7 紅葉学園の近くには変わった喫茶店があるらしい
今、私は待ち合わせ部屋にいる。
なぜなら今日は約束があるからだ。
この部屋は待ち合わせをしたときに使える暇つぶし用の部屋だ。
今まで使ったことはなかったが、結構人がいた。
高校生は少し遅いようなので私は周りを見渡して見る。
周りにはゲーム機や本、メモ帳などがきれいに整頓されており待ち合わせの待っている時間にそれらの利用が可能だ。
……すごいなあ。
「何をしていよう?」
そう迷っていた時、ドアが開いた。
「待たせて、ごめん」
望月先輩だった。
「いいえ、こちらこそ無理にお願いしてしまってすみません。えっと、行きたいところありますか?」
望月先輩はしばらく考えていたが
「そういえば、前、開店したところに行きたい」
確かに最近開店した喫茶店があるらしいとクラスメイトが話していたのを思い出した。
「分かりました。じゃあ、行きましょう!」
そう言って学校を出てそのまま喫茶店に向かう。
* * *
――“レインボーライト”
それがこの喫茶店の名前だった。
その名のとおりこの喫茶店には七色のライトがあるらしい。
「じゃあ、望月先輩、中に入りましょう」
そう言って喫茶店に入ると噂のとおり七色のライト(もちろん虹の七色)が部屋ごとに分けられて光っている。
「望月先輩、どの色の部屋に入りますか?」
「……青」
青色の扉を開けると思ったとおり青色のライトが真っ先に目に入った。
そして次に目に入ったのは全体が濃さが違うものの青系統でまとめられた部屋。
……食べ物を扱う店なのに食欲減退するような色で大丈夫だろうか。
とりあえず瑠璃色のテーブルと椅子の席に座りメニューを見る。
メニューはカキ氷、ブルーベリーパイなどの青色のものばかりだった。
「望月先輩、何を食べますか?」
「……ブルーベリーパイ」
私は海のゼリーが気になる。
「ブルーベリーパイと海のゼリー一つずつください」
店員さんに注文をすると、店員さんはメニューを繰り返した後厨房に戻っていった。
「…………」
「…………」
どうしよう、気まずい……。
大体天が無理やり約束を決めるんだからこんな風になるんだ、と天を恨めしく思ったがそんなことをしても状況は変わらない。
なんか、会話ないかなあ……。
引っ込み思案の性格のせいかあまり会話した事がない私はこういう時は嫌いな性格だ。
望月先輩も無言で居心地悪そうではないからこのままでもいいかな……。
そんなことを考えているうちにどうやら注文の品が来たようだ。
「お待たせしました~。ブルーベリーパイと海のゼリーです」
その声のしたほうを向くと上品そうなお嬢様らしき人が立っていた。
「……なずな……?」
どうやら、望月先輩の知り合い?
もしかしたら……
彼女……?
望月先輩も驚いているのかいつも無表情な顔なのに驚きの表情が見て取れた。
そのお嬢様みたいな人、なずなさんはおっとりした笑顔で言う。
「あら、空じゃないですか~? もしかしてその子彼女ですか~? さすが、私のいとこですね、こんなにかわいい子連れてくるなんて」
「なずなのいとこって事は、関係ない」
なずなさんは先ほどまでのきりっとしたしゃべり方ではなく、ゆっくりな話し方で朗らかに笑っていた。
どうやらいとこだったらしい。
望月先輩に迷惑かけちゃうなあ、こんな私が彼女なんて思われたら。
しかも、望月先輩なずなさんといると楽しそうだ。
口調は変わらないがいつもよりも表情が明るいし、全然しゃべらない私と一緒の時とは違う。
もう、帰りたい。
邪魔になりそうだし……。
そんな思いが頭の中を占める。
お金だけ置いてさっさと立ち去ろう。
私が入っていい空間ではない。
そう思い、バッグの中から財布を取り出そうとバッグの中に手を入れるが財布が見つからない。
あれ? そう思いよく中を探していみるが財布は見つからない。
財布、忘れた……?
最悪だ、あると思ったのに。
「あの、望月先輩。ちょっと財布忘れたんでとってきます」
「別に、僕が払うから、いいよ」
いつもの様に淡々と言ってくれたが、その優しさが少し苦しい。
もしかしたら、呆れられたかも……。
「いいえ、悪いんで取ってきます」
とバッグを置いて家まで駆け出した。
走りながら、今のもやもやした気持ちが消えればいいと願いながら。