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恐怖日和  作者: 黒駒臣
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霊安室

  

  

 自転車ですっころび、脚を骨折して入院した剛央から見舞いの催促が来た。

 電話の向こうで泣いていたが、行ってみるとただただ退屈だったらしく、リクエストされ持っていった漫画本を見るや否や俺なんかそっちのけでむさぼるように読み始めた。

 話しかけても生返事しかせず、

「もう帰るで」

 それだけ言って俺は病室を後にした。

 それから三日後、また泣きの電話が来た。

「なんよ、また漫画か?」

 俺は半ば呆れてそう聞いてみたが、どうも違うようだ。

 剛央が言うには、あまりに退屈なので松葉杖を突いて地下にある霊安室に探検に行ったらしい。同室の小林という若い男性と一緒に真夜中、懐中電灯を持ち、看護師の目を盗んで地下に下りて行ったのだという。

 地下にある部屋はただ一つ霊安室だけで、剛央と小林がドアを確かめると鍵はかかっていなかった。

 中に入ってみると棺桶が一つ安置されていたが、供花も線香も何も供えられてはいない。

 よくよく考えてみると、ストレッチャーに寝かされた遺体ならいざ知らず、病院で棺桶に納められるなんてことがあるのだろうか。もしあったとしても、ちゃんと供花や線香などで弔われ、真っ暗な部屋に置き去りになどされていないのではないだろうか。

 剛央がライトを当てながら考えていると、ずずっと蓋がずれ棺桶が開いた。脇でしげしげと眺めていた小林が頭から吸い込まれるように中へと引きずり込まれた。

 助けようととっさに近づいた自分も頭から引きずり込まれたのだという。

 俺は笑いながら、

「で、どうやって助けてもろたん?」

「いやそのままや。なあ助けに来てくれ、なあなあなあ」

「ふざけんなっ」

 俺は電話を切った。よっぽど退屈なのだろう。

 あきらめたのか、その後、電話はかかって来なかった。

「しょうがねえな。明日また新しい漫画でも持ってったろか」


 次の日、俺は漫画の新刊本を幾冊か持って剛央の見舞いに行った。

 病院では剛央と小林が行方不明だと大騒ぎになっていた。

 剛央の話は事実だったのだ。

 救出に行かねば。

 騒ぎに乗じてエレベーターに乗り霊安室に向かおうとしたが、この病院には地下階は存在してなかった。


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