1 森にある泉には恋を叶える神様がいるらしい
昔、ある町にある、森の中にある泉には天使と悪魔が住んでいるという伝説があった。
しかし、今はこう伝わっている。
――その森の泉は恋を叶える神様がいるらしい、と。
この話はそんな話を聞いた少女が天使と悪魔に会うところから始まる。
* * *
「ここが、恋をかなえてくれる神様がいる泉がある森か……」
目の前には神秘的とは言いがたい森が広がっている。
中に入ったら光が届かないぐらいに木が生えていて、気味の悪い動物の声が聞こえてくるのではないか……。
そんな思いが私を包み一歩踏み出す勇気さえも奪っていく。
「やっぱり、今日も無理だったな……」
ひとり言をつぶやきつつ私の足はこの森から遠ざかり、家に帰ろうとする、その時だった。
森の中から不思議な声が聞こえたのは……。
「君は、どうしてここに来たんだ……?」
男の声のようで女の声のような、大人の声のようで子供の声のようなまさに神様らしい声だった。その声に導かれるように私はずんずん森の中に入ってゆく。
この森に入った事はないはずなのに、私は泉のある場所がはっきりとわかった。
そして、泉に着いた時、私は無意識に願い事をした。
「私には、好きな人がいます。その人は、私と同じ学園ですが、私は中等部、彼は高等部なのでなかなか会えません。なので、私と彼を結び付けてください!」
誰にも聞こえない、自分にさえよくわからないような小さなささやき声。なのに、
「君、恋をしているんだねっ」
という言葉と共に輪っかがあり、綺麗な波打っている金髪と青い瞳の天使みたいな女の子が出てきた。そして、
「天使、勝手に出て行くな!」
ととがった角と八重歯、しっぽと羽がついた生物が出てきた。
「おい、僕の説明ひどくないか!? 悪魔っぽい子でいいだろう!!」
どうやらこの子は私の心が読めるようだ。
「まあ、私も読めるけどね」
……どうやらこの子達は私の心が読めるようだ。
「ちなみに、あなたは小池翼とかいて、こいけつばさと読む、紅葉学園中等部3年の女の子。性格は消極的でクラスでは影が薄いほう。友達と遊ぶのはあまりないインドア派。好きな人は――」
「って、なんでそんなことが解るんですかっ!? しかも個人情報ですよ、それ。しかも、す、す、好きな人なんて……」
私のすごい慌てぶりに天使は
「好きな人なんて、いない? 嘘じゃん。さっき願っていたでしょ?」
うっ。確かに。
「だから、私たちがあなたの恋、手伝ってあげるよっ。っていうかこの恋が叶うまで私たちがそばにいるからっ」
「おい、だから勝手に僕を巻き込むな」
そんな悪魔の声を無視し、私は
「そんなー」
と非難の声を上げた。
「大丈夫、大丈夫。何気なくサポートするだけだから。で、その彼の名前は――」
「だからそれ以上言わないでよー」
私はちょっと涙目になりながら天使に言うと
「オッケー。じゃ、悪魔準備するよー」
「とりあえず、お前らは僕の話を聞け!!」
と同じく涙目どころか泣いている悪魔を泉に引っ張り込んだ。きっと彼女達の住まいなんだろう。
それより、もし私の恋が叶うとしたらどんな形で叶えてくれるのだろうか。
嬉しいような、心配のような複雑な思いを持ちつつ私は家に帰った。