ノンカピスコ・怖い夢
『私、怖い夢を見るんです。』
サロンに来たクライアントの美香はそう言った。怖い夢を見て、眠れないとこぼす。
『どんな夢なの?』
『タイマツのような火に身を焼かれる夢を見ます。
夢の中なのに、熱くて・・熱くて・・辛いんです。』
『・・・どれくらいの頻度で見るのですか?』
『最近、よく見る。どうしてなのかしら・・。』
まだ20代の美香は、その白い肌を紅潮させて話す。
思い出すだけで、冷や汗をかくらしく、額に汗をにじませた。
『何か環境の変化はありませんか?』
『・・・・いえ、とくにありません。ただ春に旅行に行ったあたりからよく
見る気がします。』
『旅行はどちらに?』
『信州です。山里に行きました。』
『観光で?』
『・・・いえ、そんな観光地ではなく、ただ何となく行きたくなって・・・。』
美香が行ったのは、古いダムのある山里。
知られていない温泉があると聞いたらしい。
『そこには一人で?』
『いえ、姉と行きました。』
『お姉さんに変化は?』
『・・・特に聞いていませんが・・。ただ・・』
『ただ?』
『そこは初めて行ったのに、知ってる場所のように思いました。』
古いダムのある山里、その場所に何か因縁のようなものが
あるのだろうか?
セラピストの智恵美は考える。
『あの先生。その夢に何か暗示はあるのでしょうか?』
『さあ、まだわかりません。』
『私、前世療法をしていただきたいのです。』
『・・・それはなぜ?』
『過去に関係がある気がしてならないからです。』
『・・・』
前世療法は、智恵美にももちろん出来るのだが、
相手の心の奥底にも入っていける力がある智恵美は
容易には、用いたくない療法なのだ。
場合によっては、クライアントの潜在能力を引き起こし、危険な目にあう
可能性だってある。
クライアントの希望が優先されるが、段階をふんで慎重に進めるべきだと
考えた智恵美は、最初は催眠療法から始めることにした。
しかし、その後も催眠療法では、思うような改善は認められなかったので
やむなく、前世療法を試みることにしたのだ。
その日、いつもと変わらぬ様子の美香
でもなぜか、胸騒ぎのする智恵美は、アシスタントの絵美にも同席してもらった。
(一人でいない方がいい)そう思えて仕方ない。
それでも平静を装い、美香にリラックスするように促した智恵美。
絵美も心なしか緊張していた。
智恵美の誘導で、深い眠りに入る美香
最初は何の変化も見られなかった。
『齋藤さん、今、どこにいますか?』
『・・・・森の中にいます。』
『そこは、どんな様子ですか?』
『深い、深い森です。遠くに湖が見えます・・・。』
どうやら、美香は深い森の中にいるようだ。
『他に誰かいませんか?』
『・・・・・います。男が数人・・・』
そこで、急に呼吸が荒くなる。苦しそうだ。
『齋藤さん、どうしました?』
『男達が、私を殺そうとする・・・。』
『それはどうして?』
『あ・・ぁ、それは家畜を私が食べるから。』
『えッ???』
美香の前世は、どうやら人間ではないらしい。
『・・・う〜ッ。お前達などにやられる私ではないわ。』
別人のように、低い声で呻く美香
智恵美は危険と察するが、容易に催眠が解けない
『ギャ〜ッ!!火、火で焼くのはやめよ。』
美香は意識が戻らぬまま、暴れ出す。
智恵美は、その腕をとらえると、美香の前世をかいま見てしまった。
美香は、白い大きな蛇だったのだ。村の男達にタイマツで焼かれようとして
必死でもがいている。
でもその間も、男を二人食いちぎっていた。
『齋藤さん、齋藤さん。大丈夫ですか???』
必死で、名前を呼ぶ智恵美と絵美。二人がかりで、美香を押さえ込んでいた。
『ギャ〜ッ!!』
美香はそのままぐったりとする。白い蛇としての美香は、絶命したのだろうか?
智恵美と絵美は、心配そうに顔をのぞき込んだ。
次の瞬間
目を見開いた美香、目が血走っていた。
『齋藤さん、齋藤さん。大丈夫ですか?』
『お腹が空いた・・・』
『え?』
『美味しそうだ、お前達』
いつのまにか美香の口は、耳まで裂けている。差し出した手には鱗
『キャーッ!!!!!』
二人の悲鳴が響いていた。




