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ヒーローと怪物

作者: フォルセティー・キング

 昔々あるところに正義感の熱い青年がいました。ある日、彼は街で悪さをする怪物と出くわしました。怪物はとても醜い姿をしていました。

 青年は怪物に悪さをするのをやめるよう言いました。しかし怪物は、まったくいうことを聞かず、どころか青年を邪険にあつかいます。

「うるせえ。俺が何しようと勝手だろう。お前には関係ないだろう。正義のヒーローのつもりかよ。ごっこ遊びはよそでやりな」

 などと失礼なことを言うしまつです。青年は言ってきかないのなら仕方ないと怪物をこらしめることにしました。けれど怪物は近くにいた少女を人質に、まんまと逃げおおせました。後日、人質にされた少女の惨殺死体が見つかりました。きっと怪物のしわざでしょう。

 それからも怪物は街で悪さをくりかえしました。窃盗、暴行、強姦、強盗や殺人とありとあらゆる悪行を、毎日まいにち行い続けました。街の人たちの手には負えず、みな困り果ててしまいました。

 なんとかしなければ、青年はそう強く思いました。そして悪さをしている怪物を見つけると、問答無用でおそいかかりました。

 青年の攻撃を怪物はたやすくよけると、彼に反撃しました。青年はあっけなくかえりうちにあってしまいました。

「よぉヒーロー。不意打ちとは考えたな。だけどバレバレだったぜ。今度はもっとうまくやりな」

そう言いのこすと怪物は去っていきました。


 それから数日、怪物に負わされた傷を治すために療養していた青年は、日々悪行の限りを尽くす怪物の話を耳にしては痛々しい表情を浮かべます。もはや、なりふりかまってはいられません。青年は傷が治ると、怪物をたおすために武器を手にしました。

 青年は怪物を見つけましたが、すぐには攻撃をしかけません。前のときのようにかえりうちにあう可能性があるからです。怪物が隙を見せるまで、じっくりと息をひそめます。

 怪物がどこかへと向かい始めました。青年は気づかれないようにはなれて後をおいました。怪物の向かった先は、街から少しはなれた山にたてられた小屋でした。どうやら怪物のねぐらのようです。

 山小屋につくころには、とうとう空はまっくらになってしまいました。小屋には窓があり、そこから中の明かりが見えます。青年は近くの木の幹に身を隠し、そのときが来るのをじっと待ちます。

 どれくらいの時間がったったでしょう。怪物が入っていった山小屋の中の光が消えました。

 しめた。青年は思いました。身をかがめ、足音を殺しながら慎重に窓の横まできました。そっと中の様子を覗くと、怪物は眠っていました。

 青年はついに怪物が隙を見せたのだと確信して、壁伝いに小屋の戸まで行き、戸を開けて小屋の中へと入りました。

 眠っている怪物の枕元まで行くと、持ってきた武器を振り上げ、全力で怪物の頭へとたたきつけました。

 砂袋を殴るような鈍い音とともに「ぐがっ」という怪物の短い悲鳴が聞こえました。

 青年はかまわず、何度も、何度も、何度も、何度も、手にした武器で怪物の頭を殴り続けます。

ついには肩で息をするようになった。そこまでして、ようやく青年は殴ることをやめる。

「げふっ。――よぉヒーロー。待ちくたびれて寝てたぜ。こっちの世界へ、ようこそ」

 それが怪物のさいごの言葉でした。


 翌朝、青年は山を下りて街の人たちにうちとった事を話しました。街の人たちは、半信半疑でした。青年は証拠を見せるからついてき欲しいとみんなに言いました。

 街の中から数人が青年についていき、怪物の住処の山小屋へと向かいました。

 山小屋まで付くと、そこには確かに青年の言っていたとおり、怪物が動かぬ姿でよこたわっていました。青年たちは動かなくなった怪物を、ふもとまで運ぶことにしました。

 ふもとで待っていた街の人たちは動かなくなった怪物の姿を見て大喜びしました。そしてみんなで青年に感謝の言葉をのべました。

 ありがとう。ありがとう。こんな悪いやつをやっつけてくれて、本当にありがとう。そんな言葉を聞いているうちに、青年はなんだ気分がよくなってきました。そしてこう思いました。なんだ、こんなことならもっと早くからこうするべきだったのだ、と。


 あれから月日が流れました。街をばっこする怪物がいなくなってからというもの、街は平和でした。

 怪物ほどではありませんが、悪さをする人は後を絶ちません。けれど、そんな人たちが現れれば、怪物をたおした青年がやってきて力づくでこらしめてくれました。そのたびに、街の人びとは青年に感謝の言葉をかけます。青年はますます気分がよくなりました。

 そんなある日のことです。青年の目の前に怪物があらわれたのです。

 朝、青年が洗面所で顔を洗っていたときでした。鏡ごしに青年を見つめる怪物がいました。

「よぉヒーロー。久しぶりだな、会いたかったぜ」

 怪物は口元を醜くゆがませて笑いながらそう言いました。青年はひめいを上げて鏡に向かってこぶしをぶつけました。鏡が割れて、怪物はどこかへといなくなってしまいました。

それからというもの、怪物は鏡ごしに、青年の前にあらわれ続けました。街中でもよくあらわれます。ですが、怪物は青年にしか見えていませんでした。

 こわくなった青年は、お医者さんに相談することにしました。

 悪いところはとくにありません。疲れているんじゃないですか? とりあえず、精神安定剤のかるい奴を処方しておきますね。診てくれたお医者さんが言ったのはそれだけでした。青年は処方された薬を受け取ると家に帰りました。

 最近、街中の悪さをする人を毎日懲らしめて回っていたので、もしかしたらお医者さんの言ったとおり、疲れているのかもしれません。

 青年は早速もらった薬を飲むと、ベッドで眠りました。久しぶりにぐっすり寝られた気がします。


 翌朝、青年は目が覚めると顔を洗いに洗面台へと向かいました。すると、鏡ごしの怪物が笑いながらこちらを見ていました。

「無駄なことしやがって。ヒーロー、俺が見えているのは別にお前が疲れているからじゃあないんだぜ」

 怪物は親しげに話しかけてきました。

 じゃあ、なぜ自分にはお前が見えるんだ、と青年は問いかけます。怪物は馬鹿にしたように鼻で笑いました。

「そんなの簡単なことだ。いいか、俺はいつも鏡の中でお前に会っているんだ。そして俺はお前以外の誰にも見えない」

 そんなことはもうわかっている。青年は怒鳴ります。

「はあ。――じゃあ、これならどうだ。俺が鏡にあらわれるとき、鏡の中のお前はいったいどこにいる?」

 怪物の言葉を聞いているあいだ、青年の表情はみるみるうちにこわばっていきました。そして、怪物の言ったことの意味を完全に理解した青年は、ついに絶望してしまいました。


Wer mit Ungeheuern kämpft, mag zusehn, dass er nicht dabei zum Ungeheuer wird. Und wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein

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