ちょっと不思議な鉄道旅 星空の駅
「……きれいな夜空ね……」
どこかの世界に存在する空に浮かぶ駅。
“星空駅”という看板の立てれたその駅の周辺は常に夜になっていて、いつでもきれいな星空を見ることができる。
単線の線路に対して、山稜の電車が止まったらいっぱいになるぐらい、短いホームが一つあるだけの駅の周囲には何もなく、暗闇に包まれているのだが、ホームから駅舎につながる階段を下りて、その先にある駅舎の出口を出るとなぜか小さな街の中に出るといういささか不思議な駅である。
そんな駅のホームに設置された木製のベンチに座って、私は満天の星空を鑑賞していた。
「それにしても、どうなっているのかしらね。この駅は」
今、この駅には私以外の乗客の姿はない。だから、誰かが答えを提示してくれるということはないのだが、それでも私は疑問を口にする。
乗客の姿はない。無人駅らしく、駅員の姿もない。
もし、この駅で駅舎以外のところから外に出ようとしたらどうなるのだろうか? 幸か不幸か、この駅の周辺には大きな柵はなく、その柵を飛び越えようと思えば飛び越えられる。
私は柵の近くまで歩いていって、そこから下をのぞき込んでみる。
そこから見えるのは、明るい夜空とは対照的などこまでも続いていそうな真っ暗な空間だ。
下手をしたら、ここから落ちたら何もない空間をひたすら落ち続けて、ここには戻れないのかもしれないという不安に駆られる。
「……夜空でも眺めていようかな」
この柵を超えるのは危険だ。
私はさっきまで座っていたベンチの方へと戻っていく。
次の電車が来るまではあと一時間以上ある。また、あそこに行ってみたいという考えが浮かぶかどうかはわからないが、とりあえず元の場所に戻って再び夜空を眺める。
『まもなく、特急列車が通過します。危険ですから、黄色の線の内側までお下がりください。まもなく、特急列車が通過します……』
駅のホームにけたたましいほどの音量で自動放送が流れたのはちょうどそんなタイミングだ。
どうやら、この駅には止まらない列車が近づいてきているらしい。
『……危険ですから……』
駅の自動放送が三回目のループをしている途中でクリーム色をベースとして、赤色の線が入っているデザインの旧式の気動車特急が、ゴーという爆音を立てながら通過していく。
空中に浮かぶ線路を通るその姿はまさしく、銀河特急といったところだろうか?
勢いよく通過していった特急列車のテールランプが暗闇に消えていくのを見送ったと、私はホームのベンチに座って再び星空を眺める。
「……あっ流れ星」
満天の星空を一筋の光が横切ったのはちょうどそのタイミングだ。
唐突なことだったので、残念ながら願い事を言うことはできなかったが、見れただけでも幸運だといえるかもしれない。
『まもなく、特急列車が通過します。危険ですから、黄色の線の内側までお下がりください……』
そうしていると、再び特急列車の接近放送が流れ、先ほどと同じ車両を使った特急が先ほどより少し遅いぐらいの速度で逆方向に通過していく。
「……多いな特急」
この駅があるのは都市と都市をつなぐ路線だ。なので、その都市間を結ぶ特急が数多く設定されている。もっとも、この場所はその両都市のちょうど中間ぐらいにあってどちらの都市からも離れているので、普通列車の本数はかなり少ないのだが……
『……方面行の普通列車が到着します。危ないですから……』
気が付いたら、普通列車の案内放送が始まっていた。
どうやら、のんびりと星空を眺めているうちにそんな時間になっていたらしい。
私はベンチから立ち上がり、忘れ物がないか確認すると、星空駅のホームにゆっくりと侵入してきた一両編成の気動車に乗り込む。
『普通列車が発車します。普通列車が発車します。普通列車が発車します……』
列車の到着から少しして、列車の発車案内が鳴り始めると、普通列車は扉を閉めて星空駅を後にした。