だと知っているだろう?」

 阿部は頷いた。

「知っているさ。だが高浜は行方不明だし機械も不完全だが行方不明だ」

「不完全?」

「そうだ。マリアの会社が運んでいるコールドスリープ装置には制御装置が欠けている。中枢部品が欠けているんだ。だからガラクタも同然なのさ」

「会社が運んでいるだと?」

「そうだ。信じてもらうしかないな。どっちの行方も知らないんだから」

「だが、君のクルマから位置情報が発信されていたじゃないか。それに私は君がトレーラーから機械を奪い返すのを見た」

 阿部は笑い出した。

「作戦だよ、囮なんだ、俺たちは。発信機だけ積んで走っていた」

「なんてことだ・・・」

 ジェームスは頭痛のような顔をして大きく息を吸った。その時、上空のヘリが高度を下げ始めた。阿部が頭上を仰ぐ。つられてマリアも見上げたが、ジェームスはチラッと見ただけだった。ジェームスは気がついた。

「それで阿部君、君の足元のが発信機か?」

 阿部は顔をジェームスに戻すと「ああ、そうだ」と諦めたように言った。

「中枢部品、というのも一緒なのか?」

 阿部は嫌な顔をした。

「頭の回転がいいな、ジェームスさん」


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