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恐怖日和  作者: 黒駒臣
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終電間際

  

  

 間に合ってよかった。終電到着まであと数分。

 荒い息を整えながら、駅へ到着したことにほっと一安心した。

 もし(のが)したらタクシーで帰宅しなければいけないところだった。だが、次の給料日まですでに金欠の身、贅沢はできない。最寄りの公園のベンチで野宿か、決して近くない家路を徒歩で帰るしか選択肢はなかった。


 ホームに駆け下りていくと、老人の怒鳴り声が聞こえて来た。

 喧嘩?

 視線を上げるとホームの中程で二人の老人が口論している。

 一人は白髪頭のよぼよぼで、もう一人は腰の曲がったつるっぱげ。いやいや人生も終盤の大先輩方が何をそんな大声で喧嘩することがあるんだ? 

 まだ終電到着のアナウンスはない。

 二人から離れたベンチに座り、聞くとはなしに耳を傾けていると口論の原因はどうやら女性問題らしい。ご近所の未亡人に惚れられているのは我こそだと、どちらも譲らない。

 どんな女性かは知らないが、罪作りな未亡人だなと思わず失笑が漏れそうになり片手で口を押さえた。

 それにしてもこういう問題は幾つになってもなくならないものだ――といっても彼女いない歴=年齢の俺にはとんと縁のないものなのだが。

 そうこうしているうちに二人は取っ組み合いを始めた。

 うわっ、止めたほうがいい? いややっぱり面倒臭い……

 けど、もし電車がホームに入ってきた時、どちらかがどちらかを突き飛ばそうものなら殺人事件に発展するかもしれない。そうなったらただ見ていた俺の責任はある? ない? 

 そうだ駅員に任せよう――

 ってか、これだけ大声で騒いでいるのに駆けつけないのはおかしくないか? 終電間際でも駅員はいるだろ? なんで来ないんだ?

 違和感はそれだけではなかった。

 今気付いたけど……いくらこんな時間だからって、平日の客が俺とあの老人二人だけっておかしくないか? こんな主要駅で? いやそんな日もあるだろうけども……

 それに……さっきから何のアナウンスも聞こえない……終電……いつ来るんだ……

 背筋がぞっとして、老人たちを尻目にホームを出ようと急いで昇降口に戻ろうとした。

 だが、階段の手前には今までホームの中央にいたはずの老人たちが、取っ組み合った恰好のまま顔だけ俺に向けてこっちをじっと見ていた。



「終電の後、構内を点検して誰も残っていないことをちゃんと確認しました。寝入ってる人がいないか、ベンチや自販機の陰も全部確認しました。本当です、信じてくださいっ!」

「でもね、実際ホームのベンチで青年が亡くなっていたんだ。確認ミスとしか言いようがないだろう」

 上司の言葉に涙を浮かべた若い駅員はただ項垂れるしかなかった。


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