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恐怖日和  作者: 黒駒臣
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食品スーパーレジ係

 ピッピッとバーコードを読み取る音を聞きながら、阿紗子は目の前の客から目を逸らせた。

 無口なその男の後ろに恨めしそうな表情をした女が三人立っていたからだ。どれも半透明をしている。

「ありがとうございました。またお越しくださいませ。

 いらっしゃいませ、こんにちは」

 視線を逸らせたまま事務的に次の客へ挨拶する。

 だが、客はじっと立ったままで手には何も商品を持っていない。そっと目を上げると頭がかち割れ、砕けた脳みそを垂らせた男が立っていた。

 しまった。

 確かに目が合った。が、阿紗子は見えないふうを装ってすっと目を逸らせた。

「おまえ視えてるだろ」

 そう言いながら男は血のこびりついた顔を阿紗子に近づけてきたが、

「こんちわっ!」

 買い物かごをどんっと台に置いた常連のおばさんの出っ腹に押し消されてしまった。

 おばさん、グッジョブ!

 心の中で感謝する。


 きょうは外が曇っていた。

 こんな日は黒い人影のようなものがたくさん駐車場を徘徊する。

 帰る時にぶつからないように注意しないと。

 それに触れると怪我が増える。包丁で指を切ったり、鍋の縁で火傷をしたりと小さなものだが気持ちのいいものではない。

 やがてぽつぽつと雨が降り始め、客足が少なくなった。

 ぼんやり突っ立っていると入り口近くで小さな女の子が泣いているのに気付いた。

「あらあら迷子? お母さんは?」

 阿紗子はすぐさま女の子に駆け寄って聞いてみたが首を振って泣くばかり。

 一緒に通路を覗きながら探していると、「ちょっと何さぼってんのよ」と後ろからチーフにどやされた。

「あのぉ、迷子が」

 阿紗子が言い訳しようとしたその時、「あ、おかあちゃんだ」と少女が嬉しそうに駆け出した。

 その先にはカートにもたれゆっくり歩く寂しそうな老女がいた。

 ああそういうことか――

 レジに戻った阿紗子の前に置かれた老女のかごには苺とおまけ付きのお菓子が入っていた。

「娘の命日でな」

 支払いをする老女の横で女の子が嬉しそうに笑う。

「ありがとうございました」

 阿紗子の声に女の子が振り返って手を振った。


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