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アサルトライフル

 マリアは、じっと聞いていたが、ついに堪えきれずに言った。

「胡散臭い、ね」

 高浜は振り向きざまに言った。

「何がだよ?研究所が?約束が?」

 阿部は、思わず笑い出した。

「阿部ちゃん、怒るよ。笑うところじゃない」

「なあ高浜。俺は最初から疑問だったんだ。どうしてやつらはこっちの動きを先回りするように現れるのか。最初から、お前の取り引き相手は金を払う気が無かったんじゃないのか?」

「そんなバカな。だって僕の要求なんて大したものじゃないのに。新しい会社で自由に研究したいだけなのに」

「なあ、高浜。今時、お前のような特殊な研究をしているやつのことは、すぐに情報が流れるはずだ。身分を変えても同じ研究を続ける以上、すぐに身元はバレるだろう。好きな研究なんて出来っこないのさ。それに、お前も言っていたじゃないか。お前の会社は、お前の研究を煙たがっていると。だったら、さっさと売り払えば良かったんだよ」

「でも、軍事機密に相当するから・・・」

「そうだよな。売りたくても売れないわけだ。だから、お前の会社はお前と研究をセットで非合法に売り払うことにした。高浜、お前は商品の一部だ。商品に金を払う必要は無い」

「そんな・・・」

「お前の会社は、いや、たぶん会社の一部の人間が、だろうがな、数社に取り引きを持ちかけたんだろう。その情報がテロリストにも流れている。今、あの機械はテロリストの元にある。追っているのは俺たちだけじゃないんだろうな、たぶん」

 そう言うと阿部はマリアを振り返った。マリアは、不思議な微笑み方をした。

「ねえ、高浜さん。そんな会社のために頑張ることないね。わたしも一つ、提案があるね」

「まさか・・・マリアちゃんまで・・・」

「アベさんは、知ってたね?」

「ま、なんとなくな。確信は無かったが」

「そっか。じゃあすっきりするね。わたしも雇われているね。須崎さんも、そうね。うちは健全な会社ね。うちへ来るといいね」

 阿部は、笑いながら言った。

「健全な会社がマシンガンを持っているのかよ」


 高浜は首を振っていた。無意識のうちに、左右に首を振っていた。

「そんなことって、ありえない。僕は亡命するんだ。僕が持ちかけた取り引きなんだ」

「誰かが仕組んだのさ」

「いや、違うよ。僕は、このまま網走まで行くんだ」

「でも高浜さん。そこへ行ったら高浜さんの自由は無くなるね。うちの方がいいと思うね」

 阿部はため息をついた。

「そうだな。機械はマリアの組織が持っているんだし」

「え?阿部ちゃん、今、なんて・・・」

「そうだろ?マリアが手引きしたんだからな。やつらはテロリストではない。どうせ俺には中東人を見分けるほどの知識は無いと踏んだんだろう。あいつらはたぶん、寄せ集めのアルバイトだろう。そうでなきゃ、俺は既に死んでいる」

「そっか。じゃあテロに使われることは無い・・・」

「だが兵器として転用されるのは間違いないだろうな。トランクに乗っているAKだが・・・あれはオリジナルのAK47ではない。コピー商品の一つだ。製造版権が切れている銃だからな。たしかあのモデルを扱っているのは世界的な軍事企業のはずだ。それこそライフルの弾から核弾頭ミサイルまでってやつで」

「アベさん、詳しいね。アベさんも一緒に就職するか?」

 阿部は鼻で笑った。

「ありがたいがな。俺はサラリーマンになる気はないんだ。俺はオレの夢を喰って生きていく。それにさっきの知識はエアガン雑誌の受け売りだ」


 阿部はトンネル手前の空き地にスープラをゆっくりと停めた。

「降りようか」

そう言うと、阿部はスープラのキーを引き抜くと、さっさとドアを開けて車外へ出た。

呆気にとられて須崎とマリアは顔を見合わせた。阿部は、そのままスープラの後ろへ回りトランクを開いた。トランクと言ってもハッチバックだからリアシートのマリアと顔を合わせることになる。

「二人とも、降りろよ」

 そう言うと、阿部はカバーの下からAK47アサルトライフルを取り出した。

「まさか撃たないよね、阿部ちゃん」

「今のところは、そのつもりだが」

「なんのつもりね、アベさん」

「情報が複雑で頭の中を整理したいだけだよ」

「それにどうしてマシンガンが必要ね?」

「これはマシンガンじゃない。アサルトライフルだ。マリア、兵器屋なら正しい言葉を使え」

「わたしは兵器屋じゃないね」

「だから」

 阿部は苛立っている、というような声で言った。

「そうやってイチイチつっかかってくるのがムカつくんだ。降りろ。さもないと強制的に降ろすぞ」


 トンネルから漏れ出た明かりでオレンジ色に染まっていた。ワックスの効いたスープラの黒の塗装に反射する。須崎とマリアは空き地の奥へ歩いた。

「この石碑、なんて書いてあるね」

 石積みの石碑が草むらの中に立っていた。

「慰霊碑。たぶんトンネル工事中の事故の」

 高浜は、ぼうっとした声で言った。

「よし、そのあたりでいいだろう。マリア、最初に言っておく。嘘はつくなよ」

「アベさん、わたしのことなんだと思っているね」

「それを知りたいんだよ、俺は」

「阿部ちゃん、撃たないよね?」

 小さな声で高浜は言った。

「高浜、なんなら離れていてもいいんだぜ。お前を撃つ気はないんだから」

「いやだよ、お願いだから、誰も殺さないって約束してよ」

 阿部は、大きくため息をついた。そうだ、いつもそうなのだ。頭の中で思っているようには物事は進んでいかない。撃つはずないじゃないか、と阿部は思う。だが、それをマリアに見透かされては意味が無い。なのに、どうして答えようのないことを高浜は言うのだろう。

「それは、そこの女次第だ。マリア、知っていることを全部、言え」

「アベさん、わたしを撃ったら情報が取り出せないね。だからアベさん、撃てないね」

 阿部は不気味に笑ってみせた。

「殺さない程度に撃てるんだぜ、俺は」

 マリアは、慌てて言った。

「ダメね、そんなことしては。その銃の弾丸はNATOライフル弾ね。冷蔵庫だって貫通するね。そんなので撃たれたら死んじゃうね」


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